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機関誌

2023年7月号バックナンバー

2023年8月5日更新

巻頭言

「創立70 周年記念号」特集号刊行にあたって

塚田 和彦

創立70 周年記念事業の一環として,機関誌「非破壊検査」における記念特集号を,7 月と8 月の2 号にわたってお届け致します。

協会は昨年の10 月25 日に創立70 周年を迎えたわけですが,新型コロナウイルス感染症の影響を受け,祝賀行事をその時期に執り行うことは叶わず,5 月の自粛要請等の解除によって,ようやく6 月6 日に記念式典を挙行することができたわけです。式典や祝賀会の様子は,記念講演を先行的に協会の定例行事に合わせて順次行うという,マラソン方式で実施してきた一連の70 周年記念行事の記録の一つとして,8 月号に掲載することとしております。それに先立つこの7 月号は「創立70 周年記念号Ⅰ」として,非破壊検査分野におけるこの10 年の学術的な進展を読者に振り返って頂く企画となっております。

創立60 周年のときに,ちょうど編集委員長を務めていた関係で,記念事業の一つとして,少しわがままをとおす形で,これまでになかった試みをさせて頂きました。それは,過去10 年間に機関誌に掲載されたすべての「論文」と「解説」から学術面と啓蒙的な観点から特に優れたものを選考するとともに,毎号でなされている特集についても,読者や協会にとって特に有益であった特集「企画」を選考し,60 周年記念として表彰するというものでした。機関誌に掲載される論文や解説は,その時々で最新であることが要請されるわけですが,10 年というスパンでそれらを見返すことが,協会の学術部門の次なる展開を模索するためにも有用であろうとの思いで,そのようなことを記念事業の一つとして始めたわけです。

優秀賞選考にあたって頂くメンバーには,10 年分の機関誌を全部見て頂くという大変な労力をお願いすることになっているわけですが,今回の70 周年事業においても,60 周年に行ったことを踏襲し,第61 巻から第70 巻までの機関誌に掲載されたすべての論文(59 篇)と解説(609 篇),ならびに特集企画(107 件)を対象として,それぞれ70 周年記念「優秀論文賞」2 件,「優秀解説賞」4 件,「優秀企画賞」3 件を選考して,記念式典において表彰を行いました。各賞の選考結果は,授賞された方々の写真とともに,巻頭にまとめて掲載しております。

対象論文の数が,60 周年のときの178 篇からかなり少なくなってしまったことは,多くの研究者が,海外誌への投稿を優先するようになっていることの影響が大きいと思われますが,この事情に対する抜本的な施策などあろうはずもなく,ただ,研究者相互のより活発なコミュニケーションを生み,非破壊検査の研究へのさらなるモチベーションを涵養できるような場を,当協会が少しでも多く提供できるよう努めることが大切であると考えております。10 年ごとに行うこのような表彰も,その努力の一つとご了解頂けたらありがたく思います。

さて,本特集号は,今回の70 周年記念表彰を受けられた方々に特別に寄稿して頂いた記事から構成されています。「論文賞」の方々には,受賞対象となった研究とその展開について述べて頂いていますが,そのうちの1 件は新たに学術論文として投稿して頂いたものです。「解説賞」の方々には,受賞対象となった記事の内容について,その後の技術的進歩も含めて,改めて解説して頂いております。今回はそれらに加えて「企画賞」の方々にも,対象となった特集号を改めて振り返って頂くとともに,編集した際の思い出なども含め,随想として寄稿して頂いております。

次号に2012 年11 月から2022 年10 月までの年表を掲載することになっていますが,協会の諸活動の推移とともに,本特集号が,非破壊検査の学術面での動きを,読者の方々に改めて振り返って頂く契機となれば幸いと思っております。最後に,特別に寄稿して頂いた方々に感謝の意を表するとともに,優秀賞選考の作業に携わって頂いた編集運営委員会のメンバーの方々にも,この場を借りてお礼申し上げる次第です。

 

解説

創立70 周年記念号Ⅰ

弾性体接触界面における分調波の発生メカニズム

大阪大学 林 高弘

Sub-harmonic Wave Generation Mechanism at Interfaces of Elastic Solids
Osaka University Takahiro HAYASHI

キーワード:分調波,非線形超音波,接触界面,数値計算

 

