logo

  >>学術活動カレンダー表示

 

機関誌

2009年度バックナンバー9月

2009年9月1日更新

巻頭言

「非線形超音波法による非破壊検査・評価?」特集号刊行にあたって  

 非線形超音波による非破壊検査・評価に関する特集号は,2度目である。前回(2007年第56巻6号)5編の非線形超音波による非破壊検査・評価に関する 最新基礎研究の動向を示す解説記事が掲載された。本特集号では,4編の非線形超音波を材料劣化・損傷評価に適用した応用研究の解説を掲載している。
 これまでの超音波による非破壊検査・評価では,材料と空気の音響インピーダンスの差により隙間部に発生する反射波を利用してきている。しかし,同一物質 の隙間ゼロの理想的密着面では音響インピーダンスの差がないので反射波が生じない。このためパルス反射法による密着き裂,キッシングボンドの検出・サイジ ングの難しさが指摘されている。さらに,金属溶接部の粗大結晶粒では結晶異方性主軸の変動による粒界散乱が顕著であるので,組織ノイズが大きくなり,そこ で生じた密着き裂の検出はさらに困難となっている。高温下で使用される材料におけるマイクロボイド・クラックやミクロンオーダの微視損傷を数MHzの線形 超音波で検出することは困難であった。そこで別の原理に基づき,極めて狭い間隔を持つき裂や界面, さらに微視損傷を検出する方法の開発が必要となる。そ のような背景の下で, 近年非線形超音波法への期待が世界的に高まっている。
 前回の非線形超音波による非破壊検査・評価に関する特集号で紹介したように,平成18年度から2年間「非線形現象を利用した非破壊検査・材料評価研究 会」(主査 京都大学 琵琶志朗先生)では,超音波以外の非破壊評価法を含んだ新しい非線形非破壊評価・検査法の研究を推進し,平成20年度からは「非線形超音波研究会」(主査 大谷俊博)では非線形超音波の基礎と応用の研究をおこなっている。本特集号では,「非線形現象を利用した非破壊検査・材料評価研究会」で議論された非線形 超音波を利用した材料劣化・損傷評価の最新の動向の紹介を企画した。その内容は、高経年化対策が求められている原子力発電所の原子炉圧力容器に生じる中性 子照射による脆化を磁気特性および超音波特性の変化から評価した研究,車両用ターボチャージャのタービンロータ材(アルミとチタンの金属間化合 物:γTiAl合金)と軸材の拡散結合部の健全性評価に非線形超音波を適用した研究,溶射皮膜の接合界面の健全性に超音波特性から評価した研究,そして火 力発電所のボイラ溶接部に生じるタイプ?損傷というクリープ損傷を非線形超音波法により評価した研究である。読者諸氏に非線形超音波の新たな適用の可能性 を見いだして頂ければ幸いである。
 非線形超音波研究会では,超音波以外の電磁気,ECTなどの分野で現れる非線形現象を利用したより精度の高い非破壊評価・検査法,センサ技術,数値シ ミュレーションや医療や化学分野等での非線形超音波法の適用事例も議論しており,次回に企画される特集号で紹介できれば幸いである。最後に本特集号の企画 にあたってご協力をいただいた執筆者の方々,前特集と同様に特集号の意義を示唆いただいた川嶋紘一郎先生,琵琶志朗先生ならびに関係各位に深く感謝を申し 上げます。

*特集号編集委員  大谷 俊博

 

解説 非線形超音波法による非破壊検査・評価?

