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機関誌

2004年度バックナンバー巻頭言2月

2004年2月1日更新

機関誌「非破壊検査」 バックナンバー 2004年2月度

巻頭言

「中性子ラジオグラフィを用いた非破壊検査(NRT)技術」特集号の刊行にあたって
   小林 久夫 

 中性子ラジオグラフィ(NR)の考え方はチャドウィックが1932年に中性子が発見された当時既に成立していた。しかし、中性子を画像化する技術が確率 するのはGdコンバータが開発された1950年代の終わりから1960年代に入ってからのことである。このNR技術をルーティーンな検査技術として最初に 適用したのはアポロ宇宙航空プログラムにおいてであった。1960年代の中頃のことである。1970年代にはNASAスペースプログラムにおいてNRは主 流をなす検査法であった。またこの頃その検査法の成功に刺激され、他の広範な分野特に宇宙航空機産業に応用されるようになっていった。その後NR非破壊検 査(NRT)技術は、1980年代以降には、さらに新しい高性能の中性子源設備が設置され、様々な基礎技術が研究され新たに付与された。特に電子測定技術 の急速な進歩に伴い、急速な進展をみせたのはこの時代以降のことである。そのころ日本もこの技術を取り入れた研究の一端をになうようになった。1990年 代のNR研究は特に基礎的な研究において我が国の独壇場の感があった。とくに電子撮影技術では、他国を抜いた感があり、このポテンシャルはいまでも保たれ ていると考えられる。NRTは十分非破壊検査技術の一つとして十分な性能を持つほどの完成の域に達したといえる。しかしにもかかわらず、このNRTの工業 界への実用化は、国外と比べると今ひとつ思わしくない実状がある。これは一に、この分野の研究者の力不足もあろうが、まだこの技術の有用性が広く周知され ていないという側面も無視できないと思われる。このような観点から、中性子ラジオグラフィ技術がどのように検査技術の一つとして役立ち得るのか、から始ま り、どのように実用化されているのか、またどのような可能性があるのか、さらに近い将来大型加速器施設の建設にともなって将来どのような展望をもち得る か、など最先端の研究に携わっている方に登場していただき解説をお願いする。
 本企画では、先ず小林が当協会がかつて編集出版した「中性子ラジオグラフィ写真集」に基づいて、NR技術の基礎となる部分を中心に概説する。次い で、(財)ファインセラミックスセンターの池田泰氏に、工業分野への応用と課題について、特にX線との対比・関連等につき解説をお願いした。粒子体・流体 混相の流れの可視化・解析というテーマは非破壊検査の方からは少し馴染みが薄いかもしれない、この問題は産業産廃の処理にも関連し大変重要な問題となって いる。この問題に取り組んでおられる関西大学の小澤守氏に解説をお願いした。京都大学原子炉実験所の川端佑司氏は、冷・極冷中性子専門家であるが、冷・極 冷中性子を用いた新しい応用の可能性、その展望、農・植物、建築材料(コンクリート)、文化遺産等の検査・解析への実用化可能性等について解説をお願いし た。武蔵工業大学の持木幸一氏は、中性子ラジオグラフィ分野での電子画像化技術にはなくてならない方で、氏からは中性子用電子計測と画像化の基礎から実用 への最近の成果・展望、CTの話題等について解説をお願いした。
 我が国では、2006年頃を目処にして大型加速器によるパルス状の全く新しい中性子源を開発している。この中性子源で今までとは全く異なった観点からの NR技術が開発されるかもしれない。と言うことで名古屋大学の玉置昌義氏にはこの加速器を念頭においた新しい手法への期待と将来への展望について解説をお 願いした。

 

 

解説 中性子ラジオグラフィを用いた非破壊検査(NRT)技術

NRTの基礎
   小林 久夫 立教大学原子力研究所

ABasics of Neutron Radiography Testing
Hisao KOBAYASHI Institute for Atomic Energy, Rikkyo University
キーワード 中性子ラジオグラフィ,撮像系,性能,中性子源,応用



