2017 年の年頭にあたり,謹んで新年のご挨拶を申し上げます。
昨年は,東日本大震災から5 年が経過したばかりの時に平成28 年熊本地震が起こり,社会の様々な成長及び発展が進む中にあって,安全で安心な世の中の実現及び維持は,依然として第一義であることを痛感した年であります。
当協会においては,昨年,次のようなことがありました。6 月に本部で開催した総合シンポジウムでは,今後の成長が見込まれる航空機関連産業に着目して,国内有識者をはじめASNT(米国非破壊試験協会)やBINDT(英国非破壊試験協会)からも著名な方々を招聘し,「航空宇宙業界における非破壊検査」をテーマに話題提供いただきました。10 月に仙台で開催した秋季講演大会では,社会課題となっている「鉄筋コンクリート構造物の検査・点検のための非破壊試験方法」をオーガナイズドセッションに取り上げました。国際対応では,4 年に一度開催されるWCNDT(世界非破壊試験会議)が6 月にミュンヘンで開催され学術交流を深めるとともに,同時開催されたICNDT(国際非破壊試験委員会),APFNDT(アジア・太平洋非破壊試験連盟),ISO/TC 135(国際標準化機構/非破壊試験専門委員会)等の会合に日本代表団を派遣して日本の意見を反映させています。また,ASNT との連携を深めて友好協定を改定し,ACCP(ASNT Central Certification Program)資格とJIS Z 2305:2013「非破壊試験-技術者の資格及び認証」資格の二国間相互承認を推進する基本合意を行い,2017 年秋を目標に実施詳細についての契約を締結する予定です。国内の認証及び講習会関連では,2015 年秋から2013 年改正のJIS Z 2305 に基づく認証制度を開始しましたが,昨年は2017 年春から開始予定の再認証試験及びそのための講習会の準備を実施しました。会員関連では,次世代を担う若手会員の増加を期待する一方,65 歳以上の有識者の方々に,引き続き会員として本会事業に携わっていただきたく,それらの方々の費用負担の軽減を顧慮し,会費の改定を総会に諮りお認めいただきました。
さて,昨年の会長就任において,“ステークホルダーとの連携強化及びサービスの向上”を目指すことを申し上げました。ステークホルダーとは,“利害関係者”と訳されることもありますが,ここでは,当協会の活動に“関係する人々”と解釈していただければと思います。当協会のステークホルダーとの関係について,それぞれのありたい姿を次のように考えています。“産業界”で実力のある協会,“学術・教育界”に存在価値のある協会,“行政機関”に影響力のある協会,“社会”から尊敬される協会,そして“会員”に魅力のある協会です。産業界で実力のある協会となるためには,有益な技術情報の入手と規制・基準・規格制定への参画,業界内外の連携機能等が必要ですが,現状ではそれらの機能が十分とは言えません。また,学術・教育界における存在価値は,第一に活発な学術活動の場の提供とその成果の発信にありますが,非破壊試験に関連付けられる新しい要素技術分野や将来性のある製品分野と連携する場の設定が十分ではないと考えています。部門が細分化し,固定化されていることもあり,部門を超えた新しい技術の発掘や境界領域・融合領域への発展に障害がないか自問しているところです。さらに,行政機関に影響力のある協会という観点では,それぞれの省庁との関係において,社会課題を非破壊検査という切り口から,その重要性を認識いただき,ネットワークを築いていく必要がありますが,現状は,その素地となる各関連産業界の課題,要望等の集約も十分にできていないと感じています。今後は,以上のような課題を克服することで,より高い付加価値を持った“非破壊検査というブランド”が広く社会に認知され,ひいては会員に魅力のある協会になると確信しています。今回は,課題のみ申し述べましたが,現在,理事会などでこれらの課題を解決すべく,当協会のビジョン及びアクションを審議しており,近々に発信,実行してまいりますので,ご協力の程よろしくお願い申し上げます。
最後になりますが,本年の皆様方のご多幸とご発展を心より祈念いたします。
新年明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いいたします。
さて,本特集号は応力・ひずみ測定部門に関連した内容として,「光を用いた応力・ひずみ計測技術」を取り上げました。構造物や生体の力学的挙動を把握するために,応力やひずみ,変位を計測する新しい光計測技術の研究開発が進められています。近年は,コンピュータの発達により,デジタル画像相関法などの画像解析手法が発展して今までより簡便に変位分布やひずみ分布の計測ができるようになってきました。一方で,光そのものを使わないと計測できない現象も多々あり,応力・ひずみ測定には欠かせない計測技術です。本特集企画では,そのような光計測技術について,最新の技術や研究成果を含めた解説記事をご執筆いただきました。
