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機関誌

2009年度バックナンバー3月

2009年3月1日更新

巻頭言

「最近の磁気を用いた試験及び評価方法」特集号刊行にあたって  橋本 光男

 百年に一度と言われる大恐慌の嵐が吹き荒れていて,名だたる企業の赤字決算やリストラという話題が連日のようにニュースになっています。アメリカのリーマ ン・ショックに端を発した波はたちまち世界中を駆け巡り世界中を恐慌に陥れました。世界中がいつの間にかグローバル化されたことを改めて痛感させられまし た。この不況が克服されるときには,新たな世界秩序が形成されることになり,企業もそれに向かってこれからが最も実力を試されることになります。
 表面探傷に関しても,規格のグローバル化が進み,ISOのJIS化が取り入れられています。タイトルの磁気を用いた試験に関しても,従来の試験法も併用 した形ですが,磁気探傷試験のISOに準拠した改訂がなされました。渦電流探傷試験も近々ISOに準拠したJIS化の検討に入ります。非破壊検査は従来, 経験的な手法の積み重ねで発展してきたところもあります。しかし規格の国際化を考えると,物理的に検証できる内容でなければなりません。従って,これまで 使用してきた検査条件等についても物理的な根拠を明確にする必要があります。ISO準拠において,的確な用語を用いることの重要性も痛感します。現在用語 のJISの改定を行っています。改訂作業はほぼ終わりましたが,それぞれの試験に用いられる用語が必ずしも統一されていなかったので,それをまとめるのに 主査は苦労されていました。このとき重要なのはこれまでどう使われてきたかではなく,これからどうするべきかです。
 今回の特集は,表面探傷シンポジウムにおいて発表された中から磁気を用いた試験に関連する論文を集めました。表面シンポジウムは年々盛況で,分科会以外 の方も多く参加しています。これは国内のインフラもほぼ普及し,経年劣化の症状が広い現場で現れてきていることにもよります。発表でもこれまでには考えら れなかった領域に非破壊検査の適用の紹介がなされています。ここで特集した磁粉探傷試験や材料試験は従来からある試験方法の応用です。しかし,その現象を 物理的に理解し,検査手法を検証することによって新たな実用性が生じます。電磁気は基本的にマクスウェルの方程式に集約されます。シンプルで美しい方程式 です。この世界は理路整然としていて,磁気的な非線形性などはあるものの,物理的に説明できます。しかし,電磁気の世界は磁石の吸引力などを除くと,目に 見えないためか,それらの現象を理解しにくいものとしています。そのために,他の非破壊検査手法に比べ広く普及しない原因にもなっているのも事実です。近 年では有限要素法による数値解析が実用的になり,現象が理解し易くなってきています。この特集では,物理的に現象を理解することにより新たな応用例を紹介 しています。これからも電磁現象の理解を深めることによる検査の高度化と広い普及がなされることを期待しています。

 

 

解説 最近の磁気を用いた試験及び評価方法

非逓倍励磁による新しい磁化方法  堀  充孝/永田 太祐/バンズラグチ バトサイハン  日本電磁測器(株) 技術開発部

The New Magnetization Method by Non-Multiply Magnetization
Michitaka HORI,Daisuke NAGATA and Batsaikhan BANZRAGCH
Nihon Denji Sokki CO., LTD. Technical Development Dept.

キーワード 磁粉探傷,表面欠陥,多方向磁化,非逓倍,周波数変調,インバータ



1. まえがき
 近年,被検査物の高精度・高性能及び小型化に伴い,検査における被検査物との非接触化,表面傷の欠陥検出能力の向上化が要求されている。これら要求に対 し磁性材の被検査物については,非接触に磁粉探傷を行うコイル磁化法が採用される傾向にある。なおコイル磁化法において磁化電流を供給する電源として電力 半導体素子の高性能・低価格化及びインバータ技術の進歩により,従来の商用周波数を用いたサイリスタ位相制御法のみならず,任意に磁化電流の周波数を変更 できるようになった。この結果,従来の磁粉探傷法では検出が困難であった微細な多方向表面欠陥を非逓倍で高い周波数を用いたコイル磁化方式を採用すること により非接触での検出を可能にした。磁化電流の周波数の差異による磁粉探傷の検出性能の比較及び多方向磁化への実用性について報告する。

