X線CTは1970年代に医療用X線CT(Computed Tomography)が発明され,急速に普及した。それに刺激され,1980年代になって産業界への応用が検討され始めてから4半世紀が経過した。CT 技術は医療,産業の各分野でその要求に応じて技術の開発が行われてきた。医療用CTは心臓の動きを捕らえることを究極の目的とし,高速スキャン,高分解能 を指向した。人体を移動させながら広範囲の撮影を一気に行えるマルチスライスのヘリカルCTでは,アイソトロピック(x, y, z等方向性)な3次元高分解能画質と0.5秒以下で1断面撮影可能な超高速撮影を実現した。一方,工業用CTはX線透過能力の向上,及び高分解能化の2極 分化が進んだ。ここで取り上げるマイクロCTは限りない高分解能化に挑戦する使命を持つCTである。
工業用CTは当初医療用CTの延長上で技術開発が行われたが,マイクロCTは工業用の分野で独自に生み出されたCTと言える。マイクロCTはミクロン オーダのX線焦点寸法を持つマイクロ・フォーカスX線管を用いたX線透視装置のシステム上に構築されている。このX線透視システムは最大で数千倍の拡大透 視を可能にするものであり,主として半導体,2次電池,実装プリント基板等の品質管理や事故解析に用いられている。マイクロCTもこれらの流れに沿って, 当初は電子部品の分野に多く導入された。装置が普及するにつれて応用範囲が急速に広がり,素材産業,自動車,及び様々な研究用のツールとしてX線顕微鏡的 な使われ方をされるようになった。マイクロCTの断面における空間分解能は40mm程度から始まり,10mm―5mm―1mmと進歩してきた。この画像性 能は医療用CTや他の産業用CTでは望めない高い分解能を満たす役割を担っている。一度の撮影で物体の3次元情報を得る“コーンビームスキャン”が充実し たことにより,撮影能力は画期的に向上した。X線を用いた画像化装置は医療診断装置の技術をトランスファしたものがほとんどであるが,マイクロCTの画像 性能や撮影能力の向上に伴い,医療診断の分野へ技術の逆輸出が行われるまでになった。肺がんの研究では肺胞や,がん組織の3次元構造解析に役立っている。 歯科医療や骨の生体親和性の研究分野でもマイクロCTの高い空間分解能が注目されており,他の医療診断への応用も模索されている。
在来の接触式や光学式3次元測定器は,物体の入り組んだ構造や内部の構造を測定できない。マイクロCTは物体内部,外部全ての特徴点を高精度の物体3次 元情報として一気に撮影する能力を持つことから,“X線3次元測定器”として機能する。この情報を用いて物体の計算機上の検査,図面化,開発・試作におけ る様々な計算機上の解析(CAE : Computer Aided Engineering),及び既に存在する物体の複製(Rapid Prototyping)を行うデジタルエンジニアリング(Digital Engineering : DE)を行うことができる。非破壊検査は既に産業界で重要な位置付けがされているが,DEは更に製造の工程にまで踏み込むものであり,非破壊検査技術の新 たな展開に寄与するものである。
本特集では前記の背景から,マイクロCTの技術内容とその特徴,及び代表的な分野における応用について取り上げた。「マイクロCT」では技術内容とその 特徴を主体に述べ,「マイクロCTの宇宙・航空分野への応用」,「マイクロCTの電子部品への応用」,「マイクロCTのファインセラミックスへの応用」の 3編では各分野の応用について解説していただいた。「マイクロフォーカスCT におけるX線装置と検出器の組み合わせと適用事例」ではマイクロCTの適用に関するノウハウを含む技術内容を解説していただいた。
マイクロCTは急速に技術進歩を遂げつつあり,広く普及することが予想されている。この特集がマイクロCTの今後の発展に寄与することを期待するものである。
*特集号編集担当 藤井 正司
X-Ray Micro-Computed Tomography
Masashi FUJII Toshiba IT & Control Systems Corporation
キーワード マイクロCT,空間分解能,オフセットコーンビームCT,オートセンタリング,全自動較正,デジタルエンジニアリング
1. はじめに
