バイオメカニクス(Biomechanics)とは,Biology とMechanicsからなる合成語であり,生体力学と訳されている。バイオメカニクス研究では,工学的立場から医学や生物学の諸問題を取り扱い,生物や 生体における機能と構造を力学的観点から解析する。得られた成果は医学における診断・治療・予防・リハビリテーション,福祉工学及びスポーツ科学などに生 かされている。この分野では,力学的な手法を用い,腱,靱帯などの生体組織および骨格構造体の力学,心臓の拍動機能,血管内の血流,医用生体材料,人工心 臓,人工関節,義肢,装具,歩行運動などについて幅広く研究されている。
一方,人の体を診断・検査するための生体機能計測技術には,心電計,血圧計,脳波計,筋電計など体内情報を計測する生体計測装置,X線透視,X線CT, 超音波イメージング,磁気共鳴イメージング(MRI),核医学など体内情報を断層像として得る画像診断装置,生体表面から放射される赤外線強度の分布を熱 画像または温度分布図としてあらわす赤外線サーモグラフィ検査装置などがある。これらの医用診断装置は人体におけるまさに非破壊検査装置であり,生体の内 部構造を非破壊的,無侵襲的,非観血的に観測できることを可能にし,患者への身体的な苦痛や心理的負担を軽減するのに大きな役割を果たしている。
超高齢化社会の到来を迎え,健康を維持し快適な生活を送るためには,病気の早期発見・診断並びに生体機能を的確に把握できる計測技術の更なる確立が非常 に重要になってきている。日本非破壊検査協会では,機械構造物の欠陥検出や材料の特性評価などの非破壊検査手法として,放射線,超音波,赤外線サーモグラ フィなどを用いた測定法の研究が盛んに行われている。しかし,これらの非破壊検査手法を利用している会員の皆様が,工学分野ばかりでなく医学分野への応用 を手がけることによって,当協会の医学分野への貢献が期待されるものと確信する。
日本非破壊検査協会は,上述の目的を実現するため,6年前の平成11年4月にバイオメカニクス研究委員会を発足した。当協会が開催する春季大会と秋季大 会の講演会に,この研究委員会としてバイオメカニクス,非破壊計測技術,生体機能計測技術などに関するオーガナイズセッションを設け,研究発表を重ね,そ して年々その内容も幅広いものになってきている。例えば,光による植物の動態計測,植物の葉や巻きひげの力学的検討,変形性股関節症の大腿骨と脛骨の応力 解析,成長ひずみ法を用いた歯や人工膝関節ステムの生体適応形状解析,光弾性法による高齢者の転倒問題への応用,手指運動時における表面筋電シグナル,超 音波による骨と人工股関節ステムとの接合評価,生体動脈の機械的性質の非侵襲計測法,超診音診断支援のための心音識別システム,筋組織中の超音波伝播速 度,マグロ肉質の超音波評価,義足ソケットの最適形状決定支援システム,非接触式柔らかさ測定装置の開発,X線CTによる生体骨の3次元可視化,近赤外線 水分計を利用した関節軟骨の含水量の測定,MRIを用いた距腿関節の接触状態の評価など,当協会の以前の講演会では見られなかったような報告がなされてき た。
本特集では,当研究委員会のこれまでの研究成果として,1)歯組織のバイオメカニクス,2)医療工学への触覚センサの応用,3)硬組織の粘弾性特性評価 について,4)植物の生長のナノメータ計測,5)光弾性でみたヒトの姿勢,6)踵骨音速による骨粗鬆症診断評価,に関する解説記事を紹介する。この特集が 非破壊検査技術の生体機能計測技術への応用をさらに深めるきっかけになれば幸いである。
*著者略歴は本誌310ページ参照
Biomechanics of Hard Tooth Tissues
Makoto SAKAMOTO Niigata University School of Medicine
キーワード バイオメカニクス,歯硬組織,弾性率,強度,ナノインデンテーション
1. はじめに
生体組織は硬組織と軟組織に大きく分けることができ,硬組織としては骨および歯組織があげられる。骨のバイオメカニクス(Biomechanics,生 体力学)に関する研究は古くから極めて多種多様の研究が行われているが,それに比べて歯硬組織のバイオメカニクスの研究は少ない。この理由は幾つか考えら れるが,世界的に歯学に関した大学や研究機関が比較的少ないことや歯学の材料力学的研究テーマが歯科修復材料に限定されていたこと等が推測される。近年に なり,歯科臨床においても歯硬組織の力学的挙動を明らかにすることが診断や治療を行う際に重要であることが認識され,歯科医師によるバイオメカニクス関連 の研究例もみられるようになった。しかしながら,歯硬組織のバイオメカニクスについては未解決な課題が極めて多い。