1. はじめに
 工業物品の非破壊検査といえば,先ず思い浮かぶのがX線・g線検査であろう。さらには超音波検査,渦電流検査等々がある。しかし,中性子ラジオグラ フィ(NR)が非破壊検査の一技術であると考える人は多くないのではないかと思われる。実際,現在のところ我が国で,この技術を業務としている企業・組織 は少ない。例えば,四国東予の住友重機械工業が,加速器を用いて検査業務を行っているが知る人は少ない。北海道室蘭の日本製鋼所も同様の加速器を用いた検 査を行っていたが,現在はこの検査業務を停止しているようである。
 NRはX線検査(X線ラジオグラフィー:XR)に比較されるが,それはX線と異なる性能を有しているからである。そのため,双方を併用することでさらな る検査性能を得ることが出来る。しかし,この技術が多用されないのは幾つかの理由がある。最大の理由は,良質な中性子ビームが容易には得られないことにあ る。その様な中性子線は,主として原子炉によって得るのが最も効率がよいのであるが,そのためには大型の施設(原子炉や加速器による核破砕施設等)を必要 とし,数も少ない。また当然このような施設は多目的な利用がなされる。我が国では研究用原子炉施設は,文部科学省の厳しい管理下に置かれており,火薬など の可燃性の物品などの検査は制限を受けざるを得ない。試料によっては,放射化の問題もある。加えて経費の問題もあるかもしれない。もう一つあげるなら,こ の技術が未だに世間に良く知られていないと言うこともあろう。しかし,このような制約は,その多くは社会的,経済的なところから来ており,技術的な制約の 側面からきているのではない。と言うわけで,幾つかの制約はあるものの,NRはそれでもなお他をもって代え難い技術ではある。ここではこの技術とは如何な るものか,さらにこの技術の基本的な性能について概説する。この技術の実例に関しては,本企画の別項,例えば池田泰氏の解説「工業利用と課題」等を参照し て頂きたい。また過日,日本非破壊検査協会で編集出版した「中性子ラジオグラフィ写真集」1)(以下「写真集」)も参考になる。

 

 

工業利用の現状と課題
  池田  泰 (財)ファインセラミックスセンター

Present State and Perspective of Industrial Application
Yasushi IKEDA Japan Fine Cramics Center
キーワード 中性子,ラジオグラフィ,工業利用,火工品,ロケット,タービンブレード,ハンダ



1. はじめに
 中性子ラジオグラフィ(NR)の産業利用は国内において,以前日本原子力研究所,京都大学,立教大学等の原子炉,また民間の小型サイクロトロンなどを用 いて,精力的に研究がされて来た。その成果は一部,日本非破壊検査協会出版の「中性子ラジオグラフィ写真集:1995年発行」1)に,XRとの比較等を合 わせて記載され,参考にされている。時代の流れとともに,研究用原子炉が縮小され,民間業務も一社に絞られてきている。国外においても米国ではこれまで活 発な活動を見せていた研究用原子炉の閉鎖が取り沙汰されており,研究用原子炉の維持・開発は国策でない限り困難なようである。この中で,日本原子力研究所 JRR3Mの存在は大きく,また,大強度加速器の計画があり,NR復興が期待されるところである。一方,東ヨーロッパや発展途上国では国際会議への参加も 増え,NRの利用が進みつつあるようである。
 NRの産業利用を進める上で重要なことは,まず,他の検査技術,X線,超音波,光・赤外線その他各種の検査・計測方法と比較して,研究用はともかく,一 般産業用としてのコスト競争は困難であろう。最近は民間化が流れであるが,研究炉・大型加速器施設の維持には国策的なバックアップが欠かせないのではない か。このような状況の中で,民間一社が現在もNRで頑張っていることは,産業利用の市場の維持・開拓とともに,大規模施設と小規模施設の利用の棲み分けを 図る必要もあると考えられる。NRの特長はよく語られてきたことであるが,他の方法と異なり,原子核の情報が入手出来ることである。加えて,水素など軽元 素の検出性能が高く,このようなNRでなければならない検査市場を確立する必要がある。
 NRには放射化が付き物で,どうしてもRI規制と同様な利用に関して法的な制約が生じやすく,また,NRの有力な市場である火薬・エンジンなどの撮影は 現状の原子炉では万一の事故を想定して実施が困難になっている。これらの製品については加速器施設に任せられるべきであるかもしてないが,後に少しふれる ように,これらの製品はどうしてもある程度国策的な観点から進める必要があり,NRに対する一層の理解を期待している。本稿ではNRの産業利用を主に記述 するが,産業利用の場合,欠陥検出を目的とした非破壊検査利用が主であると考えられる。そこで,競合するX線ラジオグラフィ(XR)検査と比較を交えて記 述することにする。

