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機関誌

2004年度バックナンバー巻頭言1月

2004年1月1日更新

目次

巻頭言

「新年のご挨拶」 小林英男 

明けましておめでとうございます。本年も非破壊検査によって社会貢献し、それが我々の繁栄と利益になるために、皆様とともに尽力していく所存です。
さて、会員の三浦邦敏氏(エンジニアリングサービス(株))から書状をいただきました。
ASNT 機関誌「Materials Evaluation」2003 年4 月号でのNat Faransso 会長の巻頭言の翻訳と三浦氏の所見です。私は不勉強で、巻頭言を読んでいませんでした。巻頭言の概略は、以下のとおりです。非破壊検査(NDT)は、要求 品質の規格・基準への適合と、製造と試験に関する安全性の確保を保証する手段である。NDT の精度は三つの要素、「検査要領」、「探傷装置」、「検査員の技量」で決まる。「検査員の技量」では、報酬がもっとも重要な因子である。産業では、「品 質」最優先の要求にもかかわらず、「あらゆる経費削減による利潤追求」が最優先されている。特に、人件費の削減が、NDT 検査員の質的低下を招いている。これは、NDT検査員の報酬削減要求→優秀なNDT 検査員のNDT 分野からの退去→低賃金を受け入れる
未熟なNDT 検査員だけとり残され、というサイクルによる。世界中のNDT 学協会とNDT産業共同体は、共通認識をもって直ちに問題解決に当たるべきである。産業にとってNDT技術が価値あるツールであることが証明されている以上、そこで働く全NDT 従事者にも適切な報酬が必要であることもまた、証明されなければならない。
まったくそのとおりだと思います。最近のマスコミの報道で「ものづくり揺らぐ足元」として取り上げられている一連の「火災事故」と「検査の不祥事」は、ま さに「あらゆる経費削減による利潤追求」が最優先された結果でしょう。一昔前の溶接技術者も同じ問題でありました。
 ASNT 会長の全世界へのメッセージには、実行と手段で答えましょう。本協会はNDT 検
査員資格の公的認知とNDT 検査員の質的向上に尽力してきました。また、最近では、規格・
基準のなかでのNDT の位置付け(社会的認知)と技量認定(PD)システムの構築に取り
組んでいます。もっと直接的に有効な実行と手段はないでしょうか。現在、本協会では、
NDT 検査員全員に本協会会員になっていただくことを検討中です。これはNDT 検査員の
質的向上、特に社会的評価の獲得に有効であり、次に報酬の獲得にもつながると考えられ
ます。三浦氏のように、会員の皆様の積極的なご意見を期待します。

* 日本非破壊検査協会会長

 