歯硬組織における強度研究は,Black1)による研究以来,幾つかの報告がなされている。これまで,象牙質およびエナメル質の力学的特性についての研 究では,多くの場合が引張り,圧縮および曲げ試験から弾性率等を求めている。象牙質に関する研究は比較的多くみられるが,エナメル質については,その寸法 や形状的制限および異方性から力学試験が難しく,象牙質と比べ研究例は少ない。また,健全なヒトの歯の入手が難しいことも実験を困難にしている大きな要因 である。実験による歯硬組織の力学的特性値は,古い研究者による結果が代表的データとして認識されており,最近の有限要素法による歯の複雑な応力解析にお いても使用されている弾性率や強度は,これらの実験値が参考にされているのが現状である。本解説では,これまでの象牙質およびエナメル質の力学的特性につ いて検討した過去の研究例を概説するとともに,我々の歯科バイオメカニクス研究グループの最近の結果について紹介する。
Application of Tactile Sensor for Medical Engineering
Akitoshi TAKEUCHI Kochi University of Technology
キーワード 触覚センサ,発振周波数変化,硬さ,剛性,医療工学
1. はじめに
幼い頃,祖母の肩を揉んで喜ばれた経験がある。懐かしい思い出でもあるが,子供心にもひどく凝った肩だと感じたものだった。
このような“こり”あるいは“しこり”といった生体の硬さ(軟らかさ)や弾力性は,面の法線方向への指の押し込みで生じる圧感覚により検出しており,こ れには図1の表皮と真皮の境目あたりの谷部に位置する,メルケル触盤と呼ばれる触覚受容器が関与している1)。
一方,加齢に伴うきめの粗さ等の皮膚表面の質感を検出する場合には,ヒトは指を接線方向に滑らす動作を行う。このとき,最も指腹面近くにあり、変位速度に比例して応答する,マイスナー小体と呼ばれる触感覚受容器が刺激され,粗さが検出される2)。
このような,触覚の代用をするセンサとしては,感圧導電ゴムの利用,電極間の容量変化の検知,巧妙な音響共鳴触覚素子,そして,透明なゴム製半球でのレーザー光の反射を利用するもの3)等,多くのセンサが挙げられる。
しかし,残念なことに,現在の医療現場で汎用的に使用されている触覚センサはまだなく,一部で臨床的に試行されるに止まっているが,それぞれのニーズに応じ,実用化を目指した開発が着実に進みつつある。
ここでは主として,位相シフト式発振回路を用いた,PZT触覚センサを取り挙げる4)。そして,硬さ測定機能の医療分野への応用例としては,乳癌や前立 腺の硬化,う蝕(虫歯)の検出について示し,表面の粗さ等の質感を認識する機能に関しては,現在試行段階にある“ざらつき”の評価の可能性を示すこととさ せて頂きたい。
図1 ヒトの指腹部の触覚受容器1)
Application of Stress Wave Loading to Determination of
Viscoelastic Properties of Compact Bone
Yuji TANABE Faculty of Engineering, Niigata University
キーワード 硬組織のバイオメカニクス,ち密骨,粘弾性,ホプキンソン棒法衝撃試験,逆問題
1. はじめに
生体を構成する硬組織には骨と歯がある。そしてこの硬組織の力学的特性を調べる研究については,主として材料試験と材料力学の立場からこれまでに膨大な 数の報告がなされてきた(骨に関する過去の研究については文献1)を参照いただきたい)。歯については本特集の「歯硬組織のバイオメカニクス」で詳しく述 べられているので,本解説では骨に的を絞って話を進めることにする。
骨は大別してち密骨と海綿骨に分類される。そして,ち密骨は生体の筋骨格系において荷重支持の役割を担っており,その力学的特性評価を行うことは適切な 力学的適合性を有するインプラント材料を開発する上で極めて重要である。また,ち密骨は異方性を有する粘弾性固体として振る舞うため,生体骨内の応力やひ ずみ状態を正確に把握するというバイオメカニクス本来の目的からしてもその力学的特性の定量的評価が必要不可欠である。ち密骨の異方性と強度(破壊じん 性)についてはその概略を前報1)で述べたところであるので,ここでは粘弾性特性を評価する手法について,著者らが開発した方法2)をやや詳しく紹介した い。
