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機関誌

2009年度バックナンバー2月

2009年2月1日更新

巻頭言

「非破壊検査技術の保守検査への適用例?」特集号刊行にあたって

 我が国の石油精製・石油化学プラント等は,1960年〜1970年頃に建設された設備が多数を占めており,しかも,現在も現役として稼動しています。それ らの設備は,設計時点で考慮していたよりも,長期間の運転を続けているために,高経年化・老朽化が大きな課題となってきています。
 プラント設備の老朽化のなかで,特に問題となっていることの一つが,機器・配管等に発生する外面腐食の問題です。どうしても,プラントは海岸近くに建設 されているために,海塩粒子の飛来によって,常に腐食による損傷を受け易い環境にさらされているのです。特に配管は,他の部分に比べ,外面腐食による損傷 が起こりやすく,部位によっては,顕著な錆こぶを伴った腐食が発生している場合があります。
 こうした配管の外面腐食において,現在,本当に困った問題となっているのが,保温材付きの配管の場合,すなわち,保温材下の外面腐食 (Corrosion Under Insulation)の問題です。保温材下の場合,保温材シールの劣化のために,外面腐食が局所的に発生するのです。つまり,保温材シールの劣化あるい は開口部分や,構造的に不連続な箇所から,雨水が保温材と配管との隙間に浸入するために局部腐食が発生するのですが,浸入水分は,溶存酸素や大気からの塩 粒子,あるいは保温材からの塩化物等の不純物の混入によって,その電気伝導度が上昇するなどして,腐食性が増すのです。また,これらの保温材下の腐食は, かなり広い温度範囲(−4℃〜150℃)において発生します。 
 保温配管の外面腐食状態を十分に把握するためには,保温材を全長にわたって解体して検査する必要がありますが,そのような解体・復旧及び足場組立等の作 業量を考えれば,その保全コストが膨大となってしまいます。したがって,現時点では,効率を考えて,抜取検査によって外面腐食状況を把握しているのが実情 です。しかし,抜取検査では,配管のどこに外面腐食が発生しているかを的確に見つけ出すことは困難であり,様々な設備で,腐食による配管の漏洩トラブルが 頻繁に発生しているのです。
 これらのことから,現在,保温材を解体せずに,保温材の上から腐食状況を検査する方法の開発が進められているわけですが,いまのところ,一次スクリーニ ング技術として適用できる方法はあるものの,十分な精度をもった検査法がないのが現状であり,ユーザー・サイドとして,このような保温材下の腐食を精度よ く検査できる方法の開発が,強く望まれているのです。
 今回の特集は,現場での地道な努力によって,最近になってようやく導入あるいは開発された設備診断技術を紹介したものであります。第1弾(第49巻3 号),第2弾(第50巻6号),第3弾(51巻10号),第4弾(第52巻11号),第5弾(第55巻3号),第6弾(第56巻5号)及び第7弾(第57 巻3号)にて企画した「非破壊検査技術の保守検査への適用例」シリーズの第8弾にあたります。
 シリーズ第8弾の今回は,上に述べたことに関連して,まず「保温配管のスクリーニング腐食検査(Thru-VU)」をとりあげ,さらに「タンクAE計測 における各種ノイズに関する検討」,「ボイラ設備用配管溶接部のき裂測定技術開発」ならびに「フォーカス機能を持った最新のガイド波技術と適用事例」を加 えて,特集企画としたものです。
 これら4件の解説記事どれも,読者に分かり易く書かれています。本特集号が,読者のご参考となれば幸いであります。

*特集号編集委員  四辻 美年

 

解説 非破壊検査技術の保守検査への適用例?

