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機関誌

2007年度バックナンバー10月

2007年10月1日更新

巻頭言

「フェイズドアレイ」特集号刊行にあたって  三原  毅

 原子力機器の応力腐食割れ(SCC)を中心にした構造物の経年化の問題が顕在化し,維持基準の実機への適用,超音波計測の信頼性の検証,新しい検査技術の 提案と採用,補修技術の検証等々,非破壊検査をめぐる怒涛のような潮流がやっとやや沈静化したかに見える。これらの動向を振り返ると非破壊計測技術の中で 有効性が確認されて脚光を浴び,また急速に実用化が進んだ技術の最たるものは,本特集で取り上げるフェイズドアレイである。
 先に超音波自動探傷システムが普及した時期にも,検査の詳細記録を残すこと,検査の客観性・信頼性,検査結果の第三者による評価の重要性が指摘され,検 査結果の画像化と全記録化が進んだ。しかし,自動探傷の普及は,自動検査ロボットを適用しにくい部材や複雑形状部位や構造毎に形状が異なる部材に対しては 困難であった。この点は,検査にコストがかけられる原子力発電機器においても同様な状況であった。
 一方,医療用機器の分野で普及が先行したフェイズドアレイ計測は,測定装置や機器の開発が進み,発電機器でも特定の部位では早くから実用化されていた が,コスト面からその急速な普及は困難かと思われてきた。前述の一連の動きの中で,この計測法は原子力発電機器部材の溶接金属内に進展したSCCの評価で 優位性を示したことで脚光を浴び,その後の経済産業省主導の確性試験と調査研究で中核の検査技術として認知された。特に,PD制度が発足し,その検査手法 としてフェイズドアレイが主力となるに至り,実用手法の地位を確保したと考えられる。
 これらの状況を踏まえ,本協会でも昨年11月の第2回超音波分科会で,協会の学術改革の先駆け試行の一環として,フェイズドアレイの規格化の可能性に テーマを絞る形式の分科会を開催した。分科会会員以外の協会会員にも参加できるセミオープンの形で開催し,フェイズドアレイ機器の展示も併設した結果,従 来の分科会に比べ3倍強の参加者を得,この技術への期待の高さを改めて実感した。本特集は,分科会で講演いただいた方に改めて執筆をお願いしたもので,工 業用のフェイズドアレイに先行する医療用フェイズドアレイ技術については秋山先生に,また工業用フェイズドアレイの規格化について,海外の動向を含め横野 氏に,それぞれ現状を解説していただいた。さらに,機器メーカーを代表する形で,松井,唐沢,村井の各氏にはフェイズドアレイ技術の基礎と応用,さらに可 能な範囲で適用事例についても解説をお願いした。
 最近,フェイズドアレイシステムについて,発電機器検査以外の分野でも実用が模索されており,特にフェイズドアレイの低価格機が相次いで発売されたこと から,本技術の広範な実機適用がさらに進む環境が整いつつある。これらの動きの中で,本特集が広く会員の皆様に有益な情報を提供できるものと確信する。
 最後に第2回超音波分科会・展示会の実現にご協力いただいた関係各位に,改めて厚く感謝申し上げる。

*富山大学(930-8555 富山市五福319)大学院理工学研究部教授材料評価,超音波計測・探傷の研究に携わる。 散策,読書

 

解説 フェイズドアレイ超音波技術の最近の展開

医療用フェイズドアレイシステムについて  秋山 いわき 湘南工科大学工学部

Phased Array Ultrasonic Imaging System for Medical Use
Iwaki AKIYAMA Dept. of Electrical and Electronic Engineering, Shonan Institute of Technology