X線CT(Computed Tomography)は医療,産業の各分野でその要求に応じて技術の開発が行われてきた。医療用CTは高速スキャン,高分解能を指向しマルチスライス CTでアイソトロピック(x,y,z等方性)な3次元分解能と高速撮影を実現した。最新鋭のマルチスライスCTでは体軸方向最大64列の検出器を持つシス テムが可能であり,1回転0.5秒で数十スライス同時に撮影できるようになった。工業用CTはX線透過能力と汎用性の向上,及び高分解能化の2極分化が進 んだ。前者はX線出力450kVの産業用CTであり,後者はmmオーダーの空間分解能を発揮するマイクロCTである。産業用CTは直径600mm,高さ 1mまでの物体をスキャン可能で,自動車のエンジン廻りのアルミニウム鋳物部品を主体に様々な分野で使用されている。マイクロCTはマイクロフォーカスX 線装置が開発されたことで可能になった技術である。物体を高拡大率で投影することにより従来の産業用CTや人体用のCTの空間分解能を数十倍上回る3次元 情報を得られる1)。
物体を壊さないで検査や解析ができる非破壊検査はそれ自体大きな意味があるが,CTは物体の外部,内部全ての高精度3次元情報を表現できる特徴を持つ。 この性質を生かして,連続断面画像から3次元形状を抽出し,デジタルエンジニアリングに利用する動きが活発になってきた。そのために,物体の3次元形状を 抽出できるソフトウエアが開発された。検査や解析の応用ソフトウエアと組み合わせることで,従来の品質管理,研究開発,事故解析等の用途から進化し,新た なエンジニアリングの形態を生み出す技術に育った。特にマイクロCTは一度に物体3次元情報を得るコーンビームスキャンができるため,デジタルエンジニア リングに適したCTであると言える。図1に標準的なマイクロCTを示す。
Application of Micro-CT to Advanced Composite Materials Research for Aerospace Fields
Takashi ISHIKAWA, Sunao SUGIMOTO, Takuya AOKI and Yutaka IWAHORI
Advanced Composites Evaluation Technology Center, Japan Aerospace Exploration Agency
キーワード 複合材料,破壊モデル構築,残留応力,損傷進展,縫合,繊維引抜き
1. はじめに
X線CT探傷技術は,医療現場などでの応用で周知のとおり,被検体の全周方向からX線を照射して,各部分のX線吸収係数を畳み込み積分計算によって求 め,そのデータから欠陥を発見しようという技術である。従来型の産業用X線CT装置であると,解像力は0.2mm程度に止まっており,例えば鋳物の「す」 のようなmmオーダーの欠陥検出には適しているが,航空宇宙分野で最近非常に普及が進んでいる先進複合材料を対象とした場合には,その層間剥離先端や樹脂 割れの端末は,繊維の太さのオーダーである数m m程度,あるいはそれ以下であり,これらの損傷の検出には適していないという問題を抱えていた。したがって,従来型の産業用X線CT装置は,複合材料の非 破壊検査方法としては適切でなく,他の非破壊評価法の適用困難な多孔質体複合材料の非破壊検査の最終手段という位置付けであった。
しかし,最近,マイクロCT技術が進歩をとげて,航空宇宙用複合材料の非破壊検査に充分適用できるようになった。宇宙航空研究開発機構(JAXA)先進 複合材評価技術開発センターでは,平成14年度にマイクロCT探傷システムを導入し,先進複合材料の損傷進展状況の映像を取得し,非常に複雑な複合材料の 破壊挙動解明の研究に欠かすことのできないツールとして,最大限に活用している。本稿では,導入した装置の概要と,取得・解析した映像の代表例,これらの 情報から解明した破壊メカニズムに関する研究例を示し,今後の進歩の方向を展望する。
Application of Micro-CT to Electronic Products
Tadahiro SHIOTA, Taketo KISHI, Shuhei OHNISHI and Masayuki KAMEGAWA
NDI Business Unit, Analytical & Measuring Instruments Division, SHIMADZU Corp.