はじめに
 超音波を用いた金属材料の非破壊検査は,第2 次世界大戦時に大量に建造された大型の戦艦や貨物船の溶接部の検査などへの適用を目的に広く研究されるようになり,その後,あらゆる製造現場に取り入れられるようになった1)−3)。一般に,JIS やNDIS の規格として制定されている超音波非破壊検査法のほとんどは,その内部に発生させた超音波パルスの振幅や到達時刻によって内部状態を評価するものである4),5)。すなわち,対象物は線形弾性体とみなせるほど微小なひずみ,微小な応力の場を考えており,入射波の振幅をN 倍にすれば,応答波形の振幅もN 倍であり,周波数f の入射波に対する応答は必ずf である。

NDIS 規格の中で唯一,線形弾性体として対象物を扱っていないものとして「音弾性法による応力の測定方法通則」6)が制定されている。音弾性は,構造内に負荷された静的な応力によって超音波の音速が変化することを利用した材料特性評価手法であり,数少ない応力の非破壊計測技術として,ボルトの軸力測定などに利用されている。日本非破壊検査協会でも,1980 年代90 年代には前出のNDIS 規格とともに非破壊検査協会音弾性研究会などで活発に研究成果が報告されてきた7),8)。この音弾性法では,対象物を線形弾性体とみなすことができないので,非線形応答を利用した非破壊検査手法という意味で,非線形超音波法である。

2000 年代に入ると,応力による超音波音速の変化だけでなく,材料の微小な非線形性を高調波や分調波(分数調和波)という形で計測することで,非破壊材料評価に応用する取り組みがさかんになった。非破壊検査協会では,2006 年に非線形超音波法に関する特別研究会が発足され,これまでに協会誌内で6 回の特集号が発刊されている9)− 14)。その中で特に注目されてきたのが,き裂界面の接触による超音波の非線形応答である。非破壊検査技術の工業利用にとって主な対象物である金属材料では,応力−ひずみ関係における素材自体の非線形性は非常に小さく,超音波計測において高調波や分調波といった応答もごく小さい。一方で,き裂界面に超音波振動が入射された際の,界面接触による非線形性は,高調波や分調波といった形で比較的大きく表れることが示されており,たとえば応力腐食割れのき裂先端を高精度で検出する技術として研究がすすめられた。

中でも分調波は界面接触による非線形性でのみ発生すると考えられており,き裂の非破壊検査に有望なツールとなりうるとされている。しかしながら,その発生機構には不明な点が多く,どのような界面で,どのような入射波を与えた場合に発生しやすいのか,しにくいのかなど基礎的なところも分かっていなかった。そこで,著者らはアルミニウム合金ブロックを突き合せた接触界面に対し,垂直に超音波を入射した場合の分調波の発生について,実験と数値計算より検討した15),16)。

本稿では,高調波や分調波を含む波形の性質について述べた後,アルミブロック界面での基礎実験結果及び数値計算での検討結果から,接触界面に垂直に入射する場合の分調波発生に関する知見を示す。

 

X 線イメージングに利用されるX 線の特性と現象− X 線の発生・透過・検出の過程におけるX 線・電子・物質の関わり−

東芝IT コントロールシステム(株) 富澤雅美

Characteristics and Phenomena of X-rays Used in X-ray Imaging
Toshiba IT & Control Systems Corporation Masami TOMIZAWA

キーワード:X 線イメージング,X線の特性,相互作用,非破壊検査

 

はじめに
 2014年5月号の非破壊検査の特集「X 線の測定とデジタル画像化のための新しい画像化センサ」において,「種々のX 線画像化センサのしくみと特徴,および,最近の動向」として,解説させていただいた1)。このたび,それにまつわる解説を執筆させていただく機会に恵まれたので,X 線イメージングに利用されるX 線の特性と現象について,X 線の発生・透過・検出の過程におけるX 線・電子・物質の関わりに着目して解説したい。X 線によるイメージングの中で最も一般的なX 線吸収像のイメージングを主として,その像が得られるまでのしくみを物理的な観点からひもとき,X 線の特性と現象についての理解を一層深めたいと思う。

 

非破壊検査におけるデータ同化

愛媛大学 中畑 和之

Data Assimilation in Non-destructive Inspection
Ehime University Kazuyuki NAKAHATA

キーワード:データ同化,直接挿入,粒子フィルタ,デジタルツイン,NDE 4.0

 

