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機関誌

2007年度バックナンバー巻頭言7月

2007年7月1日更新

巻頭言

「非線形超音波法による非破壊検査・評価」特集号刊行にあたって

 

超音波による非破壊検査・評価技術が直面する最近の課題に,外力や温度変動のもとで閉じているき裂状欠陥や不完全接合界面で明瞭なエコーが得られないこ と,特に粗い結晶粒を有する金属材料や複合材料では結晶粒界や積層・異材界面による反射・散乱信号が混在して欠陥信号の分別が難しいこと,などがある。ま た,伝搬速度や減衰特性などを利用した材質劣化・損傷診断においても,より早期の段階における診断が望まれている。これらの課題は,技術的,学術的に興味 深いだけでなく,発電設備をはじめとした構造健全性の評価にも関連して近年とみにその重要性が指摘されており,その克服は社会的にも急務となっている。
 超音波を用いた非破壊検査・評価技術には,欠陥から反射,散乱された信号を検出する,あるいは伝搬速度や減衰特性を測定して材質を評価するといった,線 形現象としての波動伝搬特性に着目したものが多い。これら線形超音波法に対して最近,被検体の超音波伝搬媒質としての非線形特性に着目した検査・評価手法 に関心が集まっている。これをここでは総称して非線形超音波法と呼ぶことにする。
 閉じたき裂状欠陥や不完全接合界面では,比較的強い超音波を入射した際に,送信周波数に対して整数倍の周波数を有する高調波成分,および分数関係にある 周波数を有する分調波成分が反射・散乱信号に含まれることが見出されている。送信周波数帯域と異なるこれらの周波数成分にあらたに着目することにより,送 信周波数帯域で受信信号を解析していた線形超音波法では解決困難な上記の課題を部分的にでも克服,あるいは既存手法を補完することが期待されている。
 一方,材質劣化にともなって金属結晶中の転位の密度や配置状態が変化する場合,あるいは損傷の一形態として内部にマイクロクラック群が発展する場合,こ れらも超音波伝搬に際して非線形特性を発現するので,高調波成分などの非線形特徴量によるモニタリングが可能であり,伝搬速度や減衰特性と相補的な,ある いはより早期の劣化・損傷に敏感なパラメータになり得ると期待される。
 医用診断分野では,同様なアプローチはすでにハーモニックイメージングや組織キャラクタリゼーションとして先行して適用されている。生体と各種構造材料 が音響特性的に大きく異なることを考えれば,これらをそのまま適用することは難しいと考えられるが,非破壊検査・評価分野でも同様の手法が定着することは 十分に期待できる。
 平成18年度に本協会に設立された「非線形現象を利用した非破壊検査・材料評価研究会」では,非線形超音波法を主要課題の一つとして取り上げて討論を重 ねている。本特集号では,同研究会で議論されている内容を中心に,非線形超音波法による非破壊検査・評価に関する最近の動向の紹介を企図した。その内容 は,高調波信号および分調波信号に着目した閉口き裂や不完全接合面の検出,特に画像化に関する最新の技術,高調波信号に着目した劣化・損傷のモニタリン グ,そして固体材料およびその界面における非線形超音波現象の理論的・実験的検討であり,読者諸氏の関心を喚起できれば幸いである。
 同研究会ではほかにも高調波検出のためのセンサ技術や,数値シミュレーションの援用による評価の高度化などが議論されており,次回に企画される特集号で は,これらの成果とともに産業界での適用事例も紹介できれば幸いである。最後に,本特集号の企画にあたってご協力いただいた執筆者の方々,とりわけ本特集 号の意義を早くから示唆いただいた川嶋紘一郎先生,編集委員として本企画を担当された南康雄氏ならびに関係各位に深く感謝申し上げる。

*琵琶 志朗  京都大学(606-8501 京都市左京区吉田本町)大学院エネルギー科学研究科エネルギー変換科学専攻・准教授
 1995年京都大学助手,1998年名古屋大学講師を経て,2004年5月より京都大学助教授。固体力学をベースに,固体接触面の線形・非線形超音波特性,複合材料の超音波伝搬特性などの研究に従事。

 

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