logo

<<2027>>

  • 1月2月3月4月5月6月7月8月9月10月11月12月
  •  
  • 予定はありません。

機関誌

2021年5月号バックナンバー

2021年5月23日更新

巻頭言

「デジタルRT の規格の現状と展望」特集号刊行にあたって

釜田 敏光

 放射線透過試験は,放射線を試験対象物に透過させて,試験対象物による減弱量をフィルムなどの検出器で測定することで,試験対象物の内部の状態を調べることである。線源,試験対象物,フィルムなどの幾何学的な配置により,試験対象物内部の情報を保持したまま像として投影される。

 ハロゲン化銀を感光材料としたフィルムが使用され,放射線により感光したハロゲン化銀を現像処理により,固定化され,フィルムの可視光の透過度の変化により像として,人の目により観察される。

 フィルムは,支持体の上にハロゲン化銀ゼラチン乳剤を塗布し,乾燥させ数μm ~ 20 μm 程度の厚さの感光層を設けたものであり,用途に応じて支持体の種類,厚さ,形状などが異なり,感光層の数や写真乳剤の性質も異なる。

 ハロゲン化銀粒子の大きさは,X 線フィルムでは,1 ~数μm で,その分布は,感光層の影響を受ける。一方,ハロゲン化銀粒子の感度はその大きさに比例する。このことは,ハロゲン化銀粒子が現像により,その大きさによらず,1 個の安定した潜像となることによる1)。

 以上,放射線透過試験の検出器としてのフィルムの性能について述べた。

 検出器のデジタル化が,半導体技術,CPU の高速化などの技術革新によりその利用が高まってきた。

 機器としては,コンピューテッドラジオグラフィ(CR),フィルムデジタイジング,デジタル検出器システム(DDA)などが挙げられる。

 CR は,フィルムの代わりに輝尽性蛍光体イメージングプレート(IP)を使用して放射線透過試験を行う。フィルムと同様の柔軟性のあるシートであるため,フィルムと同様の取扱が可能となる。IPは,フィルムのように化学的な現像処理は不要で,スポットレーザにより,IP をスキャニングして情報をデジタルデータとして取得できる。利点としては,化学的な現像処理が不要であり,繰り返し,IP を使用できる。また,IP を読み込むことにより,即座にデジタル情報として画像化が可能であることである。デジタル画像の解像度は,IP の読取時のスポットレーザの大きさで決定され,約25 μm ~100 μm である。

 フィルムデジタイジングは,撮影済みのフィルムを光学的にスキャニングして,デジタルデータに変換する方法であり,画像のデジタル化が可能である。デジタル画像の解像度は,フィルムスキャナの読取ピッチに依存し,約25 μm ~ 100 μm であるが,読取フィルムの状況によっても変化する。

 DDA は,フィルムの代わりに平面的に配置した放射線検出器により,デジタル画像を取得することが可能である。検出器の配置ピッチは,75 μm ~ 400 μm である。

 フィルムは,肉眼での観察となり,観察可能なダイナミックレンジは,8 ~ 10 ビットと言われている。これに対しデジタルでは,12 ~ 16 ビットの範囲の情報が得られる。

 ここで,放射線により得られる情報の最小面積は,フィルムは,潜像の大きさは,1 μm 程度,CR 及びフィルムデジタイジングでは,読取のサイズは,25 μm 程度,DDA では,検出器のピッチは,75 μm程度となっている。

 フィルムの潜像に目を向けて見る。1 個の潜像の大きさは,1 μm 程度であるが,同一量の放射線によって,ハロゲン化銀は,その体積に比例して潜像となるが,その配置によって,観察時のフィルムを透過する光の量は変化する。

 

解説

デジタルRTの規格の現状と展望

デジタルラジオグラフィ規格の現状と展望 − JIS Z 3110 と対応国際規格−

(一社)日本非破壊検査協会 大岡 紀一

Current Status and Prospects of Digital Radiography Standards
− JIS Z 3110 and Related International Standards −