保温配管のスクリーニング腐食検査(Thru-VU) 白石 時宜 (株)シーエックスアール

Screening Corrosion Inspection for Thermal Insulation Piping(Thru-VU)
Tokiyoshi SHIRAISHI CXR Corporation

キーワード 非破壊検査,腐食,放射線,デジタルラジオグラフィー



1. はじめに
 高度成長期以降に建設された施設が建設後,30〜50年程度経過し,老朽化により思わぬ部位に腐食が発生し,その状況全てを把握することが困難な状況と なっていることから,2007年11月20日に愛知県主催による「愛知県高圧ガス保安セミナー」において「高圧ガス配管の腐食・劣化診断技術」というタイ トルで講演を行った。
 今回はその時の資料を基に,スクリーニング腐食検査ツールのThru-VUを紹介する。

 

 

 

 

タンクAE計測における各種ノイズに関する検討  中村 英之  荒川 敬弘 (株)IHI検査計測

Study of Noises in AE Measurement of Tanks
Hideyuki NAKAMURA and Takahiro ARAKAWA IHI Inspection & Instrumentation Co., Ltd.

キーワード 石油タンク,タンク底板,腐食評価,AE,ノイズ, 液滴ノイズ



1. はじめに
 日本国内の石油貯蔵設備の多くは,建設から30年近い年月を経て,老朽化が進み漏洩事故に対するリスクが高まりつつある1)。近年,これらのリスクを簡 便に評価する手法としてAE法によるタンク底部の腐食損傷評価技術に関する研究が複数の研究グループで進められてきた。
 AE計測によるタンク底部腐食評価は,欧米では1990年頃より適用され始め,既に数千基の適用実績があるが,国内でも,各方面で検討が進められ2), また日本高圧力技術協会規格HPIS G 110 TR 2005「AE法による石油タンク底部の腐食損傷評価手法に関する技術指針」3)も2005年に制定されるなど適用の機運も高まってきている。
 本評価技術では,AE計測の測定精度に影響する最大の要因として,種々の原因で発生するノイズが挙げられるが,損傷に伴う信号にノイズが加算されること により実際の腐食状況より過大に評価する結果となる。計測データにノイズが混入する場合は,安全サイドの評価となりグローバル診断を行うことは可能となる ものの経済性および本診断技術の信頼性を大きく損なう要因となることから,腐食に伴う信号とノイズを積極的に識別するとともに除去することが肝要である。
 本稿では,筆者らがこれまでに試みたタンクAE計測における各部ノイズの影響と対策について紹介する。

 

 

 

ボイラ設備用配管溶接部のき裂測定技術の開発について
   向野 英之 東亜非破壊検査(株)   北川 秀昭/楠元 淳一/金谷 章宏 九州電力(株)

Development of Crack Measuring Technology for Pipe Welds of Boiler Facilities
Hideyuki KOHNO TOA NONDESTRUCTIVE INSPECTION CO.,LTD.
Hideaki KITAGAWA,Junichi KUSUMOTO
and Akihiro KANAYA KYUSYU ELECTRIC POWER CO.,INC.

キーワード ボイラ,超音波,フェイズドアレイ,疲労き裂高さ,タイプ?き裂



1. はじめに
 近年,火力発電設備の高経年化が進んでいる。電力の自由化に対応するためには発電コストを低減する必要があり,修繕費節減,長寿命化を図る目的から,き 裂を有する損傷部材でもその健全性が評価出来れば修理を必要とせずに運用するという考え方が今後主流となってくる。これを実現するためには,発生したき裂 等を早期に,かつその程度を定量的に計測する必要があり,各種損傷に応じて適切な探傷方法を用いて検出精度を向上させることが求められている1)。
 主蒸気管や再熱蒸気管溶接部に発生するクリープ損傷に起因したType?き裂は,溶接継手部のHAZ細粒域に内在して発生し,き裂進展方向はHAZ部と 平行であり,通常のパルス反射法による超音波探傷方法では,検出しにくく,き裂高さの測定が困難である。今回,フェイズドアレイ超音波法を適用 し,Type?き裂を模擬して内在させたき裂先端が閉じた疲労き裂の検出及び高さ測定精度評価を行ったので,その概要について報告する。

 

 

フォーカス機能を持った最新のガイド波技術と適用事例   横野 智明 (有)テイテイエス

Introduction of Latest Technology and Application
of Guided Wave Inspection Method (LRUT) with Focus Function
Tomoaki YOKONO TTS Ltd..