材料の粘弾性特性を評価する標準的な試験としてクリープ試験,応力緩和試験および動力学試験(Dynamic Mechanical Analysis : DMA)が従来から行われている。著者らは衝撃試験を利用すれば,小寸法の試験片を用いて簡単かつ極めて短時間に粘弾性特性が評価できると考え,スプリッ ト・ホプキンソン棒法(以下,ホプキンソン棒法と呼ぶ)衝撃試験を応用することについて検討した。ホプキンソン棒法は本来,高ひずみ速度下における材料の 変形挙動を測定するために考案されたものである。応力やひずみは本質的に波として材料中を伝ぱし,その効果は動的な荷重条件下で陽に現れるようになる。ホ プキンソン棒法は一次元的な取り扱いではあるが,この波の伝ぱを考慮して材料の力学的特性を評価する点に特徴がある。したがって,波の伝ぱが解析できれ ば,波の減衰や分散が起こるち密骨のような粘弾性材料でもその材料特性を評価できると考えられる。そこで著者らは先ず,材料を線形粘弾性固体と仮定してホ プキンソン棒内の波の伝ぱの順解析を行い,次に,順解析で得られた理論解と実験により得られる波形のデータとから非線形最小二乗法を用いて粘弾性定数を推 定するという逆解析を行った。順解析にはラプラス変換法とFFTを利用した数値ラプラス逆変換法を組み合わせた手法を用いた。また,多孔質弾性体理論の結 果に基づきち密骨の力学モデルとして三要素標準線形固体(以下,三要素モデルと呼ぶ)を採用した。
本解説では以上の粘弾性定数を推定する順・逆解析について提示し,解析の妥当性を数値シミュレーションおよびPMMA試料に対する実験により検討した結 果を述べ,最後にウシ大腿骨ち密骨に適用してその粘弾性特性を定量的に評価した結果について紹介する。なお,本解説ではホプキンソン棒法衝撃圧縮試験を想 定して話を進めることにする。
Dynamic Observation of Circumnutation of Arabidopsis Thaloana by
Video-camera and Digital Image Correlation
Satoru TOYOOKA Department of Environmental Science & Human Engineering, Saitama University
キーワード シロイヌナズナ,回旋運動,ビデオカメラ,デジタル画像相関法
1. はじめに
植物は大地に根をおろし,地上に枝葉をのばすことができるが,動物のように自ら体を動かして移動することはできない。しかし,場所の移動ができないこれ らの植物は,まったく自分の体を動かさないのではない。過酷な環境変化に適合するため,また子孫を残すためにも,植物は様々な運動をする。植物の運動につ いて,最初に体系的に観察したのは,進化論のダーウィンである。彼は300種を超える植物の様々な運動について膨大な実験を行っている1)。ダーウィンが 注目した運動に回旋運動がある。これは,植物の生長がただまっすぐに伸びるのではなく,茎を捩じらせるように回旋しながら生長していく現象である。また, おしべやめしべ,花びらなどの花の各器官が様々な動きをすることは日常的に目にすることである。これは,花粉を遠くまで運ぶために風の力や運び人としての 昆虫の世話になるのに都合のよい仕方で,運動するといわれている。ここで,植物が運動する過程を考えると,例えば茎が曲がるためには,曲部の内側に比べて 外側が大きく伸びなければならない。花が開く,という動作は花弁の外側が内側よりも大きく生長しているはずだし,閉じる場合はその逆である。このような偏 差生長は,オーキシンなどの植物ホルモンが植物体内を環流することによるものであるとされている。そのことを明らかにするためには,植物の刻一刻の偏差生 長がどこで起きているのかを確認する必要がある。
筆者らは,光学的手法による変形計測を専門とする立場から,独自に開発した2つのスペックル技術でこれらの問題にアプローチした2)。その第一は,動的 スペックル干渉法(DESPI)である。対象物をレーザ光で物体法線に対して対称な2方向から照射し,2次元視野内で散乱した光波は結像系の像面に干渉ス ペックルパターンを生じる。物体の変形によって,光路差が変化するとスペックルパターンの強度分布が変化する。物体が連続的に変形する場合は,スペックル 強度変化を時系列信号として扱うことにより,精密な位相解析が可能になる。この方法で,チューリップやユリの開花過程の解析などを試みた3)。第2に方法 は,従来のスペックル干渉法とは全く概念を異にする独自の方法で,統計干渉法と呼んでいる。これは,物体上の2点で散乱した光によるスペックルパターン は,位相が各点でランダムな干渉パターンであり,位相のランダムさがどのような状況でも統計的に一様であることを計測の基準とした計測法で,従来の干渉法 とは全く発想を異にしている4)。粗面で拡散した光の場の位相の確率密度関数は,-pからpの間で完全に一様である。この一様性は表面の性状によらずに非 常に安定して保証される。従来の干渉計測においては,対象とする波面を安定的な参照波面と比較することから,参照波面の精度が計測精度を決定する要素とな る。それに対して,統計的干渉法では,波面のランダムさが基準であるので,厳密な参照波面を用意する必要は全くなく,簡単な光学系で十分な精度が保証され る。統計干渉法により,2点間の変形をサブナノメータの精度で安定的に計測することに成功している。この方法も植物の生長計測に応用し,秒からサブ秒と いった通常の観察時間としては考えられない短い時間幅における植物の茎や根の2点間の変形を,サブナノメータの精度で計測し,興味深い環境応答性などの新 規な現象を見出しつつある。
