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機関誌

2019年4月号バックナンバー

2019年4月1日更新

巻頭言

「破壊力学の展開」特集号刊行にあたって 坂本  信

 非破壊検査協会の「応力・ひずみ測定部門」の紹介文は,以下のように書かれています。「応力・ひずみ測定部門は,現行の応力・ひずみ測定分科会の活動を引き継ぎ,数学的学理,物理的学理に基づく構造物の応力・ひずみの領域的評価・計測法(シミュレーション含)に関する研究成果報告,新技術,研究動向,解析データ例,情報交換と相互研鑽の場とする予定です。また,最近では,金属構造物だけでなく複合材料,セラミックス,生体材料を対象とした非破壊検査技術,デジタル画像・信号処理に関する話題も多くなっております」。また,学理のキーワードは次のようになっています。材料力学,材料強度,破壊力学,応力拡大係数,破壊じん性,弾塑性力学,波動伝搬,弾性波,バイオメカニクス,計算力学,医用電気,画像処理,信号処理,疲労,衝撃,き裂,熱応力,変形,微小変形,有限変形,弾性定数。今回の特集号は学理の三番目のキーワードである「破壊力学」に関するもので,題目は「破壊力学の展開」といたしました。学術雑誌の論文検索ウェブサイトであるScienceDirect において,“crack”というキーワードで検索すると548534 件,“fracture”では799614 件がヒットするということからも,これまでに極めて多くの研究がなされていることがわかります。
 筆者が専門とするバイオメカニクス研究のパイオニアであるレオナルド・ダ・ヴィンチは,歴史上の記録に残っている最も古い引張強度試験を行った学者・芸術家です。彼の実験では,ワイヤが長くなるとその強度は低下するというものでした。しかし,現代の技術で作製されるワイヤの強度は,太さが同一であれば長さに依存することはありません。レオナルドの実験結果は,彼が使用したワイヤ内部に何かしらの欠陥(き裂)が存在し,その欠陥が全体の強度を低下させたと推測されています。欠陥が材料強度を支配する場合,材料の長さが増大すると欠陥が存在する確率が高くなり,材料強度が低下します。このように材料には,欠陥によって設計した際よりも低い外力で破壊が生じます。このために,欠陥を考慮に入れた定量的な強度評価手法が必要とされ,特にき裂の大きさと破壊強度を考慮した破壊力学の考え方が1920 年代のGriffith からはじまり,現在に至っています。
 このような歴史背景の下,数多くの工学者が破壊力学の研究に取り組んでいます。本特集号では,応力・ひずみ測定部門に関連する9 名の機械工学の専門家に解説を執筆していただきました。鈴木新一先生には,高速進展き裂の応力拡大係数を測定する方法に関する「日本におけるコースティック法の研究と動的破壊力学」,田邊裕治先生には生体組織を対象とした「皮質骨の破壊力学」について解説していただきました。米山聡先生には,弾塑性体に存在するき裂先端の力学的負荷量の指標であるJ 積分に関する「画像相関法を用いた変位場測定によるJ 積分評価法」,坂上賢一先生には「乾燥収縮ペーストに発生するき裂の応力拡大係数測定」,関野晃一先生には,「光干渉法による応力拡大係数の測定」について,それぞれ解説していただきました。最後に坂本らによる「円形き裂の三次元弾性理論解析」では,き裂の理論応力解析に関して解説しました。
 本特集号を通して,破壊力学に関してますますの興味を持っていただければ幸いです。

解説

破壊力学の展開

日本におけるコースティック法の研究と動的破壊力学
新モンゴル工科大学 鈴木 新一

Studies of the Caustic Method and Dynamic Fracture Mechanics in Japan
New Mongol Institute of Technology Shinichi SUZUKI