梅崎栄作先生・児玉健一氏・菊地 弘氏による「光弾性応力解析システムの開発」では,光弾性パラメータの取得だけでなく応力解析までを一貫して実施できるシステムの開発について解説していただきました。村田頼信先生には「光学的手法を用いた超音波波面の可視化」として,シャドウグラフ法と位相シフトデジタルホログラフィ法を用いることで、比較的簡単な光学系で固体内部や表面に現れる超音波波面を可視化できる技術について執筆いただきました。末次正寛先生には「コースティックス法の原理と応用」として,き裂先端部の応力拡大係数の値を評価することができるコースティックス法の基本原理から応用まで,多くの適用例を含めた解説をいただきました。目黒 栄氏と斉藤 伸先生には「磁気光学効果を用いた磁区観察装置の開発と応力解析への応用」として,磁気カー効果を用いる方向性電磁鋼板の磁区観察を行う手法と応力解析への適用例について紹介いただきました。筆者らも「デジタルホログラフィによる変位・ひずみ分布計測装置」として,これまでに現場で使えるものをめざして開発を行ってきたひずみ分布計測システムを小型化する技術について紹介させていただきました。
今回の解説内容から,光を用いた計測手法が,光と超音波,磁気をはじめ,様々な物理現象や解析手法との融合によって発展していることと,実用的計測システムとして発展していることの2 点について読み取っていただけると思います。特に,デジタル画像相関法や縞画像の位相解析手法,計算力学手法などとの融合によって,今後もこの技術が発展していくことが期待できます。さらにその成果は多くの分野で利用され,幅広く科学技術の発展に寄与できる技術とも言えます。
多くの研究者の皆様や企業の皆様にとって,本特集が光を用いた計測技術について興味を持っていただけるきっかけとなり,皆様のお役に立てるならば幸いです。一昔前と比べて,実験用のカメラや高性能のコンピュータ,レーザなどの光源も容易に入手でき,画像解析プログラムもそれほど難しくなく、短時間で作成できるようになってきました。それぞれの実験に適した光計測手法を取り入れていただくことで,ご研究が発展されるならば喜ばしい限りです。
最後になりましたが,本特集にあたりまして,多大なご協力をいただきましたご執筆の皆様方,また,編集にあたりましてご尽力いただきました皆様方に感謝申し上げます。
Development of Photoelastic Stress Analysis System
Nippon Institute of Technology Eisaku UMEZAKI
Luceo Co., Ltd. Kenichi KODAMA
Optoware Co., Ltd. Hiroshi KIKUCHI
キーワード: 光弾性,偏光器,応力解析,自動化,領域型せん断応力差積分法
はじめに
光弾性応力解析に用いられる光弾性法は,実験応力解析の有力な方法の1 つである1)。この方法の測定対象材料は,負荷等により複屈折を示すもの(エポキシ樹脂やポリカーボネイトのようなプラスチック等)である。このような材料で製作された測定対象(機械や構造物やその部材等を模擬したもの,あるいは実際の機械や構造物の表面に貼り付けた皮膜)内の応力を測定するために,電磁波(通常は可視光であるが,赤外線等も利用可能)の干渉を利用する。
光弾性法で用いられる干渉は,モアレ法等の他の方法の干渉が二軸干渉であるのに対して,一軸干渉であるため,振動に強いといった長所がある。しかしながら,光弾性法に基づいた応力解析は,主として以下で述べる問題点が存在するため,モアレ法,デジタル画像相関法等の他の実験解析法に比べて自動化が遅れている。
光弾性応力解析の手順には,実験試料の作製を除き,大きく分けて,光弾性実験による「光弾性パラメータ(等色線縞が表す「主応力差」と等傾線縞が表す「主応力方向」)の取得」と,光弾性パラメータを入力データとして利用する「応力解析」がある。光弾性パラメータは,それらを表す基本式が多値関数である三角関数であることから,折り畳まれた形(等色線縞次数N で表すと,例えばN = 0 − 0.5 の繰り返し)で得られる。応力解析に使える光弾性パラメータは,折り畳まれたものが展開され,しかも相対値(N は展開処理により連続するが,各位置におけるN が何次であるかまでは分からないため,仮に割り当てられるN 値)が絶対値に変換されたものである。しかしながら,これらの展開・変換が困難な場合が多い。
応力解析によく利用されるせん断応力差積分法は,指定した境界から出発して,ある特定方向の応力成分を順次求めるものである。そのため,光弾性パラメータの値に含まれるエラーの影響を受けやすい。したがって,解析領域全体について同時に解析し,かつ精度良い結果を得る応力解析法が望まれる。