キーワード マイクロCT,電子部品,半導体,高密度実装,鉛フリーはんだ
1. はじめに
X線非破壊検査技術は,金属,合成樹脂,ゴムなどの検査対象物の素材を問わず,またそれを分解したり切断したりすることなく,内部状態を観察できる,非 常に利用価値の高い技術である。それゆえ非破壊検査装置の市場は,産業界の品質管理,安全保持に対する要求の高まりなどにより成長を続けている。電子部 品,自動車部品などの検査をはじめ広い範囲で用いられている。
その中で,半導体実装部品分野,電子部品分野における非破壊検査装置は,表1に示すようにビジネスモデルの変遷に対応して進化をしてきた。
80年代においては半導体実装の検査技術は光学的検査が主流であり,また半導体実装の故障解析技術は,開封後の断面観察が主流であった。即ち,光学的に 実装ハンダの形状を計測することで,ハンダ接合の良否を決定し,また断面の光学観察により,故障の原因を推定することが行われていた。しかし,90年代に 入ってBGA(Ball Grid Array),CSP(Chip Scale Package)といった高密度実装半導体が登場すると,光学的検査や断面観察等では,的確な検査・故障解析が困難であり,断面切断では変形や応力により 真の故障解析は難しくなった。そこで非破壊かつ高倍率で試料内部の情報を捉えることができるX線透視装置が普及していった。
ところが,さらに高度な検査,解析のニーズを持つケースが2000年代に入り増えつつある。たとえば,携帯電話,PDA(Personal Digital Assistance),超小型ノートPCに代表されるような小型マルチメディア機器では,両面実装基板,3次元スタックドCSPなど複雑な内部構造を持 つ電子デバイス部品が多用されてきている。これらの検査,故障解析においては,X線透視で得られる画像が2次元的かつ投影であるがために,複雑化した内部 の立体的な位置関係を検査するのは困難である。そこで最近は,医療用CT技術を産業用に適用し,空間分解能を飛躍的に向上させたマイクロフォーカスX線発 生技術と合わせることにより,被検査材の3次元的な内部情報が高分解能で得られるマイクロCT装置が急速に利用されているようになってきた。
Applications of Microfocus CT in Various Combinations of X-ray Source and Detector
Hidekazu HIRAI and Atsushi MURAKOSHI Tesco Corporation
キーワード 非破壊試験,非破壊検査,放射線,マイクロフォーカス,コンピュータ断層撮影,X線イメージインテンシファイア
1. はじめに
マイクロフォーカスCT装置の最大の特徴は,空間分解能が優れている点であるが,ミニフォーカス,医療用CT装置と比べると,密度分解能の点で劣ってい る。しかし,マイクロフォーカスCT装置が対象とする工業用製品は材質,大きさも様々であり,空間分解能が優先される場合と密度分解能が優先される場合が ある。従って,最適なCT装置も対象物により異なる。CT装置の主要構成要素であるマイクロフォーカス線源,検出器も様々あるが,どのような対象物に,ど のような線源,検出器の組み合わせが最適かを,空間分解能と密度分解能の両者の観点で述べる。
Evaluation of Thickness and Delamination of Polymer Lining using Surfaceand Interfacial Acoustic Waves
Kazushi MINAMI*, Hideo CHO**, Yoshihiro MIZUTANI***,Mikio TAKEMOTO** and Hideo NISHINO****
Abstract
Evaluation methods of thickness and interfacial soundness of polymer-lining on steel substrate were developed. The dispersive Rayleigh mode wave and The leaky Interfacial Compressional Wave (LICW) propagating along the lining surface or interface of a lining/substrate were utilized. Propagation characteristics of the waves were experimentally studied. Two methods of estimating lining thickness were proposed and experimentally verified using the dispersion relation of the Rayleigh mode wave and the propagation characteristic of the LICW. Size and location of the delamination portion can be determined utilizing the propagation characteristics of the LICW and Lamb wave via the delaminated lining layer
Key Words Ultrasonic testing, Surface acoustic wave, Interfacial acoustic wave, Rayleigh wave,Sezawa wave, Polymer lining, Delamination detection
1. 緒言
ビニルエステル,エポキシ,ポリエステルなどの樹脂は,比較的安価で施工も簡単なことから化学装置や食品製造容器の防食ライニングとして広く用いられて いる1)。ポリマーライニング層は経年劣化することから,剥離や密着強さなどの健全性を評価する現場技術が求められている。ライニング材で起こる問題とし ては,(1)ライニング層の化学的変質と劣化,(2)ライニング層の減肉,(3)ライニング層/基材界面の環境による劣化と剥離,(4)施工不良に伴う剥 離,などが指摘されている。界面剥離は,通常の縦波を用いたパルスエコー法でも検出可能であるが,点計測であることから計測コストが高くなること,ライニ ング層の厚さが薄くかつ変質しているときなどには計測が難しくなるなどの問題を有している。ライニング材の健全性診断においては,ある程度の距離にわたっ て一度にライニング層厚さや界面性状を計測する技術の開発が必要である。環境劣化によって透明性を失ったライニング材では,特に界面性状を非破壊的に評価 する方法の実用化に対する要望が強い。
本報告では,ライニング材の表面沿いに伝搬する超音波を用いてライニング層の厚さと界面剥離を広範囲に一括して検出する方法を示し,実験的に検証した。 はじめに,レーザ超音波法を用いてライニング材の表面沿いに伝搬するガイド波を励起し,それらが漏洩界面縦波(Leaky Interfacial Compressional Wave ; LICW),ライニング層の影響によって速度分散を示すレイリー波(Rayleigh mode),そしてセザワ波(Sezawa mode)2),3)であることを実験的に確認する。次にLICWあるいはRayleigh modeの特徴を用いたライニング層の厚さ推定手法を示す。最後に,ライニング層/基材(鋼)界面を伝搬するLICW,および剥離したライニング層を伝搬 するLamb波の特徴を用いることによって剥離部の位置と寸法が推定できることを報告する。
