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機関誌

2003年度バックナンバー巻頭言1月

2003年1月1日更新

巻頭言

「新年のご挨拶」 小林英男 

新年明けましておめでとうございます。会員の皆様には良い新年をお迎えのこととお慶びを申し上げます。
本協会は旧年で創立50周年を迎え,10月23日に記念式典と祝賀会を開催しました。
同時に,日・韓・台の3国による第6回極東非破壊試験会議を10月21日から24日の間に開催しました。これらの行事は成功裏に終了し,まさに本協会の創立半世紀の節目を祝うにふさわしい盛大なものでした。改めて,会員の皆様のご 協力とご支援に厚くお礼を申し上げます。
さて,創立半世紀という長い期間の区切りの機会に,21世紀へ向けて,本協会の新しい展開の指針を,会員の皆様とともに構築する必要があると考えます。
具 体的には,旧年の非破壊検査8月号の巻頭言で会長就任にあたって,安全性の確保と寿命延伸を目的とした検査システムの再構築として,4つの提案をしました。さらに,非破壊検査12月号の巻頭言で,東電問題等に端を発した維持規格とそれに関わる技術課題への取組みを提言しました。
言うは易し,行いは難きで,会長就任以来半年を経過しても,提言の実行に向けた具体的な行動を起こしていないことを深く反省しています。
新年にあたって,ここに再び提言を掲げ,会長の任期中に,提言の実行に向けた具体的な行動を起こすことを公約致します。
(1)検査システムの再構築と維持規格への関与
(2)リスクベース検査の実行
(3)評価と診断の権限の獲得
(4)ヘルスモニタリングの開発
会員の皆様のご理解とご支援をよろしくお願い申し上げます。
 終わりに,会員の皆様のますますのご発展を祈念して,新年の挨拶とさせて頂きます。

* 日本非破壊検査協会 会長
 東京工業大学 大学院 理工学研究科 機械物理工学専攻 (152-8552 東京都目黒区大岡山2-12-1)教授。
 1965年3月武蔵工業大学工学部卒業。1965年4月東京工業大学に勤務。工学博士。破壊力学,破壊制御設計,破壊事故解析,
 リスク工学,ヘルスモニタリング,圧力容器規格制定などの教育・研究・活動に従事。

 