はじめに
 創立70 周年記念最優秀解説賞を受賞する運びとなり,読者およびご推薦頂いた関係各位に感謝申し上げる。大変名誉なことであり,微力ではあるが,引き続き非破壊検査業界へ貢献できればと考える。受賞対象となったのは「超音波非破壊検査へのデータ同化の導入」という解説記事1)(68 巻2 号,2019)であり,今後増えるであろうシミュレーションと計測データの融合について執筆した。一方,本稿を執筆している2023 年は,非破壊検査業界のデジタルトランスフォーメーションを具現化するロードマップ,NDE 4.0 2)が盛り上がってきている(NDE はNon-destructive Evaluation の略)。NDE 4.0 が実現した世界では,図1 に示すように,Industrial Internet of Things(IIoT)やロボティクスを駆使した多点計測や遠隔計測がフィジカル空間で行われ,得られた大量のデータはサイバー空間に転送されて処理・解析される。このとき,AI を用いてきずの判定をしたり,デジタルツインと呼ばれる仮想モデルを用いて,きずの評価や品質管理を行うことが想定されている。デジタルツインではモデリング・シミュレーションがキーであり,計測データとうまく融合することが非破壊検査の高度化に繋がる。超音波検査を例にとれば,現状のシミュレーションは,超音波の挙動を予測するためのツールであって,プローブ等の設計,疑似エコーの発生原因の推定,あるいは超音波の伝搬を理解するための教育用途等に用いられているのが大半である。これから一歩踏み出して,検査にもっと絡めて活用することが必要である。

さて,前稿1)では,「データ同化はシミュレーションに計測データを取り入れる方法と広義には解釈でき,その数理や計算技術体系は多岐にわたる3)。また,昨今,AI が非破壊検査に盛んに導入されているが,AI には物理モデルは必ずしも必要ではなく,教師データの量が重要である。一方,データ同化は,データ数は少なくても良いが,現象を表す数理モデルと計測データの取り込み方が精度を左右する」といった内容で,事例を含めた解説記事を書いた訳であるが,本稿は前稿をさらに分かりやすく解説するというコンセプトである。短いページでどこまで説明できるか不安であるが,ここでは,データ同化の原理,特に個々のデータの信頼性がどのようにデータ同化に反映されるかについて述べたい。

 

深化する:人に学ぶ画像検査機械開発

中京大学 青木公也  中京大学/(同)YYC ソリューション 輿水大和

Deepening : Development of Visual Inspection Machine Inspired
by Human Inspection Mechanism

Chukyo University Kimiya AOKI
Chukyo University/YYC Solution LLC Hiroyasu KOSHIMIZU

キーワード:画像検査,目視検査,外観検査,きずの気付き処理(KIZKI処理),画像処理技術と AI(人工知能)技術

 

はじめに
 モノづくりの現場において検査は欠くことができない。特に外観検査は,原材料の選別から中間製品,最終製品の良否判定によって不良の流出を防ぎ,製品品質や企業への信頼性を担保する重要な役割を果たしている。従って,検査の信頼性・効率性の観点から,目視検査に代わって画像処理技術による自動化が進められてきた。単純な検査であれば人間より遥かに高速にかつ精密で正確な検査が可能となって久しい。これに加えて近年では,いわゆるAI(人工知能)技術の応用も進み,従来の画像処理技術では困難であった検査対象・項目についても,自動検査への期待が高まっている。「2021 年版ものづくり白書1)」においても,主力製品の製造に当たり重要となる作業の一つに「測定・検査」があり,その5 年後の見通しにおいて「デジタル技術に代替される」と回答された割合が最も高い。しかし,2026 年まではまだ3 年あるものの,外観検査の自動化が達成されていない現場は多数ある。