中性子照射した圧力容器鋼の磁気・超音波特性
    鎌田 康寛/菊池 弘昭/小林  悟/荒  克之/越後谷淳一   岩手大学工学部附属金属材料保全工学研究センター

Magnetic and Ultrasonic Properties of Neutron Irradiated
Reactor Pressure Vessel Steels
Yasuhiro KAMADA, Hiroaki KIKUCHI, Satoru KOBAYASHI, Katsuyuki ARA
and Jun-ichi ECHIGOYA NDE & Science Research Center, Faculty of Engineering, Iwate University  

キーワード 原子炉圧力容器,照射脆化,格子欠陥,保磁力,音速,超音波減衰



1. はじめに
 21世紀を迎えた今日,各種社会基盤構造物の高経年化問題が生じている。エネルギ安定供給・温暖化防止政策の観点から原子力発電が再注目される中,国内 では2010年に運転開始後40年を超えるプラントが現れようとしており,原発の高経年化対策が求められている(図1)1)。原発の心臓部と言える原子炉 圧力容器では,運転中に発生する中性子の照射を受けて徐々に脆くなること(照射脆化)が知られており,懸念すべき高経年化問題の一つとされている。現在, 圧力容器の健全性確保のために,容器内に装荷した監視試験片によるシャルピ衝撃試験(破壊試験)が実施されている。しかし,新規建設が困難なことや経済性 確保の要求から当初想定した期間(30〜40年)を越える原発の長期運転が計画されており,それに伴う監視試験片の欠乏が懸念されている。その対策として 衝撃試験後の未破断部を溶接し再利用した再生試験片の活用が考えられている。一方,脆化の進行を非破壊に評価できれば試験片欠乏の心配が全く無くなり,さ らに圧力容器自体の直接評価も原理的に可能となる。このような背景のもと,正確な予測のための照射脆化機構の解明と,それに立脚した非破壊評価技術の開発 が期待されている。

 

 

非線形超音波法を利用したTiAl合金/鋼拡散接合部の品質保証
    山田 龍三  大同特殊鋼(株)    川嶋紘一郎  (有)超音波材料診断研究所

Quality Assurance of Diffusion-Bonded Joints of Titanium/Aluminum Alloy
Hot-Wheel and Steel Shaft with Nonlinear Ultrasonic Method
Ryuzo YAMADA Daido Steel Co., Ltd.
and Koichiro KAWASHIMA Ultrasonic Material Diagnosis Lab. Ltd.

キーワード 品質保証,超音波探傷試験,非線形超音波,異種金属接合部,拡散接合



1. はじめに
 チタンとアルミの金属間化合物であるTiAl1)は,車両用ターボチャージャに装備されるタービンロータとして実用化されている。TiAlは,従来から 用いられているInconel713Cに比べ比重が1/2と小さく車両の軽量化が可能となるばかりでなく,タービンロータの慣性モーメントが低減でき, ターボチャージャの応答性が向上する。これらの特長を有するTiAl製タービンロータは,地球温暖化防止の観点から低燃費化が進められている自動車業界で の幅広い適用拡大が期待されている。
 このタービンロータにおいては,回転力を伝える軸部は耐磨耗性に優れる肌焼き鋼(クロムモリブデン鋼)が用いられ,翼部であるTiAlとの接合には,溶 接時の割れ発生を抑制するために非溶融接合法である液相拡散接合法が適用されている2)。また,拡散接合部の品質を保証するための手段の一つとしては,超 音波探傷法が適用されている3)。音響インピーダンスの大きく異なるTiAlと肌焼鋼の接合部の品質を超音波を用いて評価する場合,材料間の音響インピー ダンスの差が大きいため,健全な接合部においても接合界面に入射した超音波の約30%が反射する。このため,超音波の焦点サイズと同程度の大きさの欠陥検 出は可能であるが,微小欠陥やほとんど閉じたき裂などの検出は音響インピーダンスの差がほとんど生じない同一金属同士の接合部に比べ難しい。
 ほとんど閉じたき裂の検出が可能な方法として非線形超音波法が注目を集めている。非線形超音波法は,1960年代に,応力と歪みの高次の関係を調査する ための手段として本格的な研究が進められ4),5),1970年代に入り,未接合界面での高調波発生について圧縮応力との関係が調査され疲労破壊メカニズ ム解明への利用が進められた6)。1990年代になり,CAN(Contact Acoustic Nonlinearity)により連続固体の非線形より桁違いに大きい非線形現象が発生することが確認され,本格的な非破壊検査への適用研究が始められた 7)。拡散接合部の検査への適用は,1997年にD. J. Barnardらによって実施され,銅同士の接合強度の増加に応じて反射強度は低下するが,高調波はピークを持ち,線形成分の反射強度と非線形成分の反射 強度による接合強度の評価が提案された8)。また,2000年には,Fedar M. Severinらによって非線形超音波顕微鏡を用いた映像化の研究がおこなわれ,スポット溶接部にて基本波と2次高調波信号のCスキャンイメージの比較に より,スポット溶接部の周りに他の領域より10倍大きい2次高調波のリング部位が存在し,接合界面の材料とCANに起因する2次高調波は,接合条件に大き く依存するとの報告がなされた9)。また,川嶋らは,損傷を受けたCFRP積層材などへ非線形超音波法を適用し,各種工業材料の線形/非線形超音波特性と 材料の組織構造との関係を解明した10)。
 本稿では,音響インピーダンスの大きく異なるTiAl/Steel液相拡散接合継手の品質保証技術の向上を目的として,種々条件で接合した継手を用い,従来超音波法および非線形超音波法を適用し品質を評価した結果について解説する。