「鉄筋コンクリート構造物の維持管理と非破壊試験」特集号刊行にあたって 

 「コンクリートはメンテナンスフリー」との神話が崩れて久しいが,「構造物には維持管理が重要である」と言われ始めて久しい感もある。例えば土木学会で は,コンクリート標準示方書の[施工編]や[構造性能照査編]が全面的に性能照査型に改訂され,[維持管理編]が新たに刊行されたのも,構造物の維持管理 の重要性が高まってきた証拠といえる。このように,ライフサイクルを考慮して構造物を設計・施工し,維持管理するための鉄筋コンクリート構造物の性能設 計・維持管理への枠組みは急速に整備されつつある状況にある。
 構造物の長期的なシナリオを見据えた維持管理技術のうちで,点検・診断に関する技術体系が重要であることは容易に理解できる。特に,近年における点検・ 診断における非破壊検査技術に対するニーズの増大には目覚しいものがある。ただし,非破壊検査技術の鉄筋コンクリート構造物への適用に関しては,近年に始 まったことではなく,物を叩いてその響きから出来ばえ等を判断することは古くから行われていることである。大正時代から昭和前半にかけて土木分野で活躍さ れた吉田徳次郎先生は,コンクリート構造物をよく観察し,ハンマーで叩き,その打音から構造物のコンクリートの良否を判定されていたことは特に有名であ る。
 ところで,供用中の実際の構造物の場合,これらの枠組みを適用した合理的な維持管理が円滑に実施されることが困難な場合が少なくない。これは,構造物の 長期的なシナリオを見据えた維持管理に関する方法論を手にした反面,この方法論を具体化するための点検・診断に関する技術体系や,補修,補強に関する技術 体系,さらにはこれらを統合する実行可能なマネジメントに関する技術体系が定着していないことに起因していると思われる。
 このような状況を克服すべく,鉄筋コンクリート構造物の維持管理技術として非破壊検査を有効に利用し,簡便かつ効率的な検査・診断技術に関する研究開発 がなされているが,本号では,これらの技術開発の代表的な事例を紹介することを目的とし,「鉄筋コンクリート構造物の維持管理と非破壊試験」と題した特集 を企画した。本特集ではまず,鉄筋コンクリート構造物の特徴を考慮した今日求められている試験方法についてまとめた。次に,先端的な研究事例紹介と今後必 要と考えられる研究について,コンクリート構造物中の鉄筋腐食診断技術,ひび割れ・はく離検知技術および鉄筋位置・かぶり測定技術に関し個別に概説した。 また,非破壊検査技術の普及への取組みとして,国土交通省の動向や各種ガイドラインの整備状況などを紹介した。
 なお,本誌の読者諸氏はコンクリート技術者のみではなく,非破壊検査技術に関する高度な知識と技術を有する方々である。このため,本特集の内容には,鉄 筋コンクリート以外の分野の非破壊検査技術では常識的に知られているようなことが課題として挙げられている部分が見受けられるかもしれない。しかしなが ら,非破壊検査技術がなかなか理論的に呼応してくれない対象であるのが鉄筋コンクリート構造物であり,これが現状であるということを読者に理解していただ くことを切に望むものである。
 最後に,本特集が鉄筋コンクリート分野の読者諸氏に対しては新たな情報源となり,他分野の非破壊検査に携わる読者諸氏に対しては本特集を鉄筋コンクリー ト構造物を対象とした場合の研究の現状という視点で読み解いていただき,他分野と鉄筋コンクリート構造物分野との非破壊検査技術に関する有益な議論のきっ かけとなれば幸いである。


*独立行政法人土木研究所 久田 真

 

解説 鉄筋コンクリート構造物の維持管理と非破壊試験

コンクリート構造物の劣化と求められる非破壊試験
  松村 英樹 日本構造物診断技術協会(新構造技術(株))  古賀 裕久 独立行政法人土木研究所

Application of Non-Destructive Tests to Concrete Structures
Eiki MATSUMURA New Structural Engineering , Ltd. and Hirohisa KOGA Public Works Research Institute
キーワード 維持管理,非破壊検査,土木構造物,コンクリート,コンクリートの劣化,耐久性能,耐荷性能



1. はじめに
 1970年代に造られた多くの土木構造物も2020年代には50代を迎え,高齢化し,老朽化してくるものもある。それらを新しく造り替えることができれ ば問題ないが,莫大な費用が必要であり,現在の我が国がおかれている財政状況を考えると極めて難しい。そのため,既設土木構造物の長寿命化を図る維持管理 技術が注目されてきている。
 一方,コンクリート構造物においては,塩害やアルカリ骨材反応などによる早期劣化や,第三者被害を引き起こす可能性の高いコンクリート片のはく落などが社会問題にまで発展し,コンクリート構造物の耐久性を向上させる技術に大きな関心が寄せられている。
 コンクリート構造物を適切に維持管理し,長寿命化を図るためには,耐久性に影響を与える損傷を早期に発見し,損傷が軽微な段階で適切な対策を講じることが基本である。そのため,損傷の推移を予測する診断技術が重要になってきている。
 診断技術に関する研究開発は急速に進められてきているが,多くの課題が山積しているのが現状である。人間は,高熱があったり,胃が痛かったりすれば病院 に行き診察を受ける。お医者さんは「いつから痛くなったのか」とか,「過去に入院したことがあるのか」などの患者に関するいろいろの情報を問診から得て診 断をスタートさせることができるが,ものを言わない構造物に「いま痛いところがあるのか,それはどのへんで,いつ頃から痛いのか」など聞いても答えは当然 返ってこない。また,困ったことに年齢も分からない構造物もあり,建設時の設計計算書や設計図が残っていないものも多い。特に,コンクリート構造物は耐久 性を低下させる要因は多様であり,外観の劣化状況から劣化要因を特定することが難しい場合もある。このような特性を持つコンクリート構造物に対して,非破 壊試験は,各機関で耐久性評価のための診断手法として研究され,耐久性評価の信頼性向上のための有効な手法として注目されている。
 ここでは,コンクリート構造物に発生する劣化状況を概説するとともに,コンクリート構造物の診断に求められる非破壊試験について解説する。

