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機関誌

2015年度バックナンバー6月

2015年6月1日更新

機関誌「非破壊検査」 バックナンバー 2015年6月度

目次

巻頭言

「インフラ健全性評価に資するAE など弾性波計測の最前線」  塩谷 智基

 我が国に限らず円熟した国家では,成長期に勢いで構築されたインフラ構造物をいかに適切に維持 管理していくかが喫緊の課題とされている。いわゆる建築構造物で繰り返されるスクラップ・アンド・ ビルドが土木構造物では成立しないことが改めて認識され,既存の重要構造物では大事に至る前に補 修補強し可能な限り延命化を図る方策が,また,新規重要構造物では初期の劣化や損傷を特定,定量 化し,ライフサイクルコストを加味した最適な補修・補強計画をたてるシナリオ策定が必要とされて いる。そのため,全てのインフラ構造部の健全性を知る必要がある,という風潮もあるが,実は,上 に掲げたように一般には「重要」と認識された構造物が主対象となる。つまり,何らかの不具合が生 じたときでも影響度が低いものについては,「放置」ということも十分あり得る対応であるが,本特集 号で対象としている健全性を評価すべきインフラ構造物では不具合が許容できない,容易に建て替え られない,例えば我が国の大動脈を構成しているインフラ構造物であるということを理解いただきた い。そこで重要土木構造物の健全性を評価しようとすれば,自ずと既存,新設に分けた対処が必要と なり,前掲の「大事に至る前」の損傷,「初期」損傷を全体的に,そして局所的にも捉えるNDT 手法 の構築が強く求められているというわけである。
 AE など弾性波は,検出周波数や励起周波数を操ることによって材料内部の調査対象領域および,そ の損傷規模が変えられるという特徴があり,まさに損傷規模が異なる劣化フェーズに応じた調査診断 手法として有望視されている。弾性波が有する様々なパラメータを分析することで,損傷や劣化に特 徴的な情報が提供できる,弾性波の透過や反射特性を詳細に分析することで内部の詳細も把握でき, 本分野で必要とされる情報が提供可能である。
 そこで,本特集号では,AE など弾性波による健全性評価指標,空洞・鉄筋など内部欠陥や損傷を 特定,可視化しようとする手法などを本分野で活躍されている第一線の研究者に先端研究成果も含め て解説いただいた。実用化には至っていない萌芽的な技術も積極的に盛り込んで,本分野のインフラ 健全性評価への適用性を示唆いただいた。本解説が読者の皆様のご研究,お仕事の一助となれれば深 甚である。最後に,末筆ながら本特集号に寄稿いただいた執筆者の皆様に深く感謝申し上げる次第で ある。

 

 

解説 インフラ健全性評価に資するAE など弾性波計測の最前線

弾性波周波数応答関数を利用したコンクリート部材の健全性評価
   渡辺  健   徳島大学   塩谷 智基   京都大学

Evaluation of Health Condition of Concrete using Frequency Response
of Elastic Wave
Tokushima University Takeshi WATANABE
Kyoto University Tomoki SHIOTANI

キーワード コンクリート,非破壊試験,健全性評価,周波数特性,Q 値



1. はじめに
 社会基盤を支えるコンクリート構造物の維持管理の重要性は,2012 年に中央自動車道で発生した笹子トンネル天井板落 下事故を一つの教訓として,社会的にも認識されるようになった。コンクリート構造物の維持管理においては,構造物を点 検し,その損傷度や健全性を把握することが,その後の対策を決める上で重要となる。建設系の代表的な学会の一つであ る土木学会では,コンクリート標準示方書「維持管理編」が2001 年に制定されている。構造物に損傷を与えずに調査可能 な非破壊試験への期待は大きく,本示方書においても「コンクリート内部の状況を把握する必要がある場合,あるいは劣 化機構の推定および劣化程度の判定を行うためにさらに詳細な情報が必要である場合等には,非破壊試験機器を用いる方 法で調査を実施する」とされている1)。
 このように目視点検では定量化ができない劣化や損傷を効率的かつ精度よく把握できる手法の確立が求められている。 既往の研究として,コンクリート部材の損傷を表す指標として,弾性波速度や振幅の減衰勾配,周波数等が提案されてき た2)。代表的な指標の一つである弾性波速度は,弾性波の分散性により,用いる周波数帯によって速度が異なることが指 摘されている3)?5)。また,周波数スペクトルの形状は,弾性波の高周波成分の減衰のため,伝搬距離に応じて変わること が知られている6)。
 そこで,距離や周波数の影響を受けにくい弾性波周波数応答関数としてQ 値(Quality factor)を適用した内部劣化の損 傷の評価手法が提案されている7)。本解説では,このQ 値をコンクリート部材の健全性評価に適用するための推定方法お よびその適用事例について紹介する。