これらの問題点を解決するために,これまでに多くの研究がなされ,その成果は「デジタル光弾性法」として利用されている。しかしながら,これまでのデジタル光弾性法の検討は,「光弾性パラメータの取得」の自動化に重点が置かれ,「応力解析」については十分とは言えない。そのため,光弾性法を利用した市販製品の多くは,光弾性パラメータの取得とその表示に焦点があり,応力成分を求めるに至っていない。
本稿においては,光弾性パラメータの取得から応力解析までを一貫して実施できる光弾性応力解析システムを開発したので,そのシステムについて紹介する。
Visualization of Ultrasonic Wavefront Using Optical Methods
Faculty of Systems Engineering, Wakayama University Yorinobu MURATA
Graduate School of Engineering, University of Fukui Motoharu FUJIGAKI
キーワード: 超音波,波面,可視化,シャドウグラフ法,位相シフトデジタルホログラフィ法
はじめに
現在,安全かつ安心な社会を実現するために,橋梁や鉄塔,それに発電施設をはじめとする社会インフラの保守管理が求められている。いかに安全な社会基盤を形成するか,また造ったものをいかに長く安全に供用するかが現在の社会に問われている大きな課題ある。これを実現する技術の一つが検査であり,日々,検査技術の向上について研究が行われている。その中で,超音波試験は,材料内部の情報を非破壊かつ安全に取得できる技術として,構造物の維持管理から医療診断まで幅広く応用されている。超音波試験では,通常,超音波の指向性,透過特性,反射特性などを利用して材料内部の探傷による健全性評価や材料評価を行っている。超音波の伝搬の様子は人間の視覚や触覚で直接捉えることができず,伝搬してきた波動を超音波探触子と呼ばれるセンサで計測するほかない。一般に,目では捉えることのできない微視的な動きを可視化することは,物理現象の解明だけでなく,技術の向上においても大変有用である1),2)。超音波試験においても,試験精度を向上させるため一つの手段として,伝搬媒質中の超音波の伝搬特性を可視化しながら解析を行うことが多い。伝搬媒質内部の超音波波面の可視化手法を大別すると,①超音波受信子を空間的に走査する方法 ②光と超音波の物理的相互作用を利用する方法 ③伝搬媒質を微小要素に分割し境界条件を加味して波動伝搬を計算機でシミュレートする方法の三つに分けることができる。①と②は実験的に可視化を行うものである。①は,可視化対象が液体や気体に限られる上,空間に超音波受信子を配置する都合上,音場を乱してしまうことが問題となる。③は,対象物体中の超音波の伝搬挙動をモデル化した計算をベースにしており,実際の伝搬挙動と少なからず異なること,また解析に多くの時間を要することが問題となっている。一方,②は,透明な媒質に限られるが,超音波波面を瞬時に二次元的に捉えることができるという特徴を持つ。
ここでは,上述した②の方法に着目し,より簡便に光学的手法を用いて超音波波面を可視化する手法を取り上げる。まず,透明媒質中を伝搬する超音波波面の可視化手法について,次に固体表面に現れる超音波波面の可視化手法について,簡単な実験結果とともに紹介する。
Principle of the Caustic Method and its Application to Various Problems
Suzuka National College of Technology Masahiro SUETSUGU
キーワード: コースティックス法,応力拡大係数,実験応力解析,衝撃破壊,超音波コースティックス法
はじめに
例えば,図に示すように,き裂を有するアクリル板へ荷重を負荷して光を入射させることを考える。き裂先端部では強い応力集中によって,板厚と屈折率の急激な変化が生じる。その結果,光が曲げられてスクリーン上には光が来ない影の領域と,光の集中部が生じ,図6 に示すような像が得られる。このような像の形状や大きさから,応力拡大係数の値を評価するのが,コースティックス法(caustics 法)である。以上は,き裂の強度問題の例であるが,上記の原理からわかるように,本手法は応力の特異点の問題(例えば,集中荷重の問題や,コーナ部の強度評価等)へ広く適用することが可能である。caustic の意味の中に,光が集まって形成する線,すなわちcaustic curve があり,コースティックス法は日本語で言えば,火(焦)線あるいは火(焦)面法と呼ぶことができる。
本手法の始まりは,1960 年代に応力測定法の一つとしてshadow 法を用いたMannogg の研究に遡る1)。その後,1970年以来Theocaris がこの方法を反射形に拡張し,コースティックス法と名付けて広い範囲に適用した。日本では1978 年に清水らによって初めて研究が行われている3)。本法は種々の問題へ適用できるが,特に応力拡大係数の測定に有力であり,き裂先端近傍からの情報を直接用いているため精度が高い。本法の実験装置概略を,図2 に示す。基本的には,試験体へ光束を入射させて像を記録するだけの簡単なものである。また,コースティックス法は光学的な非接触手法であるため,衝撃負荷条件下や,高温・低温等の過酷な環境下における評価へも適用可能であり,極めて応用範囲が広い手法であるといえる。