The Japanese Society for Non-Destructive Inspection Norikazu OOKA

キーワード:デジタルラジオグラフィ,CR,DDA,JIS Z 3110,イメージングプレート(IP),IQI

はじめに
 デジタルラジオグラフィ(以下D-RT という)は,近年の現場適用の急速な高まりの中,D-RT に関するISO 規格及びJIS の制定によって加速されつつある。フィルムラジオグラフィ(以下F-RT という)が1960 年代の後半に現状の鋼溶接継手の放射線透過試験の規格であるJIS Z 3104(鋼溶接継手の放射線透過試験方法)が強制規格として制定され,1995 年に改正されても国内ではF-RT が主流であったため,国内でD-RT への取り組みも積極的でなかったことにもよると考えられる。国内では,1990 年代後半にD-RT の各種手法についての最低限の要件を規定したガイドラインNDIS 1403:1999(日本非破壊検査協会規格,デジタルラジオグラフィシステムによる放射線透過試験方法)を(一社)日本非破壊検査協会(以下JSNDI という)において制定したもののJIS ではないこともあり,その適用は社内規定に基づく配管などの検査に限定されたものであったと推測される。

 その後JSNDI では,JIS Z 3104 をベースに新たにコンピューテッドラジオグラフィなどの方法を附属書として追加することを検討した。しかし,D-RT に関するEN 規格,ASTM 規格などの調査・研究を進めていく過程で,新たなD-RT としての追加量の多さ及び技術的内容もF-RT と異なる部分が少なくないことが明らかとなった1),2)。また,JIS Z 3104 は強制規格で,改正は容易ではないため,ISO 規格をベースにしたJIS Z3110:2017(溶接継手の放射線透過試験方法−デジタル検出器によるX 線及びγ 線撮影技術)を2017 年9 月に制定している。ここでは,JIS Z 3110 の規格を基にその内容をF-RT と比較しながら,規格適用の観点から,その現状と適用について解説し,関連の国内外規格を取り上げるとともに規格の解釈に有用な技術的内容にも触れ,将来への展望を述べる。

 

JIS Z 3110:2017 の溶接部検査適用に向けた検証

三菱パワー検査(株) 下田 亮太  岩見 大介

Verification for Application of JIS Z 3110:2017 to Weld Inspection
Mitsubishi Power Inspection Technologies, Ltd. Ryota SHIMODA and Daisuke IWAMI

キーワード:非破壊検査,放射線透過試験,デキーワード ジタルラジオグラフィ(DR),像質,規格

はじめに
 放射線透過試験(以下RT)は放射線の透過作用を利用して試験体内部の状態を確認することができる試験方法である。従来は工業用X 線フィルム(以下フィルム)を検出媒体としたフィルムRT(以下F-RT)が主流であったが,近年の科学技術の発展に伴い,デジタル検出器の登場からデジタルRT(以下D-RT)への関心が高まっている。D-RT はF-RT に比べ現像処理が不要,繰り返しの使用が可能,画像処理が可能,PC での画像保存が可能等の特長を持つ。

 当社では主にボイラチューブや配管,圧力容器の溶接部検査を対象にRT を実施している。当社においても今までF-RTで行っていた検査業務をD-RT へ置き換えていくためデジタル検出器を導入していたが,当時D-RT に関する国内規格が整備されていないこともあり一部の製品の自主検査のみと適用範囲が限定的であった。またその撮影方法もF-RT の規格であるJIS Z 3104:1995 1)(以下JIS Z 3104)等のフィルムをデジタル検出器に置き換えたのみであった。2017 年にデジタル検出器を用いた撮影方法について規定した,JIS Z 3110:2017 2)(以下JIS Z 3110)「デジタル検出器によるX 線及びγ 線撮影技術」が制定された。これにより規格に準拠したD-RT を行うことができるようになったわけだが,F-RT のJIS Z 3104 等とD-RT のJIS Z 3110 では規格要求が異なることから単純にフィルムとデジタル検出器を置き換えるだけでは不十分である。そのため,当社が保有するコンピューテッドラジオグラフィ(以下CR)とイメージングプレート(以下IP)を用いてJIS Z3110 クラスA(基本的な技法に準拠した検査)が可能か検証を行った。本稿では適用に向けた検証と実際にJIS Z 3110 の溶接部検査へ適用する際に生じる問題点を紹介する。

