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機関誌

2014年度バックナンバー3月

2014年3月1日更新

このページの目次

巻頭言

「LU2013 Ⅰ −先進超音波計測−」特集号刊行にあたって  山中 一司

 「第3 回レーザ超音波と先進計測に関する国際会議」(3rd International Symposium on Laser Ultrasonics and Advanced Sensing;LU2013)が,本協会の主催で2013 年 6 月25 日(火)~ 28 日(金) に横浜赤レンガ倉庫で開催された。この会場での国際会議開催は珍しく,参加者には意外性があったが, 外観と内装に雰囲気があるわりに機能的で,窓から見える美しい横浜港の風景も好評であった。
 本会議は,これまでカナダとフランスで開催され,レーザによって超音波を送受信する技術を中心 として,欠陥検出と材料評価への応用,ピコ秒・フェムト秒超音波,新しい装置,近年進展が著しい 生体の光音響,信号処理,モデリング,映像などを討議してきた。第3 回目の日本開催では,本来学 際的なレーザ超音波の特質を考慮して,(1)ガイド波,(2)非接触計測(空中・電磁超音波),(3) マイクロ/ナノ計測(マイクロセンサ,超音波顕微鏡等),(4)非線形計測(高調波,分調波)など 周辺の「先進計測(Advanced Sensing)」の分野を加えた。この結果,本協会の超音波部門のほぼ全体 が含まれることとなり,世界へ向けた情報発信,学術交流,および新技術探索の有益な機会となった。
 そこで,本会議で注目された成果を今月と来月の2 号連続で紹介したい。今月は主に先進計測の分野の 研究発表,来月はレーザ超音波とその応用に関する研究発表を紹介する。なお,海外参加者の発表を含 む英語の論文は,IOP Conference Series の一部であるOpen Access Journal of Physics: Conference Series (JPCS) とMaterials Transactions に掲載される。
 レーザ超音波の発端は電話の発明者AlexanderGraham Bell(1847-1922) が発見した光音響効果 (Photoacoustic effect)である。電話の発明からわずか5 年後の1880 年に,電線を使わない遠距離通信 のニーズに応える研究中に発見した。Bell の声が薄い膜でできた鏡を振動させ,これにより反射された 太陽光が振幅変調され,光が受信機に達すると詰められたカーボンブラックの粉に吸収されて,受信機 の空気を振動させて音声を再生させた。狼煙(のろし)や原始的な鏡による合図を別にすれば,これが 最初の光通信である。Bell は,より優れた光吸収物質を探索する過程で,従来困難だった粉体の分光分 析に光音響効果が大変有用なことに気付き,LU2013でも主要議題の1 つである光音響分光法の創始者に もなった。まさに学際的な先進計測である。本特集号の記事も,非破壊検査の多岐にわたる先進計測の 活性化のための刺激になることを期待したい。

 

 

解説 LU2013 Ⅰ −先進超音波計測−

固体界面での接触音響非線形性を考慮した超音波の3次元数値シミュレーション
 廣瀬 壮一/丸山 泰蔵   東京工業大学大学院情報理工学研究科情報環境学専攻

Three Dimensional Numerical Simulation of Ultrasonic Waves Considering Contact
Acoustic Nonlinearity on Solid Interface
Tokyo Institute of Technology Sohichi HIROSE and Taizo MARUYAMA

キーワード 超音波非破壊評価,非線形超音波,接触音響非線形性,時間領域境界要素法,数値シミュレーション



1. はじめに
 疲労き裂や応力腐食割れなどの固体内における不連続界面は応力状態や環境状況によってしばしば閉じた状態になる。き 裂あるいは界面が閉じると超音波が透過してしまうため,通常の線形の超音波法で検出することは困難である。このような閉 じたき裂や界面の検出及び評価において,接触音響非線形性(CAN: Contact Acoustic Nonlinearity)を利用した非破壊検査 手法である非線形超音波法が注目されている1)。非線形超音波法では,大振幅の超音波を入射することによって閉じたき裂や 界面を強制的に開口させたり,摩擦すべりを誘発させる。このとき発生する高調波や分調波といった周波数スペクトル成分を 観測することによって閉じたき裂や界面を検出するのである。
 非線形超音波における高調波や分調波の発生メカニズムについては1 次元モデルや2 次元モデル2),3)を中心にこれま で研究がなされてきた。その結果,高調波に関しては概ね解明されているものの1),分調波に関してはいくつかの説が提 唱されており確たる理論は確立していない。本解説では,3次元数値シミュレーションを実行することでより現実に即し た解析を行い,高調波及び分調波の発生の一例を示す。数値シミュレーションには,境界条件の取り扱いが比較的容易で あり,境界上での数値解を精度良く求めることができる時間領域境界要素法を用いる。