 

 

粉粒体−流体混相流れの可視化
   小澤  守 関西大学

Flow Visualization of Multiphase Systems by Neutron Radiography
Mamoru OZAWA Kansai University
キーワード 流れの可視化,中性子ラジオグラフィ,混相流,空隙率



1. はじめに
 粉粒体および流体が混合して流れる系を総称して混相流という。混相流には気体と液体が混合して流れるいわゆる気液二相流もその代表的なものであり,ボイ ラや原子炉など沸騰,蒸発を伴う装置では特に重要な流れとなる。それに対して粉粒体を含む流れの代表としては,砂や穀物,薬品などの流体輸送やここで主と して取り上げる流動層がある。流動層は化学プラントの単位操作として重要であるばかりでなく,近年,石炭や廃棄物,RDF(ごみや廃棄物から不燃分を取り 除いて燃料化したもの)の燃焼装置として,特に環境問題の点から重要な地位を占めている1)。
 図1は流動層燃焼ボイラのひとつである循環流動層ボイラの流動層燃焼炉部分を示している。ホッパから供給された石炭や廃棄物あるいは炉内脱硫のための石 灰石は,流動層燃焼炉下部に存在するベッド材である粒径の大きい砂や砂利と底部から供給される流動化空気によって混合攪拌され,粉砕・燃焼し,発生した熱 は循環する粒径の小さいベッド材である砂によってサイクロンセパレータまで運ばれる。サイクロンで砂は分離され,下部の外部熱交換器に流入し,そこで層内 に設置された伝熱管を通して循環水を加熱・沸騰蒸発させる。熱交換して冷却された砂は再び燃焼炉へと戻される。

図1 循環流動層燃焼炉
図1 循環流動層燃焼炉 

 

 

このような系においては,粒径や密度の異なった粒子の偏析現象,空気供給孔のブロッケージや燃焼に悪影響を及ぼす流動化空気の不均一な分散,さらにはベッ ド材の運動による機械振動,管や構造物のエロージョン・破損,粒子の凝集,伝熱的にはホットスポットの形成や伝熱管の過熱,爆発などが問題となる。これら の現象に直接的にまた間接的に関係するパラメータとしては空隙率とその変動特性が特に重要で,空隙率が時間変動も含めて定量的に計測できる,あるいはたと え定量的ではないにしても,可視化画像が得られれば現象をある程度理解することが可能となり,流動層燃焼炉の設計を行う際には非常に有益な情報を与えられ ることになる。ここでは著者のグループがここ10年近く取り組んでいる中性子ラジオグラフィによる固気系流動層の可視化,画像定量計測について解説する。

 

 

中性子ラジオグラフィ利用の広がり
    川端 祐司 京都大学原子炉実験所


New Applications of Neutron Radiography
Yuji KAWABATA Research Reactor Institute, Kyoto University
キーワード 冷中性子,極冷中性子,農業利用,エネルギー研究,コンクリート,文化財



1. はじめに
 中性子ラジオグラフィの利用の歴史は既に長く,その利用分野は大きく広がっている。本特集の他稿を見て頂ければわかる様に,多くの分野で大きな業績を挙げている。しかしそれだけではなく,今も新しい技術や応用が発展しつつある。ここではその一部を紹介する。

 

 

電子画像化技術
   持木 幸一 武蔵工業大学工学部

Electronic Imaging Technique
Koh-ichi MOCHIKI Faculty of Engineering, Musashi Institute of Technology
キーワード 中性子ラジオグラフィ,デジタルラジオグラフィ,コンピュータ断層撮影(CT),電子撮像



