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機関誌

2003年度バックナンバー巻頭言4月

2003年4月1日更新

巻頭言

「構造ヘルスモニタリング」特集号の刊行にあたって

 先進諸国では経年設備・機器の安全性確保と寿命延伸が重要になると言われるようになってからかなりの年月が経過しています。この間,本協会の会員をはじめとする専門家は,当然のこととして安全性確保と寿命延伸のための技術を懸命に開発してきています。しかし,一般市民にとっては,その必要性は理解できるとしても,具体的にどのようなことなのか想像することも難しいのが実情でした。また,少なくともITやナノテクあるいは宇宙開発などに比べると,安全性確保や寿命延伸はどうしても地味なイメージがあります。そのため,この分野に対する一般市民の関心は,全くないとは言えないものの,高々知れたものであったように思います。ところが,昨年のいわゆる東電問題を契機として,一般市民のこの分野に対する関心が高まってきました。首都圏では電力供給量が不足し,今年の夏はエアコンも動かせないかもしれないなどという噂(あくまでも噂です)を聞けば,確認したわけではありませんが,お昼のワイドショー番組でもそれなりに取り上げられていたのではないかと思います。このような社会情勢を受けて,特に本協会に属する専門家には,より一層の奮起が期待されていると思います。  さて,昨年8月号及び本年1月号の巻頭言において,小林会長は本協会の新しい展開の指針として次の4つの提言をなさっています。 (1)検査システムの再構築と維持規格への関与 (2)リスクベース検査の実行 (3)評価と診断の権限の獲得 (4)ヘルスモニタリングの開発  本特集は,このうちのヘルスモニタリングに焦点を当てたものです。ヘルスモニタリングは,センサの開発,データ通信を含むセンシングシステムの構築,検出データに基づく診断などを包含する総合的な技術であり,対象とする設備・機器も多岐にわたりますので,関連する研究や技術開発にも極めて多様な側面があります。本特集でこれらのすべてを網羅することは不可能ですが,可能な限り新しいトピックスを取り上げ,国内のトップクラスの専門家に分かりやすく解説していただきました。本特集によって,会員の皆様にヘルスモニタリングに関する有益な情報を提供することができれば幸いです。  なお,本特集の企画に際しましては,東京工業大学の轟 章助教授に全面的なご協力を頂戴しました。ここに記して感謝いたしますとともに,ご多忙中にもかかわらず快くご執筆くださった方々に厚く御礼申し上げます。

*特集号編集担当 東京工業大学 井上裕嗣

 

解説 構造ヘルスモニタリング

構造モニタリングのための新規光ファイバセンサ
  影山 和郎 東京大学大学院工学系研究科

A New Fiber-Optic Sensor for Structural Monitoring
Kazuro KAGEYAMA School of Engineering, The University of Tokyo
キーワード モニタリング,構造,材料,光ファイバセンサ,超音波,アコースティック・エミッション(AE),損傷検出,振動,音響



1.はじめに  一昨年前に全く偶然発見した現象をきっかけとして,著者の研究グループは新しい原理に基づく光ファイバ振動/音響センサの開発に成功した。開発したセンサは,極めて高感度で周波数帯域も極めて広く,大きなダイナミックレンジを有している。0.1Hzから数MHzにわたる広い周波数域カバーしているので,構造応答から,振動・騒音,超音波,アコースティック・エミッション(AE)まで,様々な用途に一つのセンサで対応できる。従来の光ファイバセンサでは困難であった高周波数を容易に達成している。また,センサ加工が容易で,干渉計の構成も単純であり,安価な計測システムを構築できる。  光ファイバの一般的特徴として,細径でフレキシブルであるため,センサ配置の自由度が高く,配線の取り回しも容易で場所を取らない。また,耐久性,耐熱性,防爆性,耐食性に優れることから,長寿命で厳しい使用環境に耐え得るセンサシステムを構成できる。特に耐熱性については,従来のピエゾ型振動・音響センサの弱点であったので,本センサの優位性として特筆すべきだろう。さらに,開発したセンサは1本の光ファイバ上に多数のセンサを配置することができるため,広い領域を同時に監視するための領域センサとしての活用も考えられる。以上開発したセンサの特徴から,大型土木・建築構造物,化学プラント,エネルギ関連機器,配管系,船舶・航空機・車両等輸送機器,及び鉄道・道路・トンネル等運輸関連設備などの構造モニタリング,損傷検出・予知,故障診断などへの適用が想定される。本稿では,開発した新規光ファイバセンサの測定原理と特徴及び実用化に向けた研究開発の現状について紹介することにしたい。

