アコースティック・エミッション(AE)検査法に関しては,(社)日本非破壊検査協会に特別研究委員会が設置されて30年以上が経過しようとしてい る。その間,AE特別研究委員会は世界のAE研究の中心をなす組織として活動してきた。その研究の動向によれば,世界的に基礎研究から応用あるいは実用研 究へと向かいつつあると見なされている。ところが,AE研究のフォーラムが海外では縮小の方向にあるために,現在,実用研究を最も活発に進めているのが, 日本のAE研究者たちであると言える。その成果としては,実構造物の診断という実用的な方面へと展開されつつあり,最近注目され始めているヘルスモニタリ ングにもAE検査法が重要な手法として認知され始めている。これは,圧力容器やコンクリート構造物でのAE試験法が本協会で規格化された実績でも明らかで あろう。
21世紀は,維持管理の時代と言われている。実際に,多くの社会資本は経年劣化により建替え時期を 迎えつつある。しかし,経済の形態,特に就労者の高年齢化は新設ではなく補修・補強による延命化よって対処する必要性を顕在化している。このためには,維 持管理の第一段階である検査と評価が重要になり,さらに対策を加えた「診断法」への展開が非破壊検査法の今後の研究の急務であると考えられる。そこで,各 種の社会資本を対象としたAE検査法の診断への展開の現状を特集号として紹介させていただくことにした。
AE計測のルーツとも言える機器診断に関しては,回転体の劣化・損傷診断の現状と圧力容器系の漏洩 監視と診断について紹介していただいた。AE法の機器診断は,ポラリスミサイルのロケット・モーターケースやパイプライン・圧力容器・タンクなどで既に数 多く紹介されているが,今後は,プラント内部の各所でオンライン・モニタリングが行われると期待されており,ここに紹介する分野はその要素技術として展開 が期待されている。
いわゆる大型の社会資本としては,橋梁と地盤を取り上げて解説をお願いした。橋梁は,経年劣化と乗 用車や鉄道軌道車の大型化・重量化によって寿命評価が緊急の課題とされているインフラストラクチャである。各種の診断手法が検討されているが,AE法は, 他の静的計測や点計測と異なり,交通荷重下で空間的な領域計測の可能な手法として今後の展開が期待されている。
地盤の安定性は,実際にはAE法の歴史において初期から研究が遂行されてきた分野である。これまでの多くの研究業績の蓄積と新たな多くの取り組みによって,定量的な診断法として実績を挙げており,その成果を紹介した。
以上の4つの分野に限りAE特別研究員会の関連分野の代表的な委員に解説を願いした。ここに各位へ深く感謝を表す。この他,紹介した分野以外にも維持管理に関連したAE研究は展開されており,次回には他の分野の動向について紹介させていただければと考えている。
*熊本大学(860-8555 熊本市黒髪2-39-1)大学院自然科学研究科・環境共生科学専攻
1976年京都大学大学院工学研究科土木工学専攻修士課程修了。1976年-1981年京都大学工学部助手。1981年-1984年熊本大学工学部講師。
1982年-1984年アメリカ・カリフォルニア大学ロサンゼルス校博士課程研究員。1984年-1991年熊本大学工学部助教授。
1991年-現在。熊本大学教授。1996年(5月-11月)オーストリア・ウイーン工科大客員教授。2001年-現在熊本大学留学生センター長兼任 (趣味)歴史・競馬
Predictive Diagnosis of Rotary Machine by Acoustic Emission Technique
Hisakazu HIGASA, Nobuyoshi SATO and Takuichi IMANAKA Asahi Engineering Co., Ltd.
