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<<2001>>

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機関誌

2003年度バックナンバー巻頭言3月

2003年3月1日更新

巻頭言

「光学的全視野応力・ひずみ計測技術の最近の動向」刊行にあたって
   応力・ひずみ測定分科会主査 梅崎 栄作

我々の身の回りの日常品や機械・構造物等の製品に要求されることは,省エネや省資源タイプであり,環境に負荷をかけることなく,それらの機能を安全 に果たすことである。とくに,製品の強度的安全性は,人命にかかわるため,最優先されなければならない。その安全性の評価は,製品の設計段階はもちろん, 稼動段階においても実施する必要がある。
 製品の安全性の評価には,応力・ひずみ計測技術が重要な役割を果たしている。
 応力・ひずみ計測技術は,測定領域の大きさで分類して,局所測定と全視野測定に分けられる。局所測定法として,電気抵抗ひずみ測定法,圧電高分子ひずみ測定法,光ファイバひずみ測定法,X線応力測定法,中性子応力測定法,コースティックス法などがある。
 全視野測定として,光弾性法(光弾性皮膜法),熱弾性法,モアレ法(幾何モアレ法,モアレ干渉法),ホログラフィ法,デジタルホログラフィ法,スペックル干渉法,スペックル相関法,デジタル像相関法,格子法,応力塗料膜法などがある。
現在,産業界で主として用いられている応力・ひずみ計測技術は,局所測定である,原理が簡単であり取り扱いやすい,電気抵抗ひずみ測定法を利用するひずみ ゲージである。しかしながら,ひずみゲージによって,構造物全体のひずみを測定するには,多数のひずみゲージを必要とする。一方,全視野測定法は,局所測 定法に比べて,高速で分布測定が可能である。全視野測定法の中でも,光学的全視野測定法は,比較的波長の短い可視光や赤外線などの電磁波を利用しているた め,高精度な測定が可能になっている。
 したがって,製品の設計段階はもちろん,稼動段階における強度評価に必要な応 力・ひずみを測定するために,光学的全視野計測法が有力であるが,実際の現場ではあまり使われていない。その理由は,現場の技術者がそれらの方法の原理を 理解するのにかなりの努力が必要であることや,使いやすい装置が市販されていないことなどによる。
 そこで,本特集で は,製品の設計段階の強度評価はもちろん,稼動段階における強度評価への光学的全視野応力・ひずみ計測法の普及を目指して,それらの方法の中から,(1) 製品表面に格子パターンなどを投影するだけで製品の変形・形状が測定できるなどの特徴を持った「モアレ法・格子法による形状・変形計測」,(2)製品表面 にレーザーを照射するだけで,高速に変形・ひずみの測定が可能な「動的電子スペックル干渉法」,(3)奥行きの深い製品の形状や微小な変形測定が可能な 「デジタルホログラフィとその応用」,(4)製品表面の模様を利用して変形・ひずみ測定が可能な「デジタル画像相関法」について,その方面に造詣の深い方 々に解説していただいた。
 本特集号が,光学的全視野応力・ひずみ計測法の理解と普及につながれば幸いである。

*日本工業大学(345-8501 埼玉県南埼玉郡宮代町学園台4-1)機械工学科教授

 

解説 光学的全視野応力・ひずみ計測技術の最近の動向

モアレ法・格子法による形状・変形計測の最近の研究
  森本 吉春/藤垣 元治/米山  聡 和歌山大学

Recent Studies on Shape and Deformation Measurements by Moire Method and Grid Method
 Yoshiharu MORIMOTO, Motoharu FUJIGAKI and Satoru YONEYAMA Wakayama University
キーワード 形状計測,変形計測,モアレ干渉法,格子法