 

 

GPGPU の非破壊検査への応用 −波動伝搬シミュレーションから欠陥映像化まで−
   中畑 和之   愛媛大学大学院理工学研究科

Application of GPGPU to Nondestructive Testing:
Simulation of Wave Propagation and Flaw Reconstruction
Graduate School of Science and Engineering, Ehime University Kazuyuki NAKAHATA

キーワード GPU による汎目的計算(GPGPU),波動伝搬シミュレーション,欠陥映像化,有限積分法(FIT),全波形サンプリング処理(FSAP)方式



1. はじめに
 近年,パーソナルコンピュータに搭載されたGraphic ProcessingUnit(以下,GPU と略す)を,グラフィック以外の目的,とりわ け科学技術計算に適用する動きが加速している1)。汎用計算にGPU を使用する試みはGPGPU(General-Purpose computing on GPUs)と呼ばれ,産業,医療,民生用にも応用されている。これまで,科学技術計算といえばCPU(Central Processing Unit)計算によるものであったが,近年の性能向上は頭打ち状態である。1 つのCPU 性能を引き上げる画期的な方策は無 く,この性能の飽和を打開するためにCPU はマルチコア化へ舵を切っているが,一般デスクトップ用のCPU は4 コアまで しか製品化されていない。
 一方のGPU は2013 年12 月時点で,2880 コアのもの(NVIDIA社,GeForce GTX780Ti)が製品化されている。このコア数の 違いがそのままFLOPS(Floating-point Operations Per Second)の差となっており,GeForce GTX780Ti の理論ピーク性能は5 TFLOPS であるから,2001 年のスーパーコンピュータの性能を1つのGPU で凌駕する2)。しかも,価格は8 万円前後であ り,もちろんデスクトップPC にマウント可能である。また,GPU のハードウエアとしての性能の向上ばかりでなく,GPU のマルチスレッドを制御するソフトウエアが,GPGPU の普及を大きくアシストしている。著者は,主としてNVIDIA 社 のCUDA 環境を用いて開発を行っているが,他にOpenGL,DirectCompute 等でもGPGPU は実現可能である。
 ここでは,GPGPU を非破壊検査に応用した試みについて述べる。1 つは超音波・電磁波シミュレーション,もう1 つは 欠陥再構成(きずイメージング)にGPGPU を応用した例を紹介する。超音波や電磁波は不可視であるため,シミュレー ションを援用して数値的に波動伝搬や散乱波を推定することが行われている。著者は,これまでに有限積分法3)(Finite Integration Technique:FIT)とイメージベース処理4)を組み合わせたシミュレーション手法5),6)を発表している。FIT はステンシル計算(後述)で,かつ陽的に更新するため,GPGPU の効果が十分に発揮できる。また,欠陥映像化法と して全波形サンプリング処理方式7)(Full waveforms Samplingand Processing:FSAP)が提案されている。この手法は,ア レイ探触子を利用した映像化手法であり,検査領域のすべての画素に集束ビームを送信するため,S/N 比が高く,全領域 で高分解能な像が得られることが特徴である。ここではFSAP方式をGPGPU によって高速化し,それをハードウエアに実 装した事例を示す。

 

ボールSAW センサによる多種類のガス計測
    赤尾 慎吾/中曽 教尊    凸版印刷(株)     辻  俊宏  山中 一司    東北大学大学院工学研究科

Measurement of Wide Variety Gases using a Ball SAW Sensor
Toppan Printing Co., Ltd. Shingo AKAO and Noritaka NAKASO
Tohoku University Toshihiro TSUJI and Kazushi YAMANAKA