 

 

解析を援用した弾性波法によるコンクリートの内部欠陥探査手法
   鎌田 敏郎   大阪大学    内田 慎哉   立命館大学    宮田 弘和   西日本高速道路(株)

Analysis-Aided Elastic Wave Methods for Detection of Defects
in Concrete Structures
Osaka University Toshiro KAMADA
Ritsumeikan University Shinya UCHIDA
West Nippon Expressway Company Limited Hirokazu MIYATA

キーワード コンクリート,内部欠陥,あと施工アンカーボルト,弾性波法,弾性波動シミュレーション



1. はじめに
 コンクリート構造物の維持管理においては,構造物の状態を的確に把握し,現状を踏まえた上で劣化予測を行い,適切 な対策を講じることが重要である。構造物の現状把握のための点検では,コンクリートの品質,コンクリート内部のひび 割れの状況や空隙あるいは内部鉄筋の腐食の状態等,構造物表面からの目視では把握が困難なコンクリートの内部欠陥を, 非破壊で評価する手法の確立が求められている。コンクリートの非破壊評価手法のうち,弾性波を利用する方法(弾性波 法)は,コンクリート中での波の減衰が小さいため,特に実構造物での調査において活躍が期待されている。しかしなが ら,実際の現場においては,測定対象物の条件(形状・材質等)が様々であるため,非破壊評価結果と削孔等により調査した 実態とは必ずしも一致しないケースもあり,測定対象物ごとに試行錯誤で評価する場合が少なくない。
 このような背景から,著者らは,コンクリート構造物の内部欠陥を効率よく的確に評価するため,対象構造物での計測 を実施する前に弾性波動シミュレーションを行い,コンクリート中での弾性波の伝搬挙動を把握した上で,あらかじめ,対 象とする構造物および内部欠陥に応じた「評価に適した弾性波の入力や受信の条件(計測条件)を決定」,「評価パラメー タを選定」および「検出性能(適用範囲)」を把握した後に計測に移行する形の「解析を援用した弾性波法(図1 参照)」に 関する研究を進めている1),2)。
 そのような状況下で,平成24 年12 月に発生した中央自動車道笹子トンネル天井板の落下事故を受け,接着系あと施工 アンカーを対象とした検討に取り組んでいる。接着系あと施工アンカーは,図2 に示すように,母材コンクリートの削孔 部とアンカーボルトとの空隙に接着剤を充填しボルトをコンクリート中に固着させるものである。したがって孔内の接着 剤の充填状況が把握できれば,アンカーボルトの固着部の健全性を判断するための材料になり得ると考えられる。コンク リート構造物の点検に用いられる非破壊試験としては,通常,鋼球やハンマーなどの打撃により弾性波を入力し,コンク リート表面の振動をセンサにより受信する衝撃弾性波法を適用するのが一般的である。この方法は弾性波の入力を簡易に行え るメリットがある反面,入力する波のエネルギーを打撃ごとに一定にするのが難しいといったデメリットも有している。 そのため,評価対象によっては,非破壊で現状を的確に把握することが困難な場合がある。そこで,励磁コイルにより弾 性波を発生させる方法を用いて,解析を援用することで,定量的に非破壊でこれを的確に評価する手法の検討を行った。 具体的には,衝撃応答解析により,評価に適した「計測条件」および「評価指標」を決定し,さらに,あと施工アンカーを 模擬したコンクリート供試体に対して測定実験を行い,解析で得られた結果の妥当性を検証している3),4)。本稿ではこれ までの主な検討内容を紹介する。

 