外観検査の自動化には,多岐にわたる検査対象(例えば,鋳造品・鍛造品・プレス成型品等の素形材,機械部品や電子部品,ガラス・樹脂・ゴム製品,シート状部材,繊維,食品,農水産物等)と,検査項目(例えば,きず,打痕,バリ,欠け,変形,シミ,ムラ,汚れ,異物,組付け不良等)に対応して,その画像処理手法や撮像条件の設計や調整が必要となる。つまり,ワンオフ開発になりがちである。外観検査装置は,カメラや照明等で検査対象を撮像する撮像系と,検査画像から良不良を判定する画像処理系から成る。その設計・製作には,既存の画像処理技術を検査対象と項目,さらには製造ラインにおける制約に応じて組み合わせる適用技術が必要であり,プログラミング能力,センサ・照明等の光学系,メカトロニクス,そして画像処理に関する知識が要求される。これにAI が加わった。ただしAI を使えば簡単に自動化できるものではない。外観検査にはおいてAI は画像処理系を構成し,撮像系で得られた画像を入力すると判定結果を出力する。従って,そもそも入力画像に所望する判定に十分な情報が含まれていなければ,たとえ最先端のAI 技術を適用したとしても問題は解決しない。昨今,AI/DX 人材の育成・確保が叫ばれているが,その技術をモノづくりの現場に適用するには,まさに現場を熟知している必要がある。つまり,現場のデータの本質を理解していて,かつ画像・AI 技術を運用できる人材が必要である。

閑話休題。画像処理による外観検査の自動化は,いわゆる古くて新しい課題の一つである。近年では,AI 技術により課題解決のスピードは加速しているが,それでも自動化の阻害要因・困難さがなくなることはない2)。それに対して著者らは長年にわたり,製造プロセスにも検査プロセスにも深く関与している熟練検査員の注意・集中意識3)や,人の視覚生理機構の根本的機能を実装する技術開発にこそ,外観検査自動化の技術的ブレイクスルーがあると考えている4)。つまり,「人に学ぶこと」,「現場を知ること」の重要性を再確認することである。本稿では以上の視座に立ち,著者らがここ10 年にわたって研究を続けてきた外観検査の自動化のための画像処理技術である「きずの気付き5)」処理(以降,KIZKI 処理と表記)について紹介する。

 

材料非線形性によるラム波高調波発生の理論解析

福井大学 松田直樹 京都大学 琵琶志朗

Theoretical Analysis of the Harmonic Generation of Lamb Waves Due
to Material Nonlinearity

University of Fukui Naoki MATSUDA
Kyoto University Shiro BIWA

キーワード:非線形超音波法,ラム波,高調波,固有モード展開,相反関係,位相整合条件

 

はじめに
 非線形超音波法による非破壊評価では,検査対象となる構造部材や欠陥が有する非線形超音波特性により発生する特徴的な周波数成分(高調波,和・差周波数成分,分調波など)に着目する。非線形超音波特性を発現するメカニズムは,非線形応力−ひずみ関係や転位運動など材料固有の非線形性(材料非線形性)と,閉口欠陥や界面の開閉口に起因する非線形性(界面非線形性)に大別できる。

平板やシェルなどの薄肉構造に対してガイド波を用いて材料非線形性を測定し劣化・損傷の非破壊評価を行おうとするとき,ガイド波が有する分散性,多モード性が非線形超音波特性に大きな影響を及ぼし得ることに注意する必要がある。例えば高調波発生に着目すると,材料非線形性を有する媒質中をある周波数の縦波が伝搬する場合,発生する高調波はもとの波(基本波)と等しい速度を持つため,高調波振幅は伝搬距離とともに累積的に増大する。一方,分散性を有するガイド波の場合,材料非線形性により発生する高調波は基本波と異なる速度を持つため,高調波振幅は累積的に増大しない。しかしながら,特別な伝搬モード,周波数を選択すると,基本波と高調波の位相速度が一致し,高調波振幅が伝搬距離に比例して増大することがある。ガイド波を用いた高調波計測ではこのような特徴をあらかじめ十分に理解しておく必要がある。

筆者らによる解説1)では,ガイド波の代表例であるラム波(平板を伝わるガイド波)に対して,分散性が高調波発生挙動に与える影響を説明するとともに,基本波と高調波の位相速度が一致する条件(位相整合条件)の理論的導出に関する研究成果を紹介した。位相整合条件を満たすように基本波のラム波モードと周波数を選択することにより,伝搬距離とともに高調波振幅が累積的に増大する測定条件で材料非線形性の評価を行うことができる。しかしながら実際の測定では検査対象となる構造材料に対して位相整合条件を厳密に満たす周波数を設定することは難しい場合が多い。位相整合条件を満たす周波数あるいはそこから外れた周波数においてラム波の高調波振幅が伝搬距離とともにどのように変化するかを知るには,材料非線形性を考慮したラム波伝搬の支配方程式を解析する必要がある。