キーワード 弾性表面波,ボール SAW,メタル MEMSカラム,ガスクロマトグラフ



1. はじめに
 環境計測やセキュリティの分野では,多種類の危険なガスを現場で検出するため,容易に携帯できるガスクロマトグラ フ(Gas Chromatograph;GC)が求められている。
 例えば,工場や実験室などの作業環境では有害なガスによる作業従事者の健康被害が報告されている。そこで,日本産 業衛生学会は約200 種類の有害なガスについてそれぞれ許容濃度を定めた1)。その中には揮発性有機化合物(Volatile Organic Compound;VOC)も多数含まれ,例えばトルエンの許容濃度は50 ppm である。
 GC は固定相への保持時間の差を用いてガスを分離することで単一のセンサで多種類のガスを検出できる。弾性表面波 (Surface Acoustic Wave;SAW)センサを用いた可搬型GC は既に市販されているが,カラムやセンサの温度制御のために 数百W の消費電力が必要である。
 そこで,低消費電力な手のひらサイズのGC の創出を目的として,国家プロジェクト「戦略的創造研究推進事業」の一環と して,「多種類の危険・有害ガスに対する携帯型高感度ガスセンサシステム」の研究を行った。その結果,自然にコリメー トしたSAW の多重周回により高感度を実現するボールSAWセンサ2)−5)と,エッチングで流路を形成したステンレス板 の拡散接合と超音波映像測定による非破壊検査により高精細かつ高強度で低コストなメタルMEMS カラム6),7)を開発し, それらを組み合わせたマイクロGC の開発に成功した8)。  また,作業環境における多種類のガスを連続測定が可能なシステムとして,連続的に自動で試料の採取が可能なガスサ ンプラと多種類のVOC の測定に対するガス直進法を開発し,濃度変動のモニタリング可能な携帯型GC を開発した。本解 説ではこれらの成果について紹介する。

 

流体を満たしたパイプを伝搬するガイド波の解析
    佐藤 治道   (独)産業技術総合研究所

Analysis of Guided Waves Propagating in Fluid-Filled Pipes
National Institute of Advanced Industrial Science and Technology (AIST) Harumichi SATO

キーワード 超音波,ガイド波,チューブ,管,有限要素法



1. はじめに
 円筒管(パイプ)は流体を運ぶため,大きなシステム(発電所,パイプライン)からマイクロ統合分析システム(μTAS)1) まで広く使われている。そのため,パイプの非破壊検査(NDI)は重要である。検査方法にはいくつかの手法があるが,超音 波はその簡便さから,原子力発電所等の検査に使われている。超音波を用いたNDI では,精度に優れるバルク波(縦波もし くは横波)が利用される。ただし,一度に検査できる範囲は狭いので,広範囲の検査には時間を要する。ここで,この検 査に用いる超音波の周波数は,その波長が媒質の厚さより十分小さくなるぐらい高く設定する。周波数が低いと,波長が 媒質の厚さ程度以下になり,媒質の境界でモード変換した縦波と横波が分離しなくなる。そのため,通常の縦波や横波と は異なった性質を示すようになる。そのような超音波をガイド波2)と呼ぶ。例えば,無限平板を伝搬する板波3)もガイ ド波である。ガイド波には長距離伝搬するという特徴がある。そのため,一度に広範囲の検査ができる可能性がある。例え ば,パイプにガイド波探傷器を取り付けて常時モニタリングし,問題がありそうだと認識されたら,バルク波で詳細に検 査する等といった利用法が考えられる。また,欠陥探傷ではないが,超音波流量計の開発にも応用できる4)。
 バルク波の伝搬速度は周波数に依存しないが,ガイド波は周波数に依存する。そのため,速度分散を知ることが重要にな る。中空パイプを伝搬する全てのモードのガイド波の解析解は1959 年にGazis によって得られた5)。この解析解から,パイ プの肉厚によらず,中空パイプを伝搬するガイド波の速度分散が得られ,その後,理論実験ともに研究が盛んに行われて きた6)−9)。それに比べると内部に流体を満たしたパイプを伝搬するガイド波の研究は少ない。1966 年と1971 年にKumar が内部に流体を満たした肉厚が薄い(シェル状の)パイプの軸対称モード10)および非軸対称モード11)の振動に対する理論 的研究を行った。また,1982 年と1983 年にFuller とFahy によっても内部に流体を満たしたシェル状のパイプを伝搬する ガイド波の理論的研究が行われている12),13)。一方,水を満たしたパイプを伝搬するガイド波については,1995 年にLafleur とShields によって理論および実験的な研究が行われている14)が,軸対称モードに限定されたものであった。1998 年に Pavlakovic が液体への漏えいを考慮した多層パイプを伝搬するガイド波の理論的な研究をした15)。さらに,2003 年と2010 年にPan 等とBaik 等によって水を満たしたパイプを伝搬するガイド波の軸対称モードに限定した理論および実験的な研究 が行われている16),17)。
 我々は,Gazis の手法5)を拡張し,全てのモードに対応した水を満たしたパイプを伝搬するガイド波の解析解を得て速 度分散を計算し,検証実験を行った4),18)。ガイド波はモードや周波数によって振動の分布が異なるため,その計算法も開 発し,有限要素法19)で検証した20)。また,中性子源のように微小な欠陥が広範囲に生じる場合21)は,減衰の形で劣化を評 価できると考え,パイプや流体に減衰がある場合の解析解も得た22)。本稿では減衰が無視できる条件下で,水を満たした パイプを伝搬するガイド波について解説する。