 

 

漏洩弾性表面波による溶射皮膜接合界面の評価
   山本  弘 日立建機(株) 技術開発センタ

Evaluation on Sprayed Coating with a Leaky Surface Acoustic Wave
Hiroshi YAMAMOTO Hitachi Construction Machinery Co., Ltd. Technical Research Center

キーワード 弾性表面波,溶射皮膜,超音波,評価,接合界面

1. はじめに
 溶射技術は金属・合金材料表面に耐摩耗性や断熱・断熱性,電気絶縁性などの機能性を付与し,材料表面を膜形成により化粧する材料表面改質技術として用い られており,100年の歴史を有している1)。図1に溶射法の構成と成膜機構の模式図を示す2)。熱源によって加熱溶融された微粒子が高速度で飛行し,基 材表面に衝突することにより皮膜は形成される。材料は,金属,セラミックス等のように安定した溶融現象を伴う物質であれば使用することができる。一般に溶 射製品は過酷な環境で使用されることが多いため,その信頼性評価が極めて重要となる。その信頼性評価のために,多くの試験法3)が提案され,実用に供され ている。しかし,これらの評価方法はJIS H 8666に示される破壊的試験方法であるために現場における皮膜の管理や,全数検査を必要とする重要製品の検査に十分対応できないため,信頼性のある非破 壊評価法の確立の必要性も叫ばれている。そこで,漏洩弾性表面波4),5)を用いて非破壊に皮膜部及びその周辺部の探傷法を提案し,各種の溶射試験体を製 作して検証した。その内容について報告する。

 

 

非線形超音波によるボイラ配管溶接部のクリープ損傷評価
    大谷 俊博  湘南工科大学   川嶋紘一郎  (有)超音波材料診断研究所   Michael DREW  オーストラリア原子力科学技術機構

Creep Damage Detection of Welded Boiler Heat-Exchange Tubes
with Non-Linear Acoustics
Toshihiro OHTANI Shonan Institute of Technology, Koichiro KAWASHIMA Ultrasonic Materials Diagnosis Lab.
and Michael DREW Australian Nuclear Science & Technology Organization