1. はじめに
 医療分野以外で放射線透過像を得る場合,フィルム法が非破壊検査業務用として広く利用されているが,研究開発における可視化などの用途では電子撮像法が 多用されている。電子撮像では画像情報が電気信号で出力され,ディジタル化が容易である。したがって,線形・非線形を問わず多種多様な演算処理が可能とな り,また表示・記録・保存およびコピー・転送なども簡便であるので,急速に利用が広まった。中性子ラジオグラフィの分野で使用されている電子撮像を大別す ると,(1)中性子蛍光コンバータ上の極低輝度の透過像を高感度カメラで撮像する方法,(2)非常に高感度な中性子用イメージングプレートを用いる方法, および(3)中性子用イメージ・インテンシファイアを使用し,高輝度化された透過像を通常のカメラで撮像する方法に分けられる。(2)の方法は非常に高感 度であり,定量性に優れた撮像法であるが,通常は静止した被検査体にしか適用できない。ここでは,主に(1)の方法に限定し,我々が開発した動画用電子撮 像システムの概要について述べ,次に最新の研究テーマを紹介することとする。なお,ここで示されるデータは,すべて日本原子力研究所の研究炉JRR – 3Mの熱中性子ラジオグラフィ用第2実験施設(TNRF2)における共同利用研究で取得されたものである。

 

 

NRTの将来展望
   玉置 昌義 名古屋大学大学院工学研究科

Perspective in Near-Future of Neutron Radiography
Masayoshi TAMAKI Graduate School of Engineering, Nagoya University
キーワード 単色中性子,ラジオグラフィ,非破壊検査,可視化,構造解析,タイムオブフライト,中性子フィルター



1. はじめに
 本特集の前出論文で解説されているように,NRTは非破壊検査技術の一分野として広い可能性を持っていることが理解していただけたと思う。それと同時 に,工業,産業分野への実用化を考え,また,理工学研究手段としてより高度化するためには,多くの課題もある事が明らかにされた。前出論文で述べられたよ うな電子画像化技術の飛躍的進展が課題解決の重要な鍵を握っていることはいうまでもない。それとともに,課題・検査対象から要請されるNRT手法の高度化 と施設の高性能化もまた不可欠である。
 21世紀に入って,わが国において二つのNRTにかかわる新設および改造による高性能化施設が近い将来利用できるようになることが明らかになった。第一 は,スポレーション(核破砕)という核反応に基づくもので,高エネルギー陽子(水素原子核)と重い原子核(たとえばタングステン・鉛・水銀)の間の核反応 によって発生する大強度の中性子を利用する方法で,大強度陽子加速器計画(J – PARC)プロジェクトとして既に建設が始まっている1)。一方,ここ十数年中性子利用研究の世界を支えてきた日本原子力研究所(原研)JRR – 3Mに高度化のための改造計画が提言されることとなった。図1に引用2)したようなNRTをはじめ中性子に基づくサイエンス(neutron based science)に取り組む日本および世界の研究者はおおきな期待をもって見守るとともに,集中的に国際シンポジウムを開催して,意見交換を行いながら,英知を尽くして新たな手法の提案と技術的課題の解決に精力を傾けて取り組んでいると ころである。本稿では,現時点では未成熟ではあるが新しいNRT手法として技術開発段階にあるものからその一端を解説して,広く非破壊検査に関わる皆さん に関心を持っていただき,かつご議論を頂きたい。併せて将来共同利用可能になった暁には広範な方々の利用参加を期待したい。

図1 中性子科学から産業応用への波及:ESS Project2)
図1 循環流動層燃焼炉 

 

 

 

論文

9 %Ni鋼溶接部の超音波TOFD法による探傷へのウェーブレット信号処理手法の適用検討
   畠中 宏明/井戸 伸和/降駒 導爵/荒川 敬弘


Signal Processing Method Based on Wavelet Transform for Testing of
9% Ni Steel Welds Using Ultrasonic Time-of-Flight-Diffraction Technique
Hiroaki HATANAKA*, Nobukazu IDO*, Michitaka FURIKOMA** and Takahiro ARAKAWA***
Abstract

This paper reports a signal processing application to signals obtained by the ultrasonic Time-of-Flight-Diffraction technique for 9% nickel steel weld joints. Obtained signals were decomposed into several components using the wavelet transform. The frequency bands of these components vary in width. To reduce grass (noise from diffraction through the dendrite), products of these components were calculated. The components were thus weighted according to these products, and A-scope signals were reconstructed. Flaw indications in D-scan images were found to be remarkably clear using this signal processing method for all signals obtained by D-scanning.
Key Words Ultrasonic Time-of-Flight-Diffraction technique, Austenitic welds, Signal processing, Wavelet transform