 

チャープ波パルス圧縮法の超音波計測への応用
    飯塚 幸理   JFE スチール(株)

Applications of Chirp Pulse Compression Technique on Ultrasonic Testing
JFE Steel Corporation Yukinori IIZUKA

キーワード 信号処理,パルス圧縮,チャープ波,超音波計測,SN 比



1. はじめに
 パルス圧縮法とは,時間方向に長いコード化されたパルス波を送信信号として用いるとともに,受信時の信号処理によっ てパルス幅を圧縮し,高いSN 比と高い時間分解能を同時に得る技術である。基本コンセプトは特許提案に記述があると され,1958 年に投稿された論文1)に理論が整理されている。その後,1960 年代にレーダ分野において発展した2),3)。パ ルス圧縮を行うためには,昔はSAW フィルタなどの遅延線が必要であり,広い比帯域幅が要求される超音波計測への適用 には工夫が必要だったが4),1990 年代にデジタル信号処理が容易にできるようになって以降,超音波分野への応用も進ん できた5)−7)。最近ではパソコンでもほぼリアルタイムでパルス圧縮処理が可能であり,ガイド波探傷や空気結合超音波法 の報告例8),9)がある。
 パルス圧縮法はノイズ環境の厳しい製鉄所内の計測に大いに有効な手法であり,筆者もチャープ波に着目して鉄鋼分野 での実用研究に以前から取り組み10)− 12),厚板13)や鋼管14)のオンライン探傷での実用化,電磁超音波計測15),16)への適 用などでその有用性を確認してきた。本解説記事ではチャープ波パルス圧縮法の原理について述べた後,いくつかの応用 例を紹介する。

 

レーザ超音波可視化技術の開発と欠陥検出への応用 −レーザ超音波スコープによる微細欠陥の検出−
    高坪 純治/王   波/劉  小軍   つくばテクノロジー(株)     鈴木 修一/王  暁東

Development of a Laser Ultrasonic Visualization Technology and Its Application to Nondestructive Inspection of Defects
Tsukuba Technology Co., Ltd. Junji TAKATSUBO, Bo WANG, Xiaojun LIU
Shuichi SUZUKI and Xiao-Dong WANG

キーワード 非破壊検査,超音波探傷,レーザ,可視化,欠陥,非接触



1. はじめに
 電子部品や自動車部品に内在する欠陥形状の許容大きさが年々微小化の傾向を示しているが,従来の非破壊検査装置で は小型部品に内在する微細な欠陥をその場で効率的に検査することは容易でなく,部品の信頼性保証,品質向上を図る上 で大きな課題となっている。また,パルスエコー超音波探傷法に代表される現行の検査法は次のような課題を抱えている。
1)曲面部や段差部,狭あい部,溶接部など,複雑形状部の検査が難しい。
2)検査に時間がかかる。
3)測定された信号波形や静止画像から欠陥を判定するのに専門性を要する。
 我々は,経済産業省の支援を受けながら,上記課題を解決するためのレーザ超音波可視化検査技術の開発に取り組んでいる。 レーザ超音波可視化技術は,検査体表面をレーザ走査して超音波伝搬映像を計測する技術1)−4)であり,レーザスポット径サブ mm,パルス幅数ns のパルスレーザを使用することで,超音波受信の時空間分解能を上げることができるので,欠陥検出分解 能を向上させることができる。また,ガルバノミラを利用した高速走査が可能であることから,複雑形状物体の検査を迅速に行 うことができる。さらに,その場で超音波の動画映像を観察できるので,検査を専門としない人でも欠陥を容易に検出できる。 本稿では,当該技術の原理,優位性,応用例について報告する。