キーワード クリープ損傷,タイプ?,非線形超音波,配管溶接部,クリープボイド



1. はじめに
 高温高圧下で使われる火力プラント機器の多くは,1960〜1970年代に建設され,進行的な損傷を受けながら,設計寿命の10万時間を過ぎても運転さ れている。火力プラントの圧力容器には,経済面と高温強度特性面(主にクリープ強度)からフェライト系低合金鋼が非常に多く採用されている。その圧力容器 は,溶接構造が採用され,高温下でのクリープ変形や破壊を生じている。そのクリープ破壊の大部分は,溶接部に関連している1)−3)。典型的な溶接部は, 母材金属,溶接金属(または溶金)と熱影響部(HAZ:Heat-affective -zone)から構成されている。HAZ部は母材金属,溶接金属依存して複数の領域に分けられる。溶接部の寿命はHAZ部の寿命に支配される。フェライト 鋼の単層溶接による熱影響部は,図1に示すような4つの領域が認められる。
1)粗粒域:高温でのオーステナイト化により粒成長が生じた溶接境界を含む数結晶の領域 
2)細粒域:低温でのオーステナイト化により再結晶を生じた粗粒域に隣接した領域 
3)インタークリティカル域:母材に含まれる領域で,低温のためオーステナイト相が部分的に変態した領域 
4)焼戻し熱影響部
 多層溶接では熱影響部は上述の4つよりも多い領域を含み,より複雑になる。このような組織の違いは,クリープ特性の違いをもたらし,クリープ特性の不整 合が,複雑な機械的,材料的な挙動の違いを引き起こす。ボイラ配管のような耐圧構造物においては,運転履歴により,多くの破壊形態が存在することが明らか になってきた。その破壊の場所や機構は,前述した領域のクリープ強さ,延性,幅のような因子に依存する2)。

 

 

論文

AE信号の処理方法の違いが屋外石油タンクのAE源位置標定精度に及ぼす影響
   村上小百合/小島  渉/小池 卓二/山田  實/湯山 茂徳/本間 恭二

Effect of Different Arrival Time Waveform Analysis on the Accuracy
of Acoustic Emission Source Location in Above-Ground Tanks

Sayuri MURAKAMI*, Wataru KOJIMA*, Takuji KOIKE*, Minoru YAMADA**
Shigenori YUYAMA*** and Kyoji HOMMA*

Abstract
Techniques to evaluate corrosion damage to bottom and annular plates (floor conditions) in above-ground tanks is strongly needed in order to protect the environment from contamination caused by the leakage of hazardous products due to corrosion. Source location provides important information for the evaluation of acoustic emission (AE) data. AE signals were generated by pencil lead breaks at arbitrary locations on the bottom of a tank (300kL capacity) and the P-waves traveling in water were used to investigate the accuracy of AE source location using neural networks (NN). The arrival times of wavefronts were determined by both threshold crossing, using AE waves normalized by the peak amplitude, and threshold crossing using a wavelet transformed waveform. The results were compared in order to discuss source location errors.

Key Words Acoustic emission, Above-ground tank, Source location, Neural networks, Wavelet transform



1. 緒言
 屋外石油タンクの経年劣化を把握するため,容量が1,000kL以上のタンクに対して一定期間ごとに開放検査を行うことが義務づけられているが,自主検 査に依存している1,000kL以下のタンクで漏洩事故が頻発している。また,検査の義務のある1,000kL以上においても個々のタンクの設計や使用環 境などが多様で腐食の程度も異なるため,腐食進行部位を見逃すことがあり,実際に漏洩事故が起こっている。開放検査は莫大なコストがかかることから,石油 タンクの維持管理のコスト削減に有効で,開放せずその安全性を評価する手法として,アコースティック・エミッション(AE)を利用した底板の腐食損傷評価 が欧米では広く行われており1),2),わが国でもこの手法が適用され始めている3),4)。これまでに,複数の研究機関およびグループにより,基礎およ び実用研究が行われている5)−8)。底板の腐食損傷の程度はもとより,その位置を特定することは重要である。長らは,空のタンクを用いてAE源の位置標 定を行っているが9),10),本研究では液体中を伝わる音波の非減衰性を積極的に利用し,これまで貯蔵物(ここでは石油の代わりに海水を使用)の入った タンクを使用して,AE法とニューラルネットワーク(NN)を利用したタンクのAE源位置標定法が有効であることを示してきた11)。本報告では擬似AE 源の位置標定精度向上を目指し,水中を伝わる音波を検出して波形の立ち上がり部分をAE波形の振幅のしきい値およびウェーブレット係数のしきい値によって 到達時間を決定し,NNを用いて位置標定を行うことでそれぞれの方法による標定精度を比較した。その結果,S/N比の小さな波形に対してもウェーブレット 変換を行うことによって,精度良い位置標定が可能であることを確かめた。

 

 

to top

<<2024>>