 本検証内容は,現在実際に行われているF-RT の幾何学的撮影条件において,フィルムとIP を置き換えた際にJIS Z 3110に準拠した撮影ができるか検証したものであり,機器の限界性能を追求した検証でないことを述べておく。

 

デジタルラジオグラフィワークフロー及び画像データの取り扱いについて

富士フイルム(株) 成川 康則

Workflow and Image Data Management in the Digital Radiography System
FUJIFILM Corporation Yasunori NARUKAWA

キーワード:規格,放射線透過試験,デジタルラジオグラフィ(DR),ワークフロー,画像処理

1. デジタルラジオグラフィシステムの登場
 1970 年代後半,まだ,パーソナルコンピュータ(以下,PC)が開発されていないコンピュータの黎明(れいめい)期に,銀塩写真が全盛期であった放射線画像診断分野において,Computed Tomography(以下,CT)を皮切りに,X 線写真のデジタル化が進展した。イメージングプレート(以下,IP)を用いたComputed Radiography(以下,CR)は1981 年に発表され,FUJI Computed Radiography(以下,FCR)として1983 年に上市されている。撮影感度,画質の両面でフィルム法に匹敵する性能を持ち,かつIP のもつ広いダイナミックレンジとデジタル画像処理による診断可視域を広げる効果から,フィルム法を置き換え得るものと評価された。医用のデジタル化の進展に合わせて非破壊検査への適用も模索され,1990 年代半ばから非破壊検査専用のFCR システムが上市されている1),2)。

 デジタルX 線写真の実現とほぼ同時に,ネットワークで接続された医用画像機器から得られたX 線写真のデータを統合的に保存,管理,検索性を向上させるPicture Archiving and Communication System(以下,PACS)という概念が現れた。PACS は,画像通信技術,表示装置の高精細化技術,大容量の記憶デバイス及びネットワーク技術などの進歩を取り入れ現在に至っている。

 近年では,多種多様な大量のデータのセンシングを行うInternet of Things(以下,loT)の普及とともに,人の判断や問題解決を支援するArtificial Intelligence(以下,AI)の導入が進められるなどデジタルトランスメーション(以下,DX)の動きが活発化している。

 本稿では,デジタルラジオグラフィ(以下,デジタルRT)システムの一例としてPACS の概念を取り入れたFUJIFILM社製 FUJIFILM DynamIx VU を取り上げ,デジタルRT ワークフローの概要,画像データの取り扱い,連携する機能及び関連規格について紹介する。

 

コンクリート構造物の放射線透過試験に適したX 線フィルム

富士フイルム(株) 才木 隆史

X-ray Film Suitable for the Radiographic Testing of Concrete Structures
FUJIFILM Corporation Takafumi SAIKI

キーワード:放射線透過試験,工業用X線フィルム,蛍光増感紙

はじめに
 社会インフラの老朽化に伴い,安全・安心の確保及び中長期的な維持管理などの視点から,コンクリート構造物に対する非破壊検査ニーズが増加している。

 コンクリート構造物の放射線透過試験は内部構造を像として直接捉えることができるが,オフィス,工場及び住居など人が活動している場所で行われることがある。撮影時には,立入制限区域を設けるが,被ばくのリスクを最小化するために露出時間を極力短くし,線量を最小に抑えることが求められる。コンクリート構造物は透過厚さが大きく,線源と検出器間の距離が大きくなることから露出時間が長く,さらに,コンクリート構造物内部で発生する散乱線の影響を低減できる,高感度の放射線検出器が望まれている。

 放射線透過試験で主に用いられる検出器を表1 に示す。各検出器は,撮影対象物,屋内及び屋外といった撮影環境に応じて選択することが推奨される。X 線フィルムは,現像等の処理が必要であるが,放射線検出器としてみると,軽量で柔軟性を有し,砂漠や雪中などの厳しい環境で使用できるなど耐環境性が良く,かつ電源が不要な汎用性が高いという優れた特長を有している。

 今回,超高感度化を実現し,露出時間を短縮したコンクリート構造物の撮影に適した超高感度X 線フィルムシステムを製品化した。超高感度蛍光増感紙用X 線フィルムIX600 について紹介する。

 

to top