解説 最近の超音波探触子II

「最近の超音波探触子II」  企画にあたって



非破壊検査・評価において,超音波法は最も広く用いられており,そこでの探触子は最も重要な構成要素であることは,昨年11月号の巻頭言で編集委員 会委員長が述べられているとおりである。最近のエレクトロニクスの進歩により,高性能な送信器や増幅器の実現,また,かなり高度な信号処理の実現が低価格 で可能となっており,ともすると,これらの技術で検査・評価システムの性能が上がったとか,信号処理をすれば何とかなるとか言った思いも生まれやすい。し かし,物理的な情報を集める探触子の性能向上やその特性の理解なくしてシステムの向上はありえない。 本特集は,今まで現れた探触子を隈なくとりあげ,その問題点,可能性について整理し,新たな発展の糧 に供そうという目的で提案し,検討を始めたが,そのような大それたことは,紙面の制約だけでなく,担当の小生の浅学と経験不足から適わないものとなった。 しかし,基本的なものと特定の用途のものとをとりあげ,探触子の現在の動向を示すことはできたと考えている。すなわち,前回の「超音波探触子I」では,圧 電高分子探触子,高分解能探触子,アレイ型探触子,エアカップリング探触子を,今回の「超音波探触子II」では,SH波用探触子,溶接部検査用探触子,低 周波探触子,板波用探触子をとりあげている。 SH波は,以前よりその振る舞いが注目されていたが,実用的な送受信方法がなく,活用されていなかっ た。電磁超音波法によれば,SH波の送受信は比較的容易に実現できるが,感度など性能上の問題から汎用的には使われていない。近年,使いやすい接触媒質と 探触子構造の開発により実用に近づいた。これにより,今まで困難であったT継ぎ手溶接部の溶け込み不良の検査などが容易にできるようになってきている。 溶接部に関して,以前より,横波斜角法が使われているが,探傷面近傍のきずの検出や縦方向のきずの寸 法評価などが不十分であった。その解決のため,クリーピング波や表面SH波の利用,集束探触子やアレイ探触子を用いたビームの制御技術,また,TOFD法 などが用いられ,それぞれに適した探触子が使われるようになってきている。 コンクリートなどの非均質な材料,超音波減衰の大きい材料におけるパルスエコー法では,不要な反射の 抑制やS/Nの向上のために数十kHzないし数百kHzの低周波探触子が用いられているが,十分な特性を得ているとは言い難かった。そこでコンクリート内 部の空洞の共振現象に注目し,それを捉える方式が開発されている。そこでは,金属磁歪素子を用いた可聴帯域の探触子が用いられている。  板波は,一点から広い範囲の探傷が可能であるため,薄板の高速探傷やパイプの検査などに使われてい る。特に,薄板の高速探傷のためのタイヤ探触子は,高品質な鋼板を生み出す一端を担ってきたと言えるが,近年,鋼板や需要の広がっているアルミ板は,さら に薄くなり,検出を要求される欠陥の寸法が小さくなっている。これに応えるためにタイヤ探触子の改良開発が試みられているが,感度や,伝播媒質の使用,板 厚方向欠陥位置の評定などの課題もある。 本特集の解説では,それぞれの分野で,必要な情報は何か,その情報と絡む物理現象は何か,その情報を いかに取得するかについて知ることができると思います。この中のいくばくかでも,各探触子の適用範囲の拡大,新たな探触子や検査法の開発,探触子技術と ディジタル信号処理やエレクトロニクス技術との連携によるより良い探傷システムの開発に役立てば幸いである。最後に,ご多用中,快くご執筆くださった方々に感謝いたします。

*特集号編集担当 鳥取環境大学 實森彰郎

 

SH波用探触子とその応用
   池ヶ谷 靖 (株)ジャスト

Application of the SH Wave Transducer
Sei IKEGAYA Japan Ultra-Sonic Testing Co.,Ltd..
キーワード 表面SH波探傷法,SH波探触子,SH波用接触媒質,きず検出,腐食検出



1. はじめに
溶接部の超音波探傷は,通常横波による斜角探傷試験が用いられる。その場合,図1 に示すように,振動子で縦波を発生し材料に超音波が入射する際に横波に変換される方式を用いる。この振動方向の横波はSV波と言われ,SV波による斜角探 傷法は溶接部の欠陥検出に多くの成果があり,溶接継手の品質向上に大きく寄与した。
しかし,近年の建築鉄骨では,多用されるレ形裏当て金付T継手において,図2に示すように,ルート部 のI形の溶込み不良がSV波では検出できなかったり,形状エコーと欠陥エコーの判別ができなかったりする事例が報告され,さらに,現場溶接部の下フランジ のスカラップ部近傍では溶接欠陥発生の可能性が大きいが検出できない問題がある。
そのような問題を解決するため,表面SH波探傷法が提案され実用的な探傷方法となっている。
SH波斜角探触子(45°〜70°)自体は古くからあったが,斜角探傷の特長である前後走査による欠陥位置の同定が,接触媒質の問題で実用的に行うことができず,さらに安定して超音波を伝搬させる接触媒質がなかったため,ごく一部の実験でしか用いられていなかった。
直接接触法による表面SH波探傷法が実用的に行われるようになった背景には,?表面SH波法によって探傷面に垂直なきずがよく検出される,?比較的安定した 接触媒質が開発された(当初は水あめを用いたこともあった),?短時間でエコー高さが安定するシューが開発された,?SV波で探傷困難なきずをSHで容易 に検出できる等のことがある。
筆者は溶接部の探傷で,直接接触法による表面SH波探傷法を用いているため,その分野におけるSH波用探触子とその応用について述べる。


 

 

溶接部検査用探触子
    南  康雄 日本クラウトクレーマー(株)


Weld Inspecting Probe
Yasuo  MINAMI  Krautkramer Japan Co., Ltd.
キーワード 溶接部,クリーピング波,集束斜角,表面SH波,コンポジット,TOFD用,フェイズドアレイ



