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機関誌

2004年度バックナンバー巻頭言12月

2004年12月1日更新

機関誌「非破壊検査」 バックナンバー 2004年12月度

巻頭言

「非破壊検査における教育(その2)」特集号刊行にあたって  

  近年,火力・原子力発電所,石油精製や石油化学等の大型のプラントにおける事故事例が相次いで話題となっている。また,建築,橋梁,輸送機器などの社会 資本においてもその安全性が問題視される場合に遭遇することがある。これらは高度成長期に建造されたものが多くその老朽化が懸念される中で,メンテナンス の観点から非破壊試験の重要性が再認識されている。一方,非破壊試験の有効性はそれを実施する技術者の技量に依存するところが多く,従来から技術者の資格 の有無あるいはそのレベルが問われることがある。当協会では40年以上も非破壊検査技術者の技量認定に携わってきており,現在ではJISに基づいた認証活 動を行っている。最近ではPD(Performance Demonstration)のように,特定の対象物に対して,使用する装置,技術者及び試験方法を組み合せて認証を与える考え方も注目を浴びている。こ のような背景のもとで,非破壊検査技術者に対する教育・訓練はこれまで以上に重要視され,今後ますます非破壊試験の信頼性を大きく左右する要因になるもの と思われる。
 前号では,「基礎技術教育への取組み」のテーマで,当協会の教育活動の変遷から,工業高校,専門学校及び大学におけるNDT教育,海外研修者へのNDT 教育,さらには企業における実務教育について紹介した。引き続き本号では,「資格取得教育への取り組み」のテーマで,海外及び国内における技量認証をター ゲットとしたNDT教育の実情,特にNDT技術者に対する依存度の大きい超音波探傷の実技教育をテーマとして取り上げる。
 当協会の教育事業のうち国際的な役割をもつIAEAのNDT教育プログラムは,発展途上各国の技術者の育成の面で大きく貢献してきたが,それだけでなく ここで検討された教育カリキュラムは現在の国内のNDT教育にも反映されている。次に紹介する米国の電力研究所(EPRI:Electric Power Research Institute)では,電力業界からの要求を満足させるという使命感から非常に先端的な技術に対しても訓練コースを企画している。また,コンピュータ を導入した教育システムの構築に非常に積極的であり,見習うべき点が多く見られる。国内においてNDT教育に力を入れている団体は数多くあるが,ここでは 特に地域に密着した講習会を計画し実施している中部支部の現状,さらに工業分野のうちNDT技術者の数が最も多い業界の一つである鉄鋼業における技量認証 のための教育の現状を紹介する。これらに共通して言える事は,特に超音波探傷試験技術者が,質及び量ともに要求される度合いが大きい事である。これは,超 音波探傷試験では他の非破壊試験手法と比較して試験技術者に対する依存度が大きいためである。そこで超音波探傷試験の実技講習を行う場合に留意すべきポイ ントも一つのテーマとして解説する。
 NDT技術者に要求されることは,その技術に対する知識はもちろんであるが,それ以上に実際に検査を実施する技能(Skill)である。資格を有するこ とは必要最小限の条件であり,装置の取扱や実務に熟練し,さらに検査対象物に対する知識などの総合的な判断が要求される。より高度な検査技術の要求が高ま る中で,安全で安心して暮らすことのできる世の中の構築の一役を担うNDT技術者の今後のさらなる活躍を期待したい。

*特集号編集担当 横野 泰和

 

解説 非破壊検査における教育の現状(その2)

