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機関誌

2007年度バックナンバー解説6月

2007年6月1日更新

解説 非線形超音波法による非破壊検査・評価

き裂の非線形超音波映像法

  山中 一司/小原 良和/山本  摂/三原  毅  東北大学大学院

 

Imaging of Cracks Using Nonlinear Ultrasound
Kazushi YAMANAKA, Yoshikazu OHARA, Setsu YAMAMOTO and Tsuyoshi MIHARA
Graduate School of Engineering, Tohoku University


キーワード  非線形超音波,閉じたき裂,映像化,サブハーモニック超音波フェーズドアレイ(SPACE)



1. はじめに
 原子炉など重要構造物におけるき裂の計測誤差は,社会の安全と安心を確保する上で大きな問題である。き裂が空隙を伴う場合は,超音波を反射・散乱するの で,計測・映像化できる筈であるが,実際は計測誤差が大きい場合がある。この原因の1つに,残留応力や酸化物の影響でき裂が強く閉じている(閉口き裂)こ とが挙げられる。
 閉口き裂の評価は,超音波計測の大きな課題である。Buckらが,き裂で発生する高調波を用いる非線形超音波法を提案して,既に30年になろうとする。 これはContact acoustic nonlinearity (CAN)と呼ばれて注目されているが,まだ実用化は進んでいない。その大きな原因の1つに,閉じたき裂を開口させるために大振幅の入射波が必要なことが あると考えられる。すなわち,周波数が
数MHzで振幅が10nm以上の超音波を発生すると,探触子やカップラント(特に水)で高調波が発生してしまう。

周波数が入射波の整数分の1になるサブハーモニック波(分調波)や,振幅変調された超音波振動の変調信号が出力されるDC応答など,閉口き裂で起こる別の 種類の非線形応答では状況が異なる。これらは高調波とは異なり,振動子やカップラントでは発生しない。しかし,分調波を用いた従来の研究では,波形観測や Cモード映像のみで,強度評価に必要な深さの評価は行われていない。この原因は,周波数分解能を重視して長いバースト波を用いたため,高い時間分解能の必 要なパルスエコー法やBモード映像は困難になったことによると推定される。
 本グループは,よく制御して作製した疲労き裂において,数個の波でも容易に識別できる明瞭な分調波を発見した。
そして,これが高い時間分解能を持つことに着目して,波の数が数個の比較的短いバースト波を用いて,閉口き裂の深さを評価できるサブハーモニック超音波フェーズドアレ
イ(Subharmonic phased array for crack evaluation;SPACE)の開発に成功した。これは,分調波に限らず,き裂の非線形超音波計測における世界で初めてのフェーズドアレイ映像法 で,今後の普及が期待されている。
 また,電子素子の分野では,電極の下に隠れた大きさ厚さともにサブμmの剥離など,新しい非破壊検査のニーズが生じている。これに対して,原子間力顕微 鏡(Atomic force microscopy;AFM)によるナノスケールの検査法を開発した。この一部に,探針と試料の接触の非線形性によるDC応答を利用した方法がある。本 稿ではこれらの新技術の動向について概説し,今後の展望を述べる。

 

 

 

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