1. はじめに
溶接部の探傷においては,横波斜角探触子が多く用いられてきたが,探傷面近傍のきずの検出,きずの板厚方向の寸法測定,検査の効率化等の要求に対しては満足できる結果を得ることが困難であるのが現状である。
これらの要求に対し研究がなされ,以下に示す探触子が開発され適用が進んできた。
本解説では,これらの探触子の原理及び適用方法などについて紹介していく。
(1)クリーピング波探触子
(2)集束斜角探触子
(3)表面SH波探触子
(4)コンポジット斜角探触子
(5)TOFD用縦波斜角探触子
(6)フェイズドアレイ探触子

 

 

 

 

低周波探触子とその応用−金属磁歪素子を用いた低周波弾性波法によるコンクリート構造物診断−
  服部 晋一/島田 隆史/亀山 俊平 三菱電機(株)  松橋 貫次 (有)松橋テクノリサーチ

Low Frequency Acoustic Probe Using a Metal Magnetostrictive Device and
Its Applications Shinichi HATTORI, Takashi SHIMADA, Shumpei KAMEYAMA Mitsubishi Electric Corporation
and Kanji MATSUHASHI Matsuhashi Techno Research
キーワード 低周波,探触子,弾性波,金属磁歪,コンクリート構造物,診断



1. はじめに
新幹線トンネル剥落事故等,第三者被害の可能性が現実化し,コンクリート内部の状況をより定量的に把握する手法への関心が高まっている1)。 音響によるコンクリート構造物の内部診断手法としては,これまで打音法が多用されてきた。この理由はハンマの打撃音から容易に結果を出せ,また必要に応じ 浮き等欠陥部をその場で叩き落としができるメリットがあるからであるが,熟練度による個人差や,判定上の尺度の問題があり2),結 果にバラツキが生じる可能性がある。同じく音響を使った診断として超音波法があるが,分解能が高く,精度が高い反面,鉄筋・鉄骨の影響を受けやすく,深部 に至る計測で課題を残している。このため筆者らは両者の方式を補完する診断手法として,低周波音響による診断を取り上げ,検証を進めてきた。これは高精度 化とは一見逆の方向と思われるが,内部欠陥で脆弱化した構造が低周波の固有周波数をもつことに注目し,その共振現象を誘起することにより欠陥の諸特性を定 量的に検知しようとするものである。特に可聴周波数帯域(20kHz以下)の音響を利用することにより打音法の帯域での定量化と,超音波法で課題の浸透性 の改善を図っている。本稿では低周波帯域を対象に開発した金属磁歪型の探触子3)と,これを使った検査手法の原理,さらに応用例について紹介する。

 

 

 

板波探傷用探触子
   武藤 伸之 住友軽金属工業研究開発センター

Improved Probe for Lamb Wave Ultrasonic Testing
Nobuyuki MUTOH Sumitomo Light Metal Industries, Ltd. Research & Development Center
キーワード 板波法,探触子,超音波探傷試験,圧電素子,欠陥,アルミニウム合金,非金属介在物,薄板



1. はじめに
板波探傷は,探触子を走査することなく被検査材を広範囲に検査する,効率的な非破壊検査法として知られ,板および管材料の検査に実用されている1),2)。板波探傷技術の板材への適用は,1960年から1970年代前半にかけて,薄板鋼板探傷の実用化など活発に研究・開発がなされ3),その後現在に至るまで,探傷モードの最適化4)や探触子の改良5),6)に関する報告などなされたが,以前の盛況さはみられない状況である。一方,板材以外の探傷や検査への板波利用は,管の腐食による減肉検査7),複合材の検査およびr値の材料物性検査8)など板波モードでのEMAT技術の応用として盛んに研究開発がなされた。しかし,変換効率が低いEMATは,微小欠陥の探傷には検出感度が低く,その適用例はほとんどない。そこで,変換効率が高い圧電変換器を用いた,走間型板波探触子であるタイヤ型探触子に着目し,検出分解能の向上や安定性の追求を行った。本稿では,アルミニウム帯板(板厚0.25〜0.35mm)の内部介在物検査9),10)を対象とした,微小欠陥の板波探傷技術改良事例を中心に解説する。