IAEAにおけるNDTの教育・訓練と国際認証
   大岡 紀一 (社)日本溶接協会

1. はじめに
 IAEA(International Atomic Energy Agency,国際原子力機関)の中に,アジア・太平洋地域(Regional)の開発途上国を対象としてアイソトープ・放射線利用を中心に原子力平和利 用分野の研究・技術協力を行うRCA協定「原子力科学技術に関する研究・開発及び訓練のための地域協力協定(Regional Co-operative Agreement for Research, Development and Training related to Nuclear Science Technology)」により実施されている「UNDP/RCAアイソトープ・放射線工業利用計画」があり,「非破壊検査」はその中の5つのサブプロ ジェクトの1つである。ここでUNDP (United Nations Development Program)は国連開発援助プログラムである。すなわち,アジア・太平洋地域におけるNDT(非破壊試験)の活動がIAEA/UNDP/RCAの形で 計画され,実施された。
 アジア・太平洋地域諸国(以下,RCA諸国という)のNDTの教育・訓練に関する要請がIAEAから出され,外務省を通じて当協会に伝えられた。最初の 要請はRCA諸国に共通のIAEAの技量認定制度を制定することに重点が置かれているように見受けられ,当協会の認定委員会,国際活動委員会の丹羽登委員 長が,その任に当たることとなった1)。
 1980年代のRCA諸国の実情は技術者の認定制度というより教育・訓練(以下,トレーニングという)の実施の必要性にせまられていた。 IAEA/UNDP/RCAでの工業利用プロジェクトの中で1982年以来約20年にわたって,放射線透過試験(以下,RTという)及び超音波探傷試験 (以下,UTという)を主体としたトレーニングさらにはワークショップ,セミナーなどが検査技術者に対して技術向上のために実施されてきた。一方,検査技 術者の資格認証に関しては,ISO 9712(非破壊試験技術者―資格及び認証)に基づく認定制度(現在は認証制度であるが当時はこの用語を使用)の確立を目指していた。そのため,第1期計 画では表1に示す講習会がアジアの中心地であるシンガポールと先進国である日本の東京が選定されて開催された。第2期の開始に先立ち1986年10月に改 めて外務省から当協会に協力要請があり,同年に同教育委員会内に国際教育小委員会が正式に発足し,第2期計画以降の対応を行うこととなった。この後 1996年に国際教育委員会と名称を改め現在に至っており,委員会はIAEAとUNDPとRCAの三者のかかわりの中で計画,運営そして実施に携わってき た。
 ここでは,IAEA/UNDP/RCA計画の一環として行われてきたNDTの教育・訓練などに関し,その歴史的背景と日本の協力の経緯,日本指導で行っ てきた各種トレーニング及び検査技術者への技術移転を目的とした各種ワークショプなどの実情,さらには計画及び運営の面で携わってきた各種専門委員会への 参画の状況などについて述べる。

表1  第1期計画による講習会参加状況
表1  第1期計画による講習会参加状況 

 

 

 

海外におけるNDT教育の実情EPRIのNDEトレーニングと資格認証
   横野 泰和 ポニー工業(株)

EPRI Nondestructive Examination Training and Qualification
Henry M. STEPHENS EPRI NDE Center and Yoshikazu YOKONO Pony Industry Co., Ltd.
キーワード NDEトレーニング,資格認証,EPRI,NDEセンター,電力



1. はじめに
 米国電力研究所EPRI(Electric Power Research Institute)は, 1979年9月にNDEセンターを設立し,その組織化及び運営を開始した。現在EPRI Charlotteの名称で,米国内初の非破壊試験に関連する研究機関として広く知られている。ここでは,以下NDEセンターと称する。このNDEセン ターを運営する目的は,電力業界において取り上げられた技術テーマに対して,研究的な開発業務と日常の現場での問題点との橋渡しをすることである。開発技 術を現場適用する(Technical Transfer)ためには,EPRI主導又は関連するプロジェクトにおいて開発された装置や新技術を現場で展開するために適正かつ洗練されたものにする ことあるいは新技術を現場で実施する技術者の実践的なトレーニングを行うことが必要である。NDEセンターは,ノースカロライナ州シャーロットのユニバー シティリサーチパークの9エーカーの広さを有した場所に位置しており(図1),1981年2月から活動を行っている。

 

超音波探傷試験実技講習のポイント
   重野 直樹 (有)C & S


Points for Ultrasonic Testing Practical Training
Naoki SHIGENO C and S Co., Ltd.
  キーワード 超音波探傷,実技講習,探触子走査,実技試験練習,探触子保持



1. はじめに
 本解説では,非破壊検査技術者を教育する立場にある方々に対して,超音波探傷の実技を初心者,初級者に講習する時のポイントについて紹介する。特に筆者 の経験から,初心者や初級者が陥りやすい過ちには共通したところが多く,重要であることをおろそかにしてあまり重要でないことに非常に神経をすり減らして いる場合が多々見られる。また,技量認証試験の実技試験では,他人の手助けなしに最初から最後まで一人で作業することが要求される。このような観点から, ここではできる限り具体的な事例をあげてまとめた。
 ここに記すことのほとんどは,諸先生,諸先輩方々からの受け売りであるが,筆者が講習で実践しその効果を確認したものであり,読者の皆さんにお勧めできる内容である。

 

中部支部における技術者教育の実情
   竹内 宥公 (社)日本非破壊検査協会中部支部


Education and Training Course for NDT Personnel of Chubu Branch
Yuko TAKEUCHI JSNDI Chubu
  キーワード NDT試験,訓練時間,超音波,スネルの法則,遅れエコー,毛管現象,極間法