キーワード ビームフォーミング,ダイナミックフォーカス,ビームステアリング,狭開口フェイズドアレイ



1. まえがき
 臨床診断で普及している超音波診断装置は,心臓,腹部消化器,産婦人科,泌尿器等の広い領域で用いられていて,それぞれの領域において適用部位にあわせ てさまざまな形態の超音波プローブが開発されている。腹部領域では,皮膚への接触面についての制限がないので,10cm程度にわたって直線的に配列したア レイプローブが用いられる。方位方向の分解能を高めるために,単に電子的なスィッチングによって画像を形成するだけでなく,ビームをフォーカスすることが 行われる。このとき複数の要素振動子を時間遅れによって合成する位相合成の技術が用いられる。一方,心臓を観察するような場合では,肋骨の間の隙間から超 音波を送波する必要があるため,皮膚への接触面が小さく,深部で視野の広い小型のプローブが開発されている。このプローブでは,2cm程度の大きさのフェ イズドアレイを構成して,90度程度の視野角で画像が形成されている。また,著者らは分解能向上と高速での3次元イメージングを目的として,狭開口フェイ ズドアレイ超音波イメージングを提案している。この手法では,アレイを構成する振動子の振動面に凹型の音響レンズを接着して,フェイズドアレイの集束領域 が円弧となるようなビームを形成する。この円弧フォーカスをセクタ状に走査し,さらに音軸を中心に回転させることによってエコーを取得すると,円弧で構成 される半球面の散乱体分布を逆Radon変換によって映像化できる。本手法の原理と映像化実験について説明する。

 

 

 

フェイズドアレイUTの適用事例及び標準化の世界的動向
   横野 泰和 ポニー工業(株)

Global Trend of Phased Array Ultrasonic Testing:Its Practical Application
and Standardization
Yoshikazu YOKONO Pony Industry Co., Ltd.

キーワード 非破壊検査,超音波探傷,フェイズドアレイ,探触子,サイジング,標準化



1. はじめに
 フェイズドアレイと呼ばれる超音波画像表示方法は,十数年前から医療分野ではごく当たり前のように使用され,最近では4次元画像で胎児のようすがかなり 鮮明にうかがい知ることができるようになっている1)−3)。4次元というとSF小説に出てきそうな表現であるが,つまり3次元画像をリアルタイムで取り 込んで,時間経過とともに連続的に動画像を観察する方法である。一方工業分野すなわち非破壊検査を目的としたフェイズドアレイUTとしては,数年前まで は,十分な分解能や判読性のある画像を得るためには,大掛かりで高価な装置を用いる必要があり,実用的には非常に限られた用途にのみ適用されてきたのが実 情である。
 医療分野のように検査対象物が人体の場合,そのほとんどは水分で形成されており,縦波の伝搬のみで画像構成されるため,画像の再構成は比較的容易であ る。しかし,鉄鋼材料をはじめとする工業材料の場合は,縦波だけでなく,横波や表面波さらには板波のようなモードの波も発生し,これらが画像上で重なって 表示される。特に溶接部の検査のように斜角探傷が要求される場合には避けられない問題となる。しかも,工業分野の問題点はこれだけでなく,一般には検査対 象物を持ち込むことができない場合が多く,技術者が現場に検査装置を持っていって,決して万全とは言えない環境下で検査を実施することが要求されるため, コンパクトでかつ利便性に高い装置であることが必要である。最近になって,コンピュータを中心とした周辺技術の著しい発展によりこれらの問題点が解消さ れ,工業分野においてもフェイズドアレイを用いた超音波探傷検査の実機適用が行われるようになってきた。
 本稿では,フェイズドアレイUTの実際への適用状況について,海外の文献等で紹介された事例を中心に概説する。また,実用化のために必須となる規格化・標準化の実情についても解説を加える。

 

1D,2Dフェイズドアレイ超音波探傷の最近の適用事例
    松井 晃一 オリンパス(株)IMS事業部IMS国内販売部NDTシステムG

Recent Applications of 1D and 2D Phased Array Ultrasonic Inspection
Koichi MATSUI Olympus Corporation

キーワード  フェイズドアレイ,アパーチャ,仮想探触子,フォーカル・ロー,1Dアレイ,2Dアレイ



1. はじめに
 工業用検査におけるフェイズドアレイ超音波の歴史は未だ20年に満たず,アールディテック社(現オリンパスNDTカナダ)が実用化・小型化に成功して以 来,適用が拡がり始めた。機器が高額に達することから当初は原子力分野での適用等に限られていたが,数年前からはメーカー各社での開発も進んできた。さら に5百万円を切る機種も現在現れるようになり,一般普及の時代を迎えようとしている。以下では,フェイズドアレイの原理を簡単に説明し,1Dおよび2Dア レイの適用事例を紹介する。

