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機関誌

2003年度バックナンバー巻頭言5月

2003年5月1日更新

巻頭言

「発電用原子炉の健全性評価」特集号の刊行にあたって

 昨年夏に複数の原子力発電所において,定期点検で発見された損傷を原子力安全保安院に無届であったこと,無届で修理を実施したことが問題になった。安全上重大な格納容器の機密性低下を故意に隠した件を除けば,日本以外の諸外国で認められている供用中の原子力発電設備に関する損傷許容の考え方が日本では公式に認められていなかったことによる,法と技術のミスマッチングといえる。昨年の臨時国会で原子炉等の規制に関する法律が改正され,電力会社による自主点検が法制化されるとともに,我が国でも供用中の原子力発電設備に対して損傷許容を認める維持基準が平成15年中に省令で規定されることとなる。従来と異なり,原子力発電設備に欠陥が存在しても,破壊力学に基づき解析し,想定される負荷条件の下で次期定期点検まで運転してもき裂状欠陥の成長が許容限度内であれば,そのまま運転できることとなった。設計段階で高い安全率を用いているので,一定深さ以下のき裂状欠陥は「評価不要」と判定する。それ以上の寸法のき裂状欠陥について破壊力学に基づく解析を行う。これら評価の基準・方法については,日本機械学会「発電用原子力設備規格 維持規格(JSME S NA1-2002)」を利用することになる。例えば原子力発電所一次冷却系のステンレス配管(厚さ7mm以上12.5mm以下)の表面き裂は深さが 1.5mm以下であれば評価不要(そのまま使用可)と規定されている。維持規格の採用により従来に比べて高分解能のき裂深さ測定が要求される。このような状況の下で,原子力発電設備の健全性を確保するために必要とされる重要な技術課題についての解説,すなわち,我が国の「原子力発電プラントの高経年化への対応」の全体状況を前田宣喜氏に,「原子力発電所の健全性と維持規格」について小林英男本会会長,「原子炉容器用鋼材の中性子照射脆化の評価」を大岡紀一元会長,「ステンレス鋼の応力腐食割れ」に関して内田俊介氏に執筆いただいた。高圧力機器についても同様な維持規格が高圧力技術協会により制定されつつある。今後,原子力発電設備,高圧力設備については,非破壊的にき裂の寸法を正確に評価することが要求される方向である。これに伴い,本誌昨年12月号の小林会長の巻頭言「維持規格とそれに関わる技術課題への取組み」で紹介されたように,従来の測定法・装置に拘束されない超音波試験技術と試験技術者の組合せで自然欠陥(き裂)の寸法を正確に評価する,高度な技量認定(PD, Performance Demonstration)も導入されよう。これらについても今後の特集で取り上げて行きたい。

*名古屋工業大学 川嶋紘一郎

 

解説 発電用原子炉の健全性評価

原子力発電プラントの高経年化への対応
  前田 宣喜 (財)発電設備技術検査協会高経年化技術センター

Aging Management of Nuclear Power Plants in Japan
Noriyoshi MAEDA Japan Power Engineering and Inspection Corporation, Nuclear Power Plant Life Engineering Center
キーワード 原子力発電プラント,高経年化技術評価,経年変化事象,設備維持基準,検査・モニタリング技術,経年変化評価技術,予防保全・補修技術