1. はじめに
 自動車の運転免許の場合,運転の学科試験(座学)と運転の実技試験(実技)がともに合格して,初めて,運転免許証が取れるのと同じく,非破壊検査技術に おいても検査技術を座学で習得できる学科試験と非破壊試験実技が十分習得されたと判断できる技量実技試験との両者とも合格し,初めて,非破壊検査技術資格 者の免許証を受け取ることができる。この資格試験に合格できるような非破壊検査技術の習得を目的として,JSNDI中部支部では,1987年から現在まで 17年間にわたって,非破壊検査技術者教育(講習会)を実施している。以下,具体的に,どのように,また,どのような内容で講習会を行っているか,その現 状を紹介する。
 新規に,NDT検査資格を取得したい方,また,従来の規格NDIS 0601から,JIS Z 2305新制度の資格に移行したい方,あるいは,更新(再認証)したい方の技術訓練に,少しでも参考になれば幸いである。
 なお,当支部は,1964年に創設され,現在会員数90社を擁している。非破壊検査技術の啓蒙を行うと同時に吉田支部長をはじめ23名の講師を擁して, 非破壊検査技術講習会を開催している。2000年秋時点の講習会受講者数は,半年で222人,UT:PT:MTの構成比率3:2:1であった。2004年 の新JIS下で新規受講者総数は3割減となっている。

 

鉄鋼業における非破壊検査技術者の育成
   上村 繁憲 JFEスチール(株)


NDT Personnel Education, Training, Qualification and Certification System
in Steel Industries
Shigenori UEMURA JFE Steel Corporation
  キーワード 非破壊試験,品質保証,認定,国際規格



1. はじめに
 鉄鋼製品の品質保証手段として非破壊検査の果たす役割は多大であり各種鉄鋼製品の製造ラインに導入されている。最近の鉄鋼製品の高度化,高品質化に対応 すべく鉄鋼製品の製造ラインに導入されている非破壊検査装置(技術)の特徴として下記のごとき内容があげられる。
・大量生産に対応する高速多ch化自動探傷装置
・システム化,自動化,省力化
・高精度,多機能搭載非破壊検査
以上に示すように独自の技術的な発展を経ている。鉄鋼製品の製造ラインの非破壊検査は品質管理として行う場合と最終ユーザーへの品質保証の手段として利用 される場合に大別されるがいずれの場合においても重要なのは非破壊検査の基本項目である設備と人である。今回,非破壊検査の基本項目である人について非破 壊検査技術者の育成の観点から教育・訓練・資格認定の現状と今後の課題・展望について述べる。

 

連載講座

ステンレス鋼溶接部の放射線透過試験
   丸山  温 日本溶接技術センター


Radiography for Stainless Steel Welds
Yutaka MARUYAMA The Japan Welding Technology Center
キーワード 擬似きず像,Braggの回折条件,凝固組織,エネルギースペクトル,直接透過線,散乱線,回折線,放射線透過試験



はしがき
 ステンレス鋼の溶接部の放射線透過試験を行う場合,ステンレス鋼の主な合金成分である,Ni及びCrなどの量によって撮影条件は変化するが,広く使用されている通常の鋼溶接部に対する撮影条件と比較して大きな差異はない。
 放射線透過試験の目的は透過写真による試験部のきずの検出と分類であるが,オーステナイト系ステンレス鋼の溶接部の透過写真においては,溶接部に実際に “きず”が存在しないにもかかわらず,あたかも“きず”のような形状をした疑似きず像と呼ばれる像が現れることが多い。
 オーステナイト系ステンレス鋼の溶接部の疑似きず像について初めて公に報告されたのは1963年のことである1)。これらの疑似きず像の成因については,その後種々の観点から多くの報告がされてきた2)−6)。
 それらの報告では,1)凝固組織からの回折像,2)成分偏析による透過像,3)微小な空孔の集積による透過像であるとする説等が出されてきた。しかし, 最近になり研究が進み,研究の結果,疑似きず像の直接的な成因は,溶接部の凝固組織によるX線の回折現象に基づくものであることが実証された7)。
 しかし疑似きず像が実際の構造物の検査で発生した場合に,その疑似きず像を真の“きず”と判定したり,又その判定が困難な場合には,その判定をめぐり生産者と使用者との間でしばしば問題となり,トラブルの原因となってきた。
 そこで,JIS Z 3106では,疑似きず像は,“きず”とは無関係な金属の凝固組織に起因する回折像から生ずるものであるため,疑似きず像を“きずの分類”の対象とはしな いで,附属書5(参考)において,“疑似きず像”と実際の“きずの像”との判別方法についての指針を示している。
 したがって,疑似きず像は溶接部の強さとは無関係であるが,溶込不良やブローホールなどの溶接部のきずの像と混同しないようにするために,疑似きず像の判別方法及びその成因について十分に理解しておく必要がある。