 

 

 

高クロム鋳鉄の残留オーステナイト含有量の電磁非破壊検査法
   後藤 雄治 大分大学   羽田野智之 日本工業検査(株)
   笹栗 信也 久留米工業高等専門学校   高橋 則雄 岡山大学

Electromagnetic Non-destructive Inspection Method of Retained Austenite
in High Chromium Cast Iron
Yuji GOTOH Oita University,Tomoyuki HATANO Japan Industrial Testing Co., Ltd.
Nobuya SASAGURI Kurume National College of Technology and Norio TAKAHASHI Okayama University

キーワード 電磁非破壊検査,高クロム鋳鉄,オーステナイト含有量,三次元交流非線形渦電流解析



1. はじめに
 高クロム鋳鉄は,鉄鋼熱間圧延ロールや鉱物粉砕用ミルのボール,ライナーなどの耐摩耗部材として広く用いられている。通常本鋳鉄を実機に使用する際に は,焼入れ・焼戻しなどの熱処理が施される。高クロム鋳鉄のように合金元素を多量に含有する鋳鉄や鋼では,焼入れ処理時に多量の残留オーステナイトが生じ る場合がある1)。一般に,鋳鉄内の残留オーステナイト量(Vγ)が多いほど,その鋳鉄の硬度が低下するとともに,残留オーステナイトが存在する状態で使 用されると,使用中に残留オーステナイトがマルテンサイトに変態し,部材の破壊につながることもある。そこで,鋳鉄内に含有されている残留オーステナイト 量を把握しておくことは極めて重要である2)。現在,鋳鉄内のVγの測定はX線回折による場合が一般的であるが,これは鋳鉄をある大きさに切り出し,表面 研磨を行う必要があるため,全数検査や測定対象物が大きい場合の全体検査には適用が困難である。また測定に多少の時間を有する問題もある。そのため,鋳鉄 内のVγを短時間で,かつ簡便に測定が行える検査手法の需要が高まっている。
 ここでは電磁現象を利用した検査手法を示す。鋳鉄は,オーステナイトが含有されると,マクロ的な透磁率や導電率が変化する3)ため電磁気特性の差を検出 することにより,鋳鉄内のVγの測定が可能となる。ここでは,鋳鉄内のVγが異なる試験片を作製し,磁気特性と電気特性の変化を定量的に評価した。さら に,Vγが異なる鋳鉄を,その電磁気特性の差異に基づいて識別するための電磁非破壊検査に用いる電磁気センサ4)を開発するため,三次元交流非線形磁界解 析を行った。

 

 

ECT方式による新ロープテスターの開発
    田代 晋久/脇若 弘之 信州大学   平間  豊 平間非破壊技術士事務所  長尾 明芳 電子計測工業

Development of a New Rope Tester Based on Eddy Current Testing Method
Kunihisa TASHIRO,Hiroyuki WAKIWAKA Shinshu University
Yutaka HIRAMA Non-Destructive Inspection Consulting Engineer
and Akiyoshi NAGAO Electronic Measuring Industry Co., Ltd.