 

 

橋梁のヘルスモニタリング
   阿部 雅人 東京大学大学院工学系研究科

DHealth Monitoring of Bridges
Masato ABE School of Engineering, The University of Tokyo
キーワード 橋梁,ヘルスモニタリング,常時微動,構造同定,損傷検出



1. はじめに  一昨年来,道路や鉄道に代表される社会基盤施設では,コンクリートの剥落など,経年劣化に伴う事故が頻発しており,メインテナンスの重要性が叫ばれている。特に,我国は,欧米先進諸国と異なり, ?自然環境条件が厳しく災害が多い,?地形が急峻なため,トンネルや橋梁などメインテナンスを要求する構造物が多い ?高度経済成長期に急速・大量に社会基盤整備が進められており,それらの劣化が進んでいる(図1参照) などの事情を有しているため,今後,メインテナンスの対象となる施設の数量は,欧米先進諸国を上回るペースで膨大となっていくことが予想される。

図1 日米の年代別架設橋数割合1)
図1 日米の年代別架設橋数割合1) 

 

それに対して,現在の維持管理における点検業務は,目視や打音検査など,熟練を要し,かつ危険作業を伴う労働集約的な作業が中心であり,膨大な数量を経済的に管理するためには,その合理化が強く求められる。これまでも,各種非破壊検査技術の進展が見られたが,橋梁などの社会基盤施設のスケールで,屋外において高い信頼性を確保しつつ経済的に適用可能な技術開発は未だ不十分であると思われる。  実際の構造物や周囲の環境は極めて複雑な系であり,そのとり得る状態も多岐にわたるため,真の保有性能を部材・材料レベルの特性試験と解析のみから予測・評価することは極めて困難である。したがって,実構造物における計測や点検を行い,対象構造物に固有の“体質”を見極めた上で,性能や損傷状態を評価する必要がある。とりわけ,振動計測は,振動数や減衰などの動的特性が,構造物全体系の特性を反映していると考えられること,また,客観的・定量的計測データが得られることから,健全性や荷重を評価する上で有効な情報を与えるものと考えられる。実際,これまでも,地震時の振動記録から構造物の性能を評価した事例などがある2)。  そこで,筆者らは,メインテナンスにおける現場点検の合理化を目的として,加振器を必要としない常時微動計測による損傷検出の研究と応用をにらんだ研究開発にここ数年取り組んできた。本文では,その概要について解説するとともに,今後の展望を論じる。

 

 

FW複合材料の光ファイバひずみモニタリング
    高坂 達郎 大阪市立大学大学院工学研究科


Fiber Optic Strain Monitoring of FW Composites
Tatsuro KOSAKA Graduate School of Engineering, Osaka City University
キーワード 光ファイバセンサ,FW複合材料,硬化モニタリング,ヘルスモニタリング,FBGセンサ 