 

 

 

自然電位法による鉄筋の腐食診断
   渡辺  寛 日本構造物診断技術協会((株)ピーエス三菱)  渡辺 博志 独立行政法人土木研究所
   井川 一弘 日本構造物診断技術協会((株)ナカボーテック)

Corrosion Diagnosis of Reinforcing Steel by Half-cell Potential Measurement
Hiroshi WATANABE Nippon Structural Inspection And Technology Association (P.S.Mitsubishi Construction),
Hiroshi WATANABE Public Works Research Institute and
Kazuhiro IKAWA Nippon Structural Inspection And Technology Association (Nakabotec)
キーワード 鉄筋コンクリート,健全度診断,塩害,中性化,鉄筋腐食,電気化学的非破壊検査,自然電位法



1. はじめに
 鉄筋コンクリートは,コンクリートと鉄筋の2つの材料からなる複合の構造体である。この構造体は,鉄筋が引張りに弱いコンクリートを補強し,コンクリー トが錆びやすい鉄筋を腐食しにくい強アルカリ性(pH = 12〜13)の状態に保護しているため,それぞれの材料が互いの欠点を相互に補完し合うという優れた構造体である。しかし,厳しい腐食環境下にある場合, 塩害やコンクリートの中性化により鉄筋が腐食し,優れた構造体である鉄筋コンクリートでも早期に劣化することが,現在では一般に広く認識されている。
 鉄筋コンクリート構造物中の鉄筋が腐食した場合,発生した錆(腐食生成物)の体積膨張により腐食鉄筋周囲のコンクリートに割裂引張応力が生じ,腐食がさ らに進行すれば,コンクリートに鉄筋軸に沿ったひび割れが確認されることがある。このひび割れを通して鉄筋の錆がコンクリート表面に現れると,錆汁による コンクリート表面の変色状況などから,コンクリート中の鉄筋の腐食は判断可能となる。しかし,場合によってはひび割れを伴わずに徐々に腐食が進行している こともあり,表面の変色状況などから腐食の顕在化が確認された時点では,既に鉄筋の腐食はかなり進行している段階にあることが多い。
 コンクリート中の鉄筋の腐食がかなり進行すると,かぶりコンクリートの浮き・はく離による劣化が表面化して第三者への安全性確保に支障をきたす恐れもあ り,鉄筋自身の断面欠損と腐食に伴うコンクリートのひび割れによって構造物の耐荷性能が低下することも懸念される。一方,劣化がかなり進行した後に補修を 実施した場合は,大掛かりな補修工事となることが多く,補修コストの増加も気になるところである。
 したがって,鉄筋腐食による劣化が顕在化する前に,非破壊検査によって鉄筋の腐食状況をより正確に検知・診断することができれば,適切な維持管理計画お よび補修・補強計画を立案・実施するうえで効果的となり,構造物の耐久性・安全性のより確実な確保ならびに補修・補強コストの負担軽減にも大いに有効であ るといえる。
 現状,鉄筋コンクリート構造物中の鉄筋の腐食診断は,はつり調査での目視確認による直接的な評価と電気化学的非破壊検査による間接的な評価により行われ ている。電気化学的非破壊検査としては,自然電位法,分極抵抗法,コンクリートの比抵抗測定などが適用されているが,いずれの測定方法においても,測定値 の解釈あるいは鉄筋の腐食状況の判断などに不明な点があり,非破壊検査方法としては,まだ信頼を得るまでには至っていない。
 そこで,独立行政法人土木研究所構造物マネジメント技術チームと日本構造物診断技術協会は,各種の非破壊検査を活用した鉄筋腐食診断技術の開発・改善を 目的として,コンクリート構造物の鉄筋腐食診断技術に関する共同研究を行った1)。本稿では,共同研究の一環として実施した供試体試験を中心に,鉄筋の腐 食機構や自然電位法による鉄筋の腐食診断技術の現状と課題について紹介する。