 

論文

拡散接合を用いた複雑形状模擬きず製作技術の開発
   遊佐 訓孝/王   晶/橋爪 秀利

Development of a Method to Fabricate a Simulated Flaw with a Complicated
Boundary Profile for Non-destructive Testing and Evaluations

Noritaka YUSA, Jing WANG and Hidetoshi HASHIZUME


Abstract


This study demonstrates that an artificial flaw that has an arbitrary boundary profile and the response to non-destructive testing similar to a natural crack can be fabricated by bonding surfaces with artificial grooves using diffusion bonding. Artificial flaws with a small openings and widely spread boundary profiles inside can be realized by bonding Type 316L stainless steel blocks with artificial grooves. The artificial flaw is designed so that its surfaces have a 20% physical contact. The conditions for bonding are based on the results of preliminary experiments. Validations are carried out using two electromagnetic non-destructive testing methods: direct current potential drop and eddy current tests, whose results are well reproduced by finite element simulations. Subsequent destructive testing confirms that the actual profile of the artificial flaw agrees well with the designed one.

Keyword Electromagnetic non-destructive evaluation, Eddy current testing, Direct current potential drop testing, Skin depth,
Depth of penetration, Finite element simulation



1. 緒言
 一般的に非破壊検査に関する各種研究が実務的観点から共通して有する課題として,妥当性検証などに用いられる模擬 きずが,実機にて対象とすべききずと必ずしも同一の非破壊検査信号を与えるものではないということが挙げられる。そ の一例として挙げられるのが各種構造物に発生する割れであり,通常非破壊検査技術の研究開発において模擬割れとして 用いられることの多い人工スリットは,その長さ,深さが同程度であったとしても,実際の割れと比べると信号が明瞭で あることが多い。すなわち,人工スリットを用いた検証においては,時として実際よりも大きな信号対ノイズ比が得られ, よって危険側からの評価につながりもしてしまうことが知られている。これは特に複雑な3 次元的構造を有する応力腐食 割れについて問題視されている。
 人工スリットと各種構造物に実際に発生する割れ(以下実きずと呼ぶ)の非破壊検査信号の差異が何に起因するのかにつ いては,現状十分な議論が行えていない。超音波の観点からは破面の機械的な接触及び3 次元的微細構造,そしてきず開口 の度合いに依存するとされており,導入したきずの機械的圧縮を行うことで,実きずの信号を模擬できるとの報告もなされて いる1)。また,固相接合により材料内部に幅の狭い空隙を設けることで,実きず模擬試験体を製作するということも提唱され ている2)。しかしながら,きずの開口の影響は用いる非破壊検査手法に大きく依存するものである3)。例えば,電磁現象に基 づく非破壊検査技術は,超音波に基づく非破壊検査技術と並び広く実用化されているものであるが,きず開口の度合いが探傷 信号に与える影響は大きくはないことが指摘されている4),5)。そのため,前述のきず圧縮などにより開口の度合いを小とする ことでの実きず信号の模擬は困難である。
 このような課題を解決するために,著者らは拡散接合により材料内部に材料物性値の不連続部位を導入することで,電磁 非破壊検査用模擬きずを製作する技術を提唱し,その妥当性を主として渦電流探傷法の観点から行ってきた6)−8)。当該技 術が材料内部に導入する不連続性の空間的スケールは百μm程度であり,結晶粒のサイズより小と見なすべきである実きずの 不連続性の空間的スケールの度合いと比べると明らかに大である。しかしながら,数百μm という空間的スケールは一般的な 電磁非破壊検査手法が有する空間分解能と比べると小であることから,実きず相当の非破壊検査信号を再現する,すなわち導 電性を有すると見なされるきずを実現することが可能となる。これまでの検討の結果,人為的に凹凸を施した面を接合するこ とで導電性を有するきず領域を材料内部に設けることができること6),またその凹凸の度合いによりきずの導電性を定量的に 制御することが可能であることを確認してきた7)。しかしながら,検討はこれまで単純矩形形状のきずにとどまっており,実 環境において発生しうる,より複雑な形状のきずについては,検討ができていない。複雑な形状のきずの製作が現状困難であ る要因は接合の際の材料の変形に起因するところが大きく,今後に向けて克服すべき課題となっている8)。
 本研究は以上のような背景に基づき実施されたものであり,拡散接合を用いた模擬きず製作技術の高度化及びさらなる検 証を主眼としたものである。より具体的には,まず,接合時の接合条件についてより詳細な検討を行い,被検査体の変形 の度合いが可能な限り小である条件を見出す。続いて,得られた知見に基づいて模擬きず試験体の製作を行うが,その際 は実プラントでの発生事例9)を鑑みた,より複雑な輪郭形状を有する模擬きずの製作を試みる。検証は代表的な電磁非破 壊検査技術である渦電流探傷法及び直流電位差法の観点から行い,両手法により得られた模擬きずからの探傷信号を有限 要素法を用いて分析することで,妥当性の評価を行う。