 

 

論文

ラム波伝播速度変化を利用した繊維強化定量モニタリングおよび位置標定精度向上
   遠山 暢之/岡部 朋永/高坪 純治/武田 展雄


Quantitative Monitoring of Transverse Crack and Improvement of Source Location Accuracy in Fiber
Reinforced Plastics Using Change in Lamb Wave Velocity
Nobuyuki TOYAMA*, Tomonaga OKABE*, Junji TAKATSUBO* and Nobuo TAKEDA**
Abstract

This paper investigates the effect of transverse cracks on the S0 mode velocity in GFRP and CFRP cross-ply laminates. We propose a new quantitative monitoring method for transverse cracks and an AE location method that considers the change in the S0 mode velocity caused by these cracks. We found experimentally that the stiffness and velocity decreased as the transverse crack density increased. Analytical predictions deduced from the combination of the complete parabolic shear-lag analysis and the classical plate theory were in good agreement with the experimental results. Utilizing this relationship between the velocity and the mechanical damage, we were able to monitor quantitatively the transverse crack density during the tensile tests and locate precisely AE sources of the cracks by the calculated in-situ velocity. The present method is simple but quantitative and useful in monitoring and localizing the damage in composite structures.
Key Words Lamb wave, Wave velocity measurement, Acoustic emission, Source location,Fiber reinforced plastics,Transverse crack



1. 緒言
繊維強化プラスチック(Fiber Reinforced Plastics, FRP)は軽量でかつ高強度,高剛性を有することから,航空機および宇宙輸送機の一次構造部材としての適用が本格化されようとしている。これに伴い,構造 体の高信頼性化およびメインテナンスコストの削減のために,ヘルスモニタリング技術に関する関心が高まり,欧米を中心として研究開発が盛んに進められてい る。
通常,FRPは積層板として用いられるが,引張り負荷によって容易にトランスバースクラックが生じる ことが問題視されている。すなわちトランスバースクラックが生じても直接的な最終破断には至らないものの,剛性低下による寸法安定性の低下が引き起こされ る。また宇宙輸送機の液体水素タンク用構造部材として用いた際に,トランスバースクラックが液体水素のリークパスになることが報告されている1)。そのため,トランスバースクラックが剛性低下に及ぼす影響に関する解析手法2)−5),圧電センサや光ファイバセンサ6),7)を用いたトランスバースクラックの非破壊モニタリング手法の開発が進められている。
ここで,薄板を伝わるラム波は複数の伝播モードを有し,さらに伝播速度の分散特性を有するため,複雑な波形として検出される。しかし,その伝播速度が面内剛性係数に依存し,比較的長距離に渡って伝播することから8),ヘルスモニタリング技術の一手法として有力になってきている。ラム波伝播速度を用いた研究例としてはFRP積層材におけるトランスバースクラック9)−11)やFRP,アルミニウム合金製構造部材のリベット部から発生する疲労き裂のモニタリング12),13)な どが挙げられる。それらの中で損傷の累積あるいは進展に伴い,伝播速度が低下することは報告されているが,定性的であり,損傷の定量評価には至っていな い。ヘルスモニタリング技術として位置づけられるためには,比較的容易な計測システムでかつ損傷の定量評価が可能であることが不可欠である。  
またAE(AcousticEmission)法は高感度でかつ位置標定が可能であることから,幅広く用いられている手法である。FRP積層材についてもAE波形解析による損傷タイプの識別14),15),トランスバースクラックの位置標定16),17)などについて報告されている。ここで,FRP積層材の破壊は累積損傷過程を経るため,多数の損傷の位置標定を行うにあたって,既存の損傷によって伝播速度が変化することを考慮しなければならない18)。しかし,いずれの研究においても一定の伝播速度を用いており,損傷による伝播速度の変化を考慮に入れた位置標定の報告例はない。
以上のことから、本研究ではまずGFRPおよびCFRP直行積層材に生じるトランスバースラックがヤング率およびラム波伝播速度におよぼす影響を実験的に調 べる。さらにシアラグ解析と古典プレート理論を用いて、その影響を定量解析するとともに、実験値との比較を行い、解析手法の妥当性を検証する。それらの知 見を基に、ラム波伝播速度によるトランスバースラックの定量モニタリング手法およびその場伝播速度を用いたトランスバースラックの一評定手法を新たに提案 する。