キーワード 回転機器,AE,振動,軸受,潤滑油,油切れ,焼付け
1. はじめに
火力,原子力発電プラント,石 油,石化プラント等の産業資本では膨大な回転機器が補機としてシステム全体の稼働を支えている。その他,製鉄所,印刷工場,紡織工場,製紙工場等はその運 用において回転機器は最も重要な機器であり,それらの健全な稼働が工場全体の生産性を支配すると言っても過言ではない。
最近の規制緩和の潮流の中で,さらには,合理化による経営体質の強化のために,あらゆるプラントに おいて従来の設備保全体制の見直しが図られつつある。回転機器の診断も例外ではなく,トラブルレスの運用が求められており,その中でAE法による診断の有 用性が注目されている。従来より,回転体の診断には振動法が広く用いられてきているが,受信信号に対する感度及びその周波数帯域が異なるため検出される現 象もアコースティックエミッション(以下AE)法と振動法では異なったものになる。本稿では,AE法を用いた回転機器の診断法について,特に回転機器の最 重要部である軸受の焼付きの診断に関して,最近新しい考え方を取り入れた評価法が提案されており,1),2),3)これを中心に概説する。
Diagnosis of Gas Leak by Acoustic Emission
Kenichi YOSHIDA, Keitaro HORIKAWA, Kiyoshi SAKAMAKI Tokushima University and
Yoshiaki AKEMATSU Graduate School, Tokushima University
キーワード 非破壊検査,アコースティックエミッション,配管,ガス漏洩,波形解析
1. はじめに
屋内配管についてはマイコン メーターやガス漏れ警報器などで安全を確保しているが,屋外配管については有効な検査手段がなく,安全確保に対する技術開発が望まれている。従来から行わ れているガス漏洩診断には,検査箇所に石鹸水を塗布し,泡の発生の有無により漏洩を確認する方法,配管の内圧を測定する方法およびリークディテクターによ り配管接続部を走査する方法などがあるが,埋設した配管や隠蔽部の漏洩を検出することはほとんど不可能である。最近,これらに影響されない,配管材料を伝 播するアコースティックエミッション(AE)が注目されている。
マイクロホンを使用して検出されたガス漏洩に伴い発生する音響の周波数領域は,数Hzから数十MHzと広帯域であることおよび検出される音響の波形はほとんどが連続型であることが報告されている1)〜7)。連続型の音響は,突発型の音響と異なり,到達時間差により位置標定を行うことが困難であり,波形を同定することが難しい特性を持っている。配管材料を伝播するAEについても同様なことが言えるため,ガス漏洩の診断法へのAE法の適用を阻んできた。
本報告では,ガス漏洩中に検出される連続型AEの特性を明らかにし,その発生源を考察することにより,将来の診断技術としてのAE法の可能性を述べる。
Development of Acoustic Emission Application for Diagnosis of Concrete Bridge Structures
Mitsuhiro SHIGEISHI Kumamoto University
キーワード コンクリート橋梁,アコースティック・エミッション,モニタリング,健全性評価
1. はじめに
高度経済成長時代をはじめとす るこれまでの近代化の流れの中で,我が国の社会資本を充実させるためとして,膨大な数のコンクリート構造物が建設されてきた。そして今日では,供用年数相 当の劣化を生じているものに加え,使用材料や施工上の不具合によって早期劣化を生じてしまったものが相当数にのぼることが判明し,これらのコンクリート構 造物の耐久性不足が社会問題として表面化している。しかも,経済性,および環境への配慮の上から,これらのコンクリート構造物は取り壊し,その後に再び建 て直すといったことが,ますます困難となっている。そこで,これらの劣化したコンクリート構造物を補修したり,補強したりして延命を図り,供用を続けるた めのハード面での技術に加え,今後は,コンクリート構造物の安全な供用を継続させるための評価や診断といった,ソフト面での技術の確立が求められている。
土木学会の「コンクリート標準示方書・維持管理編」1)ではコンクリート構 造物の各々の部位や部材に対して,・調査および点検,・評価・判定ならびに劣化予測,・維持・管理対策,といったコンクリート構造物の維持管理方法につい て体系的に解説されている。このような構造物の維持管理,あるいは保守点検のための流れは,構造物の種類で変わることはなく,いつの場合においても,構造 物の維持・管理対策を決定する上での診断,すなわち健全度や劣化度の評価を正確に行うための評価基準ともなるべき,点検や調査の結果が相当に重要なものと なる。