キーワード:破壊力学,応力拡大係数,破壊靱性値,衝撃工学,き裂進展,実験

はじめに
速進展き裂が発生する。この高速進展き裂の応力拡大係数を測定することは,材料の動的破壊靱(じん)性値を測定することと同義であり,巨大構造物や社会基盤の安全を保障する上で極めて重要な課題である1)。
 この高速進展き裂の応力拡大係数を測定する方法にコースティック法がある2)−5)。コースティック法は,1964 年にManogg 5)によって考案され,光学系が単純であることから,多くの研究者によって使用されてきた。現在では新しい測定法も開発されているが,コースティック法は依然として重要な測定法の一つとして存在している。
 日本におけるコースティック法の研究は,1978 年ごろから始まり,その年の「非破壊検査」に二つの論文が公表された。一つは清水紘治・島田平八の「Caustic(Shadow)法による応力拡大係数の測定について」6)であり,もう一つは高橋清による「破壊のシャドーグラフィー・動的な破壊力学研究への応用」7)である。その後,清水・島田らの研究は東北大学から関東学院大学へと場所を変えながら,また高橋の研究は九州大学応用力学研究所において発展していった。これらの研究は,しばらくの間独立に発展するが,その後世界的な研究進展の中で,互いの関連が指摘されるようになる。
 研究の進歩というものは直線的に進むものではなく,複数のグループが互いに独立に且つ互いに影響し合いながら,紆余曲折を経て発展するものである。本稿では,この二つの研究に端を発する日本のコースティック法の研究が,動的破壊力学の世界的な発展のなかでどのような位置にあったのかを概説する。

皮質骨の破壊力学 −皮質骨の破壊じん性−
新潟大学 田邊 裕治  Jonas A. PRAMUDITA

Previous and Recent Studies on Fracture Mechanics of Cortical Bone
− Fracture Toughness of Cortical Bone −

Niigata University Yuji TANABE and Jonas A. PRAMUDITA

キーワード:骨の力学,皮質骨,強度評価,破壊力学,破壊じん性

はじめに
 以前,本誌において骨の力学的特性評価に関する研究の動向を紹介し,その中で皮質骨(ち密骨:Compact bone とも呼ばれるが本稿では皮質骨:Cortical bone で統一して記述する)の異方性と破壊じん性に関して得られている知見を述べた1)。本稿ではあらためて破壊じん性,すなわち骨の破壊力学的研究について,著者等のその後の研究成果も含めて紹介することにしたい。骨の力学的特性について,生理学や機能的適応による再構築等も含めて説明されている教科書としてMartin とBurr らの優れた成書がある2)。骨の破壊力学についても記述されているので,興味のある読者は一読されることを強く勧めたい。
 皮質骨にはハバース管(Haversian canal)やフォルクマン管(Volkman,s canal),また,骨小窩(Lacunae) や骨細管(Canaliculae)といった血管腔,微小細管および空孔が存在しており,この中で破骨細胞,骨芽細胞,骨細胞が活動し,骨の代謝機能を担っている。骨代謝に関する骨形態計測学(Histomorphometry)の研究によれば,微小き裂(Microcrack)がオステオン(Osteon)周囲のセメント線(Cement line)に沿って,しかも日常の生理的活動レベルの荷重条件下で,容易に発生することが明らかにされており,これらの微小き裂は骨の再構築を律速することも明らかにされている3)。したがって,この正常な微小き裂による再構築が何らかの原因で阻害されると,損傷が修復されずに骨基材(Bone matrix)中に累積し,やがて破壊(疲労骨折)に至ることになる。この疲労骨折の起こりやすさは,しかしながら,再構築や自己治癒能力に完全に依存するものではなく,ち密骨中に存在する層板状組織の耐き裂抵抗力(すなわち,構造によって生み出される耐き裂抵抗力)にも大きく影響される2)。したがって,骨折の予防あるいは予知という観点からは,従来の引張・圧縮,曲げ,ねじりに対する強度のみだけでなく,先在欠陥(Pre-existing defect or crack)の存在も考慮した破壊力学に基づく骨の構造健全性評価(Structuralintegrity)も重要であると言える。上で述べた微小空孔や微小き裂は破壊力学で前提とする破壊の起点とはなり得ないという見解もあり4),骨折のメカニズムを解析する上で破壊力学の有用性が議論されたこともあるが,皮質骨の破壊じん性は骨の脆(ぜい)弱性あるいは骨質(Bone quality)を表す一つの指標と捉えてはどうであろうか。加齢および骨粗鬆症による骨の脆弱化に関連して骨質という用語は最近良く使われるので。

画像相関法を用いた変位場測定によるJ 積分評価方法
青山学院大学 米山  聡

Estimating J-integral from Displacement Fields Measured
by Digital Image Correlation