AE 源を利用した速度分布同定手法「AE トモグラフィ」の開発
    小林 義和   日本大学    塩谷 智基   京都大学

Introduction of “AE Tomography” for Identifying Elastic Wave Velocity
Distribution with AE Events
Nihon University Yoshikazu KOBAYASHI
Kyoto University Tomoki SHIOTANI

キーワード 非破壊検査,健全性評価,アコースティック・エミッション,逆問題,波線追跡法,弾性波トモグラフィ,AE トモグラフィ



1. はじめに
 高度経済成長期に建設された社会資本の老朽化が進んでおり,その効率的な維持管理手法が検討されている。このような 維持管理手法を確立するためには,その構造物の状況を適切に評価する手法が必要となり,筆者らは,コンクリート構造物の 内部の状況を可視化する手法として,弾性波トモグラフィに関する研究を進めてきた1),2)。これにより,コンクリート構造物 の内部の健全性評価を可能としたが,弾性波の発振源が構造物の表面に限定されることからその適用範囲に制限があった。こ のため,このような制限を回避するために, 異なる技術として運用されてきたAE 試験と弾性波トモグラフィを組み合わせる ことによって,センサへのAE の到達時刻のみからAE 位置標定と弾性波速度分布を求める手法である,AE トモグラフィの 開発を行ってきた。本解説では,このAE トモグラフィの概要を紹介するとともに,数値解析による検証結果を交えることに よってAE トモグラフィの特徴について,議論することとする。

 

AE トモグラフィによるAE 源位置標定の精度向上
    桃木 昌平   飛島建設(株)    小林 義和   日本大学    塩谷 智基   京都大学

Improvement of AE Source Location by AE Tomography
TOBISHIMA Corpration Shohei MOMOKI
Nihon University Yoshikazu KOBAYASHI
Kyoto University Tomoki SHIOTANI

キーワード 健全性評価,インフラ構造物,アコースティック ・ エミッション,弾性波トモグラフィ,AE トモグラフィ



1. はじめに
 インフラ構造物の経年劣化対策として,現役を続ける多くのインフラ構造物の現状を把握する健全性評価手法の確立は 喫緊の課題である。著者らはこの課題に対し,交通荷重や振動による既存異常部(劣化による損傷等)の摩擦等による2 次AE を利用したインフラ構造物の安定性評価,および弾性波トモグラフィを用いた潜在異常部の可視化に取り組み,イ ンフラ構造物を広域的に評価可能なグローバル非破壊評価技術としてそれぞれ確立してきた1)。そして本研究では,AE 源 を用いたトモグラフィ(以降,AE トモグラフィ)を開発し,AE 計測のみで安定性評価のみならず対象内部の潜在異常部の 可視化をも可能にした。本稿ではAE トモグラフィの開発において構築されたアルゴリズムの有用性を,シミュレーショ ンおよび欠陥を模擬したコンクリート試験体による検証結果とともに解説する。

 

AE 法を援用したひび割れコンクリートの損傷度評価
    鈴木 哲也   新潟大学自然科学系

Use of Acoustic Emission for Damage Evaluation of Cracked Concrete
Faculty of Agriculture, Niigata University Tetsuya SUZUKI

キーワード コンクリート,ひび割れ損傷,破壊試験,非破壊検査,AE,X線 CT



1. はじめに
 コンクリートに代表される脆性材料では,損傷度評価に圧縮強度試験など力学特性が頻繁に用いられている。その際, 力学試験にはコンクリート・コアが主に用いられているが,長期供用下の既存施設において複数の試料を採取することは 現実的ではなく,非破壊検査手法の構築が不可欠である。既存施設の性能評価には,構造材料中に発達した損傷と力学特 性との関連を明確にすることで非破壊検査精度の向上が期待できる。
 筆者らは圧縮強度試験にAE(Acoustic Emission)計測を導入し,破壊の確率過程論と損傷力学によるコンクリート損傷 の定量評価法を提案している1),2)。既往研究では,凍害や甚大な地震動に伴う損傷蓄積が圧縮応力下のAE 発生挙動を 変質させることを明らかにしている。一連の試験研究において提案した評価パラメータである相対弾性係数は,非破壊的 に求めるJIS A 1127(2010)「共鳴振動によるコンクリートの動弾性係数,動せん断弾性係数及び動ポアソン比試験方法」3) に規定された相対動弾性係数と密接に関連していることを明らかにしている4)。これらのことから,破壊試験により求め られる力学特性をコンクリート中の弾性波伝搬特性から非破壊的に評価できる可能性が明らかになっている。  本稿では,コンクリート中に発達する損傷特性を概説した後に,ひび割れ損傷状況の異なるコンクリートを対象にAE 法による圧縮破壊過程の詳細評価結果を詳説する。それらを踏まえて,コンクリートの弾性波伝搬特性に基づく動弾性係 数評価とAE 指標との関係から実構造物での非破壊損傷度評価へのAE 法の応用事例を解説する。