 

 

原稿受付:平成14年3月20日
 産業技術総合研究所 スマートストラクチャー研究センター (つくば市梅園1-1-1)
  Smart Structure Research Center, National Institute of Advanced Industrial Science and Technology
 東京大学大学院新領域創成科学研究科    Graduate School of Frontier Sciences, Department of Advanced Energy, The University of Tokyo

 

4探針法による高周波焼入れ深さの非破壊評価
   武尾 文雄/中島佳奈子

Application of Four-Point Probe Method to NDE of Case Depth on the Surface of Steel Hardened
by the Induction Hardening Process
NobuyukiFumio TAKEO* and Kanako NAKAJIMA*
Abstract
A way of evaluating case depth on the surface of steel hardened by the induction hardening process was proposed. Change in electrical resistivity due to hardening was measured using a four-point probe method. Assuming the hardened material to be a two-layer structure with different resistivity, an analytical solution obtained for a flat two-layer structure was used. The procedure to evaluate case depth using the potential drop measured with two sensors that differ in the probe spacing was shown. This method was applied to a shaft-like specimen that is often treated by the induction hardening process. When the diameter of a shaft is small in comparison with the probe spacing, the shape effect cannot be ignored. A simple way of considering the shape effect was proposed. This method was applied to specimens with different diameters and its validity proved. Considering the shape effect is thus important in evaluating case depth of shaft-like materials.
Key Words Four-point probe method, Steel, Resistivity, Case depth, Induction hardening process



1. 緒言
軸や歯車などの機械部品には,耐磨耗性の向上などを目的として高周波焼入れによる表面硬化が行われているものがある。
これら高周波焼入れ部品の品質管理を行う上で,焼入れ深さは不可欠な情報である。焼入れ深さを求めるにあたり,現場では製品から抜き取ったサンプルを切断し,断面における硬度分布を実測する破壊試験が多く行われている。
しかし無駄な廃棄部品が生じるのはもちろん,切断に時間を要するためタイムリーな検査が困難1)であり,焼入れ深さを簡便に非破壊評価する方法の開発が望まれている。
焼入れ深さの非破壊評価法としては,これまで超音波1),磁気2)−3),渦電流4),電気抵抗変化5)などを用いた方法が研究されている。しかし装置の大型化や測定精度,材料ごとに校正曲線を作成する必要があるなどの課題を残しており,広く普及するには至っていない。したがって現状では,先に述べた破壊試験が主流となっている。
ところで電気抵抗変化を用いて焼入れ深さを非破壊評価する方法は,4探針法6)を応用したものである。4探針法とは,4本の探針を材料に接触させ,外側2本の間に電流を流したときに内側2本の探針間に生じる電位差を測定し,
これをもとに材料の抵抗率を求める方法である。 近年JIS K7194およびJISH0602に規格化され,シリコンウエハや導電性プラスチック等を対象に利用されている。4探針法は,装置が小型で比較的安価であり,操作も簡単で熟練を要しないという特徴を有する。同方法は直流を用いるため,鉄鋼材料に見られる透磁率の不均一によるノイズなどは発生しないという利点もある。
上述のように4探針法は現場での利用に適している。そこで本研究では,4探針法により簡便に焼入れ深さを非破壊評価する方法について検討した。4探針法によって焼入れ深さを評価する最も単純な方法は,事前に検査対象と同一の材料・寸法で種々の焼入れ深さ の対比試験片を製作し,校正曲線を求めるものである。しかし対比試験片の製作が容易ではなく,同一材料でも焼入れ条件によって表層の硬度に差が生じる場合 もある。一方,対比試験片を製作することなく,焼入れ深さおよび焼入れ前後の抵抗率を推定する方法が示されている5)。しかし,同 方法によって実際に焼入れ深さを評価した例は著者の知る範囲では見当たらない。同方法の原理は,地質学の分野で用いられる電気探査法と同一である。すなわ ち理論的に求めた標準曲線群と種々の探針間隔で測定したデータを同一のスケールで重ね合わせ,最も一致する標準曲線を探し出すというものである。したがっ て正確に評価するためにはより多くの探針間隔で測定する必要があるが,実用上は測定回数が少ない方が望ましい。また地質探査の場合と異なり,高周波焼入れ 部品では形状や寸法の影響が電位差に顕著に現れる場合も多くある。
本報では4探針法によって比較的容易に測定可能な焼入れ前の母材の抵抗率は既知であるとして,2種類 の探針間隔による測定値から焼入れ深さを評価する方法を試みた。対象としては高周波焼入れが施されることの多い軸部品を取り上げた。探針間隔に対して軸の 直径が小さくなると,形状の影響を無視することができなくなる。ここではその影響を簡便に考慮する方法も提案する。

