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機関誌

2020年7月号バックナンバー

2020年7月1日更新

巻頭言

「製造工程で活躍する外観検査技術」
特集号刊行にあたって 塚田 敏彦

目指して活動を行っている。製造工程検査部門が扱う検査は,製品の品質を確保するために欠かすことのできない重要な工程である。製品の外観を検査する外観検査は,当初人間の眼による目視検査が主流であった。その後,省人化や検査の高速・高精度化を目指して,周辺技術の発達や機械化の進展の援護を受けながら,結果の定量化・高速化・自動化へ向けての取り組みが精力的に行われてきた。
 製造工程検査部門では,2014 年に第63 巻1 号で「画像処理技術応用による検査の自動化 −画像検査の発展の道程を見据える−」を,2016 年に第65 巻6 号で「人に学ぶ画像センシング技術の最新動向」を,2018 年に第67 巻7 号で「人に学んだ画像センシング技術の最新動向」を企画して特集した。それぞれの特集では,当協会が毎年協賛・共同企画を行っているシンポジウムやワークショップで注目度の高い講演・報告をタイムリーに取り上げて,読者への紹介を行ってきた。
 今回の特集は,過去から現在までの製造工程における外観検査について概観することを目的の一つとして「製造工程で活躍する外観検査技術」を企画した。
 外観検査,例えば,画像検査などは,対象の情報を画像化するセンシング技術と画像から有用な情報を抽出する認識技術が融合したシステム技術である。目視検査では,センシングとして人間の眼だけではなく,手もハンドリングを行い,脳は認識を行っている。人による目視検査は,まさしくセンシングと認識,さらにはハンドリングが融合したシステム技術である。このことを踏まえ,先人は人に学ぶ姿勢を重視してきたと考えられる。
 本特集では先人の意を汲み,まず,外観検査での目視検査のあり方を再考察し,近年の目視検査における先端的な取り組みを紹介する。そして,外観検査の自動化に向けたセンシング技術と認識技術(アルゴリズム)それぞれのアプローチによる検査事例を紹介する。これらにより外観検査の動向を知り,最新技術についての理解を深めるための一助となることを期待する。
 本特集企画の執筆者として,製造工程検査部門設立からの歴史に詳しいベテラン,および,製造工程における目視検査,その自動化のためのセンシングと認識技術に関する最新の研究を行っているプレイヤーの皆様に,学術・産業両分野での最先端の研究開発成果の執筆をお願いした。
 本特集では,製造工程検査では欠くことのできない検査方法である目視検査技術について,石井 明氏(香川大学)から,「究極の外観目視検査技術を目指して」をご報告頂く。そして,検査事例での産学連携の成功例として,「AI による製造工程における外観検査自動化事例」青木公也氏(中京大学)を学術の分野からご報告頂く。最後に,産業の分野から先端の認識技術とセンシング技術として,「深層学習による製造工程検査事例」玉垣勇樹氏,橋本大樹氏,水谷麻紀子氏,永田 毅氏(みずほ情報総研),「ノーベル賞技術“光コム”三次元外観検査事例」松崎賢二氏(XTIA(旧社名:光コム))をご紹介頂く。
 執筆者の皆様は,どなたも大変お忙しい方ばかりであるにもかかわらず,ご多忙のなか本特集へのご執筆をご快諾頂いたことにこの場を借りて深謝する。
 本企画により,製造工程の検査に関わる最新の技術動向を把握し,理解を深めて頂けることに期待する。そして,検査業務に携わるそれぞれが持つ課題を解決するための糸口を見いだすことに貢献できれば幸いである。
 最後に,世の中が現在の新型コロナウイルスによる緊急事態を脱して,センシングと認識とを高いレベルで融合させるために,密な議論を交わすことができる日が一日も早く訪れることを願ってやまない。

 