 

 

論文

斜角探触子の感度に及ぼす屈折角の影響
   木村 勝美/岡  賢治/林  栄男

Influence of Angle of Refraction on Sensitivity of Angle Probes
Katsuyoshi KIMURA*, Kenji OKA** and Hideo HAYASHI**
Abstract
It is known among probe manufacturers that sensitivity of an angle probe, which is designed to have angle of refraction above 70 degrees, is considerably low. The reason for this was studied by theoretical calculation based on the theory of Mano. For an angle of refraction above 80 degrees, directivity of an angle probe was calculated on the assumption that it could be replaced by a linear array of point sound sources with different phases. The theoretical calculation predicted considerable decline in sensitivity for the angle of refraction above 70 degrees. Actual directivity of angle probes was measured using side-drilled holes in test blocks, and the validity of the prediction was verified in an experiment. Furthermore, it was found that a side lobe larger than the main lobe appears when the angle of refraction is designed above 82.5 degrees. Thus, an angle probe which has an angle of refraction above 82.5 degrees, cannot be made.
Key Words Ultrasonic test, angle probe, sensitivity, angle of refraction



1. 緒言
 屈折角が70度より大きいSV波の横波斜角探触子を製作すると,往復通過率1)から予想されるよりも,感度が著しく低下することが探触子メーカーには知られている。しかし,その理由については未だ報告されていないようである。
 われわれは,さきに「斜角探触子の見掛けの振動子の仮説の有効性と適用限界」2)について報告した際,斜角探触子の指向性について,実験と間野3)の理 論による計算によって検討した。この間野の理論は,斜角探触子の感度に及ぼす屈折角の影響についても利用することができる。ただし,屈折角が80度以上の 場合には,後述する理由のために前回使用した式が使えないので,表面SH波の指向性4)を検討したときのように,斜角探触子を試験片の表面上に位相差のあ る音源が並んでいる条件に置き換え,それに間野3)の点音源の横波の指向性の理論を利用して屈折角の大きな斜角探触子の屈折角と感度との関係を計算し,実 験結果と比較した。

原稿受付:平成16年3月2日
 (東京都杉並区浜田山2-15-34-206)
 (株)検査技術研究所(神奈川県川崎市川崎区塩浜2-17-19) Kensa-Gijutsu Kenkyuujo Co. Ltd.

 

磁気ひずみ法を利用した鋼管の曲げ応力測定・評価技術
   境  禎明/卯西 裕之

Non-destructive Method for Bending Stress Evaluation of Linepipes
Using a Magnetic Anisotropy Sensor
Yoshiaki SAKAI* and Hiroyuki UNISHI*
Abstract
The authors have developed a unique and non-destructive stress measuring method using a magnetic anisotropy sensor, and have also developed many applications for the method. In this paper, we introduce the principle of the technique, and through experimental results prove its usefulness in evaluating the stress level of pipelines under working conditions for the purpose of maintenance.



1. はじめに
 既設の配管系の応力状態を知ることは,維持管理の観点で極めて有用である。応力測定には様々な手法があるが代表的なものとして,?ひずみゲージ法,?X線回折法,?音弾性法,?バルクハウゼン法,?磁気ひずみ法がある。
 ?のひずみゲージ法は最も一般的な応力測定の手法であるが,その原理が測定対象の相対的なひずみを測定することから,配管系の作用応力の経年的な変化を 調べるためには新設時にひずみゲージを設置し,これを超長期間にわたって管理していくか,あるいは新たにひずみゲージを取り付けた後,応力解放作業を行う かのいずれかの方法となる。しかしながら配管系の多くは土中,あるいは屋外環境に設置されており,このような超長期間,ひずみゲージを健全に保つことは困 難である。また供用状態にある配管系の多くは,計測のための応力解放,すなわち破壊検査を行うことは不可能であり,自ずとその適用範囲は限られていた。
これに対して?〜?の各種法はいずれも非破壊応力測定法と呼ばれるものでそれぞれ特徴を有しているが,著者らは現場の配管系の応力を非破壊的に,かつ簡便 に測定・評価できる手法として,?の磁気ひずみ法(以下磁歪法:[じわいほう]とよぶ)に着目し,その利用技術を開発してきた。
 本稿ではその概要をいくつかのデータを交えて論じ,実際の現場での運用について紹介する。

原稿受付:平成16年6月24日
 JFEエンジニアリング(株)(三重県津市雲出鋼管町1番地)JFE Engineering Corporation

 

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