植物学については全くの門外漢である筆者らが対象物として植物を選んだのは,単なる偶然によるものではない。筆者らの技術が植物を通して具体的な環境セ ンシング技術に貢献することができないか,と考えたからである。原点に立ち返って,植物の動態を調べるには,前述のような先端的な計測技術を駆使する以前 に,従来から行われている方法で観察できることに立ち返って調べる必要に迫られた。ここでは,シロイヌナズナを対象として,その花茎の運動を通常のビデオ カメラによる観察とデジタル画像相関法による定量化実験の最近の結果の一部を紹介する5)。
Postural Studies of Photoelastic Pattern in Various Diseases
Hirofumi NAKAGAWA Nichinan Gakuen, Jun-ichi KITAMURA Shonan Rehabilitation Institute
and Kazuso IINUMA IG Clinic
キーワード 光弾性法,可視化,生体計測,姿勢解析,足圧分布
1. はじめに
人間が直立2足歩行を行なうようになって既に400万年余り経過したと言われている。それまで前足だった手は地面から離れ自由となり視野も広がった。そ して,人間の脳はこの間に飛躍的な進化を遂げ,今や火力や原子力を自由に操り,自らが地球を飛び出し宇宙探査を行なうまでになった。このような姿を見る と,地球上におけるすべての生き物の中で最も進化し完成されたのが人間であるかのように思われる。
ところが,今日,人間は腰痛や肩こりをはじめ骨折等の脊柱から下肢の筋骨神経系において整形外科を中心とした多くの疾患に悩まされている。手が自由と なった反面,足の荷重負担は増え体重心位置も高くなった。その結果,人体はそれまで以上に複雑なバランス感覚と運動能力を要求されるようになった。そう いった意味で,人間は未だ進化の途上にあると言える。
このように複雑な機能を果たす人体で,筋骨系とそれを統合する中枢や末梢の神経回路に何等かの損傷や異常を来すと,たとえそれが軽微なものであっても姿 勢の調節や歩行機能等に影響をおよぼす。そこにひそむ性質を明らかにし定量評価が可能となれば,姿勢や歩行の解析が診断や治療評価等の広く臨床面に役立つ ことになると考えられる。
そこで,筆者らは光弾性による足底と床面との接触圧力分布(足圧分布)計測法を用いて各種疾患患者の立位姿勢を解析した結果,それまで知られていなかっ た臨床上興味深い知見が明らかとなった。本文はその中から高齢者やダウン症候群およびパーキンソン病患者の立位姿勢解析と脳卒中片麻痺患者の視覚によるバ イオフィードバックに対する本法の適用例を取り上げ,足圧分布解析の医学への応用について解説する。
Evaluation of Osteoporotic Diagnosis Based on Speed of Sound through the Calcaneus
Yoshihisa MINAKUCHI University of Yamanashi
キーワード 骨粗鬆症,超音波,踵骨,音速測定,パルス法,集束探触子,バイオメカニクス
1. はじめに
高齢者人口の増加に伴い,骨粗鬆症による腰椎部,大腿骨部,橈骨遠位部などの骨折が大きな社会問題となっている。そこで,このような骨粗鬆症を簡易的に 早期に診断する方法として,超音波による踵骨の音速(SOS)や減衰係数から骨質を評価する方法1)−7)と,二重エネルギーX線吸収法(DXA)による 前腕骨による骨密度を測定する方法8),9)などが用いられている。特に最近では,踵骨音速を用いる超音波法は,踵骨音速が体全体の骨密度と極めて高い相 関性10)を有しており,しかも被曝の心配が無いことから,骨粗鬆症診断に良く利用されている。しかし,これまでの所,超音波法により測定した踵骨音速値 は診断装置によって異なり,骨密度診断評価に問題をもたらしている。筆者らは踵中の多重エコーを利用して正確な踵骨音速値を測定できることを明らかにした 3)。
本稿では,骨粗鬆症について概説した後,超音波による正確な踵骨音速値の測定法3)について紹介する。
Measurements of the Thickness of Double-layered Plates usingElectromagnetic Acoustic Resonance
Masashi YOSHIDA*, Shigeru KUNIFUSA** and Tetsuo ASANO**
Abstract