Aoyama Gakuin University Satoru YONEYAMA

キーワード:き裂,破壊力学,J 積分,画像相関法,経路独立積分

はじめに
 固体材料の強度や破壊に関する研究を行う場合,応力拡大係数やJ 積分などの破壊力学パラメータがその指標として用いられている1)−4)。また,航空機産業や原子力などの分野では,製造時や供用中に発生した欠陥を対象として破壊力学的な構造健全性評価が行われている。この場合においても,破壊力学パラメータの評価が重要となる。このような破壊力学パラメータの評価はハンドブック5),6)を参照するか,もしくは有限要素法等の数値解析7),8)により行われることが多いが,測定対象の形状や境界条件が複雑な場合などにおいては得られた値の信頼性が問題となる。測定により評価する場合には,応力拡大係数は弾性体を対象としているためひずみゲージなどを利用して比較的容易に求めることができる9)。一方,荷重と荷重点変位の関係から簡便式を用いてJ 積分を評価する方法もあるが,簡便式が導かれている試験片のみにしか利用できない。また,き裂進展前後の荷重と荷重点変位の関係の変化から評価することも可能であるが,実際にき裂を進展させるかもしくはき裂長さの異なる複数の試験片を用意する必要がある4)。その一方で,最近は画像相関法の普及によりき裂近傍の変位場を容易に測定することが可能となっている10)。したがって,画像相関法により得られたき裂先端近傍の変位場から,J 積分の値を精度よく求めることができれば,破壊に関する研究や実構造物の健全性評価に有用である。
 き裂先端部において小規模降伏条件を満たす範囲内すなわち線形破壊力学が適用できる場合には,応力拡大係数の値は変位の値と比例関係にあるため変位場から容易に求めることができる11),12)。一方,塑性域が大きい大規模降伏の状態の場合には,破壊力学パラメータとしてJ 積分を用いる必要がある。この場合には,小規模降伏の場合と異なり破壊力学パラメータを変位場から直接求めることはできない。光学的測定法によりJ 積分の値を求める方法についてはこれまでに多くの研究がなされている。白鳥ら13),14)は赤外線を用いた温度測定によりJ 積分を評価する方法を提案している。ただし,赤外線を用いる場合は繰り返し負荷が必要である。Sakagami ら15)は熱弾性法と光弾性法を併用したハイブリッド応力解析法を用いて弾性体のJ 積分を評価している。また,Gray ら16)は弾性体を対象とし,モアレ干渉法を用いて変位場を測定しJ 積分を求めている。一方,Wang ら17)は弾塑性材料を対象とし,画像相関法により得られた変位場からJ 積分を求めている。しかしながら,彼らは弾塑性体を対象としているにもかかわらずJ 積分の算出に際して応力ひずみ関係にフックの法則を用いている。一方,Gardenas-Garcia ら18)は格子法を用いて変位場の測定を行い,弾塑性構成式を考慮してJ 積分値を求め,J 積分の経路独立性について調べている。曽根田19)らはき裂近傍に塗布したドットパターンを用いて画像処理により変位測定を行い,有限要素法を利用してひずみ等を求めてJ 積分を評価する方法を提案している。Kobayashi ら20)− 29)は弾塑性体を対象としてモアレ干渉法を用いて変位場の測定を行い,得られた測定値からJ 積分を求める方法を確立して,HRR 特異場30),31)やき裂進展後のJ 積分値などに関する研究を行っている。さらに,Kobayashi 32)はモアレ干渉法と有限要素法を併用し,線形破壊力学および弾塑性破壊力学において多くの知見を得ている。これらの研究では,変位場の測定にモアレ干渉法等が用いられていたため,測定およびその後のデータ処理が煩雑であった。一方,Sutton ら33),34)は画像相関法を利用してき裂先端部近傍の弾塑性変位場を測定し,J 積分やき裂開口角などを評価している。また,弾塑性有限要素法を利用したハイブリッド法により,J 積分の値を精度よく評価する方法も提案されている35)− 38)。これらのハイブリッド法では,解析領域の境界における変位を境界条件として有限要素解析を行うため,変位からひずみを求める際に問題となる誤差の増大がないという利点がある。また,弾塑性有限要素法を利用しているため応力の算出が容易である。
 画像相関法を利用して変位場の測定を行えば,データの取得および処理が容易であり,その後のJ 積分評価も容易に行えると期待できる。また,測定により得られた変位から変位勾配を求めると測定誤差が増大するが,J 積分を求める際にはそれらの値を積分するため,測定誤差のJ 積分値への影響は小さいと考えられる。そこで,ここでは画像相関法により得られた変位場から経路積分または領域積分を行うことでJ 積分値を評価する方法について説明する。変位場の測定値を利用したJ 積分評価法では矩形の積分経路が用いられていることが多かった20)− 29)。しかしながら,コンピュータ上のプログラムでデータを処理することを考慮すると,矩形の積分経路の場合は複数の経路を設定した際に場合分けなどの処理が煩雑である。一方,円形の積分経路を用いると,円の半径を指定するだけで自由に複数の設定をすることが可能である。さらに,画像相関法により変位が分布として得られていることを考えると,線積分ではなく領域積分を用いる方が測定誤差の影響を小さくすることができると考えられる。積分経路もしくは領域上の変位勾配およびひずみは測定により得られた変位分布を数値微分することにより算出し,応力は全ひずみ理論を用いて算出する。これらの値を用いてJ 積分の評価が可能である。この方法では,上述したハイブリッド法と異なり有限要素法を利用していないため,より簡便な評価が可能である。