 

鉄筋腐食を伴うRC はりの曲げ破壊時に生じるAE 特性に関する研究
    奥出 信博   (一財)東海技術センター    国枝  稔   名古屋大学(現在 岐阜大学)
    塩谷 智基   京都大学

Study on AE Properties of RC Beams with Rebar Corrosion during Flexural Failure
Tokai Technology Center Nobuhiro OKUDE
Nagoya University (Currently Gifu University) Minoru KUNIEDA
Kyoto University Tomoki SHIOTANI

キーワード AE(アコースティック・エミッション),RC,鉄筋腐食,曲げ載荷試験



1. はじめに
 コンクリート中の鉄筋の腐食が進行すると, 鉄筋とコンクリートとの一体性が損なわれ,構造物の耐荷性能に甚大な影 響を及ぼす。鉄筋が腐食する要因は様々であるが,塩害によるものが多く,海岸付近はもちろん,凍結防止剤が散布され る内陸部の道路橋等においても多くの損傷事例が報告されている。コンクリート中の鉄筋の腐食を推定するための既往の 非破壊試験としては,自然電位法や分極抵抗法などの電気化学的手法があり,前者は相対的な腐食の可能性の把握,後者 は腐食速度の推定にそれぞれ有効に活用されている。しかしながら,これらは一部材(鉄筋)の評価を主としており,複 合材料としての,あるいは構造物としての性能低下を直接的に評価するものではない。この評価を行うためには,少なく とも力学的要素を含めた手法が必要となるが,現状では,鉄筋腐食を伴うRC の破壊挙動そのものが十分に明らかとなっ ていない。これを明らかにすることは,多くの構造物が経年劣化を迎えた今日においては特に重要である。
 著者らは,鉄筋腐食に伴う損傷レベルの評価手段としてAE(アコースティック・エミッション)法に着目し,RC の曲げ 載荷試験中に得られたAE 信号を鉄筋腐食レベルのパラメータとして特徴付けることを試みた。RC の鉄筋腐食の評価に AE を適用しようとする試みは,すでに報告1)−3)されているが,鉄筋の腐食過程に着目したものがその多くを占める。本 解説で紹介するのは,劣化期を対象に,外部負荷を与えた“アクティブな条件下”によるものである。

 

AE 法によるPC 桁主ケーブル破断に伴う再定着箇所の同定
    大島 義信   国立研究開発法人 土木研究所(元 京都大学)
    塩谷 智基/河野 広隆   京都大学    桃木 昌平   飛島建設(株)

Identifying the Location of Cable Re-anchorage Associated with Cable Breakage
in PC Structures using Acoustic Emission
Public Works Research Institute (Former Kyoto University) Yoshinobu OSHIMA
Kyoto University Tomoki SHIOTANI and Hirotaka KAWANO
TOBISHIMA Corporation Shohei MOMOKI