材料非線形性を有する弾性平板を伝搬するラム波の高調波発生挙動に関してはこれまでに多くの理論解析が行われており2)−6),その多くは発生する高調波をラム波固有モードの重ね合わせで表現し,ラム波モードの直交性や相反関係式7)に基づいて各モードの振幅を求める方法を用いている。本稿ではこの解析法を概説するとともに,これに基づいてラム波高調波発生挙動を解析した結果について紹介する。

 

随想

特集号の企画を担当して

東芝IT コントロールシステム(株) 富澤雅美

In Charge of Planning the Special Issues
Toshiba IT & Control Systems Corporation Masami TOMIZAWA

キーワード:機関誌「非破壊検査」,放射線部門,特集,企画

 

はじめに
 私は,2011 年に編集委員を前任の当社藤井正司氏から引き継ぎ,2023 年まで10 回の特集を企画させていただきました。機関誌66 巻5 号(2017 年)の特集では「X 線の性質を応用した新しい検査手法」として,従来のX 線の吸収コントラスト像(被検査物の各部の透過線量を画像化する)では識別しにくい対象物に対して,新たな検査手法を寄稿していただきました。このたび,それにまつわる随想を執筆させていただく機会に恵まれましたので,その企画に際しての思い出,これまで担当させていただいた企画とその思いをお世話になりました皆様への感謝の気持ちを込めて述べさせていただきます。

 

超音波標準試験片頒布の今後

JFE テクノリサーチ(株) 高田 一

Prospect of Manufacturing and Selling of Standard Test Block for Ultrasonic Testing
JFE Techno-research Corporation Hajime TAKADA

キーワード:超音波探傷試験, 標準試験片,素材,音響異方性,非金属介在物

 

はじめに
 私が超音波標準試験片の頒布に関わるようになったのは,今から約20 年前のことです。春季大会がアルカディア市ヶ谷で開催され,懇親会後,市ヶ谷駅で電車を待っていたところ,故木村勝美先生から,試験片委員会の超音波部会に参加してほしいと声をかけていただいたのが始まりです。

この間,超音波部会部会長及び試験片委員会委員長として,様々な課題に取り組み,超音波標準試験の品質安定化,販売のタイムリー化などを図ってきましたが,まだ道半ばといったところです。本稿では,誌面の関係から3 つの項目に絞って,過去に行った施策を顧み,それと対比して今後取り組みが必要な課題について述べていきたいと思います1)。

 

「放射線による非破壊検査の歩み,その将来」に寄せて

ポニー工業(株) 釜田敏光

The History and Future of Non-destructive Inspection by Radiation
Pony Industry Co., Ltd. Toshimitsu KAMADA

キーワード:非破壊試験,非破壊検査,エックス線装置,透過試験装置,産業用 CT

 

放射線よる非破壊検査の歩みは,ヴェルヘルム・レントゲンが1895 年10 月に透過力を持つ光線,つまりX 線を発見したことが第一歩で,1896 年1 月にアルベルト・フォン・ケリカーが最初にX 線を用いた透過写真を撮影し,手の構造を明らかにしたことによりさらに前進したと考えられます。一方,1896 年にアンリ・ベクレルは,赤ウラン塩から放射する光線がX 線と似た透過力を持つことを発見し,その後1897 年にマリ・キューリが,その現象を放射能,その性質を持つ元素を放射性元素と名付けました。これらは,インターネット検索などで簡単に探し出すことができ,皆様も周知のことと思います。

しかしながら,その後の多くの先人達のご研究,ご尽力,ご苦労によって,我が国における現在の放射線による非破壊試験・検査が実施できていることは,世の中で広く認知されているとは言い難いのが実情と思われます。

理論,手法,規格などが整備されるにつれて,それまでの過程における開発秘話などが,あまり表に出ることがなく,しばらくすると忘れ去られるのではないかと,危惧しておりました。

さらに昨今は,これらの先人達の多くが第一線を退かれ,お話を直接お伺いする機会が少なくなってきています。

このような中,機関誌69 巻5 号(2020 年)の特集号の企画を担当させて頂くという千載一遇の機会を得ました。「温故知新」つまり,「古き訪ね新しきを知る」になぞらえて,様々な放射線による非破壊試験・検査の研究・開発の記録として,実際にその当時に従事された方を筆者として選定し,開発のご苦労話,開発秘話,利用されてきた社会背景などの解説の執筆を依頼したところ,9 編の解説記事のご寄稿を得ることができました。ご協力頂いた皆様には,改めて御礼申し上げます。