1. はじめに  モアレ法やスペックル干渉法などの光学的全視野計測法は高感度であること,非接触での計測が可能であること,高速化が可能であること,二次元の面データとして全視野での計測が可能であることなど多くの利点を有している1)−3)。これらの方法ではデータ数が非常に多いため,データ解析に画像処理が適用され自動化が図られている。さらに画像処理の特徴を利用した新しい解析方法も開発されている。著者らも,縞画像の解析を高精度あるいは高速に行ういくつかの方法を開発し,以前にその解説を報告した4),5)。本解説では,その後開発した著者らの新しい方法を中心にモアレ法・格子法の最近の研究について報告する。  モアレ法は,変形前後の2種類の格子の重ね合わせにより発生するモアレ縞を解析することにより,形状やひずみ分布を求める方法である。格子やモアレ縞の輝度分布を波とみなし,その波の位相を解析することにより格子やモアレ縞の位相を求めることができる6)−8)。位相解析は,縞中心線を解析していた方法に比べて格段に高精度な定量的解析が可能であり,その計算手順も簡単で高速な処理となる。  元の格子が見えなくてモアレ縞のみ観察される場合は,モアレ縞発生の際にキャリアパターンを入れるとモアレ縞を格子とみなすことができる。逆に,モアレ縞を発生させなくても,撮影した画像が格子を写している場合はその格子の位相を解析すれば,計算によりモアレ縞の位相を求めることができる。このようにモアレ法と格子法は同じ解析技術が使え,区別する必要はなくなってきた。これらの解析技術は,ホログラフィ干渉法やスペックル干渉法などの多くの縞画像解析にも適用が可能である。  本解説では,モアレ干渉法において二次元変位分布を同時に実時間で高分解能に求める位相解析法,新しい光学素子であるデジタルマイクロミラーデバイス(Digital Micro-mirror Device, DMD)を用いたモアレトポグラフィによる実時間形状・変形計測法,周波数変調格子投影を用いたダイナミックレンジの広い高速形状計測法,無限に長い移動物体の形状計測が実時間で可能なラインセンサを用いたモアレトポグラフィについて著者らの最近の成果を紹介する。

 

 

動的電子スペックル干渉法(DESPI)によるアルミ合金の塑性変形過程の観察とそのメゾ力学的解釈
   豊岡  了 埼玉大学大学院理工学研究科

Dynamic Observation of Plastic Deformation Process of Aluminum Alloy Samples by Dynamic ESPI
and its Interpretation by Physical Mesomechanics
Satoru TOYOOKA Graduate School of Science and Engineering, Sitama University
キーワード 電子スペックル干渉法,塑性変形,非破壊検査,メゾ力学,アルミ合金



1. はじめに  電子スペックル干渉法(Electronic Speckle Pattern Interferometry,以下ESPI)は,粗面の変形を2次元のスペックル相関縞として,光波長を基準とした高い精度で測定することができる。対象物体への前処理は一切不要で,サンプルの表面の面内変形や面外変形およびそれらの空間微分を光学系を工夫することによって独立に得ることができ1),位相解析法2)を適用することによって,高精度定量化と,2次元的なひずみ解析が可能といった特徴がある。市販装置もいくつか出ており,片手に収まるぐらいのセンサ部を測定部に固定するだけで,対象物そのものには非接触で計測できるものもある3)。このように,ESPIはすでに確立した技術として急速に普及しており,光センサーであることさえあまり意識せずに使うことができるデバイスと言える。しかし,市販装置を含めて,現在普及しているESPIは動的現象解析には難点がある。それは,最も一般的に用いられている定量化法である位相シフト法においては,測定したい形状変化に対して,変形前後でそれぞれ3フレーム以上のスペックル画像データを取得する必要があることから,その間物体の動きを光波長のレベルで厳密に静止させなければならない,という厳しい制限によるものである。 筆者らは,固体の塑性変形過程を理解するうえで,動的変形過程の解析が重要である,という観点から,ESPIを用いて,動的現象を継続的に観察し計測するための独自の技術を開発してきた。この方法を,動的ESPIという意味でDESPIと呼ぶことにする。位相解析法を含むDESPIの原理と実験については,筆者の解説4)を参照されたい。既報解説との重複を避ける意味と,筆者らの当初からの意図を明確に示すためにも,ここではDESPIそのものの方法論についての記述は最小限にとどめ,それによって観察された現象の詳細とその物理的解釈,非破壊検査法としての可能性などに重点をおいた解説を試みたい。  筆者らが,これまでにDESPIで観察しようとしてきた現象は「メゾ力学」なる新しい変形破壊理論に基づく塑性変形の時空間伝播過程である。従来の固体の変形理論は平衡状態を仮定した取り扱いであり,動的現象においても短い時間においては近似的に静止したときと同様な釣合い状態を仮定できるとしている。このような仮定を取り除くと,変形は材料を構成している要素間の力の相互作用を媒介として伝播すると考えなければならない。これは,力の場の相互作用を考えることになるから,電磁気学における場の伝播と類似の波動的伝播が生じることが期待できる。Paninらのメゾ力学5)においては,このような波動的伝播の基礎式を空間の対称性と最小作用の原理から純粋に理論的に導いている。メゾ力学理論によれば,塑性変形は波動伝播におけるエネルギー散逸過程と考えられる。波動的なパラメータから,き裂のような可視的欠陥が発生する以前の初期過程で劣化の推定ができないだろうか,ということが筆者らのもくろみである。