乾燥収縮ペーストに発生するき裂の応力拡大係数測定
芝浦工業大学 坂上 賢一

Measurement of the Stress Intensity Factor for a Crack in Desiccating Paste
Shibaura Institute of Technology Kenichi SAKAUE

キーワード:破壊力学,応力拡大係数,デジタル画像相関法,乾燥収縮破壊

はじめに
 線形破壊力学の理論では,弾性体中の理想的なき裂の先端には応力拡大係数によって特徴付けられる応力場が現れることが示されている。応力拡大係数は応力場の特徴を表すだけでなく,破壊靭(じん)性と呼ばれるき裂を有する材料の強度特性を表すのにも用いられる。したがって,き裂を有する材料の応力場の評価,強度の計測において応力拡大係数の測定は重要である。
 材料中に生じたき裂の応力拡大係数を計測する実験力学的手法において,現在,最も有用な方法の一つはデジタル画像相関法を用いた方法である1)。デジタル画像相関法によって計測された変位場からの応力拡大係数の測定は,計測されたき裂周辺の変位場を線形破壊力学から得られる理論的な変位場で近似することで行われる。この方法は,弾性体中のき裂だけでなく粘弾性体中のき裂に対する応力拡大係数の測定にも応用できることや,き裂先端位置を変位場から決定できることから,その有用性は高い2),3)。しかし,体積の収縮・膨張を伴う材料中のき裂,例えば,温度変化によって収縮・膨張する物体中のき裂の問題に,この測定法を適用する場合には,体積収縮・膨張を考慮した方法を用いなければならない。本稿では体積収縮・膨張する物体中のき裂の応力拡大係数の測定に関する問題として,乾燥収縮するペースト中に発生するき裂の応力拡大係数について取り上げる。
 ペースト状の材料は乾燥させた際に,乾燥による収縮からき裂を生じる4)。こうした現象は干上がった沼地や,溶岩が冷却して生じた柱状節理など自然界で観察される。工学的にはコンクリート構造物の強度や寿命に関する問題である。ペースト状の材料が乾燥する際には,ペースト内の水分量の低下に伴い体積が収縮するが,この体積収縮が周囲の物体からの変位拘束によって妨げられると応力が発生する。したがって,乾燥収縮するペーストに発生したき裂は,体積収縮・膨張を伴う材料のき裂問題である。
 次節以降では,デジタル画像相関法によって計測された変位場から応力拡大係数を測定するための基礎となるき裂先端の変位場の理論解を示し,体積収縮・膨張の有無による変位場の違いについて説明する。また,混合モードを受けるき裂の応力拡大係数から破壊靭性を求める方法を示す。その後,乾燥収縮破壊の実験方法,デジタル画像相関法に基づく応力拡大係数の測定結果を示し,応力拡大係数の測定における体積収縮・膨張を含む変位場理論解の必要性を示す。

光干渉法による応力拡大係数の測定
(地独)神奈川県立産業技術総合研究所 関野 晃一

Measurement of Stress Intensity Factors using an Optical Interferometric Technique
Kanagawa Institute of Industrial Science and Technology Kouichi SEKINO