本稿では,応力拡大係数の評価法を中心にコースティックス法の基礎理論を述べた後,いくつかの適用例・応用例を紹介する。さらに,本手法を用いる際の注意点や,超音波を用いたコースティックス法に関する最近の研究例を述べる。
Development of Magnetic Domain Observation System Using Magneto-optical
Effect, and its Application to Stress Analysis
Neoark Corporation Sakae MEGURO
Graduate School of Engineering, Tohoku University Shin SAITO
キーワード: 磁気カー効果,磁区,磁化方向検出,磁歪,残留応力
はじめに
鉄は資源量が豊富で安価であり強度が高く加工が容易なことから家電製品,自動車,建築物等,現代の経済活動に必須の金属材料として広く用いられている。また,鉄は強磁性体であり鉄を主成分とした合金は変圧器や電動機,永久磁石等の磁性材料として広く利用されている。鉄の加工には鍛造,プレス,切削,溶接等があり,加工品にはいずれも熱履歴や機械的に加えられた力等による残留応力が存在することになる。残留応力は腐食やき裂発生の原因となるなど問題となる場合が多いが,その一方で,強度の向上や磁性体の磁気特性向上などを目的として実用されるため,残留応力を評価し制御する技術が重要となる。一般に残留応力は加工部周辺のセンチメートル(cm)にわたる広範な領域にわたって影響を及ぼし,その起源は数マイクロメートル(μm)程度の材料の結晶粒中の格子ひずみによるものであるから,解析の際には微視的領域から巨視的領域までの広範な領域に対する計測が必要である。具体的な計測方法としては切削等により解放される応力を計測する破壊法,X 線や超音波,磁気特性等を利用する非破壊法が知られている。しかしながらこれらの計測法ではμm からcm の広範な領域に対して非接触かつ迅速に評価することは困難であった。本稿ではμm からcm の磁区に対応した磁区観察および磁区内局所磁化方向検出技術に対し磁気光学効果の一つである磁気カー効果を用いる手法を紹介するとともに,磁区観察が間接的に残留応力の評価につながることを,方向性電磁鋼板を例に紹介する。
Displacement and Strain Distribution Measurement Device using
Digital Holographic Interferometry
University of Fukui Motoharu FUJIGAKI
Hitachi Zosen Corporation Mitsuyoshi NAKATANI and Akikazu KITAGAWA
JR WEST JAPAN CONSULTANTS COMPANY Noboru IKOMA and Hiroki TAMAI
Neoark Corporation Sakae MEGURO
Wakayama University Yorinobu MURATA
Professor Emeritus of Wakayama University/4DSensor Inc. Yoshiharu MORIMOTO
キーワード: デジタルホログラフィ,変位分布計測,ひずみ分布計測,インフラ構造物,検査,小型化
はじめに
橋りょう等の構造物の内部欠陥の検査のために,作業効率のよい変位分布やひずみ分布の計測手法が求められている。位相シフトデジタルホログラフィは,表面処理なしに非接触で微小な変位分布やひずみ分布の計測ができる比較的新しい計測手法である。光学系を工夫することで,面内と面外の微小な変位が分布として計測できる。これまでに多くの分野へ適用する研究が行われ,光学系をコンパクトに作成して一体化することによって,可搬型の計測装置とする研究も行われている。
実際の試験装置や構造物に適用するためには,光学実験台の上で光学系を作っていても役に立たず,光学系を一体化して対象物のところに移動できるようにする必要がある。また,屋外における橋りょう等の大型構造物に適用するためには,片手で持てる程度の小型装置が求められている。
そこで筆者はこれまでに,可搬型のデジタルホログラフィによる変位・ひずみ分布計測装置を開発し,その小型化を進めてきた。小型で可搬型にするために,いくつかの新しい技術の開発も行った。光学系をコンパクトにまとめて一体化することで振動の影響が小さくなり,試験機等への取り付けも可能となった。本稿では,これまでに提案してきた手法と,試作した小型の装置について紹介する。