Measurements of electromagnetic acoustic resonance spectra (EMAR) of 2.25Cr-1Mo steel plates with (Fe,Cr)3O4 oxide layers and aluminum-stainless steel clad plates have shown that, owing to the phase shift at the interface between two layers, the resonance frequency fn is not proportional to resonance order n, but that n/fn varies periodically as n increases. If the acoustic impedance of the thin layer is smaller than that of the base layer, n/fn initially increases as n increases while it initially decreases if the acoustic impedance of the thin layer is larger than that of the base layer. This behavior of n/fn agrees with the resonance theory for double layered plates. It has been shown that the EMAR is effective to determine the thickness of each layer in a double-layered plate.
Key Words Ultrasound, Thickness, Double-layered Plates, EMAR, Oxide Layer, Clad Plates
1. 緒言
ボイラー管のように高温酸化雰囲気中で使用される金属材料は表面から酸化が進行し,それに伴って金属の厚さが減少する。金属の厚さが減少すると機械強度 が低下し,やがて破裂することになるため,金属の残存厚さを知ることが,安全管理の上から重要となる。また,ボイラー管の場合は,酸化膜の成長速度から, 逆にボイラー管の使用環境(温度,圧力等)を知ることもできるため,酸化膜厚を測定することによって,操業条件の管理に利用することができる。
非破壊で厚さを測定する手法に超音波による方法がある。超音波法にはパルス反射時間から肉厚を測定するパルス反射法1)と共鳴周波数を測定する共鳴法 2)−6)がある。パルス反射法では,一般に超音波パルスの励起,検出に,変換効率の高い圧電素子が用いられる。パルス反射法において,酸化膜−鋼材界面 からのエコーと酸化膜表面からのエコーを検出し,両者の時間差を求めることによって酸化膜厚を決定することが可能である。しかしながら,パルス反射法で は,表面に凹凸がある場合,エコーが複数に分裂するため,酸化膜との界面でのエコーの識別が困難になる欠点がある。また,薄い酸化膜では,界面からのエ コーと表面からのエコーが重なって,分離が困難になる難点がある。
共鳴法には,音響結合媒体を用いないで,直接,金属材料内に超音波を励起することができる電磁超音波法が用いられることが多い2)−6) 。共鳴法では,表面と裏面の超音波位相差がpの整数倍のときに,多重反射波が強め合う共鳴効果を利用している。多層材料では境界面で位相の不連続が起きる ため,共鳴法によって2層材料の厚さを測定する方法は,最近まで知られていなかった。Ogiらは3層材料の境界条件をとき,共鳴周波数から薄膜の弾性定数 を決定した7)。我々は,2層材で,共鳴次数nをn次共鳴周波数fnで割った量,n/fnの周波数依存性を求め,それから2層材料の,各層の厚さを求める 手法を開発し,酸化処理をおこなった2.25Cr-1Mo鋼の共鳴スペクトルから,酸化膜厚さを求めることができることを明らかにした8)。
前報8)では,母材の音響インピーダンスに対して膜のそれが小さい場合の測定結果が示され,n/fnが極大をもつことが示されたが,n/fnは母材と膜 の音響インピーダンスに依存した周期的な変化をすることが予想される。そこで,n/fnが理論で予想される変化を示すことを確認するために,前報で用いた 試料よりも厚い酸化膜をもつ2.25Cr-1Mo鋼とステンレス鋼−アルミニウムクラッド材で電磁超音波共鳴スペクトルを測定した。
原稿受付:平成16年1月22日
国立宇部工業高等専門学校(山口県宇部市常盤台2-14-1)Ube National College of Technology
住友金属テクノロジー(株)(兵庫県尼崎市扶桑町1-8)Sumitomo Metal Technology Inc.