 

 

非破壊検査によるひび割れ・はく離検知の現状と課題
    柴田 信宏 リテックエンジニアリング(株)  三浦  悟 鹿島建設(株)


Overview of NDT Methods for Detecting Cracks and Delamination Defects
on Concrete Structuresoryo Electronic Corporation
Nobuhiro SHIBATA Retec. Inc. and Satoru MIURA Kajima Corp.
キーワード コンクリート構造物,ひび割れ,はく離,非破壊検査,超音波,サーモグラフィ,打音法



1. はじめに
 コンクリ−ト構造物に発生するひび割れの発生原因を整理すると,おおよそ以下の5つの条件に分類されると考えられる。
?使用材料の材質
?施工方法
?構造
?外力
?周辺環境
 粗悪な材料の使用,コンクリートの締固め不足,設計上必要な鉄筋量の不足等といった,人為的なミスによる発生は論外としても,コンクリートは基本的にぜ い性の材質であるため,コンクリート構造物にとってひび割れの発生は,施工時から供用に至る過程において完全には避けることの出来ない現象である。すべて のひび割れがコンクリート構造物に悪影響を与えるわけではなく,例えばヘアークラックと呼ばれるコンクリート表面に発生する幅0.1mm未満の微細なひび 割れが,コンクリート構造物に悪影響を及ぼすことは,ほとんどない。
 コンクリート構造物に対して有害となるひび割れは,構造物の使用目的の違いによって様々なケースが考えられる。コンクリート構造物の耐久性上,特に問題 となるケースは,コンクリート部材を貫通したひび割れや,鋼材位置まで達したひび割れであると考えられる。これらのひび割れ幅の許容値については諸説ある が,(社)日本コンクリート工学協会では,補修要否の判断基準を表1のように規定している1)。
 例えば海岸付近の飛来塩分による影響が大きい条件下で供用されているコンクリート構造物にこの種のひび割れが発生した場合,鋼材の腐食発錆をうながす塩 化物イオンがひび割れを介してコンクリート構造物内部に侵入して鋼材位置に達し,鋼材を腐食に至らしめることとなる。腐食した鋼材は内部で膨張するため, この膨張圧によりかぶりコンクリート部分がはく離し,更に鋼材腐食が進行すればコンクリートのはく落に至る。コンクリートのはく落がコンクリート構造物の 性能低下に対して問題であることは言う までもないが,はく落したコンクリート片が通行者や家屋に当たって被害を与える,いわゆる第三者障害の発生も重大な問題となっている。  以上のような理由から,コンクリート構造物のひび割れ及びはく離の検知は,構造物の適切な維持管理を行う上で非常に重要であるとともに,第三者障害を未然に防止する技術である。本章では,コンクリート構造物の調査・診断の分野において一般的に実施されている非破壊によるひび割れ・はく離の検知方法の概要を記述し,現状と課題について述べる。



表1補修の要否に関するひび割れ幅の限度
(a) 

 

 

 

非破壊検査によるかぶり測定に関する研究の現状
   野田 一弘 八千代エンジニヤリング(株)  久田  真 独立行政法人土木研究所

Present Studies on the Measurement of Cover Depth of Reinforcing Bar
by Non-destructive Testsnology
Kazuhiro NODA Yachiyo engineering Co.Ltd and Makoto HISADA Public Works Research Institute
キーワード かぶり,電磁誘導法,電磁波レーダ法,測定精度,比誘電率