2. フェイズドアレイとは
 フェイズドアレイ(Phased-Array 位相配列,以下PA)という用語は,元来電波の分野で用いられたもので,能動的(送信)には図1のように多数の波源からの波の位相を制御して干渉パターン を作り出すことを意味している。位相制御は受動的(受信)にも使用する。
 PA方式は,軍事用高性能レーダーに採用されている他,最近では人工衛星からの地上観測や,米国での竜巻発生予測に利用が検討されている。パラボラの機 械的な回転では時間がかかりすぎて予測が間に合わないが,PA方式では機械方式に比較して1/5の時間で必要な領域を走査できるので,より迅速な予測が可 能と考えられている。このような事情は超音波でも同様で,PA方式の利点の一つを示唆している。

 

 

3次元開口合成(3D-SAFT)アレイと適用事例
    唐沢 博一 (株)東芝  磯部 英夫 東芝プラントシステム(株)  浜島 隆之 東芝電力検査サービス(株)

Three-dimensional Synthetic Aperture Focusing Technique(3D-SAFT)
Array:Ultrasonic Inspection Method and Applications
Hirokazu KARASAWA Toshiba corporation, Hideo ISOBE Toshiba Plant Systems & Services corporation
and Takayuki HAMAJIMA Toshiba Power systems Inspection Service corporation

キーワード 非破壊検査,信号処理,超音波可視化法,開口合成,アレイ探触子



1. はじめに
 3次元開口合成アレイ(3D SAFT:Three-dimensional Synthetic
Aperture Focusing Technique)検査装置は,マトリックスアレイプローブ,リニアアレイプローブを用いて収集した超音波エコーデータに独自に開発した3次元開口合成 (3D-SAFT)手法を用いることで高精度の3次元画像を表示できることを特長としている。この特長を活かし,航空機部品(CFRP等部品),自動車部 品(アルミダイキャスト,スポット溶接)や鋼材(配管溶接部,母材等)の検査に適用を行っている。
 本報告では,近年注目されているアレイプローブを用いた新型超音波探傷技術の一手法である3次元開口合成アレイの原理とその特長,ならびに適用事例を紹介する。

2. 3次元開口合成アレイ検査装置
2.1 装置概要
 3次元開口合成アレイ検査装置は,64chから256chのアレイプローブの任意の一対の全ての組み合わせに対して電子的にスキャンして超音波の送受信 が可能であり,100MHz,12bitの解像度でデータを高速収集する機能を有している。同装置は,3D-SAFTアルゴリズムを組み込んだ並列演算回 路で画像合成することで,収集された超音波データから3次元超音波画像を高速・高精度で表示することが可能である。このような機能を持つ装置には,ポータ ブル機とインライン用の高速機の2種類があるが,ポータブル機には,CPU(Pentium ?),大容量HD(40GB)が装備されている。一方,高速機は,標準装備された高速ネットワークで上位のPCと接続することで大規模探傷システムを構築 することが可能である。
 実際の検査では,超音波アレイプローブを検査対象物の表面に接触(水またはジェル状の液体を介して)させてスキャンすることにより,検査対象物内部を視覚的に捕らえて立体的に観察することができる。

2.2 表示機能
 3次元開口合成アレイ検査装置の標準画面の画像は人工的に剥離(Delamination)を形成したCFRP(Carbon-Fiber Reinforced Plastic)試験片の前面側からリニア アレイプローブ(5MHz,64素子)を走査し,画像化したものである(マトリックスアレイプローブの場合 は,機械的な走査なしに画像化が可能)。合成された画像は,3次元画像データ(1画素32ビットの分解能)として保存され,Z方向(深さ方向)へ透視した 「正面画面(X-Y)」と,Y方向(走査方向)へ透視した「側面画面(X-Z)」とX方向(走査方向Xと深さ方向Zに直交)へ透視した「側面画面(Y- Z)」を標準画面としている。各透視画面では,それぞれスライス画像を連続的にめくりながら表示することも可能である。また,専用の鳥瞰画像表示ソフトを 用いることにより,3D鳥瞰表示を行うことができる。

 

 

ボリュームフォーカスフェイズドアレイと適用事例
    村井 純一   ドミニク ブラコニエ/村上 丈子  日本クラウトクレーマー(株)

Volume Focusing Phased Array and Applications
Junichi MURAI, Dominique BRACONNIER and Takeko MURAKAMI Krautkramer Japan Co., Ltd