Detection and Source Location of Lamb Wave AEs from
Floor Plate Corrosion of an Oil Storage Tank
-Correspondence with Wall Reduction by Ultrasonic Test-
Hideo CHO*, Mikio TAKEMOTO*, Akio YONEZU*, Ryuji IKEDA*,Hiroaki SUZUKI** and Masaaki NAKANO**
Abstract
Locations of localized corrosions of the steel floor plate of a cylindrical storage tank 32.93 m in diameter were estimated by AE analysis and correlated with the localized wall-reduction zone measured by ultrasonic test. We monitored Lamb wave AEs for one hour twice using eight 50 kHz AE sensors mounted on the terrace of the annular plate. Sources of 84 AE events were located from the first 1hr AE monitoring and those of 75 events from the second 1hr monitoring. Here, the source locations were estimated by two location schemes, i.e., virtual source scanning method (VSS) and conventional time of flight method (TOF). The VSS methods located 80% of AE events into a specified zone in the third quadrant of the floor plate which agrees quite well with the wall reduction zones measured by the ultrasonic method. AE sources located near the annular plate agree fairly well with the wall reductions of the annular plate. Some wall reduction zones of the annular plate could not be detected by AE due to the weak signals of some sensors.
Key Words Storage tank, floor plate, corrosion, wall reduction, Lamb wave AE, Source,location, Ultrasonic test
1. 緒言
前報1)では,開放点検中の円筒空タンクのアニュラ板テラス部に設置したAEセンサを用いて,底板やアニュラ板上に与えた人工音源(軽衝撃)によるラム 波AEを検出し,位置標定精度を検証した。この結果,ラム波AEは,中心周波数が60kHz以下のAEセンサで検出されること,仮想音源走査法を用いた音 源位置精度は距離誤差3.6m以内で標定されることなどを報告した。すなわち60kHz以下の中心周波数をもつAEセンサを用いてラム波AEを検出し,し かるべき音源位置標定スキームを用いればかなりの精度で腐食位置が標定できる可能性があることがわかった。
そこで,人工音源位置標定実験を行った翌日(2003年11月5日),底板外面腐食によるラム波AEを1回1時間ずつ2回に分けて計測し,音源位置を標 定した。その結果,標定された音源位置は超音波肉厚検査で減肉ありと判定された位置に集中していることが明らかになった。アニュラ板やアニュラ板に近い底 板の腐食によるAEのいくつかはしかるべき減肉位置に標定されたが,いくつかのセンサ出力が弱かったため,標定できない個所もあった。
本報では,腐食(錆の破壊)によるラム波AEの特長,2種類の位置標定アルゴリズム(前報のADASにおける仮想音源走査法とC-AEAS法におけるしきい値到達時間差法)による標定位置と超音波肉厚検査結果の照合等について報告する。
タンク側壁にAEセンサを設置して検査する方法2),3),4)では,内容物が入ったタンクでないと検査できないが,提案法は内容物の有無には関係なく 検査が可能である。このため,休止あるいは補修計画前の空タンクを検査することが可能で,詳細な超音波検査場所の絞りこみを可能にする。またこれまでの AE検査は,風のない晴れた日に限定されているが,提案法は風雨のある日でも可能であることが実証できた。
原稿受付:平成16年10月5日
青山学院大学 理工学部(神奈川県相模原市淵野辺5-10-1)Aoyama Gakuin University
千代田アドバンスト・ソリューションズ(株)Chiyoda Advanced Solutions Corporation