1. はじめに
 鉄筋コンクリート構造物がその機能を発揮するためには,埋設された鉄筋が健全な状態(腐食を生じていない状態)であることが前提である。しかし,鉄筋を 保護する役割を担うかぶりコンクリートは,凍害や塩害,中性化などの劣化によって鉄筋の保護性能が低下する。このため,鉄筋コンクリート構造物の設計にお いては,構造物の耐久性を確保する観点からも,構造細目として最小かぶりが規定されている。しかしながら,コンクリート打設時の鉄筋の移動や型枠の設置精 度などの点から,かぶり不足が生じる可能性が否定できないのが現状である。
 一方,鉄筋を腐食させる直接的な原因となる中性化や塩化物イオンの浸透は,かぶりの表面から進行するものであることから,正確なかぶりを把握することは,鉄筋コンクリート構造物の健全度診断や劣化予測を行う上で非常に重要となる。
 かぶりを的確に把握する方法としては,鉄筋をはつり出す方法があるが,この方法では局所的なかぶりの把握は可能であるが,構造物の破壊を伴うことから構 造物全体のかぶりを把握するための方法としては非現実的である。この様な背景から,非破壊試験によってかぶりを推定する必要があり,これまでにも多くの技 術開発が行われてきた。しかし,非破壊試験でかぶりを推定する場合,その測定原理や機器の特性によって,必ずしも高い精度が確保されているとは言い難いの が現状である。
 本文では,かぶりを非破壊で調査する方法の現状と,測定精度を向上させるための研究事例を紹介する。

 

 

コンクリート構造物の分野における非破壊試験の普及への取り組み
   古賀 裕久 独立行政法人土木研究所  野永 健二 (株)銭高組  猪八重由之 新構造技術(株)

Approaches to Apply Nondestructive Tests for Construction and
Maintenance of Reinforced Concrete
Hirohisa KOGA Public Works Research Institute, Kenji NONAGA The Zenitaka Corporation and
Yoshiyuki INOYAE New Structural Engineering, Ltd.
キーワード 非破壊試験,土木構造物,コンクリート,健全性評価



1. はじめに
 コンクリートおよびコンクリート構造物に関しては,これまでに多数の非破壊試験方法が考案され,関連した研究も盛んに行われている。しかし,構造物の施工や維持管理の実務に活用されている試験方法は限られている。
 この理由の一つとしては,非破壊試験で直接的に測定している物理的性質,例えば,電磁波の伝搬速度等と,コンクリートやコンクリート構造物に必要とされ る性能,例えば,圧縮強度等では,物理的な意味が大きく異なることがあると考えられる。このため,非破壊試験の結果をコンクリートやコンクリート構造物の 性能に換算して評価する必要があるが,この評価手法を確立するのは容易ではない。
 また,非破壊試験を,「検査」に使用することが難しい理由としては,測定の誤差が明確でないことも,一因であると考えられる。非破壊試験方法によって は,種々の測定を組み合わせるなどして誤差を減らすことも可能だが,測定・評価のフローが煩雑になるので,簡便さと正確性のバランスを取る必要がある。な お,通常はあまり意識されることがないが,従来から行われているコンクリートの圧縮強度試験等にも測定の誤差はある。非破壊試験についても,誤差の大きさ を過度に問題視することなく,測定の簡便さを活用した調査方法を計画することが重要である。
 本稿では,このような視点から,土木コンクリート構造物の施工・維持管理の現場で,「検査」あるいは検査に準ずるものとして非破壊試験を実施している事 例を紹介する。また,非破壊試験の普及への取り組みとして,独立行政法人土木研究所と日本構造物診断技術協会が作成した「非破壊試験を用いた土木コンク リート構造物の健全度診断マニュアル」を紹介する。

 

 

論文

円筒タンク底板の音源位置標定精度改善のためのAE検出・解析法
   曾我部隆洋/竹本 幹男


Sensing and Signal Processing Methods to Improve the Location Accuracy of AE Sources
on the BottomPlate of a Liquid -Storage Cylindrical Tank
Takahiro SOGABE*and Mikio TAKEMOTO*
Abstract

The effect of the type of AE sensor and mounting methods on the location accuracy of artificial AE sources on the bottom plate of liquid (water and grease) storage cylindrical tanks of 820 mm in diameter was studied. Location accuracies using the direct P-waves through liquids and direct Lamb waves through the bottom plate were compared. Source locations of lead-breaking and emery paper scouring on the bottom plate were estimated utilizing the P-waves monitored by three types of AE sensors ( resonant type PICO of 450 kHz, R6I of 60 kHz and R3I of 30 kHz) mounted on the tank wall. Arrival times of the direct P-waves through liquids were determined using wavelet transform at selected frequencies and were submitted to a virtual source scanning location method. Location accuracy was better when the arrival times of a 90 kHz component of AE signals by the R6I sensor were utilized. Location accuracy was worst when R3I sensors were used. Attenuations of the Lamb waves through the bottom plate loaded with liquids were smaller than those of the P-waves through liquids and were successfully utilized for the source location. Location accuracy utilizing the 70kHz component of an Ao-Lamb wave detected by R6I sensors mounted on the dog-running space of the bottom plate was much higher than those utilizing the P-wave through liquids.
Key Words Cylindrical tank, Bottom plate, Corrosion, AE, Source location, Longitudinal wave in liquid, Leaky Lamb wave, Wavelet transform