 

 

デジタルホログラフィによる形状・変形測定
    山口 一郎 群馬大学工学部電気電子工学科


Measurement of Surface Shape and Deformation by Digital Holography
Ichirou YAMAGUCHI Department of Electronic Engineering, Faculty of Engineering, Gunma University
キーワード 形状測定,ひずみ測定,光干渉測定,ホログラフィ,画像処理



1. はじめに ホログラフィは同じ光源から発した光を物体波と参照波に分け,それらの間の干渉縞をホログラムに写真記録し,それに光を当てたときの回折により物体波を再生する技術である。基本原理は 1948年にイギリスでD. Gaborにより,電子顕微鏡の収差補正のために提案され,1960年代にレーザーの利用により実用化した。その後ホログラフィは原理と実験装置の簡単さにより盛んに研究され,現在は3次元像のデスプレイ,光学素子,情報処理などに広く応用されている1)。計測や非破壊検査への応用でとくに重要なのがホログラフィ干渉法による形状や変形の測定である2)。それ以前は不可能であった粗面の干渉計測を実現させたためである。しかし実用においてホログラムの写真処理と干渉縞の定量解析の手間が大きな障害となった。このうちで写真処理の問題はホログラフィ干渉法と密接に関連するスペックル法において光電撮像を用いることにより解決された3)。しかしそこでは物体をCCD上に結像する必要があるので3次元物体に適用する場合には機械的な焦点調節が必要となる。また縞解析は画像の記録の後に行われるので時間を要する。  これらの問題を解決するのが,ホログラムを光電撮像し,再生を計算機で行うデジタルホログラフィである。そこでは干渉縞の記録と処理が一体化され,簡便な光学系で3次元物体を記録,再生することができる。しかも目で直接見ることのできない位相分布まで数値的に求められるので結果の解析が簡単になる。近年のデジタル画像技術の急速な進歩を背景としてデジタルホログラフィは現在その実用性を急速に高めている。ここではその基本原理と応用分野,そして最近の進歩を概説する。

 

 

ランダムパターンを用いた全視野ひずみ分布計測法
   加藤  章 中部大学工学部

Full Field Measurement of Strain Distributions Using Random Patterns
Akira KATO Chubu University
キーワード 光学的方法,ひずみ計測,画像処理,ランダムパターン,画像相関



1. まえがき  光学的に物体表面上のひずみ分布を計測する場合には変形前後の表面上の点の動きを検出するために標点を付ける必要があるが,標点として,規則的な格子を試験片表面に転写する方法と,ランダムパターンを用いる方法がある。規則格子を用いる方法では,参照格子との間で干渉縞を発生させ,干渉縞のパターンを解析することによりひずみ分布を求めるのが一般的であるが,ランダムパターンを用いる方法では,変形前後のパターンの間で干渉を起こさせる方法と,画像相関を用いて変形前後の画像の各点の変位を直接求める方法を用いる場合がある。試験片表面に規則的な格子を転写するのは比較的面倒な作業を伴うが,塗料あるいは微小粒子などを表面に吹き付ければ済むランダムパターンを用いる方法は,その作業の容易さから少し有利であろう。また,これらの方法で測定精度を調整したい場合には,測定したい変位の大きさに合わせてパターンの大きさを調節しなければならないが,表面に吹き付けるランダムパターンの個々の点のサイズを測定精度に合わせて細かく調整することは容易ではない。それに対して規則的な格子を用いる方法では,測定したい変位の大きさに合わせた線密度の格子を使用すればよいので,測定精度を調整することは比較的容易である。このように両者それぞれの利点を持っているので,使用目的に合わせて使い分けることが必要である。  画像相関を用いて変形を測定する方法では,変位を測定したい点ごとにその点を含む部分画像について変形前後の各画素の輝度の相関関数を計算するため,測定点数が多くなると,多量の計算を必要とすることになる。この方法を用いて全視野計測を行おうとすると,実用的な速度で計算を実行するためには,高性能なコンピュータが必要になる。しかしながら,コンピュータ用のCPUの性能はこの数年特に驚異的に向上しており,PC用のプロセッサのクロック周波数は3GHzを超えている。現在普及しているPCの原型であるIBM PCが最初に発売されてから20年の間に周波数は実に約千倍になっている。さらに最近新しい64bitのCPUも発表されて近い将来,普及の兆しを見せている。「半導体の集積度は18ヶ月で2倍になる」という,有名なムーアの法則は今でも成立しているようであり,今後しばらくはこのままのペースの性能向上が期待できるようである。  画像相関はステレオ画像を用いた三次元画像の構築などのリモートセンシングの分野や半導体検査などの外観検査の分野で古くから画像処理の技術として発達してきているものである。しかしながら,高精度の対応点探索を行うための画像相関のアルゴリズムはまだ完成されたものではなく,現在も新しい方法が提案されている。このような状況から考えて画像相関を用いた全視野ひずみ計測法はCPUの性能および画像処理アルゴリズムの進歩と合わせて進化していくものと考えられる。また,この方法を用いて精度の良い測定を行うためには高解像度の画像が必要であるが,近年高解像度のCCD撮像素子を用いたデジタルカメラが安価に手に入るようになって来ている。画像相関を用いた高精度の計測を行うためのシステムを手に入れることは非常に身近になってきており,この方法を用いて高精度の測定を行うための環境は整いつつあるようである。本解説では画像相関を用いた方法を中心にランダムパターンを用いた全視野ひずみ測定について最近の傾向を紹介する。