 

 

 

SUS304 鋼に対する散逸エネルギー評価による疲労限度予測法の測定条件に関する検討
   赤井 淳嗣/塩澤 大輝/阪上 隆英

Investigation of Appropriate Measurement Conditions for Fatigue Limit Estimation
Based on Dissipated Energy Evaluation for JIS 304 Stainless Steel

Atsushi AKAI, Daiki SHIOZAWA and Takahide SAKAGAMI


Abstract


The fatigue limit estimation method based on energy dissipation measured by infrared thermography has been introduced in various industries in recent years because of its time and cost effectiveness. In this method, the temperature change due to irreversible energy dissipation during one loading cycle is measured for different levels of applied stress amplitude. The obtained relationship between temperature change and stress amplitude shows a significant inflection at a certain stress level where temperature change due to energy dissipation shows a steep increase. It is known that this stress level coincides with the fatigue limit. In this study, the measurement conditions for appropriate fatigue limit determination based on the energy dissipation are discussed experimentally in conjunction with: (i) the required number of loading cycles in each stress level, (ii) the appropriate number of loading cycles, (iii) the influence of loading history and fatigue damage accumulation, and (iv) the influence of loading frequency.

Keyword Fatigue limit, Dissipated energy, Measurement condition, Infrared thermography, JIS 304 stainless steel



1. 緒言
 近年の目覚ましい技術の進歩により機器の小型化および軽量化が進みこれまで以上に厳しい環境下において使用される ことが多くなっている。その中で機械・構造物の破壊原因の60 〜70%が金属疲労であると言われており1), 疲労破壊を考 慮した疲労設計がますます必要となる。疲労設計においては使用する材料の疲労限度をもとにした疲労強度評価が重要と なる。しかしながら,疲労限度を精度良く評価するためには,長時間にわたる試験が必要となるなど様々な問題点がある。 その一方で,昨今の製品のモデルチェンジ周期の短縮化により, 効率良く疲労設計を行う必要がある。このような背景か ら近年,赤外線サーモグラフィを用いた散逸エネルギーに起因する温度上昇評価による疲労限度予測法(本論文の以下の 部分では疲労限度予測法という略称を用いる)が提案された2),3)。この手法では, 繰返し負荷を受ける金属材料に生じる 微小な温度変化を赤外線サーモグラフィにより測定し,疲労限度だけでなく疲労破壊箇所を簡易的に予測するものである。本 手法と従来の疲労試験を併用することで効率良く疲労設計を行うことができることから様々な分野で注目が高まっている4)− 7)。しかしながらその予測根拠については未だに明らかにされておらず課題も多い3)。散逸エネルギー評価による疲労限 度予測法の正確性を確保するためには,散逸エネルギーの測定条件に関する基礎事項について整理して測定条件を確立し ておく必要がある。これまでの測定条件に関する先行研究として,入江8),Ly ら9)および早房ら10)は,実験および数値 シミュレーションを通して散逸エネルギーの適切な測定時期について検討している。そのためいずれの場合も散逸エネル ギーを測定する時期に関する検討がほとんどであり,その他の測定条件に関して系統的に整理された研究は見当たらない。
 そこで本論文では耐熱性および耐食性に優れており,一般構造物から原子力関連部品まで幅広い用途で使用されている オーステナイト系ステンレス鋼SUS304 を対象に,測定・評価パラメータを変化させて本疲労限度予測法を適用した。そ の際に(i)応力振幅を階段状に増加させる際の負荷繰返し数が散逸エネルギーに及ぼす影響(負荷繰返し数の影響)(ii) 各応力振幅に対して散逸エネルギー測定を行う時期(測定時期)(iii)負荷履歴やこれにより材料に蓄積される疲労損傷が の4 つの項目について検討した結果を述べる。

 

 

 

 

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