1. 緒言
 AEモニタリングによって貯槽タンク底板の腐食状態を評価しようとする試みが最近日本でも試みられつつある1),2)。錆の破壊によるAEを検出して, 発生頻度(数)等から健全性を評価せんとする方法3)であるが,検討すべき問題も多い。一般には,側壁に設置した低周波数(30kHz)の共振型センサに よってAEを検出しているが,風雨の少ない日の限られた時間帯でのみ計測するという条件からもわかるように,どのようにノイズと区別されているのか,この ような条件で計測されたAE発生頻度がどんな意味をもっているかという疑問が残る。また,水中縦波を検出していると考えた位置標定がなされているようであ るが,その振幅は音源の大きさと周波数に依存した独特の分布(縦波放射パターン)を持つため,センサ設置法によっては標定が出来なかったり,無理な標定を 行えば精度が極めて悪くなるという問題がある。タンク底板の状態解析をどのような方法で行うべきかを議論すべき時期にあると考えるが,エンドユーザーの納 得が得られない方法は,AE診断技術に対する信頼性を失墜させることになりかねない。
 筆者ら4),5)は,タンク底板の健全性はAEヒット数や振幅などから診断するのではなく,タンクのどの位置(何時の方向)で腐食が進展しているか,す なわちAE音源位置標定を正しく行い,特定された場所については別種の検査方法,例えば指向性ラム波の反射波解析を用いて減肉を測定するという2段階評価 法を提案してきた。前報6)では,大気錆の成長(自壊)と破壊によって発生するAE(薄板試験片を使用したためラム波AE)を検出し,AE発生数は錆厚さ とほぼ比例関係にあること,Aoラム波は800kHzまでの周波数帯域を持っていることなどを報告した。Soモードの波形シミュレーションで推定した錆破 壊の体積(10−15〜10−14 m3)は,高強度鋼の微小遅れ破壊のそれ(10−18〜10−16 m3)の100から1,000倍も大きいが,生成速度(原波形の立上り時間)は0.2〜2msで,最大でも数倍程度しか遅くないことも報告5)した。すな わち,錆破壊によって十分な振幅のAEが放出されることは証明できたが,どのようなセンサを何処に設置し,どのようなアルゴリズムを用いればタンク底板の 音源位置が正しく標定できるかということについては十分検討されていない。
 本研究では,側壁に設置したセンサ(以後,側壁センサという)と,底板の犬走り部に設置したセンサ(底板センサ)を用いた音源位置標定の精度を比較し, 高精度に音源位置を標定するための方法を提案する。側壁センサについては,センサタイプや設置高さが標定精度に及ぼす影響を,底板センサについては最大振 幅を示すAoラム波到達時間を用いた標定精度を調べるとともに,水やグリースによるラム波の減衰を液中縦波のそれと比較した。

 

原稿受付:平成15年4月25日
 青山学院大学理工学部 (神奈川県相模原市淵野辺5-10-1)Aoyama Gakuin University

 