1.まえがき  平成15年1月末現在,我が国の商業用原子力発電プラントは,52基が運転され,そのうち,初期に建設された原子力発電プラント4基の運転年数が30年を超え,これらを含め23基が20年以上運転されており,運転中発電プラントの40%以上を占める。欧米諸国においては,我が国より早い段階から原子力発電プラントの高経年化を視野に運転保守を進めており,高経年化は世界の原子力発電プラント共通の関心事項である。通商産業省資源エネルギー庁(現 経済産業省原子力安全・保安院)は平成8年4月,初期に建設された原子力発電プラント3基について,安全上重要な主要機器について60年間の運転を仮定した場合における健全性の技術評価及び現状保全の評価を実施し,高経年化に関する基本的な考え方を公表した1)。電気事業者はこれを受け,安全上重要な機器及び運転継続上特に重要な機器について高経年化対策を検討するために技術評価を実施し,必要な対応策を長期保全計画としてまとめた。平成11年2月,資源エネルギー庁はこれらの評価及び長期保全計画が妥当であると評価するとともに,今後の高経年化に関する具体的な取組み2)として, ?定期安全レビュー,定期検査等の一層の充実など総合的な設備管理方策の確立 ?設備維持基準の導入など経年変化に対応した基準・規格の整備 ? 「検査・モニタリング技術」,「経年変化評価技術」,「予防保全・補修技術」分野での技術開発の推進の3つを重要な課題として挙げている。また,技術開発の実施,国の技術基準・民間規格の整備,材料や機器に関するデータの蓄積といった息の長い着実な努力が必要であり,産学官の適切な役割分担と連携を図りつつ継続的な活動を行っていくべきとしている。さらに国民の十分な理解を得るために,情報公開を行い,きめ細かい情報提供等を行っていくことが重要としている?の定期安全レビューは電気事業者が主体的に行い,国はそれを評価・確認していくことになっている。定期検査等の一層の充実としては,供用期間中検査の一層の充実として日本電気協会指針JEAC4205「軽水型原子力発電施設の供用期間中検査」3)にシュラウドの点検等を含めた規定を追加すること,国は長期保全計画の実施状況の確認を行うことをうたっている。?は設備維持基準の導入にあたって,産官学が連携し,適切な役割分担の下に法令としての技術基準とこれを補完する民間規格の整備ををうたったものでる。?は国が電気事業者,メーカー,各種試験研究機関,大学等と連携を密にし,適切な役割分担の下で,経年変化に対応した技術開発プロジェクト推進していくとともに,これら技術開発プロジェクトの成果をプラントの保全活動及び技術基準に取り入れ,それらの向上を図っていくことをうたったものである。これらの重要性は様々な経緯を経て,時ととも大きくなっており,いずれも積極的な推進が図られている。本稿ではこれらを中心とした解説を行う。

 

 

原子力発電所の健全性と維持規格
   小林 英男 東京工業大学大学院

Integrity of Nuclear Power Plant and Fitness-for-Service Code
Hideo KOBAYASHI Tokyo Institute of Technology
キーワード 原子力発電所,健全性,維持規格,検査,欠陥評価,非破壊検査,破壊力学



1. はじめに  いわゆる東電問題等は,原子力発電所の健全性について,社会に大きなインパクトを与えた。それはまた,原子力に関連する技術者のみならず,一般の技術者にとって,我が身に照らして顧みる問題でもある。維持規格と欠陥評価の導入の必要性,それに伴う欠陥の寸法測定(sizing),技量認定(PD),リスクベース検査(RBI)等の非破壊検査の技術とシステムの課題,さらにリスクマネージメントの実行を支える規格と経験のデータベースの重要性を解説し,健全性を確保するための今後の検査の方向性を示す。

 

 

原子炉容器用鋼材の中性子照射脆化の評価
    大岡 紀一/石井 敏満 日本原子力研究所 大洗研究所


Evaluation of Neutron Irradiation Embrittlement in Structural Materials for Reactor Pressure Vessel
Norikazu OOKA and Toshimitsu ISHII Japan Atomic Energy Research Institute, Oarai Establishment
キーワード 原子力発電プラント,原子炉容器,中性子照射脆化,監視試験,シャルピー衝撃試験,非破壊試験,超音波測定



1. はじめに 原子炉圧力容器(以下,「原子炉容器」と言う。)などに用いられる構造材料は,原子炉の運転中に中性子照射を受けることにより,延性脆性遷移温度(DBTT)の上昇及び上部棚エネルギーの低下を伴う照射脆化が進むことが知られている1),2)。原子炉容器は特に,高い健全性と信頼性を要求される機器であり,供用期間中の照射脆化の状態を評価することが非常に重要であると考えられている3)。このため,原子炉容器の健全性は同じ材質の試験片を炉内に装荷し,定期的に取り出して行う監視試験により確認されている。また,原子炉容器の照射脆化には,不純物であるCuの析出や結晶粒界へのPなどの不純物の偏析が寄与していることがこれまでに明らかにされてきた4),5)。しかしながら,国内の原子力発電プラントの使用期間延長が計画されている中で6),今後原子炉容器が長期間使用される場合に,鋼材のミクロ組織及び機械的特性の変化に及ぼす中性子照射の影響については未だ解明されていない部分がある。このため,長期間運転に伴う原子炉容器の照射脆化の予測や評価に資する新たな手法の開発への取組みが盛んに行われている7)−10)。本稿では,原子炉容器の供用期間中の健全性を評価するための監視試験法について紹介する。また,運転期間の延長に伴う監視試験片数の不足への対応として,試験後の照射後試験片の一部を利用して新たな照射試験片を製作するための「監視試験片の再生技術」などの技術開発の検討が行われているが,本稿では,原子炉容器の照射脆化を非破壊的に評価するための技術開発を中心に述べる。

 

 