解説

製造工程で活躍する外観検査技術

究極の外観目視検査技術を目指して
香川大学 石井  明

Successful Visual Inspection
Kagawa University Akira ISHII

キーワード:目視検査,周辺視,照明環境,リズム動作,健康改善

はじめに
 「目視検査は無くせない」 これは(公財)中国地域創造研究センターが2015 年度に実施した「ものづくり企業の生産現場における検査の自動化促進可能性調査」(有効回答企業数241 社)1)の結論の一つでした。しかし,多くの企業が人による検査の困難点として,検査能力の個人差が大きいこと,検査員の確保・増員が困難であること,教育・訓練が難しいことを挙げていた。しかしながら,これらは雇用側の視点である。従業員側にとっては,作業がきつい,不良品を見逃すと叱られる,充実感が乏しい,目が痛い,肩・首が凝り身体(健康)が心配と不安を抱えながら仕事をしている。それでは,どうすればよいのか。これに対する答えとして筆者らは周辺視目視検査法(以下,本検査法と略記)の導入を勧める。本検査法を使えば,不良の見逃しが極めて少なく,高速かつ低疲労,その上,健康を取り戻すことも可能である。筆者らは2010 年2 月に感察工学研究会を(公社)精密工学会 画像応用技術専門委員会に設置し,本検査法の普及とともに本検査法の科学的解明を進めてきた。そして,その活動成果を目視検査に特化したワークショップ(PVI 外観検査ワークショップ)2)で紹介するとともに,本機関誌等で紹介してきた3)−5)。そこで,本稿ではそれらの内容も含み最近の知見を紹介する。

 

AI による製造工程における外観検査自動化事例
中京大学 青木 公也

Automating a Visual Inspection using AI Techniques
Chukyo University Kimiya AOKI

キーワード:外観検査,AI,深層学習,画像処理,機械学習

はじめに
 センサ・計算機の性能向上とあいまって,ある検査対象に複数の画像処理手法を段階的に適用するなど,単純な検査であれば人間より遥かに高速かつ精密な画像検査は実現されて久しい。外観検査への画像処理技術の導入はあってしかるべき時代となった。ここで,「単純な」とは決して「開発が簡単である」という意味ではない。人間の視覚機能とマシンビジョンとはハードとソフトの両面において本質的に異なり,マシンビジョンの基本的な方法論と親和性のより高い課題であるか否かということである。例えば,電子基板については,1970 年代には計測検査技術として,既に多くの画像応用技術が生み出されている1)。この場合,方法論との親和性とは,検査対象が平面的で良品のバラつきが少なく,工程上成型や組み付け精度が高い等が挙げられる。また,当時の課題であった,検出解像力や高速性については,冒頭で述べた通り,特にハードウェアの進歩によって解決されてきた。一方,マシンビジョンの基本的な方法論とは親和性が低いとは,どういったタスクであろうか。外観検査の自動化のニーズは絶えることがなく,その要求レベルは高くなる一方である。ここで,要求レベルと基本的な方法論との親和性については,近年のAI 技術の発展を鑑みて,丁寧に整理する必要があると考えられる。
 要求レベルの高さは,つまり自動化の難易度であるが,その質は二つに大別できると考えている。これは,人検査員,特に熟練と呼ばれる目視検査員の代替を考えると課題が明確になる。具体的には,「なぜこれまでは自動化しなかった(できなかった)のか」ということである。ただし,本稿では技術的な観点に絞って議論する(実用化を考えた場合,製造ラインにおけるコストや,自動検査機導入による効果を広く考慮する必要がある)。一つ目は,検査員の眼球の使い方やワークのハンドリング等の所作の代替の困難さである。例えば,トレー上の多数のワークを俯瞰的に捉えたり,観察・照明角度やワークディスタンスを適宜変更したり,リズミカルに動かしながら観察したりする。このことは,後段の画像処理との連携において,なぜSN 比が向上するのか,そのワークを検査するのに足る画像情報を入力することができているのかという問題であり,定式化は容易ではない。二つ目は,例えば鋳造,鍛造,プレス等で成型される素形材については,素地のバラつき,寸法・形状のバラつきが大きいこと,検出項目が不定形欠陥である場合を考えると分かる。一般的には,要求規格・基準を挟む適合・不適合の緩衝領域が曖昧になってしまい,感度設定が困難である。こういった現場には多くの場合,熟練検査員が存在し,限度見本や経験・ノウハウに基づいて外観検査が実行される。いわゆる官能検査も含めて,この種の目視検査の自動化は一般的に難度が高い。このことは,人の持つ視覚情報処理の優れた性質によるものであり,マシンビジョンにおける基本的な画像処理コマンドの組み合わせでは対応が困難な場合がある。
 さて,前段落の一つ目の件については,特にタクトタイムやライン上の制約を考えると,技術的には可能でも実運用が難しい場合が多々あった。一方では,マシンビジョンであると割り切れば,人のやり様とは異なる方法論が優れている場合も多々あり2)−4),今後も発展していくと考えられる。二つ目の件であるが,これは現象のモデル化の困難さに起因する。欠陥発生のメカニズムや,製造工程に起因するワークのでき栄え(良品のバラつき),それらを撮像する光学系や位置決め装置の揺らぎ(見え方のバラつき)等を,検査が達成されることを第一義に,本質を捉える試みである。この困難さは,人が検査する場合は,検査員の暗黙知の形式知化であり,その点でAI 技術への期待が高いと考えられる。つまり,AI では,学習と呼ばれるロジックによって,入力に対して所望する出力が得られるようにネットワーク中の膨大なパラメータ(荷重データ,オフセット)が自動チューニングされる。ある意味,このパラメータ群に暗黙知が内包されていると考えられる。本稿では,この二つ目の件について,これまで当研究室で取り扱ってきた研究事例を紹介する。