アコースティック・エミッションの検出と音源位置標定
   曾我部隆洋/松浦 健児/竹本 幹男

Monitoring and Source Location of Acoustic Emissions from Atmospheric Corrosion of Water-Storage Cylindrical Tank Bottom Plate
Exposed to Outdoor Weathering
Abstract
We monitored AEs from a self-fracture of atmospheric rust produced on circular steel plates (SS400) welded in a SUS304 bottom plate of a 820mm diameter water-storage cylindrical tank. The tank was set on the tar-sand base and exposed to outdoor weathering for 61 days. AEs were monitored as Lamb waves using four resonant-type AE sensors (PAC, type-R6I with center frequency of 60kHz) mounted on the dog-running surface of the bottom plate. AE monitoring at 20dB amplification for one day recorded AE events with large amplitude and higher S/N ratio. AE event counts increased after 15 days exposure and were correctly located to the circular steel plates which suffered higher wall reduction by atmospheric corrosion. Next we monitored AEs from a tank exposed for 80 days at 60dB amplification for one hour using the R6I sensors mounted on the dog-running surface of the bottom plate and shell wall. AE events monitored by the bottom-plate sensors were located correctly in the heavily corroded carbon steel plates, while location accuracy of AE events by the shell-wall sensors was poor.
Key Words Cylindrical tank, Bottom plate, Outdoor exposure, Atmospheric corrosion, AE, Source location, Longitudinal wave in liquid, Leaky Lamb wave



1. 緒言
 液体貯蔵円筒タンク底板の腐食状況を,供用中のAEモニタリングで評価することが欧米でなされている。シェルグループが開発したTANK- PAC1),2)では,風の弱い晴れた日の一定時間にわたるAE発生数や振幅などからタンクの危険度を5段階評価している。AEは,共振型AEセンサ(中 心周波数30kHz)を3の倍数個側壁に設置してモニターされている。日本でも,欧米方法に基づいたAEモニタリング3),4)が試みられているが,外国 よりも厳しい法規制をもつわが国では検討すべき課題も多い。AEによって減肉の程度を推定することは出来ないが,適切な信号処理を行えば音源位置(腐食個 所)の標定は可能である。AEによる危険個所の同定は,肉厚測定のための労力の削減に大きく寄与するし,タンクオーナーに有用な情報を提供する。筆者ら は,AE音源位置標定によって危険個所を大まかに標定し,危険個所を狙って発生させたラム波(2次AE)の減肉や錆こぶによる反射波から減肉状態(残存肉 厚や大きさ)を推定する2段階評価法5)を提案し,その有効性を検証してきた。この方法は,貯蔵物を抜取らなくとも残存肉厚が推定できるという特徴をもっ ている。
 これまで側壁および底板の犬走り部に設置したAEセンサ出力がどのような情報をもっているかを人工音源(芯の圧折やエメリー紙の擦過)を用いて調べ,音 源位置標定精度を議論してきた5),7)。その結果,側壁センサは,複雑な経路を伝搬した色々なモードのAEを検出するので,液中縦波到達時間の決定が難 しく,センサタイプによっては標定精度が極端に悪くなることを報告した5),7),10)。一方,底板センサはラム波(板波)を検出するので,最も大きな 振幅を示すAoモード波(ゼロ次の非対称モードラム波)の周波数成分が到達する時間から高精度に音源位置が標定できる7)。この場合,分散性波動(速度が 周波数とともに変化)を使用するため,連続ウエーブレット変換や仮想音源走査法8)などの新しい手法が必要であるが,音源位置標定はコンピュータが自動的 に短時間で行ってくれる。鋼板腐食によるAEは,前報9)の錆発生加速試験で示されたように,硬い錆の自壊や剥離によって放出されるが,自然環境に暴露さ れた鋼の大気腐食がAEを放出するかについては検討していなかった。
 そこで本報では,腐食発生場所を限定した特殊構造の貯水円筒タンクを61日間屋外に設置し,腐食によるAEを底板センサと側壁センサでモニターし,音源位置を標定した。大気錆成長によるAEが検出できること, 発生数は腐食量とともに増加すること,底板センサを用いれば位置標定精度が良くなることなどを報告する。

 

原稿受付:平成15年4月25日
 青山学院大学理工学部 (神奈川県相模原市淵野辺5-10-1)Aoyama Gakuin Universityversity

 

