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機関誌

2009年度バックナンバー5月

2009年5月1日更新

巻頭言

「配管の検査技術」 特集号刊行にあたって  鈴木 裕晶  

 昨今,経済のグローバル化やボーダーレス化のもたらす社会経済のひずみが大きな問題として取り上げられることが多くなってきています。このような視点から 企業活動について見ますと,ビジネスの複雑化による事業リスク増大の影響が益々顕著になってきています。特に大規模な装置・機器を保有する素材・エネルギ 産業を中心とする「装置産業」では,生産設備に起因するリスクの大きさから,その適切な管理がこれまで以上に重要課題となっています。このような中,昨年 9月のリーマンショック以降の急激な世界経済の低迷や地球温暖化対策の世界的潮流が起こってきており,装置産業の抱えるリスクをさらに多様化,複雑化して いるのが現状です。このような状況に対して,素材・エネルギ産業では,全体最適の視点でプラント設備の効率的かつ効果的な活用を図るとともにリスクを低減 する方法として,いわゆるアセットマネジメントへの取り組みが進んでいます。アセットマネジメントへの取り組みや重点課題は,業界や企業の事情により異な りますが,昨今の米国,あるいは本邦の装置産業における動向を概観すると,「保全作業の効率化」,「設備の信頼性向上」および「設備の状態監視」が大きな テーマとなっています。「保全作業の効率化」は主としてコストの最適化を通して,また「機器の信頼性向上」は稼働率の向上を通して,設備資産すなわちア セットの収益性向上に貢献すると言えますが,これらをより効果的かつ効率的に行っていく上での情報は「設備の状態監視」の高度化に依存する面が少なくあり ません。適切な検査技術によってプラント装置の状態を監視し,現状の健全性評価と残存寿命予測を行い,適切に補修・改善することによって,生産効率を高 め,併せて環境負荷低減を図ることが今後益々求められるのではないでしょうか。
 今回の特集は,昨年3月に開催された表面探傷・保守検査合同シンポジウムにおいて発表された中から配管検査技術に関する4報の論文を集めました。配管は 装置プラントの血管に相当し,大規模な石油精製や石油化学プラントでは総延長が数十kmに達する場合も珍しくなく,その検査・診断には膨大なデータを収 集・処理する必要があります。特に,保温材付き配管や埋設配管では,配管表面を露呈して検査する費用に加えて,足場設置や土木工事のコストが高くなる場合 も多く,対象配管が長距離になれば経営に影響するレベルの費用負担が発生してしまいます。そこで,スクリーニング検査によってある程度の損傷位置と損傷レ ベルを評価することで精密検査の優先順位を決めて,費用対効果が最適化された検査手順が求められています。本特集では,比較的長い配管に対して一括して検 査が可能な音響法,ガイドウェーブ,カメラシステムを利用した検査技術,また,保温材下に一旦設置すれば継続的に肉厚検査ができる光ファイバを利用した状 態監視技術をわかりやすく解説して頂きました。配管検査はプラント保守・保全では避けて通れないテーマであり,本特集が会員諸氏のご参考になれば幸甚で す。尚,ご多忙中の中,解説を執筆頂きました著者の方々には厚く御礼申し上げます。

 

 

解説 配管の検査技術

音響法による管路検査技術の開発
    森  雅司/大根田浩之/今井 義之 非破壊検査(株)   鈴木  聡 関西電力(株)

Development of Duct Inspection Technology by Sound Method
Masashi MORI,Hiroyuki OHNEDA,Yoshiyuki IMAI Non-Destructive Inspection Co., Ltd.
and Satoshi SUZUKI THE KANSAI ELECTRIC POWER CO., INC.