 

 

 

論文

光ファイバーAEモニタリングシステムを用いたラム波AEの音源位置標定
   松尾 卓摩/水谷 義弘/西野 秀郎/竹本 幹男


1Source Location of Lamb AEs Using Optical Fiber AE Monitoring Systems
Takuma MATSUO*,Yoshihiro MIZUTANI*,Hideo NISHINO** and Mikio TAKEMOTO*
Abstract

With the aim of identifying the source location of Lamb-wave AEs, the authors developed a new Mach-Zehnder type optical fiber AE system with high sensitivity. The system uses two types of optical fibers as AE sensors which are coupled by two 2×2 couplers and attached to a plate, allowing the diode laser to pass by one-way in two fibers. Two interference packets of lasers transmitted through two fibers were monitored by a photodiode. This system showed sensitivity 30 times higher than that of Michelson-type and detected weak Lamb A0 mode waves produced by lead breaking on the steel plate. Utilizing two different types of fibers coated by PMMA or PVC as sensors makes it possible to determine the source location of Lamb AEs when a wavelet transform is jointly used.



1. 緒言   圧電素子センサーを用いるAEモニタリングは,電磁波障害を受けやすいこと,ケーブルが重く長範囲のモニタリングでは設置が容易でないこと,AEセンサーの防爆認定が得にくいなどの問題がある。一方光ファイバーを用いてAEが検出できれば,電磁波障害が少なく,軽量であることから長範囲の測定が可能になる。低コストファイバーは半永久的に常設ができるので,長期間にわたって再現性の良い異常診断技術になるなどのメリットがある。光ファイバーは,これまで色々なセンサー1)−4)として用いられ,損傷モニタリングの研究にも応用されている5)−7)。しかし,例えば振動センサーとして用いた場合の感度と周波数特性は,弾性波(AE)を測定できるほど良くないのが現状である。スマート材料では,小径の光ファイバーを埋め込み,ファイバー切断を利用した損傷の検出等8)が試みられている。 X.liuら9)は,マイケルソン型光ファイバー干渉計を開発し,ケブラー繊維・エポキシ複合材料板の面外負荷による層間剥離のAE(以後,材料の損傷によるAEを1次AEと言う)を検出した。板中に埋込まれたベアー・ファイバー・センサーは,圧電素子をもつAE計測装置のトリガー信号として使用された。大きな層間剥離による1次AEは検出できたが,小さな剥離によるAEはノイズレベルであったと報告している。彼らは,シャープペンシルの芯の圧折による AE(外部力によるAEで,以後2次AEと言う)と剥離による1次AE振幅を比較しているが,大きな剥離による1次AE振幅は,芯圧折による2次AEのほぼ1/2程度であることや,圧電素子を用いるAE装置に比べて感度が悪いことを報告した。  筆者らも,1次AEを検出することも目的として,これまでいくつかのレーザー干渉計を試作してきた。はじめに作成した干渉計は,光学回路(空中伝播レーザー)を用いるヘテロダイン型マッハツェンダー干渉計で,これを光ファイバーモニタリングに応用しようとした9)。しかし,光学回路が複雑で高コストになること,感度や周波数帯域に問題があること,振動を嫌う光学回路(除振台)は現場装置としては問題があることなどから,このタイプの干渉計の開発をやめ,市販装置を組み合わせて安価な光ファイバーAEモニタリングシステムを開発することに切り替えた。    研究目的は,光ファイバーを用いて分散性のラム波AEを検出し,その音源位置を標定することである。すなわち,ほとんどの構造物ではAEはラム波として検出され,大きな振幅の低周波数成分(ゼロ次の非対称モード波,A0)を含んでいるので,光ファイバーでも検出できると考えられる。最終的に開発したシステムは,周波数特性の異なる2本の光ファイバーをセンサーとするホモダイン型マッハツェンダー干渉計で,最適化されていないため現在のところ1次AEを検出することには使用できないが,芯圧折による50kHz以下のA0モードラム波(2次AE)を検出できた。圧電センサーを用いる市販AEシステムに比べれば,性能的にはかなり劣るが,A0ラム波から音源位置標定が可能になった。