キーワード ガイド波,ロングレンジUT,スクリーニング,配管検査,外面腐食



1. はじめに
 1990年代後半に,長距離配管の全面スクリーニング検査を目的としたガイド波検査技術(ロングレンジUT検査技術)が市場に登場1),2)してか ら,10年が経過しようとしている。プラントの老朽化にともない,近年,配管等のトラブルが増加しており,プラント全体の設備・配管等の健全性評価が急が れる中,ガイド波検査技術は,膨大な量の配管の1次スクリーニング検査技術として認知され活用されてきた。特に,長距離保温配管の外面腐食検査やタワー オーバーヘッド配管などの立ち上がり配管検査,ラック配管のサポート接触部検査や防液堤貫通配管検査など,ガイド波の特徴を生かし,検査そのものよりも検 査付帯工事が膨大になりがちな用途での適用例が多い。
 ガイド波検査技術は,腐食減肉などによる配管断面積の変化箇所における,音響インピーダンスの変化によってガイド波が反射する性質を利用しているため, その反射波の振幅の大きさは,配管断面欠損率に依存している。(図1) そのため,従来のガイド波技術では,配管断面欠損率に基づいたフォローアップ検査 の優先順位づけはされていたが,同じ断面欠損率でも広く浅い減肉なのか局所的で深い減肉なのかといった評価は不可能であった。
 この度,ガイド波技術を応用した新技術として,ガイド波のフォーカス機能を有したシステムが開発され,腐食の詳細な評価が可能になった。本稿では,ガイド波のフォーカス機能の原理や特徴,実フィールドの適用事例などについて解説する。

 

 

 

論文

非共軸ホプキンソン棒法の測定精度に及ぼす試験片の拘束条件,寸法の影響とその改善
  楳田  努/三村 耕司

Effect of Constraint Condition and Dimensions of Specimen
on Measurement Accuracy of Non-Coaxial Hopkinson Bar Method
and Improvement of Its Measurement Accuracy

Tsutomu UMEDA* and Koji MIMURA*


Abstract


The high measurement accuracy, in obtaining the stress-strain relation under high-speed tension, is required for the designs and numerical simulations of transports based on accurate modeling of this relation at various strain-rates. The non-coaxial Hopkinson bar method (NCHBM) is one of the techniques recently proposed for the high-speed tensile test, and is a simple extension of the Hopkinson bar method (HBM), which is the technique most widely used for the dynamic compression test. The apparatus, based on NCHBM, easily gives high strain rates while keeping the measurement accuracy because of its simplicity. In this study, firstly, the effects of the constraint condition (the reinforcement with adhesive) and the dimensions of the specimen on the measurement accuracy were investigated by experiment. Then, the direct measurement of both stress and strain was performed to examine the exact stress-strain relation as compared with that obtained by the usual NCHBM. Furthermore, some concrete approaches for the improvement of the specimen fixation were evaluated by the finite element method (FEM) simulation, in which the whole finite-element models of the apparatus and the plate-type specimen were constructed in detail. The target material is SUS316 stainless steel.

Keyword High-speed tensile test, Non-coaxial Hopkinson bar method, Stress−strain curve,
Measurement accuracy, Stress wave