コンクリート構造物を調査したり点検したりする方法は様々であり,日本コンクリート工学協会の「コンクリート診断技術 ’012)に 詳述されているように,その目的によって方法が異なる。現在行われている主な点検では,目視観察と打音検査が実施されているが,今後はさらに,コンクリー ト構造物の劣化や損傷の程度や初期欠陥の有無などが定量的に評価可能で,かつ,点検効率も優れた非破壊検査技術が求められている。こうした要求に応えるた めに,アコースティック・エミッション(AE)法によるコンクリート構造物のモニタリングや試験方法に関する多数の研究成果や適用事例が報告されており, それらに基づいて,AE計測によって得られた結果の解析までも含めた試験方法の指針が策定されている3)。しかしながら実際には,具体的な試験方法やその結果の解釈の仕方は,橋梁の上部工および下部工,堰堤,建物など,構造物の機能や形式ごとに異なるのが実情である。
そこで本文では,実際の数十年間供用されたコンクリート道路橋を対象にしたAE計測事例に基づいて,AE法によるコンクリート橋梁上部工のモニタリングおよび試験方法に関しての実践的な検討課題や今後の展望を述べてみたい。
Diagnosis of Rock Slope Stability Using Acoustic Emission
Tomoki SHIOTANI Research Institute of Technology, Tobishima Corporation
キーワード AE計測,ウエーブガイド,岩盤斜面,長期監視,崩壊
1. はじめに
我が国の国土は,80%以上が 山間部,丘陵地からなり,山地を切り開いた土地利用をせざるを得ない状況にある。その結果,急傾斜となる斜面は,地震,台風,そして梅雨時に集中する豪雨 などの外的要因や岩盤に生じた多くの割れ目が機械的・化学的に風化する内的要因により,ついには大規模な斜面崩壊を引き起こすことがある。このように斜面 が崩壊に至るまでの要因は様々あり,いずれの要因も岩盤崩壊の現象解明には欠くことができない検討事項といえる。岩盤崩壊の誘因は多数あるにせよ,岩盤が 最終崩壊に至るまでには,規模の大小や時間の長短にかかわらず,破壊までのプロセスが必ず存在するはずである。すなわち,その破壊プロセスを知る術が与え られれば,最終的な崩壊はある程度予期できる可能性がある。
AE(アコースティック・エミッション)は,材料の破壊過程に特徴的な弾性波として知られ,岩盤・地盤の安定監視へAE法を適用しようとする試みは,古くは1930年代後半に鉱山1)の分野で,近年では1970年代に地盤2)を中心にダム構造物3)に至るまで行われてきた。我が国では,1996年の豊浜トンネル坑口岩盤の大規模崩落が生じた直後,あるいはそれ以前から岩盤監視にAE法を適用する試み4)が なされてきた。例えば,旧建設省土木研究所を中心に筆者らも参加した「AEによる斜面動態監視システムに関する共同研究」は1995年から既に開始されて いた。このようにAEによる岩盤監視の適用性は様々な研究機関で検討がなされたが,結果的にはAE法に関する知見の違いなどから,多くは診断手法の確立ま でには至らなかった。
本解説では,まずAE法を実務での岩盤の安定監視に適用する場合,必要となる考え方を整理する。そして,最後に筆者らのグループの適用事例を紹介する。
Effects of the Inner and Outer Radius Ratio on Stress Intensity Factor of Combined Disk using Contact
Teruko AOKI*, Mizuho ISHIDA*, Akira SHIMAMOTO**and Susumu TAKAHASHI***
Abstract
Shrink fit is widely used to join mechanical components and combine prestressed cylinders to increase their elastic strength. However, many serious accidents have occurred because of the fatigue or fracture due to contact pressure between components.In this paper, stress intensity factors were created by simulating boss shaped parts with cracks, i.e., inserting a disk into a hollow disk, thus causing contact pressure in the inner surface of the hollow disk. Photoelastic methods were used to measure the stress intensity factors, which describe the stress field in the vicinity of crack tips. The effects of shrinkage allowance and crack depth on the stress intensity factors were examined.