 

深層学習による製造工程検査事例
みずほ情報総研(株)玉垣勇樹 橋本大樹 水谷麻紀子 永田 毅

Inspection Case in the Manufacturing Process by Deep Learning
Mizuho Information & Research Institute, Inc. Yuki TAMAGAKI, Daiki HASHIMOTO,
Makiko SUITANI and Takeshi NAGATA

キーワード:外観検査,製造工程検査,欠陥,AI 技術,深層学習,画像処理

はじめに
 製造現場における生産性向上は,製造コスト低減による競争力の維持・向上に不可欠であるだけではなく,最近の人手不足の深刻化や働き方改革が叫ばれる中,その重要性を増している。生産性を向上させる一つのツールとしてデジタル技術の活用が注目されており,中でも近年大きな発展を遂げているAI,特に深層学習(ディープラーニング)1),2)が,様々な分野に適用され,身近な技術となってきている。  深層学習は画像認識に強みを持ち,人間の目視による判断を高い精度で代替する可能性に期待が寄せられている。外観検査の自動化により,検査作業員の負担を軽減でき,さらに検査作業員の熟練度や体調による精度のばらつきを抑えることができるため,深層学習を用いた外観検査の自動化や高度化への取り組みは生産性向上と検査品質向上に資するものと期待される。
 一方,深層学習を用いるかどうかに限らず,外観検査の自動化に向けて検討すべきことは多岐にわたる。特に,その検査精度が検査対象や現場の条件に大きく依存しうるために,外観検査の自動化の適用対象を慎重に選定した上で,対象の特性や条件に合わせた手法の選択やチューニングを行う必要がある。
 本稿では,深層学習の特徴と画像センサを用いた外観検査への適用について概説し,さらに深層学習を用いて外観検査の自動化や高度化を試みた当社の事例について紹介する。

 

ノーベル賞技術“光コム”による三次元外観検査事例
(株)XTIA 松崎 賢二

3D Inspecting Solution by Nobel Prize Winning Technology “Optical Comb”
XTIA, Ltd. Kenji MATSUZAKI

キーワード:光コム,非接触法,形状測定,品質管理,品質保証,欠陥,鋳造品,鍛造品

はじめに
 日本における労働人口減少という課題や,ドイツの提唱した「インダストリー4.0」のトレンドに対応すべく,「工場の自動化」に対して注目が集まっている。工場の現場は,「モノを製造」し,「モノを搬送」して,最後に「モノを検査」するという工程が何度も続きながら,モノづくりが行われている。この中で,「モノの製造」と「モノの搬送」は早期に自動化が実現されたが,「モノの検査」だけは,21 世紀を迎えた今も多くの工場で人の目に頼っている。人の目はとても有能で,容易には置き換えられないからだ。半導体などのサイズが非常に小さく,凹凸形状の少ない部品や,表面性状が安定している金属箔・鋼帯・フィルム・シートは早くから外観検査装置が導入されてきたが,凹凸形状の激しい自動車エンジン用の鋳造部品や形状が複雑な油圧部品や航空部品の検査の多くは人の目に頼っている。これらの外観を自動検査するには,高速,高精度,凹凸形状測定可能で,さらに,製造現場のあらゆる外乱光の影響を受けない測定が必要となる。