キーワード コンクリート構造物,アコースティック・エミッション,PC 鋼より線,破断検知



1. はじめに
 ポストテンション方式のプレストレスコンクリート(以下PC)構造物では,コンクリート躯体内に設置した筒状のシー スにPC 鋼材を通し緊張力を与え,その反力を取ることで躯体に圧縮応力を導入する。圧縮力導入後,躯体と鋼材との一 体化や腐食防止のために,シース内にグラウトが注入されるが,近年グラウトの充填が十分に行われていない事例が確認 されており,対策が進められている1)。シース内にグラウト未充填箇所が存在すると,雨水や塩化物イオン等がシース内 に侵入する恐れがあり,その結果PC 鋼材が腐食,破断し,最終的に落橋という重大事故に繋がる可能性もある2)。現在 では,グラウトの性能も向上し,新設構造物に対する未充填の可能性は少なくなっている。しかし,これらの対策が講じ られる以前に建設されたPC 橋においては,依然として空隙の存在が懸念されている。そのため,PC 構造物を適切に維持 管理していくためには,グラウトの未充填箇所を把握するとともに,PC 鋼材破断の有無など,適切に構造物の現有性能を 評価していく必要がある。
 シース内グラウトは先流れやブリージングなどの影響で,定着部付近が未充填である可能性が高い。このような状況で PC 桁の主ケーブルが破断すると,グラウトが充填されている箇所でケーブルが再定着する。再定着が発生すると,充填 区間内ではプレストレスが損失せず,桁はある程度の耐力を有することが明らかとなっている3)。しかし,未定着区間で はプレストレスが損失し,その断面の耐力が大幅に低下する。すなわち,空隙部でPC 鋼材が破断した場合,再付着の位置 に応じて桁の耐力が大きく変化するため,グラウトが充填されている区間と空隙部との境界である再定着区間を検知する ことは極めて重要であると考えられる。また,実際の橋梁では,PC ケーブルが破断した場合でも,横桁などにより荷重の再分 配が生じ,全体としての変状が表れにくい。そのため,複数個所の破断が生じていても外観上の変化はほとんどなく,さ らに破断が進み限界に達した直後に突如として落橋する可能性を孕んでいる。
 一方,再定着区間では,材料分離によりグラウトの品質が低下した,脆弱なグラウト部が形成されていることが予想さ れる。このような脆弱なグラウト表面において,鋼材の解放による過大な変形が発生すると,グラウトに微細な破壊が生 じると考えられる。このような状況下で,再定着が生じているPC 桁に荷重が作用した場合,脆弱なグラウト破砕部から 微細な弾性波が発生する可能性がある(図1)。すなわち,グラウトとPC 鋼より線のずれによる微小な弾性波AE(Acoustic Emission)を検知することで,PC 桁主ケーブルのPC 鋼材の破断を間接的に検知できる可能性がある。
 筆者らは,ケーブル破断した9m 規模のPC 桁供試体に対する載荷試験において,再定着区間に発生するAE 計測を行っ ている4)。その結果,破断直後の再定着時にはより線に沿ってAE が発生すること,また載荷過程においてはグラウトと より線のずれによる特徴的なAE が発生し,周波数成分と発生位置に着目することにより,躯体から発生するAE と区別 できる可能性があることを見出している。しかし,既往の研究における載荷は高々数回であるが,実際の橋梁ではケーブ ル破断後も認知されず供用を続け,繰り返し荷重を受けたのちに調査が実施される可能性がある。そのため,繰り返し荷 重によるカイザー効果によって,定着部でのAE が消失する可能性がある。よって本研究では,PC ケーブル破断後に十分 な繰り返し載荷を与えた後のPC 桁において,定着部で発生するAE について評価を行った。

 

既設コンクリートと補修材料の付着界面破壊挙動におけるAE法の適用
    大野健太郎   首都大学東京大学院

Failure Process of Bond Surface between Existing Concrete
and Repairing Material by Acoustic Emission
Tokyo Metropolitan University Kentaro OHNO