 

 

原稿受付:平成14年5月10日
 八戸工業高等専門学校(八戸市田面木字上野平16-1)Hachinohe National College of Technology

 

資料

心音センサを用いた心拍・呼吸の無拘束無侵襲計測−準大域的パターンマッチングによる計測−
   松本 佳昭/土本健太郎/田中 正吾

Unconstrained and Non-invasive Measurement of Heartbeat and Using a Phonocardiographic Sensor −
Measurement through Quasi
-Global Pattern Matching −
Yoshiaki MATSUMOTO*, Kentaro TSUCHIMOTO** and Shogo TANAKA**
キーワード 心拍,呼吸,心音センサ,無拘束,無侵襲,パターンマッチング



1. 緒言
就寝中の生体情報の中で心拍や呼吸は健康の指標として重要であり,近年,在宅健康管理のための心拍・呼吸の無拘束計測システムの研究・開発が活発になされている1),2)。
この観点から,筆者らも,心音センサを用いた心拍および呼吸の無拘束健康モニタリングシステムを提案してきた3)−5)。これは,心音センサ6)を 端部に貼り付けたエアーマット(あるいはエアー枕)の上に寝るだけで,被検者の心拍と呼吸が計測できるものである。このシステムでは,安静時,心拍と呼吸 の平均周期および瞬時周期が臥位や着衣によらず高精度に計測でき,イビキ時でも平均心拍周期や瞬時呼吸周期が高精度に計測できることを報告した。
しかしながら,平均周期計測では,心拍,呼吸共に自己相関関数を用いており,高精度な計測ができる反 面,長いデータウィンドウを必要としていた。また,心拍の瞬時周期の計測においては,イビキなどの雑音によって計測精度が極端に悪化したり,計測が困難に なるなどの問題があった。
そこで,本研究調査資料では,心拍や呼吸が局所的にはほぼ一定周期で繰り返されていることに着目し, 心音センサ出力から全波整流とバンドパスフィルタで抽出された心拍および呼吸信号成分を,それぞれの基本周波数とそれらの整数倍の周波数の正弦波の一次結 合で近似し心拍と呼吸周期をそれぞれ計測する手法を提案し,これによって上記の問題点が解決されることを報告する。
つまり,今回提案のシステムでは,まずイビキの有無にかかわらず,心拍や呼吸周期が共に高精度に計測 できるようになり,かつ計測精度を前回の方式から劣化させることなく,データウィンドウ長を(1/3)倍程度に短縮できるようになったこと。次に,心拍や 呼吸共に,平均周期,瞬時周期の区別をせずに,瞬時周期に極めて近い周期計測ができるようになったことである。
これらの利点は,結局のところ,今回の方式がセンサ出力を適切に処理して得た波形との関数的パターン マッチングの方式のため,一般の医用機器のように心電図のR波のピーク間隔や呼吸波形のピーク間隔の幾つかを用いて平均周期を求めるのと異なり,ピーク間 隔の途中でも自由にデータウィンドウを設定することができ,そのため応答性が良く,かつセンサからの情報を効率的に使用することができるようになったから である。

 

 

 

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