Key Words Fracture mechanics, Stress intensity factor, Crack opening displacement, Contact pressure, Photoelastic method, Caustic method
1. 緒論
クランクシャフト,タービン,フラ イホイールなどの構造部材の組合せは焼きばめ法が用いられている。このような組合せ構造部材の接触部における問題は,従来から多くの研究者によって境界値 問題として解析的に示されている。また,実際の構造物に見られるように弾性体と剛体の接触境界値問題1),2),3)弾性体同士の接触境界値問題4),5)焼きばめ法による応力解析6)な どの研究も見受けられる。しかし,組合せ構造部材の破壊問題に対する理論解析や実験解析はほとんどなされていないのが現状である。組合せ構造部材の接触面 あるいは部材内部に潜在しているき裂の監視は破壊防止上重要であり,安全設計にも寄与する。組合せ構造部材の接触面に潜在するき裂先端近傍には,接触応力 が集中し破壊の要因となる。このような接触応力下におけるき裂に対する問題を明らかにするには理論解析や数値解析と併せて実験力学的解析を用いることが有 効である。先に著者らは一様内圧に対する容器表面のき裂問題7),8) ならびに冷やしばめ法9)が 接触問題の解析に有効であることを明らかにした。そこで本研究では,内軸に相当する円板をシャフト,接触面にき裂を有する中空円板をボス部のモデルに用 い,冷しばめ法によって焼きばめに相当する内圧を生じさせ,二次元光弾性およびコースティックス法により実験・解析を行い,接触応力によるき裂先端の応力 拡大係数を求め,理論解析と比較検討した。
原稿受付:平成14年1月25日
大分工業高等専門学校(大分市大字牧1666番地) Ooita National College of Technology
埼玉工業大学(埼玉県大里郡岡部町普済寺1690) Saitama Institute of Technology
関東学院大学(神奈川県横浜市金沢区六浦東1-50-1) Kantougakuin University
Flaw Detection in Copper Tubes Using Torsional Wave by Electromagnetic Acoustic Transducers
Tomohiro YAMASAKI *,Daisuke KAWABE**
Toshihiro OHTANI***,Masahiko HIRAO****
Abstract
Two types of electromagnetic acoustic transducers (EMATs) are developed for torsional wave, which propagates along the length of copper tubes. Arrayed-coil EMATs are made for both types, in order to transmit the wave of sufficient amplitude in one direction. Applying the EMATs to flaw detection of U-bend tubes, it is shown that pulse excitation is possible due to the existence of a non-dispersive mode. To improve the S/N ratio, which greatly affects the flaw detectability, the correlation was calculated between flaw echo and end reflected echo. It was confirmed that the EMAT can be used in flaw detection if the frequency range is high enough that the wavelength of the generated wave is shorter than the radius of curvature of the U-bend section.
Key Words Ultrasonic Inspection, Copper, Pipe, Ultrasonic transducer, Torsional wave
1. はじめに
管路の欠陥を発生初期の段階で検出し,内部流体の漏洩が起こる前に欠陥の存在を明らかにする方法の確立が求められている。長い管を迅速に検査するためには管の長さ方向に伝ぱする超音波の利用が有効であると考えられる。
これまで縦波を用いた探傷例が数多く報告されている1)。検査の簡便化のためには非接触で超音波の送受信が行えるセンサの利用が望ましく,縦波用電磁超音波センサの開発も行われてきた2),3)。著者らも強磁性体である鋼管に対して電磁超音波センサを適用し,強磁性体特有の磁歪4)を利用して長さ方向に伝ぱする縦波を任意の位置で送受信でき,管の軸に対して垂直なき裂の探傷が可能であることを確認した5)。ねじり波については電磁超音波センサを狭帯域バースト波で駆動した例が報告されており6),曲げ波の利用についても検討が行われつつある7)。
欠陥位置の評価を精度よく行うためには広帯域パルスの利用が望ましい。ところがパイプを伝わる縦波のように音速が周波数依存性を示す場合には伝ぱ距離の増加とともに波形がくずれ,振幅の低下すなわち欠陥検出能の低下を引き起こす8)。 速度分散のない波を用いれば広帯域パルスは位相のそろった波形を保ったまま伝ぱするため,波形変化による欠陥検出能の低下は起こらず,受信波形から欠陥位 置を容易に評価できる。そこで本研究では,音速が分散性を示さないモードが存在することからねじり波を用い,広帯域パルスによる銅パイプの探傷について検 討を行った。
ねじり波の送受信は,圧電センサにより行う場合にはセンサと検査対象物との音響結合を良好にする必 要があるため困難であるが,電磁超音波センサを用いることにより容易に実現できると考えられる。熱交換器においては熱伝導率の高さから銅パイプが用いられ ることが多いが,反磁性体4)であるため超音波の送受信に磁歪を利用することができない。ここでは,ローレンツ力を利用したねじり 波用電磁超音波センサを製作し,U字形銅パイプを用いて人工欠陥の探傷を行った結果について報告する。センサは熱交換器への適用を考慮し,銅パイプ内に挿 入するタイプとした。さらにセンサを多段化することにより,SN比を向上させるための多段型センサと,パイプ端部付近からの探傷を容易にし,不要な信号を 減少させるための一方向型センサを組み合わせた多段一方向型センサ9)を構成した。まずねじり波用電磁超音波センサを製作し,セン サ多段化の効果を確認した。次に人工欠陥を加工したU字管を用いて探傷実験を行い,U字部の影響について調べた。改良型のセンサも製作し,それぞれのセン サの探傷能力を比較した。また,受信波形に対して端面エコーとの相関を取ることにより欠陥検出能の向上を試みた。
原稿受付:平成14年2月28日
大阪市立大学大学院工学研究科 (大阪市住吉区杉本3-3-138)Graduate School of Engineering, Osaka City University
大阪大学大学院 (現在,アジレント・テクノロジー株式会社)Graduate School, Osaka University (Present Address : Agilent Technologies)
(株)荏原総合研究所 Ebara Research Co.,Ltd.