キーワード エレベータ,ワイヤロープ,ECT,ロープテスター



1. はじめに
 21世紀に入り,高層ビルの建設ラッシュとともに,大容量・超高速エレベータが次々に開発されている1)−3)。たとえば,台北市内に高さ508mを誇 る台北101では,地上から89階に設けられた展望台まで僅か39秒で到達できるエレベータがある2)。その速度は時速60km(1010 m/min)にもおよび,自動車にも匹敵する。また,飛行機と同様に乗客は急峻な気圧変化を受けるため,耳鳴りを緩和するため気圧制御システムを搭載して いる。このようにエレベータは我々の生活に密着した大量輸送装置であることを認識すると共に,その安全性について十分議論する必要がある。
 エレベータの安全確保には,エレベータのかごを安全に制動するブレーキシステム,振動・騒音低減対策(ガードレール,ローラガイド,アクティブ制振装 置,整風カプセル),および地震対応システム4)など様々な検討がなされている。こうした安全確保の中でも,かごを昇降させるワイヤロープの破損・断線は 乗客の生命に直結する問題である。新設されるエレベータだけでなく,これまでに設置されたエレベータの寿命を見極める最重要課題の一つである。
 人身事故にも発展するエレベータに関する事故が各地で報告されたことを受け,2007年にワイヤロープ緊急点検が行われた。国土交通省による2007年 8月31日の報告5)によると6社合計で43万台にも及ぶエレベータのうち,是正が必要とされたものは818台見つかった。日本で実際に起きた事故には, エレベータの8本のメインロープのうち1本について,ロープを構成するストランド8本のうち1本が破断,機械室にある滑車の側部保護カバーに接触し火花が 飛び,その火花が滑車の下部保護カバー上面に堆積した粉塵に引火し発煙した例や,昇降路内の異音に気づき点検を行った結果,全5本のメインロープのうち1 本のロープにストランド切れが発生していることが判明したというような例などが報告されている。海外においては,2008年10月25日,香港にてエレ ベータが14階の高さから落下する事故があり,同型機1000基の緊急点検が行われたという報告がある6)。しかし,このエレベータは同年1月に実施され た定期検査では合格していたとの報告があり,定期検査の段階でワイヤロープの断線だけではなく破損の兆候を指摘可能な非破壊検査技術が望まれていることを 示唆している。
 我々はこれまで漏洩磁束探傷法によるワイヤロープテスターを提案・試作し,ワイヤロープ検査に供してきた7)。ワイヤロープテスターにより,ロープ損傷 状態を定量的に判断し,ロープ交換予測管理が比較的容易に実施可能となった。しかし,従来の直流励磁法の場合,ロープの残留磁気や複数本のロープが接近し て並列にあるとき,検査に影響を与え,ロープの消磁後に検査を行う必要があった。また,励磁コイルに使用する磁性体を用いたヨークにより,センサ部の着脱 や,センサの走査速度の違いによりロープが着磁され,測定に影響を与えていた8)。今回は,現在のワイヤロープの検査基準を述べ,励磁・検出部に磁性材料 を用いない差動構造を有するコイルを用いた交流励磁法によるECT方式ロープテスターの検出原理・実験結果を示し,その有用性を紹介する。

 

論文

三相交流を用いた回転磁界型磁粉探傷試験における磁束密度分布の評価
   福岡 克弘/橋本 光男/赤松 里志/及川 芳朗/吉見 康司

Evaluation of Magnetic Flux Density Distribution in Rotating Field Type
Magnetic-Particle Testing Using Three-Phase AC

Katsuhiro FUKUOKA*, Mitsuo HASHIMOTO**, Satoshi AKAMATSU***
Yoshiro OIKAWA*** and Koji YOSHIMI**


Abstract


In magnetic-particle testing, the maximum leakage flux from a flaw is obtained when the direction of the magnetic flux is normal to the longitudinal direction of the flaw. Since we usually cannot predict the direction of the flaw to be detected, it is necessary to perform the testing at least two times by changing the direction of magnetization. In a rotating field type magnetizer using a three-phase alternating current (AC), any directional flaw can be detected by a single testing. However, until now, the details of the rotating magnetic flux density in a specimen and its change with time have not been understood. In this research, the distributions of the rotating magnetic flux density were evaluated by measuring this density in three directions using Hall elements and by numerical analysis. The distributions of the magnetic flux density around the flaw were also evaluated by numerical analysis. The distribution of the rotating magnetic flux density near the central part of the magnetizer was made clear, and it was confirmed that the distribution became more uniform by equalizing the impedance of each coil of the magnetizer.