 

 

原稿受付:平成13年12月17日
 青山学院大学理工学部(東京都世田谷区千歳台6-16-1)Faculty of Science and Engineering, Aoyama Gakuin Univ.
 東北大学工学研究科(仙台市青葉区荒巻字青葉05)Faculty of Engineering, Tohoku Univ.

 

レールエンクローズアーク溶接部の信頼性向上に関する検討
   深田 康人/辰己 光正/設楽 英樹/坂下  積/山本 隆一/寺下 善弘/上山 且芳

Improvement in Reliability of Enclosed Arc Welds on Rails
asuto FUKADA*, Mitsumasa TATSUMI*, Hideki SHITARA*, Tsumoru SAKASHITA* Ryu-ichi YAMAMOTO*, Yoshihiro TERASHITA* and Katsuyoshi UEYAMA*
Abstract
In Japan, four different welding methods have been applied for rail welding. One is the “enclosed arc welding (EAW)” method. The application ratio of this method is approximately 10%, as it can be applied at an in-track site. However, the EAW requires special skills for welding. Therefore, the quality of weld largely depends on the operator’s skill, and discontinuities are often revealed by ultrasonic inspection. In this paper, new criteria are proposed to accurately evaluate the EAW through various tests are proposed in order to judge its soundness and reliability.
Key Words Rail welding, Enclosed arc welding, Fatigue strength, Ultrasonic inspection, Reliability,Evaluation criteria, Failure, Weld defect



1. 緒言  レールのエンクローズアーク溶接(以下,EAWと記す。)法は,レールを開先間隔17±3mmでI形に突合せ,被覆アーク溶接棒を用いレール底部および頭頂部は多層溶接するが,レール腹部から頭部にかけてはレール側面から水冷銅当金を当てて溶接部を囲み,上方から溶接棒を入れて,溶接途中ではスラグ除去を行わず,棒の取替え時のみアークを切る連続溶接方法である。レールの断面積はJIS 60kgレールで7744mm2(高さ:174mm,頭部幅:65mm,頭部高さ:40mm,底部幅:145mm)と大きく,溶接時間は約1時間である。レールのEAW法は,1950年代に欧州で実用化された歴史がある1)が,日本では,東海道新幹線建設に合わせて,日本独自の方法が開発された2)。   EAWは,フラッシュ溶接やガス圧接のように,レールが縮むことがなく,まくらぎに固定したレールを溶接できる等の利点から,ロングレール同士あるいはロングレールと分岐器の溶接法として欠くことのできない現場溶接法である。しかしながら,本法は手溶接であるため,溶接技量に依存して溶接欠陥が発生し,その存在位置,大きさあるいは種別によっては,列車通過により転動によるせん断および曲げ応力等が作用し,疲労き裂が進展して損傷に至る場合がある。  レールのEAW部は,溶接後の仕上がり検査あるいは敷設後のレール検査時の超音波探傷にて検査される。東海道新幹線の建設にEAWが採用されるにあたって,レール溶接部の非破壊検査方法が検討され,暫定的な超音波探傷検査法および判定基準が提案された3)。その後,1977年に「レール溶接部の非破壊検査要領(案)」が策定され4),現在に至っている。  一方,最近では,溶接後の仕上がり検査時に使用される超音波探傷器および探触子の性能が向上し,探傷技術レベルも高くなっていることから,EAW部におけるきずエコーの検出率はより高くなってきており,現行の合否判定基準で「不良」と判定される溶接部が増加する傾向にある。  そこで本検討は,EAW部における過去の損傷事例分析および溶接継手性能試験から,レールのEAW部の継手性能と超音波探傷結果の関係を明らかにするとともに,レールのEAW部の信頼性向上を図るために超音波探傷による評価の妥当性に関して検討を行った。