キーワード 非破壊検査,管路,音響法,電力設備,信号処理



1. はじめに
 地下に敷設されている電力ケーブルや信号ケーブルは管路と呼ばれるパイプの中を通されている。管路にはコンクリート巻き管管路(通称:AP管路)やポリ コンFRP管管路(通称:PFP管),鉄管等の種類がある1)が,この中で主に検査の対象となるのは古くから使用されているAP管路である。AP管路とは 石綿(アスベスト)繊維とコンクリートにより成型されたAP管の周囲をコンクリートで固めたものであり,経年劣化や外力により,割れ・継目の開き・段差等 の異常が発生し易い。このため,AP管路内にケーブルを敷設する際には,事前にこれらの異常の有無を確認する必要がある。
 現在,管路の異常検査は試験棒やワイヤー挿入による導通確認およびビデオカメラなどによる目視検査により行われている。しかし,これらの方法は時間とコストがかかる上に,試験棒やワイヤー自体が管路を破損する恐れもある。
 試験棒による管路の導通検査イメージを図1に示す。このように試験棒による導通検査では管路の両端に作業員の配置が必要であり時間とコストがかかり,試 験棒による管路損傷の危険性もある。このため,低コストで効率が良く安全な管路異常検査技術が求められている。
 これらの状況から管路に損傷を与えない簡便で低コストの検査手法が望まれており,試験棒の問題点を解決する検査手法として音響法を用いた高速で簡便な管路検査技術の開発を行った。

 

 

光ファイバセンサを用いた電磁超音波共振法による配管肉厚測定
    白井 武広/町島 祐一  (株)レーザック   佐々木恵一/山家 信雄/高橋 雅士 (株)東芝 電力システム社

Measurement of Pipe Wall Thickness by Optical Fiber
and Electromagnetic Acoustic Resonance
Takehiro SHIRAI,Yuichi MACHIJIMA Lazoc inc.,Keiichi SASAKI,Nobuo YAMAGA
and Masashi TAKAHASHI TOSHIBA CORPORATION Power System Company

キーワード 配管,肉厚測定,電磁超音波共振,光ファイバセンサ



1. はじめに
 火力・原子力発電所,化学プラント等における配管肉厚の保守方法として,従来の超音波パルスエコー試験方法に加え,放射線を用いた透過測定や,配管表面 のガイド波,歪み,渦電流などを用いた様々な試験方法等が提案されている1)。しかしこれら試験方法には長短所があり,現在最も汎用的に用いられている超 音波パルスエコー方法は測定実績は十分であるが,保守点検毎に設備を停止,保温材を除去した後に作業者が定点毎に測定を行い,測定後に復旧する必要がある ことから保守点検コストが大きくなる問題がある。一方放射線透過試験方法では保温材上から試験が可能であるが,撮影装置を配置する環境に制限があり,また ガイド波,歪み,渦電流による試験方法では測定値から肉厚値に変換するための校正データーが必要となる。また電磁超音波発振子(EMAT)を用い非接触で 直接金属材料中に超音波を励起する電磁超音波共振法を用いた金属板厚測定についても検討がされている2)−4)。 
 今回我々は新しくEMATと光ファイバセンサを組み合わせた電磁超音波共振法を用いた金属材料板厚測定の検討を行った5)−7)。EMATは圧電素子と は異なり高温環境での使用が可能で,さらに非接触で超音波を励起させることが出来るため配管などの曲率を有した部位に接触媒質を用いずに取り付けが可能 で,さらに広帯域な超音波励起特性の特徴がある。また光ファイバセンサは従来のEMATのみを送受信に用いた電磁超音波共振法よりも高感度な検出が可能で あり,また耐熱構造の光ファイバを用いることで高温環境での検出が可能な特徴がある。これらEMATと光ファイバセンサを小型プローブ部化し配管表面に直 接施工することで稼働中の高温状態の配管肉厚測定が可能となるため,定点部の肉厚測定時に設備を停止して保温材を剥がす必要が無く,さらにプローブに接続 するリード線を延線することで従来足場等の組立が必要であった高所配管部,また人が立ち入ることが出来ない露悪環境部のリモート測定が可能であることから 配管保守点検コストを大幅に低減することが出来る。本稿では試験方法の概要と,金属平板,配管試験体を用いた板厚測定試験を行い,本測定方法の実証性につ いて確認検討した結果について紹介する。

 

 

配管に対するガイドウェーブを利用した超音波探傷システムについて
   今川 幸久/和田 秀樹/脇部 康彦 新日本非破壊検査(株)
   北川 秀昭/楠元 淳一/金谷 章弘 九州電力(株)

Yukihisa IMAGAWA,Hideki WADA,Yasuhiko WAKIBE Shin Nippon Nondestructive Inspection CO., LTD.
Hideaki KITAGAWA,Junichi KUSUMOTO and Akihiro KANAYA Kyushu Electric Power CO., INC.