1. 緒言
 LNG貯槽の内槽材として使用されている9%Ni鋼の溶接部にはNi基の溶接材料が使用されている。この9%Ni鋼の溶接部の検査には一般に放射線透過 試験と浸透探傷試験が適用されてきた。近年,構造物の大型化に伴い,より厚肉の鋼板が使用される傾向にあり,超音波探傷試験を適用する場合が増えてきてい る。しかし,Ni基の溶接金属は完全オーステナイト組織であるため,著しく成長した柱状晶組織によって溶接部の超音波探傷試験は制約を受ける。
 ハードウェアの面では柱状晶の音響異方性の影響の低減を目的として縦波斜角探傷法の適用や,林状エコーの低減を目的として,二振動子探触子及び高分解能 探触子の適用などの工夫がなされている1),2)。別のアプローチとして,信号処理を用いてきず検出性を改善する試みもある。例えば,陳らはオーステナイ ト組織をもつ溶接部に導入した人工きずを縦波斜角探傷して得られた超音波信号にウェーブレット変換を用いた信号処理を適用することによってきず検出性を改 善できることを報告している3),4)。またSSP(Split Spectrum Processing)の適用も検討されている5)。
 一方,溶接部のきずの検出や寸法測定精度に優れており,探傷も比較的迅速に行える超音波TOFD法は,近年では低合金鋼などの突合せ溶接継手の経年損傷 評価にも多く使われ始めており6),7),オーステナイト組織をもつ溶接部の検査への適用が期待される。しかし, 超音波TOFD法をオーステナイト組織をもつ溶接部に適用する場合には林状エコーときずエコーとの判別を確実に行うことが重要な課題である。この課題を解 決するための試みの一つとして,フェーズドアレイTOFD法によりきず寸法計測精度を向上させる検討がなされている8)。
 また,著者らは,きずエコーと林状エコーとでは位相の周波数依存性が異なるとの考えに基づき,ウェーブレット変換を用いた信号処理手法により,きずエコーと林状エコーを識別することを検討してきた9),10),11)。
 本論文では,オーステナイト組織をもつ9%Ni鋼溶接部のTOFD法による探傷へ,これまで検討してきた手法をベースとした信号処理手法の適用を検討 し,その効果を定量的に評価した。供試体には溶接過程において発生する可能性がある融合不良や割れを模擬した内在きずを導入した試験体を用いた。この結果 を報告する。

原稿受付:平成14年7月10日
 石川島播磨重工業(株)ISHIKAWAJIMA-HARIMA HEAVY INDUSTRIES CO., LTD.
 生産技術センター(神奈川県横浜市磯子区新中原町1)PRODUCTION ENGINEERING CENTER
 環境プラント事業部(東京都江東区豊洲3-2-16)ENVIRONMENT & PLANT DIVISION
 現 石川島検査計測(株)(神奈川県横浜市磯子区新中原町1)ISHIKAWAJIMA INSPECTION & INSTRUMENTATION CO., LTD.

 

磁気異方性センサを用いた応力測定における出力対応力の線形化法
   柏谷 賢治/坂本  博

Linearization Method of Output vs. Stress in Stress Measurement Using Magnetic Anisotropy Sensor
Kenji KASHIWAYA*and Hiroshi SAKAMOTO *
Abstract
In the stress measuring method utilizing the magnetoelastic effect, the relationship between the sensor output and the applied stress is non-linear and the output becomes saturated under a large applied stress. In measuring an object with unknown residual stresses, the applied stress cannot be measured precisely because of the nonlinear relationship. Two outputs after ac demagnetization in two directions, parallel and perpendicular to the applied stress, are measured and the ratio of their sum/difference is calculated. The relationship is found to be almost linear in wide stress range and the influence of sensor lift-off is eliminated.
KKey Words Stress measurement, Magnetoelastic effect, Magnetic sensor, Lift-off Nondestructive measurement, Steel, Linearization