大阪大学大学院基礎工学研究科 Graduate School of Engineering Science, Osaka University
Experimental Examination on Fatigue Life and Effect of Excess Cyclic Pressures for Very Thin Bursting Rupture Discs
Tsutomu EZUMI* and Naoki KOMIYA*
Abstract
Recently studies concerning strength evaluation of very thin plates of metallic materials have become more important for safety design. Thin plates of metallic materials are applied to safety bursting rupture discs. A test specimen was made from bursting rupture discs of copper plate. Experiments were conducted using three shapes (disc, dome or annealed dome). The fatigue life was examined by test specimens of six materials (copper, aluminum, nickel, monel, inconel and stainless steel) for flat bursting rupture discs. The effect when excess cyclic pressures were generated and repeated numerous times was examined in stainless steel, and a very interesting result was obtained.
Key Words Experimental analysis, Thin plate metals, Bursting rupture discs, Fatigue property, Excess cyclic pressures
1. 緒言
近年の各種機械装置は,軽量化およ び高速化が促進され,それに伴い使用される環境条件はますます厳しいものとなっている。極薄金属板を適用した工業製品などの疲労や破壊は,しばしば重大な 事故を発生する要因となっており,稼働中の微細なき裂状欠陥や疲労強度に関するデータが必要とされており重要である。薄板安全破裂板は,構造が簡単で製作 も容易であり,価格が低廉である。さらに,その使用や保守面においても煩雑でないなどの利点があり,高圧流体処理装置の安全装置として広く利用されてい る。
周辺固定の円板が内圧によって塑性的に膨れて部分球殻となり,その膨れが増大して破断ひずみに達するとき裂を発生し,それが伝播して破口を形成し圧力流体を放出するのが安全破裂板の機能である。これまでにも,種々の疲労問題に関する研究は多く報告されており,森本ら1)は,溶接構造用圧延鋼板における円孔切欠き部の低サイクル疲労挙動について調べている。森田ら2)は,窒化により表面改質した純鉄と純チタンの疲労特性について詳細に比較検討している。また,萩原ら3)による,薄板鋼板の疲労き裂進展に対する板厚の影響についての報告もあり,疲労寿命評価方法や薄板のき裂進展など有効な資料となっている。 製品構造が激変し,製品の単純化,低コスト化,軽量化が増すと同時に廃棄物処理やリサイクリングのための壊し易さ,あるいは,リサイクル性の観点からの設計が特に重要である4)。 鉄鋼材料そのものは極めてリサイクル性の高い素材であり,薄板金属の使用量増加は軽量化に欠かせない。安全破裂板はこの代表格であり,一定繰返し下での疲 労寿命や過剰繰返し圧力がパルス的に負荷した場合の影響を調べることは,実機破裂板の取り替え交換期間の設定などからも重要である。したがって,本研究で はまず実機破裂板の銅平円板を供試材として,広く利用されている引張形銅破裂板の三つのタイプ (平板形,ドーム形,焼鈍ドーム形)について,一定振幅の繰返し圧力が作用した場合の寿命および繰返し数に伴う破裂圧力の変化などについて調べた。また, 平円板の安全破裂板として用いられている銅以外のアルミニウム,ニッケル,モネル,インコネルおよびステンレス鋼の5種類についても同様に調べた。さら に,一定繰返し圧力中に誤って過剰圧力が繰返し発生したが,短期間で元の状態に戻した場合を想定して,ステンレス鋼を用いてその影響を実験的に検討した。
原稿受付:平成14年3月27日
芝浦工業大学(港区芝浦3-9-14) Shibaura Institute of Technology