 

論文

被膜はく離状人工欠陥試験片の製作とアクティブサーモグラフィ法の適用
見山克己,吉田 協,奥村瑞記,櫻庭洋平,田中大之,相山英明

Fabrication of Artificial Delamination Flaw Specimens and an Application of Active Thermography
Katsumi MIYAMA,Kanou YOSHIDA,Mitsunori OKUMURA, Yohei SAKURABA,Hiroyuki TANAKA and Hideaki AIYAMA

Abstract
Combination of heterogeneous materials is an essential technique for performance improvement in many fields. But sometimes planer voids or delamination may exist at the interface between the coating and the base material or in the coating itself. In order to detect these voids, thermography measurement is a promising method because it has less material restrictions. We fabricated three types of measurement specimens which had different sizes and locations of pseudo-voids and attempted to detect the voids by active thermography with both large-area heating by a halogen lamp and localized heating with a fiber laser. In addition, we discuss the fabrication of the pseudo-void specimens using 3-D printing and the characterization of the sizes and the depths of the voids using active thermography. The difference between the peak temperature near the void and that in the non-void region indicates the potential for identification of the size or depth of the void.

Key Words:Active thermography, Transient thermal response, Fiber laser, Additive manufacturing

緒言
 めっき・溶射・拡散被膜等のコーティングは材料の高機能化に有効な手段であり,近年では,ガスタービン等への超耐熱コーティングの実用化が進みつつある。コーティングの品質保証の観点から被膜自体や基材界面における非破壊欠陥検出技術が必要とされるが,複雑形状素材における被膜欠陥を効率よく正確に検査できる非破壊検査技術は未だ確立されているとは言い難い。複雑形状の部材に対して,欠陥を可視化する技術としてX 線CT が広く用いられ始めているが,鉄鋼材料ではX 線の吸収減衰が大きいため,被検査物の大きさに制限があること,また据付型の装置であるため,大型構造物等を検査対象とした場合は適用することができない。コーティング被膜の非破壊検出手法としては,局所的な検査であれば一般的な超音波探傷が適用可能であるし,静電容量変化による検出手法も提案されている1)。ただしこれらの手法は,基本的には被膜とセンサやプローブとの接触を必要とする。 一方,赤外線サーモグラフィ法による非破壊検査は,欠陥部と健全部における熱的物性の差異さえ存在すれば理論的には欠陥検出が可能であり,非接触の検査を実現できる2)。特に,外部熱源を用いて欠陥部と健全部の温度応答差を検出するアクティブサーモグラフィ法は,熱源を適切に選択すれば複雑形状製品への適用や現場での検査が可能と期待され,コーティング被膜のき裂を赤外線サーモグラフィ法で検出する手法や3),部材裏面からの加熱による欠陥検出(透過法)などの先行研究事例が見られる4)。 われわれは,被膜直下の欠陥検出に適用することを目的として,測定面加熱による赤外線サーモグラフィ測定(反射法)を実現するため,多関節ロボットと組み合わせ可能なファイバレーザを加熱源にし,赤外線サーモグラフィ装置と組み合わせて加熱冷却時の過渡応答を解析することで,材料の内在欠陥を任意の位置で検出し定量的に可視化することを試みた5),6)。この場合,既知の欠陥を導入した測定試験片を準備する必要がある。本稿では,欠陥の深さ位置や欠陥自体の大きさが熱応答に与える影響を知るため,欠陥導入試験片を新たに設計・製作し,実際に熱応答挙動を測定した結果を報告する。試験片製作に際しては,コーティング部材に発生するはく離状欠陥を内在する試験片を製作するため,アディティブマニュファクチャリングの一つである金属粉末積層造形法(いわゆる金属3D プリンタ)の適用を試みた。

 

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