Keyword Magnetic-particle testing, Three-phase AC, Rotating magnetic flux density,
Flaw detection,Leakage flux density



1. 緒言
 磁粉探傷試験では,き裂に対して直角方向に磁束を流す場合に,き裂部分での漏洩磁束が大きくなり,磁粉模様が明瞭に現れる。極間法を用いた磁粉探傷試験 においては,き裂に対して直角に磁束を流すために,磁化器の方向を変えて複数回の探傷試験を実施することが行われている1)。しかし,磁化器の方向を変え る角度が適切でない場合は,微細なき裂を検出できない可能性もある。
 これを解消する方法として,回転磁界を用いた磁粉探傷試験が考案されている2)−4)。これによって,磁化器の方向を変えることなく,一度の探傷試験で 全ての方向の微細き裂の検出が可能となり,効率的でかつき裂の見落としの少ない検査が実現できる。回転磁界を発生させる方法として,三相交流を利用した回 転磁界型磁粉探傷試験がある5)。この回転磁界型磁粉探傷試験においては,3極のコイルに位相が120°異なる三相交流電流を印加し,三つの磁極の内側領 域に回転磁界を発生させる。そこで,磁化器の方向を変えることなく全ての方向のき裂を精度よく探傷するためには,三つの磁極の内側領域において広範囲に均 一な回転磁界分布を得ることが重要となる。しかし,実際に強磁性体にどの様な回転磁界が印加され,その回転磁界が時間経過と共にどのように分布するかと いった評価は十分になされていない。
 本研究では,強磁性体上の3方向成分の磁束密度分布をホール素子によって計測し,三つの磁極の内側領域における回転磁束密度分布を評価した。さらに,有 限要素法を用いた数値解析を行い,鋼材表層及び内部における回転磁束密度分布の時間変化を評価した。また,強磁性鋼材にき裂を設けた数値解析モデルを作製 し,き裂周辺部における磁束密度分布,及び漏洩磁束密度分布について評価した。

 

 

 

 

資料

学術活動活性化へ向けて―論文を増やすために―  川嶋紘一郎 (有)超音波材料診断研究所

An Idea to Promote Academic Activity −For the Publishing of More Original Papers−
Koichiro KAWASHIMA Ultrasonic Materials Diagnosis Lab.

キーワード 学術活動,論文,論文校閲



1. 社会動向と非破壊評価・検査における技術革新の必要性
 我が国は大量生産・大量消費の高度成長期を経て人口減少時代になり,「安心・安全」をキーワードとする生活の質が求められる時代になってきた。一方,国 内経済規模の飽和,地球規模での天然資源制約,CO2排出量の規制などにより,既設社会基盤構造物の有効利用が要求されるようになってきた。エネルギー関 連では,2003年に経済産業省原子力安全・保安院は,日本機械学会維持規格に基づき供用中原子力発電所圧力系設備に対し評価不要欠陥が存在しても継続運 転を認める体制を導入し,き裂状欠陥の高精度寸法評価が要求されるようになった。これに対応し,NDIS「超音波探傷試験システムの性能実証における技術 者の資格及び認証」に基づき,従来規格に規定されていない装置・方法を用いても従来技術以上のき裂検出・評価性能が実証されればその使用が可能となった。 さらに定期点検間隔が13月から24月に延長されると,従来の定期点検に加えて,常時モニタリングあるいはスクリーニング検査技術も必要となるであろう。
 日本の基幹産業である自動車産業界においてもより高品質で耐久性に優れた車の製造を目指して,2008年7月に日本自動車技術会は機関誌「自動車技術」 において「超音波の世界」と題する特集を刊行し,超音波非破壊検査に関する解説も数編掲載した。また,最近自動車産業界から本会会員となる方も増加 し,2008年11月の中部支部研究発表会では参加者の約半数が自動車製造に関連する企業からであった。このように自動車産業界においても非破壊検査・評 価への期待が高まりつつある。しかし,自動車のものづくりではZD(ゼロディフェクト;無欠陥)あるいは6σオーダーの信頼性が要求され,検出対象欠陥は 大型構造物中のそれより1〜2桁小さいので,従来技術と別の顕微鏡的非破壊評価・検査法が必要となる。
 隣国韓国では2005年3月に「非破壊検査技術の振興及び管理に関する法律」が制定され,韓国政府科学技術庁長官(大臣)が非破壊検査技術振興及び研究 開発を促進するため5年毎に非破壊検査技術振興計画を策定し,年度別の重点施行課題を選定し,それを推進することを明文化した。振興計画の中には,非破壊 検査技術の振興,その装置開発,専門家の育成,研究機関・団体の育成,国際協力などの事項が含まれており,初年度(2008年)には日本円で数億円に達す る開発予算が認められたとのことである1)。

 

 

 

 

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