コンクリート構造物の自動検査のための信号処理
   鳥越 一平/森  和也/Andrea SPAGNOLI

Signal Processing Procedure for Non-destructive Test of
Concrete Structure Integrity
Ippei TORIGOE*, Kazuya MORI*and Andrea SPAGNOLI**
Abstract
In a previous report we proposed a new non-contacting non-destructive method for detecting cracks in concrete structures utilizing an impact by shock waves and vibration detection by LASER vibrometers. It has been found that a shock wave excites a flexural vibration in the concrete plate above shallow cracks and results in an exponentially decaying sinusoid in the vibration signal. In the present article a signal processing procedure for testing the concrete integrity is proposed. The method automatically detects an exponentially decaying sinusoid, that is, a flexural vibration of the concrete surface. The velocity signal is first segmented into successive frames. In each frame, the signal is analyzed using the linear prediction model (AR model) and the prediction error normalized by the signal power is calculated. This error indicates the degree to which the signal is modeled in the form of an exponentially decaying sinusoid, and the presence of sub-surface flaws in the concrete can be determined from its value. When a flexural vibration (a defect in concrete) is detected, its frequency is estimated by solving a modified Yule-Walker equation or using FFT. The proposed procedure was applied to computer-generated signals and actual vibration signals, and the success of the procedure was verified.
Key Words Concrete structure integrity,Shock wave,Flexural vibration,Exponentially decaying sinusoid,Linear prediction



1. はじめに
 圧力波を用いたコンクリート構造物の欠陥検査を自動化するための信号処理法について述べる。
 1999年6月の山陽新幹線福岡トンネルにおけるコンクリート塊落下事故を引き合いに出すまでもなく,各種のコンクリート構造物の内部欠陥を効率よく検 出する方法の開発は喫緊の課題である。コンクリート構造物の劣化診断技術として様々な手法が研究されているが1),2),ハンマーでたたいて音を聴く「打 音法」は,現場では今もって廃れていない。これは,打音法が,極めて簡便である上に,ある種の欠陥を確かに検出できるためである。しかし,従来の打音検査 は,打撃手段と診断を検査者の経験や勘に頼っているために,検査効率が低く検査結果の定量化が困難であるという弱点を持つ。このため,打音法を自動化ある いは高度化しようとする各種の試みが行われており,筆者らも,衝撃波管によって圧力波をコンクリート壁面に照射し,このときの壁面の振動をレーザードップ ラー速度計で測定して,壁面の振動波形から壁内部の欠陥を検出する方法を提案した3),4)。これまでに,(i)内部に欠陥のあるコンクリート壁面では, 圧力波の力積によってたわみ振動が励振され,壁表面の振動波形に減衰正弦波が現れること,(ii)この減衰正弦波の振動周波数は,内部欠陥の大きさと深さ の関数であること,(iii)同じ対象の表面にハンマーを用いて打撃を加えた場合に現れる減衰正弦波の振動周波数が圧力波の場合と一致すること,などが数 値解析および模型実験によって確かめられた。これらの結果は,打音法における「ハンマー」と「人の耳」に代わって,圧力波とレーザードップラー速度計を利 用しうることを示唆している。
 ところで,圧力波によって励起されるたわみ振動が現れるタイミングは,衝撃波管と壁面の距離や衝撃波管の作動条件に依存する。また,後に示すように, レーザードップラー速度計の出力波形には,たわみ振動に先立って,衝撃波に起因する広帯域の不規則な雑音が現れる。先の報告では,いったん取り込んだ振動 速度信号から,減衰正弦波の部分を目視によってオフラインで切り出して処理を行った。
 さらに,打音検査を自動化して効率よく欠陥検査を行うためには,検査位置の走査が必須となる。レーザードップラー速度計を走査しながら使用すると,壁面 が振動していなくても,コンクリート壁面の凹凸のために等価的な速度信号が発生し,本来の壁面の速度信号に雑音として重畳することになる。この事情は,打 音手段として衝撃波管以外の手段を用いた場合でも同じである。振動検出にレーザードップラー速度計を用いたシステムを走査する場合,雑音の重畳した信号か ら,たわみ振動に対応する減衰正弦波を分離する処理が必要となってくる。
 本報告では,信号中に減衰正弦波が現れたことを自動的に判別し,更にその時刻の信号から減衰正弦波の瞬時周波数を測定する信号処理について述べる。先の 報告3),4)の方法と本法を組み合わせれば,コンクリート構造物の打音検査の全要素を機械化・電子化することが可能となる。

 

原稿受付:平成15年6月18日
 熊本大学工学部(熊本県熊本市黒髪2-39-1)Faulty of Engineering, Kumamoto University
 Department of Civil and Environmental Engineering & Architecture,University of Parma, University of Parma (Parma, Italy)

 

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