キーワード コンクリート,AE 法,付着界面破壊,補修・補強,せん断付着強度,割裂付着強度



1. はじめに
 橋梁,トンネル,管路などの社会インフラの多くはコンクリート構造物であり,近年,これらの老朽化が社会的な課題 となっている。笹子トンネルの天井板崩落事故を契機として,社会インフラの老朽化問題に関心が集まり,2013 年を「社会 資本メンテナンス元年」と位置付け,社会インフラの維持管理・更新への総合的・横断的な取り組みが推進されている。
 ここで,橋梁の老朽化を例に挙げれば,橋長2 m 以上の約70 万橋のうち,2023 年には約43%,2033 年には67%が建設 後50 年を経過するとされており,老朽化の割合が加速度的に高くなるとされている。そのような背景の中,国土交通省で は2004 年に橋梁定期点検要領(案)1)を定め,供用後2 年以内に初回点検を実施し,その後は原則5 年以内の近接目視点 検が実施されている。また,2013 年の道路統計年報2)によれば,図1 に示すように,道路橋におけるコンクリート橋梁(鉄 筋コンクリート(RC)橋,プレストレストコンクリート(PC)橋)の占める割合は約6 割である。コンクリート橋を対象と して本要領に基づいた全国規模の点検データによると,主桁はPC,RC ともに65%以上で変状が確認されており,PC 主 桁では11%,RC 主桁では19%のものが速やかな補修等が必要とされている3)。
 コンクリートの劣化原因の一つに塩害が挙げられる。海岸環境下や融雪剤が散布される環境では,外来の塩化物イオン の浸透および拡散によりコンクリート内部の鉄筋が腐食し,その腐食膨張圧によってコンクリートにひび割れが生じる。 その後,表層部のコンクリート塊のはく落やコンクリート部材の耐力低下を引き起こす現象である。このような劣化が生 じたコンクリート構造物では,図2 に示すようにコンクリート中の塩化物イオン浸透深さまでをはつり出し,コンクリー トあるいはモルタル等で断面を修復する措置(断面修復工法)が実施される。ここで,せん断補強筋等の鋼材が腐食してい る場合では,せん断耐荷力が著しく低下することが懸念されるため,近年,高強度で耐食性に優れる炭素繊維格子筋(CFRP 格子筋)を配置し,吹付けモルタルで補修・補強することで,既設コンクリート構造物の機能回復・向上が図られている。 宇治ら4),5)は,CFRP 格子筋と吹付けモルタルを併用した補修・補強工法のRC 梁のせん断補強への適用性について検討 しており,本工法にて効果的な補修・補強効果を得るためには,既設コンクリートと吹付け材の付着強度が重要であるとされ ている。本稿では,既設コンクリートと補修材の界面における付着破壊挙動を把握するために実施したせん断試験および 割裂引張試験において,アコースティック・エミッション(AE)法を用いて検討した事例6),7)を紹介する。

 

論文

高チクソ性粘性流体を用いた疲労き裂進展の目視検出
   高橋一比古/田中 義久

Visual Detection of Fatigue Crack Growth Using Viscous Fluids
with High Thixotropy

Ichihiko TAKAHASHI and Yoshihisa TANAKA


Abstract


Viscous fluids with high thixotropy were applied to the surface of a notched steel plate specimen, and the effects of the fluids on visual detection of fatigue crack growth were examined by performing fatigue crack growth tests. Two kinds of silicone grease with different viscosities and a mixture of silicone grease and silicone oil were used as the viscous fluids. When the fluids with relatively low viscosity were applied, obvious “caves” in them were formed along the fatigue crack paths. The lengths of these fluid caves were also well correlated with the actual crack lengths. These observations facilitated the visual crack detection. The apparent viscosity of the fluids was also measured in order to estimate their thixotropy.

Keyword Fatigue crack, Key Words Crack growth, Visual detection, Viscous fluid, Thixotropy



1. 緒言
 橋梁,船舶,車両,工作機械等,各種の金属製構造物における疲労き裂の検出は,依然として現場における目視検査に 負うところが大きいが,溶接継手部や構造取り合い部等の複雑形状部分に生じたき裂を,比較的初期の段階において目視 により検出することは容易でない。
 著者らはこれまでに,現場におけるき裂の目視検出を効果的に支援するツールの一つとして,染料オイルを内包するマ イクロカプセルを利用したき裂検出塗料を取り上げ,溶接部等に生じた初期き裂の目視検出にも有効であることを示して きた1)?3)。き裂検出塗料の検出性能に関しては,他の国内研究機関においても数々の実験や評価が行われ,様々な視点か らの貴重な知見が報告されている4),5)。
 しかしながら,き裂検出塗料は特殊かつ比較的高価な製品である上,施工するには通常の塗料と同様の表面前処理が必要 であり,既存塗膜上への重ね塗りは基本的に困難である等の理由から,実機への適用は未だ限定的なものとなっている3)。
 そこで本研究では,き裂検出塗料よりも簡単に入手でき,実機への適用が容易な高チクソ性粘性流体を用いたき裂検出 方法を考案し,平板試験片を用いた疲労き裂進展試験により基本的な有効性について検証したので,以下に報告する。

 

 

 

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