1. はじめに  組み込みセンサを用いた硬化および健全性監視(硬化およびヘルスモニタリング)は,繊維強化プラスチック(Fiber Reinforced Plastics : FRP)の低コスト化・高信頼性化に大きく役立つ技術である。硬化モニタリングにおいては,樹脂の硬化度,成形圧力,成形温度,ボイドそして局所的な残留応力の発生がリアルタイムでモニタリングされる。得られた情報は,成形過程の制御に用いることができるため,成形時間を短縮することが可能である。また,硬化不良や初期欠陥を減らすことにより,成形品の品質の向上が期待できる。さらに,成形中にリアルタイムでモニタリングされるということは,品質検査過程が大幅に簡略化されるということを意味する。これに対して,ヘルスモニタリングは,FRPの運用中の状態を監視する技術であり,材料に加わる応力,ひずみ,温度と,過負荷や疲労によって生じる内部損傷が監視対象である。ヘルスモニタリングに関しては,リアルタイム・モニタリングによって材料・構造の信頼性が向上し,さらに定期検査を簡略化することによる運用コストの削減が期待できる。このため,多種多様な組み込みセンサを用いた複合材料の硬化およびヘルスモニタリングに関する研究が,国内だけでなく世界各国で研究・開発が盛んに行われている1)。FW(Filament Winding)成形FRPは,釣り竿やゴルフシャフトなどのコンシューマ分野だけではなく,宇宙構造物の構造部材やロケット・モーターケース等の先進分野においても開発が進められている。特に,宇宙分野など,検査コストが極めて大きい分野では,モニタ機能を付加することにより検査コストを劇的に削減することが可能であり,大きな意味がある。また,大型複合材料構造物の製造・品質検査コストは大きく,成形時のモニタ機能によってそれらのコストの削減も期待できる。FW成形では,繊維を型(マンドレル)に巻き付けるために,ファイバ形状のセンサが最も期待できる。光ファイバセンサはファイバ形状のセンサであり,その強度や柔軟性から複合材料への組み込みに適したセンサ素材の一つであり,光ファイバセンサを用いた複合材料の硬化モニタリングやヘルスモニタリングに関しては多くの研究が行われている2)−8)。光ファイバセンサには,化学センサ,光強度変化型センサ,干渉計型センサ,EFPI(Extrinsic Fabry-Perot Interferometry)センサ,FBG(Fiber Bragg Grating)センサ,反射計型(OTDR Optical Time Domain Reflectometry)センサなど多くの種類がある。測定量も,分子組成,温度,ひずみ,屈折率など多種多様である。これらのセンサを利用した研究の多くは,硬化あるいはヘルスモニタリングのいずれかをターゲットとしたものであり,硬化およびヘルスモニタリングのどちらにも同一のセンサを使うことに重点を置いた研究は少ない。しかし,光ファイバひずみセンサのうちEFPIセンサやFBGセンサは,硬化時の微小な内部ひずみ変化を捉えることが可能なだけの絶対精度(1〜10me)を有しており,ヘルスモニタリングだけでなく硬化モニタリングに適用可能である。また,光ファイバによる複合材料の高機能化に関する研究のほとんどは,現在のところ積層板を対象としたものである。筆者らはこれらの点に着目し,硬化およびヘルスモニタリングを一つの光ファイバひずみセンサによってモニタリングする手法を確立することを目的とした研究を行っており,EFPIおよびFBG光ファイバセンサを用いたモニタリング手法をオートクレーブ成形積層板2),RTM(Resin Transfer Molding)成形FRP3),組み物FRP4)など多種多様な複合材料に適用してきた。FW成形FRPについては,筆者らはすでにEFPIセンサを適用した研究を行っている5)。本稿では,FW成形FRPにFBG光ファイバセンサを埋め込み,その硬化およびヘルスモニタリング手法を確立することを目的として行った研究について述べる。

 

 

インターネット利用の統計的損傷判定システム
   岩崎  篤 東京大学  轟  章 東京工業大学

Statistical Damage Diagnostic Method for Structural Health Monitoring System via Internet
Atsushi IWASAKI The University of Tokyo and Akira TODOROKI Tokyo Institute of Technology
キーワード モニタリング,損傷評価,健全性評価,品質保証,安全性



1. はじめに 構造物にセンサを設置あるいは埋め込んで,構造の損傷を自動的に検出する構造ヘルスモニタリング技術1)は,航空宇宙機器,自動車などの輸送機器だけでなく,橋梁やビル,鉄塔,トンネル,崖,ガス管などの土木系の大型構造にも積極的に適用が検討され始めている。通常,これらの構造ヘルスモニタリングでは,光ファイバセンサの適用が,測定可能範囲が広く少数のセンサで構造全体の測定が可能であること,電磁ノイズに強いことから注目されている。しかし,光ファイバセンサは設置自体が困難であるため,構造ヘルスモニタリングシステムの実構造への適用の際には,その他の多種多様な従来型のセンサを利用する要求が高く,それら従来型センサを利用可能な構造ヘルスモニタリングシステムの構築とその実現が望まれている。しかしながら従来型センサを用いた場合,これらセンサの出力線であるアナログリード線を引き回す必要があり,機器の建築・組み立てだけでなく部品・構成の変更の際にも多量のアナログリード線の接続変更が要求され,その実現は非現実的といえる。これに対して,複数の種類のセンサを設置可能で,しかも多数のリード線の設置が不要であり,ノイズにも頑健な技術としてインターネットに利用されているコンピュータ間の通信プロトコルであるEthernetを用いたデータ転送が近年注目されている。Ethernetを用いたデータ転送ではデータがデジタルデータとして転送されるためノイズに強く,かつ多種のデータを一つのケーブル(あるいは無線にて)伝達可能であるため,容易な大規模構造ヘルスモニタリングシステムの構築が可能となる。本稿では,センサデータの Ethernetを利用したネットワーク化,データ収集,モニタリングデータによる自動損傷診断機能について紹介する。