1. 緒言
 材料の高速変形特性を把握するためには,準静的な場合とは原理および構造的に大きく異なる試験法がよく用いられ,その代表的なものにホプキンソン棒法 1)を挙げることができる。この方法による基本的な圧縮用試験機は,少なくとも3つの棒(打撃棒,入力棒,出力棒)が直列に記載の順に並んだ構造をしてい る。入・出力棒の間に試験片を挟み,打撃棒で入力棒の試験片と反対側の端面に衝撃負荷を与え,入・出力棒中を伝ぱして試験片で反射・透過する応力波を両棒 にひずみゲージを貼付して計測する。圧縮では負荷が各棒を軸方向に押え付ける(拘束する)方向に作用するので,得られる応答に試験機に起因する過渡振動は あまり含まれないが,引張りやねじり,多軸試験では,何らかの仕組み(負荷機構,試験片治具等)を追加する必要があり,とくに試験片周りの構造が複雑に なって,そこで生じる過渡振動が測定精度に少なからぬ影響を及ぼす。ゆえに,この方法はおもに圧縮試験に用いられ,上記の仕組みとしてクランプ,ヨーク, あるいはカラーを用いた引張試験の報告2)−5)等があるものの,その数は相対的に少ない。また,実験者は一定の技術的習熟度を要求される問題点があり, 普及のために標準的な手法が模索されている。
 非共軸ホプキンソン棒法6)は最近提案された高速引張試験法で,構造が比較的単純な上,従来のホプキンソン棒法との共用も容易である。著者らは,これま で,非共軸ホプキンソン棒法試験機の測定精度について,その構造に起因する曲げモーメント,たわみ波およびたわみの影響7),8),また,入射応力波の立 上り時間・形状,試験片の形状・寸法,試験機への固定方法,ひずみ速度等の影響に注目して,数値計算を中心に検討してきた8),9)。このうち,曲げに起 因するものは本手法特有の問題であるが,その他は高速引張試験法に共通した課題と言える。本手法では板状試験片を用いるが,同様な試験片は従来のホプキン ソン棒法10),11)やワンバー法12)等でも扱われる。両者とも,入・出力棒端面にねじ接合で治具を取り付け,試験片は治具と接着接合する方法が一般 的であり,変形初期の降伏現象について,応力波の影響10),11)や,ねじ接合部のゆるみ,隙間に起因する振動の影響11),13),14)が指摘され ている(ねじ接合の問題は,まず丸棒試験片で検討されたが,板状試験片でも同様に考えられる)。
 非共軸ホプキンソン棒法はすでに高速引張試験法として十分な実績を積み重ねてきているが,本研究では,高速引張試験法に共通した課題として,試験片の固 定方法と寸法の影響について,とくに前者は接着剤による改善に注目し,実験を中心に調べた。また,試験片に直接ひずみゲージを貼付して応力,ひずみを測定 し,過渡振動を回避する手法も検討した。さらに,試験機の入・出力棒と板状試験片の数値モデルを作成して,有限要素法による計算も実施し,実験と同条件で 計算して,両者の結果を比較し,相違点および妥当性を検討した。最後に,より扱いの容易な固定方法を模索し,補助治具等を数値モデルにより検討した。

 

 

 

資料

柏崎刈羽原子力発電所における中越沖地震後の原子力機器の健全性評価  大岡 紀一 (社)日本溶接協会参与

Evaluation of Soundness of Nuclear Power Component after the Chuetuoki
Earthquake in the Kashiwazaki Kariwa Nuclear Power Plant
Norikazu OOKA The Japan Welding Engineering Society, Senior Technical Advisor

キーワード 原子力機器,健全性評価,外観検査,損傷モード,疲労寿命,ひずみ測定,硬度測定, 超音波探傷試験



  柏崎刈羽原子力発電所は,2007年7月に発生した新潟県中越沖地震により,大きい揺れに見舞われたが,原子炉は自動的に停止し原子炉の安全機能は確保さ れた。しかし,揺れの大きさが設計時の想定を超えていたことから,地震応答解析や点検による機器の健全性評価が実施されている。本報告は,日本原子力技術 協会「中越沖地震後の原子力機器の健全性評価委員会」の活動における検査の取組みを紹介するために,平成20年度秋季講演大会において開催されたパネル ディスカッションの概要についてまとめたものである。
 なお,このパネルディスカッションは,秋季講演大会に設けられた「柏崎刈羽原子力発電所における中越沖地震後の原子力機器の健全性評価」に関するセッションを受けて,それに引き続いて開催されたものである。

 

 

 

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