キーワード ガイドウェーブ探傷,電磁超音波センサ,非接触法,超音波探傷装置,配管



1. はじめに
 発電設備等における減肉による損傷を未然に防止するためには,配管の減肉状況を正しく把握する必要がある。現在,超音波厚さ計を用いて行っているスポッ ト測定では,減肉部位を想定して測定しているが,測定点が膨大であり,また,すべての減肉部を網羅出来ていない可能性がある。このため,予め広範囲な探傷 により,減肉部位を特定し,スポット測定を実施することで効率的な肉厚測定が可能となると考えられる。
 そこで,配管全面を広範囲に探傷し,減肉位置を特定することを目的として,国内でも研究が進められている1)−3)超音波であるガイドウェーブを用いた 超音波探傷システムについて検討を行った。先に著者らは,ガイドウェーブを用いた超音波探傷システムを開発し,配管の内外面にあるきずを同等に検出できる ことを確認した4)。本研究では,ガイドウェーブを用いた超音波探傷システムの基本特性の確認として,探傷距離特性及びきず検出性能の確認試験を行った。
 本システムの特徴は電磁超音波センサを使用し,ガイドウェーブを伝搬させるものであり,減肉状況を広範囲に把握することで,効率的な配管減肉調査が可能となり,設備の信頼性向上や修繕費等の節減を図ることが期待される。

 

 

曲がり部の多い小口径配管調査用カメラシステム
    黒岩 正信  アイレック技建(株)

Inspection Camera-System for Small Pipes with Several Right-Angle Bends
Masanobu KUROIWA AIREC ENGINEERING CORPORATION

キーワード 道路陥没,点検カメラ,トンネル,排水管,曲管,小口径配管



1. はじめに
 我が国の上下水道,電気,ガス,通信などのライフラインの埋設延長は約180万kmで,国土交通省の道路管理用や民間事業者の光ファイバーケーブルを収 容する施設である情報BOXや電線共同溝(各自治体で建設されている電線類地中化のために電力線・通信線などをまとめて収容する:CCBOX)ならびに農 業分野の地下設備などを含めると200万kmを越す社会資本が存在する。近年,全国的に様々な原因による道路陥没が発生しており,社会問題となっている道 路陥没件数はH17年度には全国の下水管路関連で6600件が発生しているが,道路陥没原因は下水管路以外でも,開削工事による埋め戻し不良,シールド工 事や推進工事による土砂の取り込み過ぎ,各種ライフラインの劣化などが考えられる。しかしながら,これらの数字は公表されたものがなく,各設備のアセット マネジメントが重要になってきている。
 そのため,ライフライン毎に様々な点検カメラが開発されているが,用途毎にカメラの口径やケーブル長など独自の仕様で製造されており,押し込み式カメ ラ,引き込み式カメラ,自走式カメラなど運用メカニズムも多彩であり,短距離であれば,胃カメラのように先端のカメラヘッドを自在にコントロールできるカ メラもある。
 本稿で取り扱う地下のライフライントンネルからの排水管のように曲がり部が多く,布設されて永年点検も実施されない場合,道路陥没を発生する危険も考え られる。また排水管は,既存の埋設物を避けるように布設されることが多いため,正確な設備図面がなく,このため地下のトンネルからの配管ルートは不明の場 合が多く,配管内部の調査に加え図面化に必要な情報が得られる調査カメラの開発が求められていた。
 本稿では,従来のカメラでは調査困難とされた90°の曲がり部を数箇所持つ小口径(50mm〜80mm)のパイプラインの調査を可能にするとともに配管 の布設状況を3次元的に表現できるインテリジェントカメラを開発・実用化したのでその内容を紹介する。

 

 

論文

ポンピング波によるき裂開閉口を利用した非線形超音波非破壊検査
   林  高弘/村瀬 守正/川嶋紘一郎/琵琶 志朗

Nonlinear Ultrasonic Nondestructive Testing Using Opening and Closure
of Defects by Pumping Wave