キーワード ボリュームフォーカスフェイズドアレイ,フェイズドアレイ探傷,ゾーンフォーカス,DDF,マトリクスアレイプローブ  



1. はじめに
 ボリュームフォーカスフェイズドアレイ(以後ボリュームフォーカス)1)は従来のフェイズドアレイ探傷技術をさらに高速でかつ高分解能,高検出能の探傷 を可能とする探傷技術である。フェイズドアレイ探傷法はこの10年余りで著しい進歩を遂げポータブルタイプの探傷器から自動探傷装置まで数多くの装置が使 用されるようになった。これは半導体技術,コンピュータ技術の進歩により探傷器の高性能,低価格化が可能となり,またコンポジット振動子の出現により高性 能で品質のそろったアレイ探触子が製作可能となったことによる。その応用範囲は原子力発電プラントのISI(In Service Inspection),航空機の機体や翼の検査,鉄鋼関係のオンライン装置など幅広く応用されるようになった。また規格化,標準化の動きも活発になって おり2),国内においてはPD(Performance Demonstration)における超音波認証制度においてもフェイズドアレイ法が用いられ実績を上げている。ボリュームフォーカスはこれらのアプリ ケーションにおいてさらに高速で検出能力,分解能の高い探傷を可能とする技術である。本稿ではボリュームフォーカスの原理からその応用例について述べる。 図1,図2にボリュームフォーカス超音波探傷装置の外観図を示す。デスクトップ型はフィールド用途あるいは研究目的の装置であり探傷データの解析機能を持 ち後述のマトリクスプローブの対応が可能である。オンライン対応型はオンライン自動探傷に必要な機能を持ち高速判定機能があり,並列運転により複数のプ ローブの使用が可能である。

 

 

連載 安全への技術

E−ディフェンスにおける耐震実験研究の取り組み その1 E−ディフェンスの概要
   中村いずみ (独)防災科学技術研究所

E-Defense Experimental Studies on Earthquake Engineering
Part 1:Introduction of E-Defense

キーワード 耐震,震動台,実大実験,破壊実験


1. はじめに
 1995年1月17日に発生した兵庫県南部地震では,建築物,高速道路,港湾施設等,数多くの構造物に多大な被害が生じるとともに,これらの被害により 6,000名を超える人命が失われた。この地震被害を受け,構造物にこのような多大な被害が生じた理由,被害を防ぐための手法を再検討する必要に迫られ, 有識者による議論を経て,これまでの実験施設では不可能だった,震動により実物大の構造物を破壊に至らせるまでの実験が可能となる震動実験施設が建設され ることとなった。独立行政法人防災科学技術研究所は,このような経緯に基づき,世界最大の振動台である実大三次元震動破壊実験施設(愛称:E−ディフェン ス)を,兵庫県三木市に建設した。本号および次号の2回に分け,E−ディフェンスの概要とこれまでの実験研究で得られた成果,および今後の予定について述 べる。このうち,本号ではE−ディフェンスの概要について,次号ではE−ディフェンスを用いた耐震実験研究の概要について報告する。

2. 建設の経緯とE−ディフェンスの目的1),2)
 兵庫県南部地震では,震源近傍では極めて強い地震動が発生し,構造物に大被害が起こりうることが示された。この地震を契機に,構造物の地震による破壊メ カニズムの解明,および免震・制振のような破壊を防ぐための関連技術を開発する必要性が改めて認識された。科学技術庁防災科学技術研究所(当時,現独立行 政法人防災科学技術研究所)では,地震の直後よりそのような技術開発を推進する施設の一つとして大型三次元振動台の開発に取り組んできた。一方,科学技術 庁(当時)においては,地震を契機とした様々な取り組みが行われる中,特に科学技術庁長官の諮問機関である航空・電子等技術審議会において,地震防災研究 基盤の効果的な整備についての審議が行われ,その結果,新たな地震防災研究基盤整備の方針が提案された3)。この研究基盤の中核的施設の一つとして,実大 三次元震動破壊実験施設の必要性を含めた計画検討が行われ,1998年度より本施設の本格整備のための予算化が始まった。現地における建設工事は2000 年3月に着工された。その後,約5年の歳月をかけ,2005年3月に完成し,翌4月より本格稼働している。

 

 

 

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