ステンレス鋼の応力腐食割れ
   内田 俊介 東北大学大学院工学研究科量子エネルギー工学専攻

Stress Corrosion Cracking of Stainless Steel
Shunsuke UCHIDA Department of Quantum Science and Energy Engineering, Graduate School of Engineering, Tohoku University
キーワード ステンレス鋼,沸騰水型原子炉,応力腐食割れ,腐食,粒界,残留応力



1. はじめに ステンレス鋼の応力腐食割れは,材料研究者,特に腐食の研究者,技術者にとっては,昔から良く知られた現象で,1960年代に発行されたMITのH. H. Uhlig教授の教科書「腐食反応とその制御,Corrosion and Corrosion Control」1)にもかなりのスペースを割いて,その事象とメカニズムが記載されている。それにもかかわらず,実際のプラント,特に原子力発電プラントでの事例は後を絶たず,1970年代半ばの沸騰水型原子炉(BWR)一次冷却系配管ステンレス鋼の応力腐食割れ(SCC)では,世界中のBWRでSCC が顕在化した。その点検と対応のため,プラント稼働率の大幅な低減と対応する従事者の受ける放射線量の増大という問題を生じた2)。これら一連のトラブルに,プラント技術者,研究者が一致協力して対応に当たった結果,材料対策としては,SCC感受性発現の要因となる炭素含有量の低減,溶接部での残留応力に対する種々の緩和策の適用,そして水化学の改善を採用することにより,問題の本質的な解決ができたかに見えたが,2001年以降,耐SCC材料の切り札とされてきた低炭素含有ステンレス鋼SUS316LあるいはSUS316NG製のシュラウドや再循環配管に,新たなSCCが顕在化している。再び原点に戻ってSCCとは何か,そしてその適切な対応策はあるのかという問いが,材料研究者のみでなく,材料強度研究者,さらには水化学研究者に投げかけられている。こうした疑問に少しでも答えられるよう,SCCについてもう一度整理し,その発生要因について考えてみたい。これまでに,SCCについて,材料及び残留応力の観点から記述した解説は多いが,水化学の観点からの解説は比較的少ないため,本文では水化学に力点を置くとともに,新しい事象である低炭素含有ステンレス鋼のSCCについて見解をまとめたい。

 

 

 

論文

全方向きず検出のための回転磁界による漏洩磁束探傷試験法
   植竹 一蔵/長井  寿


Magnetic Flux Leakage Testing Method using Rotating Field for Detection of All-directional Surface Flaw
Ichizo UETAKE* and Kotobu NAGAI*
Abstract

In magnetic leakage flux testing (MFLT) it is difficult to detect flaws parallel to the direction of magnetization because there is minimal of leakage flux. However, the direction of flaws cannot be known prior to the examination. There is a possibility, therefore, that several flaws may remain in the test specimen if the examination is executed by conventional MFLT with one directional magnetization. To resolve this, the authors developed a new MFLT method that can detect all-directional surface flaws without overlooking any. Testing the new method by applying the rotating field for magnetization of materials and detecting the leakage flux using a cross type differential sensor (coil) confirmed that this is a highly sensitive means of detecting all-directional surface flaws.
Key Words Nondestructive testing, Magnetic flux leakage testing, Rotating field, Differential coil, All-directional surface flaw



1. はじめに  漏洩磁束探傷試験(Magnetic Flux Leakage Testing, MFLT)では,磁束がきずの長手方向に対し直交するように磁化すると,きずからの漏洩磁束が最大となり,きず検出力が高くなることが知られている。通常のMFLTにおいては,一方向からの磁化であるため,磁化方向ときずの長手方向とが平行になることがある。磁化方向ときずが平行になれば漏洩磁束が発生し難くなるため,きずを検出することはできない。このような磁化方向ときずの長手方向との交差角度の影響1)−3)を防ぐには,一台の磁化器で,その配置方向を変えて磁化を繰り返すか,複数の磁化器を配置して多方向磁化を行う方法が考えられる。一台の磁化器で,その配置方向を変えて磁化を繰り返すのは,効率が悪く実用的ではない。また複数の磁化器による多方向磁化では,各磁化器を順々に操作するため試験体が静止状態の探傷になり,これも効率的な方法とはいえない。そこで電気的に磁界を回転させる回転磁界を適用すれば4)−6),磁界の作用が連続的で,従来の手法と同様に効率的な探傷ができる。また,回転磁界では,磁界がきずと直交するときが必ず存在し,そのとき大きな漏洩磁束が発生する。すなわち回転磁界の適用は,きずの方向によって漏洩磁束が発生しない状況を排除し,見逃しのない探傷を実現させるための有効な磁化方法の一つであると考えられる7),8)。一方,きずの高感度な検出には磁気センサの選定も重要である。磁気センサは,単一コイルまたはホール素子でもよいが,これらは試験体表面の健全部におけるセンサ出力(ここではバックグラウンド電圧と呼ぶ)が大きく,きず検出感度の点で問題がある。センサには,バックグラウンド電圧が小さくでき,比較的検出感度が高い差動センサがある。しかし,差動センサでは検出感度に方向性があるため,回転磁界の適用によりきずから大きな漏洩磁束が発生していても,差動方向がきずの長手方向になった場合,きずの検出はできなくなる可能性がある。そこで二つの差動センサを十字に組み合わせた十字形のセンサを構成し,漏洩磁束に対して直交する二方向の差動出力を同時に評価すれば,方向性を持ったきずの未検出を防ぐことが可能と考えられる。これらの観点から,回転磁界と十字形差動センサで構成される回転磁界プローブ8)を用いた全方向きず検出のためのMFLT法について検討した。ここでは試験体表面の人工溝に対して回転磁界プローブの走査方向を変えて走査し,そのときの漏洩磁束信号を検出及び処理し,溝の方向が異なっても同一の検出力で溝が検出できることを明らかにした。