キーワード:光干渉法,コースティックス法,応力拡大係数,き裂の付与,ガラス

はじめに
 機械構造物に発生するき裂は表面から発生する場合が多く,破壊を未然に防ぐためには,このき裂を評価する必要がある。き裂の評価では,き裂進展速度や応力拡大係数といった値が用いられている。き裂進展速度は種々の非破壊検査で定期的にき裂をサイジング1)することで,測定が可能である。応力拡大係数は,光弾性法2),コースティックス法3)や画像相関法4)といった手法で,測定することが可能である。しかし,光弾性法およびコースティックス法は,主に2 次元き裂問題を対象としたもので,3 次元き裂へ適用した例は少ない5),6)。画像相関法においては,き裂先端周辺の開口変位から求めた応力拡大係数と有限要素法で求めた応力拡大係数はよく一致することが報告されている7)。
 き裂開口変位を用いて応力拡大係数を測定する方法には,画像相関法以外にも,光干渉法8),9)がある。光干渉法は,透明な材料のみに適用できる手法であるが,全視野範囲のき裂開口量を測定できる特徴があり,これまでに著者も半楕円き裂に光干渉法を適用して,き裂前縁の応力拡大係数の分布を実験的に測定し,Raju-Newman の式10)で算出した計算結果とよく一致することを明らかにした11)。この光干渉法はき裂開口量を測定できる特徴以外にも,き裂の形状も観察することができるため,応力拡大係数の測定のほかに破壊挙動の観察にも有効な手法であると考えられる。
 本稿では,光干渉法の原理と応力拡大係数の算出方法について紹介をする。まず,光干渉法を適用する上で,ガラス板にき裂を付与する必要があるため,熱応力や静的荷重を利用し,ガラス板へき裂を付与する方法について述べる。
 次に光干渉法の有効性を確認するため,光学的手法の一つで直接的に応力拡大係数を測定することができるコースティックス法を併用し,コースティックス法と光干渉法の両者で得られた応力拡大係数を比較した結果を紹介する。
 最後に光干渉法の適用例として,曲げ荷重下における近接半楕円き裂の破壊挙動および応力拡大係数の分布を測定した結果を紹介する。

円形き裂の三次元弾性理論解析
新潟大学 坂本  信  三浦鴻太郎  小林 公一
Jonas A. PRAMUDITA  田邊 裕治

Three-dimensional Elastic Analysis of the Penny-Shaped Crack
Niigata University Makoto SAKAMOTO, Kotaro MIURA, Koichi KOBAYASHI
Jonas A. PRAMUDITA and Yuji TANABE

キーワード:破壊力学,き裂,三次元弾性論,応力拡大係数,理論解析,軸対称問題

はじめに
 破壊力学の目的は,材料の欠陥の存在やき裂の発生,進展を予想して材料の破壊強度を評価して機械等の設計,材料選択および維持管理の条件を確立することにある。線形弾性力学から導出される応力拡大係数は,き裂先端近傍の応力場の強さを表現するもので,き裂を含んだ材料の強度評価において重要な役割を果たす物理量である。この応力拡大係数の概念は,米国ワシントンDC にある米国海軍研究所に勤務していた George Rankine Irwin( 1907-1998) によって提案1)されたもので,機械工学に大きな影響を与えた。Irwin は発射体の弾道学について研究を行う過程で車両装甲の開発に携わり,その経験からぜい性破壊に興味を持つようになったといわれている。その後,応力拡大係数の解析的研究はさかんになり,種々の物体に存在する様々なき裂に対する検討が行われ,これらの膨大な成果をまとめた叢書である“Stress Intensity Factors Handbook 2)”は,破壊力学の研究者にとってバイブル的存在である。
 最近では,有限要素法(Finite Element Method:FEM)を用いた複雑形状のき裂に関する応力拡大係数の評価が行われているが,き裂近傍の特異応力場をFEM により求めることは,FEM のメッシュの増大を伴い,容易には解を得られないことが知られている。三次元き裂問題を厳密に理論解析することは極めて困難であるが,応力拡大係数等に及ぼす種々の影響因子を陽に示す上でも,理論解析の重要性はこれからも失われることはないと筆者らは考えている。本稿では,三次元き裂,特に円形き裂を線形弾性理論に基づいて解析を行った研究例について紹介する。

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