 

 

原稿受付:平成14年4月12日
 鉄道総合技術研究所(国分寺市光町2-8-38)Railway Technical Research Institute

 

ワイヤ状呼吸ピックアップを用いたドライバーのための心拍・呼吸の無拘束無侵襲計測
   田中 正吾/松原  篤

Unconstrained and Noninvasive Measurement of Heartbeat and Respiration of Drivers Using a Wire-type Respiration Pick-up
Shogo TANAKA* and Atsushi MATSUBARA*
Abstract
The authors previously developed an unconstrained and noninvasive measurement system for the respiration and heartbeat of drivers using a wire-type respiration pick-up. However, the measurement accuracy of the instantaneous heartbeat period was sometimes deteriorated by the second and third harmonic components of the respiration signal. Adding to this, the measured instantaneous respiration period sometimes became longer than the true value due to a low frequency bias caused by the body twist of the driver at an intersection. This paper proposes a more stable and accurate measurement system for heartbeat and respiration taking into account the two harmonic components and the low frequency bias, and shows the effectiveness of the system by experiments at an intersection. Results showed the large error rate sometimes observed for the instantaneous heartbeat period is 7.8% for the proposed method, whereas it was 22.5% for the previous one. Similarly, the large error rate sometimes observed for the instantaneous respiration period is 15.1% for the proposed method, whereas it was 40.0% for the previous one.
Key Words Heartbeat, Respiration, Unconstrained, Noninvasive, Wire-type respiration pick-up, Drivers



1. 緒言  高齢福祉社会を迎え,心拍及び呼吸モニターを無拘束に行うことは医療現場や在宅介護システムだけに限らず,日常生活の中でも重要な課題となっている。例えば,高齢者ドライバーが増えることから,自動車運転中のドライバーの心機能障害や呼吸機能障害による交通事故の急増が危惧されている。そのため,ドライバーの呼吸や心拍の自動モニタリング装置の開発が望まれている。  当然,この種のモニタリング装置は無拘束,無侵襲でなくてはならないが,呼吸や心拍の無拘束無侵襲計測システムの開発については,これまでいくつか報告されているものの,ほとんどがベッドでの睡眠時計測を対象としたものである1)−4)。  このようなことから,著者らは先に,ドライバーの生体活動モニタリングの一環として,ワイヤ状呼吸ピックアップ5)をシートベルトに取り付けたドライバーのための心拍及び呼吸の無拘束無侵襲計測システムを提案した6)。このシステムでは,自己相関関数を用いた平均心拍周期及び平均呼吸周期の計測だけでなく,心拍及び呼吸信号を(単一周波数をパラメータとする)ダイナミックモデルで表し,カルマンフィルタ及び最尤法を用いることにより,瞬時心拍周期や瞬時呼吸周期が安定に,かつ高精度にリアルタイム計測できる利点があった。  しかしながら,本システムにおける瞬時心拍周期計測では,システムに用いたバンドパスフィルタの出力に呼吸の第2,第3高調波成分が少なからず現れ,これの影響により,時折計測精度が劣化する傾向が見られた。また,瞬時呼吸周期計測では,車線変更時や交差点などでドライバーが時折体をひねることにより低周波数のバイアスが生じ,これの影響により計測精度がたまに劣化することがあった。  このようなことから,本論文では,これら外乱とも言える信号を考慮することにより,瞬時心拍周期及び瞬時呼吸周期の計測が前回のシステムより安定に,かつ高精度に行えるシステムを提案することにする。なお,本システムでは,ドライバーの心機能障害や呼吸機能障害を検知できるだけでなく,緊張度や興奮度といったより高機能的な情報も合わせて検知できる利点がある。

 

 

原稿受付:平成14年4月1日
 山口大学工学部(宇部市常盤台2-16-1)Faculty of Engineering, Yamaguchi University

 

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