1.緒 言
 鉄鋼製品の応力を非破壊で測定する方法の一つに磁気弾性効果を利用した磁気ひずみ応力測定法1)がある。その中で,磁気異方性センサ(以降,MASと略 す)を用いた主応力差測定法はその簡便さのため最も多く利用されている。レールの軸力測定2),車輪の残留応力評価3),ガス管の曲げ応力診断,等々で使 われている。その測定法の基礎が確立するまでには,原理4),5),6),7)から応用1)にわたって様々な研究や工夫がなされてきた。この測定法が広く 普及するには,様々な実用上の問題を克服していく必要がある。その問題の一つに,測定対象の材料特性であるMAS出力と応力の非線形関係に起因するものが ある。それは,後で詳しく述べるが,残留応力を有する鉄鋼製品に外力が働いたとき,外力によって発生した応力をMASで測定しようとすると,元々あった残 留応力の大きさにより,応力感度が異なり,精度良い測定ができないと言う問題である。ここでは,この問題を克服するため,この非線形関係を可能な限り線形 に近づける工夫とその意義について報告する。さらに派生効果として得られたリフトオフの影響の消失についても述べる。

 

原稿受付:平成15年2月18日
 (財)鉄道総合技術研究所(東京都国分寺市光町2-8-38)Railway Technical Research Institute

 

衝撃弾性波形の逐次的特徴抽出による鋼管検査
   鳥越 一平/森  和也/岩本 達也

Waveform Based Impact Test of Steel Pipes Using Successive Feature Extraction
Ippei TORIGOE*, Kazuya MORI*and Tatsuya IWAMOTO*
Abstract
A non-destructive method is described which tests steel pipes on the basis of the waveform of vibration induced by an impact. An elastic wave generated within a pipe wall by an impact propagates along the pipe, and is reflected at a point where the acoustic impedance of the pipe wall changes. The waveform of particle velocity of the pipe wall thus gives information about the acoustic impedance distribution along the pipe. Since the acoustic impedance changes at a flaw, we can test a pipe from the waveform of elastic wave which is generated by an impact and propagates through the pipe. A simulation test was performed; the aim was to study the classification ability of multi-variable analysis based on the waveform. An impactor employing a piezoelectric actuator was put on one end of a pipe to generate elastic waves. At the other end, the radial component of particle velocity of the pipe wall was picked up by a LASER velocimeter. The output signal was analyzed by a successive feature extraction technique and was given a flaw class membership. The results of the simulation test show that the method described may be a useful complement in the field of non-destructive testing and evaluation.



1. はじめに
 管に衝撃を加えた際に管壁中に発生する弾性波の波形から,管壁上の欠陥を検出する試みについて報告する。
 棒や管は,多くの設備の構造材として,あるいは流体輸送設備の構成要素などとして膨大な量が利用されている。例えば,我が国の高圧送電鉄塔は,多数の鋼 管を組んで建設されている。鋼管表面には防錆のための塗装が施されるが,年月とともに一部の鋼管が腐食することを免れ得ない。腐食が進行して大きな穴が開 いた鋼管だけでなく,外見は健全に見えるが,内部から腐食が進行して実際には構造材としての強度を失った鋼管が多数見つかっている。このため,ファイバー スコープを用いた鋼管内部の目視検査や超音波を用いた肉厚検査などによる保守点検が行われている。しかし,これらの検査は基本的に「点」の検査であるた め,管全長にわたる走査作業を要し,極めて効率が悪い。その上,点検はしばしば高所での危険な作業となる。
 鋼管にき裂や腐食などがあると,その部分の音響インピーダンスが変化する。管を伝播してきた弾性波動は,インピーダンスの不連続点においてモード変換や 反射を生じる。弾性波はまた管端で反射するから,管壁上のある点における弾性波には,管上のすべての点の情報が含まれている1)。つまり,鋼管に同一の衝 撃を加えて,励起される弾性波を管壁上のどこか一点で観察すれば,健全な管と欠陥のある管で,波形に何らかの違いが現れる筈である。

 

原稿受付:平成15年6月18日
 熊本大学工学部(熊本県熊本市黒髪2-39-1)Faulty of Engineering, Kumamoto University

 

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