 

 

原稿受付:平成13年11月15日
 物質・材料研究機構 材料研究所(茨城県つくば市千現1-2-1)

 

差分寸法計測法による内部構造寸法の高精度測定法と標準試験片への応用
   水田 安俊/池田  泰/恩田 勝弘

Precise Sizing Technique for Inner Structure using a Method of
Image Subtraction and Application to Reference Block
Yasutoshi MIZUTA* Yasushi IKEDA* and Katsuhiro ONDA*
Abstract
A new technique for precise sizing of an inner structure with very high accuracy has been developed. The method uses image subtraction processing of X-ray radiography, and measures the size of the inner structure with the accuracy of mm order. A sample object is shifted slightly, and an image subtraction processing between before and after the shift is performed, which gives a pair image of the small defect in the specimen on the subtraction picture. The real magnification of the pair image is calculated from the ratio of the actual amount of shifting to the distance between that image in the subtraction picture. The size of the small defect can be measured using real magnification with the precision of a few mm. Verification of the precise sizing technique has been carried out by comparing the measured value with that obtained by SEM, and shows very good agreement. The sizes of standard defects in an ultrasonic reference block were determined using this technique.
Key Words Radiography, Image subtraction, Defect detection, Precise sizing of Internal structure, Ceramics



1. 緒言  ファインセラミックスの強度は,材料中の微細なきずや密度変化などの構造に大きく影響を受け,きずの有無や分布により強度に大きなバラツキが生じる。そのため強度に影響を及ぼす有害なきずや構造の寸法を高精度に求める必要がある1)。物体内部のきずや構造の寸法を非破壊的に測定する方法としてX線透過像や超音波信号が用いられる2)。X線透過法による内部構造寸法の算出は,従来はX線フィルム等で得られた透過像と撮影時の拡大率から求められてきた。しかし,マイクロフォーカスX線装置による拡大撮影方法では拡大率が大きくなるにつれ,測定対象のきずや構造が存在する内部の位置により,実質の拡大率は大きく変化する。そのため焦点と被検体間の距離,及び焦点とX線検出器との距離から求められる,従来の大まかな拡大率を用いた内部構造寸法計測では,大幅な誤差を生じる。本論文では,ファインセラミックスに含まれる気孔,異物及び密度変化等の内部の構造を可視化し,その像を用いて大幅な誤差を出すことなく,高精度で内部構造の寸法計測が可能な,差分処理透視法に基づく新しい方法(差分寸法計測法:Sizing method with image subtraction)を報告する。この方法を用いることにより,ファインセラミックス中の微細なきずや構造の高精度寸法計測が可能となる。また,パルス反射法による高周波超音波探傷試験方法通則((社)日本非破壊検査協会規格NDIS 2420)3)において探傷装置の校正,調整及び探傷感度の設定に標準試験片を使用するように規定されている。標準試験片の中で内部に気孔を導入した球状気孔形試験片は,40mmから450mmまでの微細な気孔が導入されていて,この標準試験片の作製には,内部気孔寸法の定量測定が不可欠である。本研究で進めている差分処理透視法をこれら内部気孔寸法の測定に適用した結果について報告する。

 

 

原稿受付:平成14年5月27日
 (財)ファインセラミックスセンター(名古屋市熱田区六野2-4-1)Japan Fine Ceramics Center

 

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