Takahiro HAYASHI*, Morimasa MURASE**
Koichiro KAWASHIMA*** and Shiro BIWA****


Abstract


Nonlinear ultrasonic nondestructive evaluation is highly attractive as a technique for detecting and evaluating closed cracks in material. Usually an ultrasonic wave of MHz order is used in this technique to precisely evaluate the size of the cracks. This study describes a nonlinear ultrasonic technique that uses a low frequency range to inspect an entire region of material roughly and quickly. The pumping wave generated by a giant magnetostrictive actuator, ranging about a few kHz, bends a test piece, and opens and closes fatigue cracks within it. At the same time, an ultrasonic wave of about 100kHz was emitted in the material. Sideband peaks were then clearly obtained in defective materials by changing resonant frequencies of the material at the repetition rate of the crack opening and closing. This paper also reports that spatial distributions of the sideband peaks clearly indicated the existence of a fatigue crack in a material.

Keyword Nonlinear ultrasonic, Closed crack, Pumping wave, Sideband peaks, Fatigue crack



1. 緒言
 原子力発電設備や自動車部品などに対し,これまでの超音波法では見つけることの困難であった密着き裂を検出または定量評価するのに効果的な方法として非 線形超音波法が注目されている。密着き裂では音響インピーダンスの差により発生するき裂・すき間部からの反射波振幅が低下するので,組織ノイズの高い場合 に従来超音波での検出が困難となる。
 この課題の一解決法として,数十nm程度の振幅を持つMHzオーダーの大振幅超音波を入射し,閉じたき裂面における非線形応答を高調波やサブハーモニッ ク波としてとらえる手法が国内では盛んに研究されている1)−4)。これらの手法は数MHzの超音波を用いているため,評価可能領域は探触子から数十mm 程度の範囲である。そのため,配管溶接部近傍の熱影響部など,き裂が発生しやすい箇所における局部的な精密定量評価技術という位置づけとなっている。
 一方で,原子力発電設備では放射線被ばく量の限界線量内での短時間での作業が求められる。このため,広い検査対象領域内に存在する検出困難な密着き裂の 高速検出法の開発が求められている。広領域の高速損傷検出手法としてはガイド波を用いたスクリーニング技術が広く利用されるようになってきた5)−8)。 低周波の超音波を平板や配管に適切に入射すると,エネルギ減衰の小さなガイド波が長距離伝搬するので,それを利用して伝搬領域内の損傷検出を行うというも のである。広領域の一括検査が可能となる反面,低周波を用いるため,微細な損傷は評価できず,密着き裂の検出はほぼ不可能である。
 そこで本研究では,低周波を用いることにより広領域の一括検査を可能とし,かつ密着き裂を検出できるポンピング波を用いた非線形超音波手法について検討する。
 密着き裂部で非線形現象を起こすためには,き裂の開閉口が起こるような強力な振動が必要である。一般にPZTなどで励振される数十kHz〜数百kHz程 度の低周波超音波はMHzオーダーの超音波振動に比べ,大振幅の振動を励起できるので超音波溶接などにも利用される。しかし,同時にPZT内や機器からの 非線形性も励起されるため,強力低周波超音波をそのままき裂検出に用いることは難しいと予想できる。
 国外では,き裂を開閉口させる強力低周波振動として振動台などから励振されたポンピング波を用い,そこにプローブ振動として超音波を用いるという手法が 研究されている9)−12)。Fig.1にその原理の模式図を示す。低周波ポンピング振動によってき裂を開閉口させ,同時に超音波振動を構造内に入射する と,き裂の開閉口の周期で構造内の共振周波数が変化する。そのため,超音波振動の振幅がポンピング波の周期で変化し,Fig.1中のような波形が得られ る。この周波数スペクトルを取ると,超音波振動のスペクトルピーク(周波数f)の両側にf±nF(Fは低周波ポンピング波の周波数,nは整数)の周波数に おいてサイドバンドピークが見られる。これがポンピング波による共振周波数変化を示しており,き裂の有無を示すサインとなるという原理である。 Zaitsevら9), 10)はポンピング波の励振に振動試験などで用いられる振動台を用い,またDonskoyら 11)やDiffourら12)はハンマによる打撃を用いている。
 本研究では,配管など既設の構造部材の検査を考え,ポンピング波励振に振動台よりはるかに小型で,ハンマよりも安定した振動励起の可能な超磁歪アクチュエータを用いた疲労き裂検出を試みる。

 

 

 

 

 

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