原稿受付:平成16年2月23日
青山学院大学理工学部(現ダイハツ工業(株)第二生産技術部プレス化成技室)Faculty of Science and Engineering, Aoyama Gakuin University
青山学院大学理工学部Faculty of Science and Engineering, Aoyama Gakuin University
東京工業大学大学院理工学研究科 Graduate School of Science and Engineering, Tokyo Institute of Technology
徳島大学工学部(徳島県徳島市南常三島町2-1)Faculty of Engineering, The University of Tokushima
Location of Corrosion Damage on the Floor Plate of a Cylindrical
Storage Tank by Lamb Wave Acoustic Emission -Source Location Accuracy of Artificial Sources-
Hideo CHO*, Mikio TAKEMOTO*, Akio YONEZU*, Ryuji IKEDA*,Hiroaki SUZUKI** and Masaaki NAKANO**
Abstract
On-site study for the source location of artificial acoustic sources on the floor plate of a cylindrical storage tank of 32.98 m diameter was performed. We monitored Lamb wave AEs from artificial sources on the floor plate inside the tank using four types of AE sensors with different center frequencies mounted on the terrace of the annular plate. Among the sensors, only the one with a center frequency of 30 kHz monitored the Lamb wave AEs from 15 artificial sources (slight impacts) on the one radial line and 5 sources on the annular plates along a quarter circumferential line. AE sources were located from the arrival time differences of Ao-Lamb waves using two kinds of location scheme, i.e., a virtual source scanning method developed in-house and a conventional time-of-flight method. Fifteen artificial sources on the radial line were located within 3.2 m error from the given locations. Five artificial sources along the quarter circumferential line were located within 2.9 m error. These sources, however, tend to be located toward to the tank center. Location accuracy was discussed in relation to the propagation path and attenuation of the Lamb wave.
Key Words Acoustic emission, Storage tank, Floor plate, Lamb wave AE, Source location
1. 緒言
屋外大型鋼構造物の腐食個所や減肉を,供用中に精度よく検査する技術の開発は,老朽化設備を抱える先進工業国が共通して抱える21世紀の大きな課題であ る。埋設配管や貯槽タンク底板の土壌腐食や大気腐食を超音波探傷法等を用いて検査するためには,掘り起こしや内容物を取り出すなどの大掛かりな前処理作業 が必要で,多額の経費がかかる。
筆者らは,大気腐食で生成した錆(FeOOH, Fe3O4, Fe2O3)が破壊すれば,大きな振幅のラム波AEが放出されることを報告1)した。屋外に暴露した小型円筒タンク底板の大気腐食によるAEは,腐食減肉 量が0.2mm以上になると頻繁に検出され,底板テラス部(タンク外に張出したアニュラ板)に設置したセンサを用いてラム波AEを検出すれば,腐食位置が 精度よく標定できることも報告2),3)した。また液体を貯槽する円筒容器の側壁に音源がある場合,AEは液中縦波として伝播するケースは極めて稀で,ほ とんどの場合ラム波として側壁を伝播することも報告4)した。このことは真家ら5)によっても報告されている。すなわちAE音源位置標定においては,波の 伝播経路やモードを特定し,モード波固有の速度分散(速度の周波数依存性)を考慮した標定アルゴリズムを用いる必要がある。
欧米では,円筒タンク底板の腐食損傷によるAEを,側壁に設置したセンサ(以後,側壁センサという)で検出し,危険度を評価するシステム(例えばシェル グループによるTANK-PAC6))が実用化されているようである。タンクの危険度は,雨風のない日の限られた時間に検出されるAEの発生頻度や振幅, 持続時間等から5段階に評価されているが,この方法をそのまま本邦のタンクに適用するには問題があることも指摘されている7)。TANK-PACでは,音 源位置標定を必須検査事項としては扱ってはいない(顧客の要望で実施)ようであるが,液中縦波を検出しているとした位置標定を行なうと,標定精度はかなり 悪くなる。側壁センサは,1)音源から側壁センサまでを最短距離で伝播するラム波,2)漏洩ラム波が液中縦波へモード変換されて到達するモード変換 波,3)側壁やアニュラ板を周りこんで伝播するラム波,4)最短距離を伝播する液中縦波,5)液表面で反射されたあと側壁を回りこんで伝播するなど経路の 特定しにくい波の順に検出する。位置標定に使用する4)の振幅は,他の波の振幅に比べて小さく到達時間が正しく読み取れないため標定精度が悪くなる8)。 ちなみに,液中縦波の伝播速度は1500m/s(水中)から1300m/s(油)で,ラム
原稿受付:平成16年10月5日
青山学院大学 理工学部(神奈川県相模原市淵野辺5-10-1)Aoyama Gakuin University
千代田アドバンスト・ソリューションズ(株)Chiyoda Advanced Solutions Corporation