 

 

 

論文

レール溶接部の検査技術の信頼性向上に関する検討
   深田 康人/工藤 松一/坂下  積/上山 且芳


Improvement in Reliability of Inspection Technique for Rail Welds
Yasuto FUKADA*, Shou-ichi KUDOH*, Tsumoru SAKASHITA* and Katsuyoshi UEYAMA*
Abstract

In the Japan railway company group, magnetic particle inspection is performed as the final inspection for rails welded by flash and gas pressure welding, and ultrasonic inspection is performed on rails welded by thermite and enclosed arc welding. The accuracy of the ultrasonic inspection depends on both the ultrasonic detector and the probe in use. Therefore, a new probe has been developed for rail welds to improve the accuracy of ultrasonic inspection by optimizing the crystal and wedge materials in the probe. A new specification of angle probe is proposed for the ultrasonic inspection of rail welds. While, fluorescent magnetic particles are generally used in the magnetic particle inspection of rail welds. Nonfluorescent magnetic particles have now been developed following studies on size and concentration of magnetic particles in order to improve daytime workability.
Key Words Rail welding, Nondestructive testing, Ultrasonic testing, Probe, Magnetic particle testing, Nonfluorescent magnetic particles



1. 緒言  レール溶接施工後の検査は,各鉄道事業者のレール溶接工事標準示方書等により,その実施内容1)が規定されている。検査内容は,外観検査,浸透探傷検査,磁粉探傷検査および超音波探傷検査で,各レール接合法によりきずの発生傾向が異なるため,各接合法に対して適切な検査方法が採用されている。  エンクローズアーク溶接部およびテルミット溶接部は,融合不良あるいは高温割れ(凝固割れ,液化割れ)等に代表される溶接内部のきずの検出に有効な超音波探傷検査が浸透探傷検査とともに併せて適用されている。また,フラッシュ溶接部およびガス圧接部に発生する有害なきずは接合界面に残存する酸化物に起因して生じる接合不良が大半で,そのほとんどがレール表面およびその近傍に形成される線状のきずであることから,その検出に有効な磁粉探傷検査が適用されている。超音波探傷検査に用いられる探触子の使用性能は,探触子と試験体との接触状態によって影響される2)ほか,振動子あるいはくさびの材質等に大きく影響されることが知られている。しかし,探触子の耐摩耗性あるいは摩耗した探触子の探傷感度に関する検討は今までほとんど見受けられない。一般的には,専用シューを貼り付け,シューが摩耗した場合にはこれを貼り替えて使用を継続する。または,くさび材が摩耗により消耗した場合,所定厚さの同一材質のくさびを探触子に貼り付けて再使用されている。このような使用状態では探触子としての仕様を満足していないことが懸念される。 一方,レール溶接部の磁粉探傷検査においては,磁粉模様の識別のしやすさから,蛍光磁粉の適用が推奨3)されている。しかし,蛍光磁粉を用いる白昼の作業では暗幕等により暗所を作る必要があり,作業の利便性に欠けている。また,非蛍光磁粉はレール溶接部の磁粉探傷検査として一部で用いられているが,作業者自らが検査液を調製するもので,調製のたびに濃度等にバラツキを生じ,磁粉模様の識別程度にもバラツキが生じていることが懸念されている。本検討では,レール溶接部の検査の精度および作業性向上を目的に,超音波探傷検査においてはレール溶接部用45°斜角探触子の耐摩耗性を向上させるため,探触子の主にくさびの材質について検討するとともに,磁粉探傷検査においてはレール溶接部に適用可能な非蛍光磁粉に関して,磁粉の粒度および濃度の影響について検討した。

 

 