ここで解説記事の内容を振り返りたいと思います。

 

論文

透過のない絶縁物の偏光放射特性を利用した赤外線放射率測定法

小笠原永久,斉藤順哉,山田浩之

Infrared Emissivity Measurement based on Polarized Radiation Characteristics
of Non-transmissive Insulators

Nagahisa OGASAWARA, Junya SAITO and Hiroyuki YAMADA

 

Abstract
Emissivity is an essential property in quantitative thermography. A measuring method using the angle dependency of the polarized emissivity is proposed. In this method, the emissivity is obtained by measuring the temperature distribution around the Brewster angle with an infrared thermographic instrument with an infrared polarizer attachment. First, the specimen is heated uniformly then the distribution of the apparent temperature around the Brewster angle is measured by the infrared thermographic instrument with the infrared polarizer attachment. The infrared thermographic instrument can not measure the temperature precisely, but it can obtain the temperature distribution accurately. Next, by making the approximate curve for the temperature distribution, the position of the highest temperature can be identified and then the Brewster angle determined. Finally, using the value of the Brewster angle, the emissivity can be calculated. This proposed method is applied to two insulating materials and obtained good results in comparison with the emissivity obtained by FT-IR. In addition, another technique is proposed that uses sky radiation as a background reflection. This method does not require heating the specimen, therefore the specimen can be measured while keeping it at the normal temperature.

Key Words:Infrared thermogr aphic testing, Emissivity, Polarization, Angle dependency, Sky radiation

 

緒言
 赤外線サーモグラフィ試験の一つに,試験対象物のきずの位置,深さ,大きさなどを定量評価する定量サーモグラフィ法がある1),2)。きずの定量評価は,残存寿命等を判断する基準となるため,様々な対象物への活用が期待されている。しかし定量サーモグラフィ法においては正確な温度測定が必要であり2),試験対象物の放射率の把握が大きな課題となっている。これは,放射率によって見かけの温度や背景反射条件が変化し,正確な温度変化量を測定できないからである。よって非破壊試験の現場において実施できる放射率測定手法が求められている。

放射率を取得する方法として,ハンドブック等の文献値を用いることが最も容易であるが,放射率は赤外線サーモグラフィ装置の検出波長帯,試験対象物の表面状態・材料成分などによって異なるため,測定条件や材料成分が明確にされていない文献値は,目安として利用する程度に留める必要がある3),4)。試験対象物を直接測定する放射率測定法として,放射率が既知である黒体スプレーを試験対象物に塗布し,塗布面と測定面の放射エネルギー比から求める方法2)が利用されている。これは組込黒体法の一種と考えられる5),6)。しかし,測定後に塗料を完全に除去することが難しいため,実製品へは適用できない。また屋外では太陽光の放射加熱により塗布面と測定面の均一加熱が難しく,誤差を生じることに注意が必要である。その他に分離黒体法の一種として,フーリエ変換赤外分光光度計(FT-IR:Fourier Transform Infrared Spectroscopy)で測定する方法7),8)がある。本手法は,正確な放射率を波長別に測定できる利点があるが,測定装置に即した試験片を用意しなくてはならない。

一方で,放射率は偏光理論に基づき理論的に与えられる9)− 11)。この偏光特性を利用した放射率測定法が古くから研究されており,反射を利用する方法と測定対象物の放射を利用する方法に大きく分けられる12)。前者の代表例はMurray の方法13)であり,黒体放射を試料に照射し,回転する偏光子によって観測される楕円偏向成分が円偏光になるまで黒体温度を調整する方法である。また後者の代表例は,田中らによって提案された手法14),15)で,試料のP,S 偏光放射率間の関係を実験的に求めておき,その試料の偏光放射輝度を測定することで演算により求める方法である。両者とも精度の高い放射率を測定できる利点を有するが,専用の測定装置が必要であり,また実験手順も多く複雑である。そのため,非破壊試験を行う現場で実製品に適用することは難しい。

そこで本研究では,赤外線偏光子を装着した赤外線サーモグラフィ装置を用いて,放射率を測定する方法を考案した。特長として,測定対象物を一様な温度分布に設定できれば,正確な温度測定値は必要なく,加熱方法も限定されないことが挙げられる。

 

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