原稿受付:平成14年5月8日
 (財)鉄道総合技術研究所(国分寺市光町2-8-38)Railway Technical Research Institute

 

熱弾性効果の非線形性を利用した熱弾性応力測定のための主応力分離法
   井上 裕嗣/早房 敬祐/廣川 幹浩/岸本喜久雄

Stress Separation Technique for Thermoelastic Stress Analysis using Nonlinearity of the Thermoelastic Effect
Hirotsugu INOUE*, Keisuke HAYABUSA*, Yoshihiro HIROKAWA*** and Kikuo KISHIMOTO*
Abstract
This paper describes a new technique for determining individual principal stresses from temperature change induced by the thermoelastic effect of elastic solids. The temperature change induced by the thermoelastic effect is usually considered to be proportional to the change in the sum of the principal stresses. However, it has been shown that the amplitude of temperature change is dependent not only on the amplitude of the sum of the principal stresses but also on the mean value of the sum of the principal stresses as well as the amplitude and the mean value of each principal stress when temperature dependence of elastic coefficients cannot be neglected. Utilizing this fact, it is shown that the amplitude of each principal stress can be determined from the temperature amplitudes measured for two different mean stresses. The important feature of this technique is that each principal stress at a certain point can be determined only from temperature data obtained at that point by a simple formula.
Key Words Thermoelastic stress analysis, Stress separation, Infrared thermography, Aluminum alloy, Elastic coefficients



1. 緒言  熱弾性応力測定法は,弾性体の熱弾性効果によって生じる温度変化を介して応力を測定する方法であり,近年の赤外線サーモグラフィの高性能化に伴って有力な応力測定法の一つになっている。この測定法には,主応力和の分布が非接触的に画像形式で得られるという利点がある反面,個々の応力成分が得られないという難点もある。そこで,主応力和の測定データから応力成分を算定する主応力分離法が従来から広く研究されてきた1),2),3)。  初期に提案された主応力分離法の多くは,応力の平衡方程式や適合条件式などを差分近似した関係式に基づいて,応力成分が既知である位置から出発して逐次計算を行うことにより,測定領域全体の応力成分を求める手法であった4),5),6)。しかし,これらの手法は,逐次計算により誤差が累積されること,および,逐次計算の出発点は応力成分が既知である特殊な点に限られることなどの難点があり,実際の応力測定への適用は困難である。また,測定対象領域における応力成分の分布を弾性論に基づいて級数表示しておき,主応力和の測定データに適合するように級数の未定係数を決定する手法も提案された7),8),9)。しかし,応力成分の分布を表す適切な級数が求められる場合は限られるため,この種の手法の適用も容易ではない。  これらに対し,近年,有限要素法や境界要素法などの汎用的な数値解析法を利用した主応力分離法が提案された。村上ら10),11)は,主応力分離を行う領域を任意に設定し,その領域内で得られている主応力和データに基づいて領域の境界条件を推定する逆問題解析を行い,その推定結果に基づいて領域内部の任意の点の応力成分を算定することにより主応力分離を実現する手法を示した。また著者ら12),13),14),15),16)は,この手法における境界値逆問題の非適切性を改善しなければ主応力分離の精度が極端に低下することを示すとともに,その対策を示した。この種の手法は,汎用的な数値解析法を利用しているため,従来の手法に比べると適用範囲が格段に広く,実際の応力測定への適用も比較的容易である。しかしながら,この種の手法の適用に際しては,CAEによって設計・製作された製品の応力測定を行うような場合を除けば,あらためて有限要素法や境界要素法などによって測定対象物の数値解析モデルを作成しなければならず,主応力分離に相当の手間を要する。そこで,この種の手法と同等の実用性を持ちながら,より簡単に適用できる主応力分離法の開発が望まれる。さて,熱弾性応力測定法の基礎式は,通常次式で表される。

熱弾性応力測定法の基礎式
熱弾性応力測定法の基礎式 

 

 

 

原稿受付:平成14年6月13日
 東京工業大学(目黒区大岡山2-12-1)Tokyo Institute of Technology
 東京工業大学大学院(現在,(株) 荏原総合研究所)Tokyo Institute of Technology (Presently at Ebara Research Co., Ltd.)
 東京工業大学大学院Tokyo Institute of Technology

 

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