logo

  >>学術活動カレンダー表示

 

機関誌

2004年度バックナンバー巻頭言10月

2004年10月1日更新

巻頭言

「渦電流探傷試験法の新しい展開」特集号刊行にあたって  

   近年,化学プラントや原子力発電プラントの高経年化に伴い,各種構造物の検査や診断が重要となってきている。例えば沸騰水型原子力発電所における原子炉 内構造物のシュラウドや再循環系配管においてひび割れが報告され,その検査が重要な課題となったことは記憶に新しいところである。同様に化学プラントにお いても幾つかの事故が報告されている。これらの例を見るとプラントが高経年化を迎えてきていることもあり,これまで予想していない箇所からも欠陥が生じて きている。従ってプラントの健全性を確保するには従来の概念で行われていた検査のあり方も見直していかなければならないかもしれない。とはいえ検査工数を 闇雲に上げていくことは経済的にありえない。そのためにも検査手法には高速でかつ信頼性の高い診断を可能とする開発が要求されることになる。
 特に原子力発電プラントの点検規格については,日本機械学会が制定した「発電用原子力設備規格 維持規格(JSME S NAI-2002)」により原子炉構造物について新たに評価不要欠陥寸法が設定された。これらの規格は,昨年秋より維持基準として法制化運用が開始され た。評価不要欠陥寸法の概念は,欠陥が検出されてもその欠陥サイズが構造強度に影響しない範囲であれば監視を継続しつつプラント運転を継続することを許容 するというものである。従ってこの概念の導入により,検査技術には,これまでの欠陥の検出技術だけでなく,きずの長さ,深さおよびその分布と言ったサイジ ングする技術が必須となってきている。よってますます検査技術の高度化が要求されることになる。
 本特集は,今年の3月号の「渦電流探傷の適用」の特集に続き,「新しい展開」として解説する。本特集では,上記に述べたように渦電流探傷法のおけるきず のサイジングの重要性から,検出信号のシミュレーションから逆問題的にきず形状をサイジングする手法,またこのために十分な情報量を持った計測を可能にす る渦電流探傷装置のデジタル化およびマルチプローブ化について解説してもらった。さらにこの手法の新たな展開として,これまで表面検査としていた本手法を 厚板の検査への展開や新しい応用例の紹介をしてもらった。
 本特集の企画にあたり,最近の計算機能力の向上に合わせたシミュレーション・逆問題的診断法の進展,装置のデジタル化およびマルチ化と情報通信インフラ の普及に伴う新しい渦電流検査のあり方の提案,そして新たな応用への展開について,表面検査の重要性がますます問われている時にタイムリーに紹介できた。 本特集が渦電流試験の発展に繋がれば幸いである。

 

 

解説 渦電流探傷試験法の新しい展開

渦電流探傷シミュレータと逆問題解析
   小島 史男 神戸大学大学院自然科学研究科

Inverse Analysis using ECT Simulator
Fumio KOJIMA Graduate School of Science and Technology, Kobe University
キーワード きず寸法,計算機利用,逆問題,シミュレーション,有限要素法,電磁界解析,渦電流,導電率



1. はじめに
 表面探傷技術のひとつである渦電流探傷試験法は,原子力プラントの配管きずなどの供用期間中検査に使用されるなど成熟した技術のひとつであるが,最近鉄 道,ビルなど社会インフラ施設のメンテナンス等応用分野は広がっており,センシング技術も高度化しつつある。一方,渦電流の解析技術も,計算機の性能向上 と普及に伴い,解析ソフトの整備が進んでおり,科学工学分野の対話型ソフトであるMATLABとFEMLABの組み合わせ等の低価格な普及ソフトを用いれ ば,特別の知識をもたずとも渦電流探傷試験の解析が容易に実施できる環境にある。表題の逆問題解析による定量的非破壊評価は数値解析技術と渦電流探傷装置 の普及を背景に,高度な診断技術の実現をめざす試みである。本解説においては,逆問題解析によるきず診断の方法論を説明し,渦電流探傷シミュレータの役 割,および逆解析による定量的非破壊評価の最近の適用事例について解説を試みる。

 

 

厚肉構造物のための渦電流探傷技術
   高木 敏行/遠藤  久 東北大学流体科学研究所

Eddy Current Technologies for Thick Metal Structures
Toshiyuki TAKAGI and Hisashi ENDO Institute of Fluid Science, Tohoku University
キーワード 渦電流探傷,厚肉構造物,深い欠陥,計算非破壊評価



1. はじめに
 渦電流探傷試験(ECT : Eddy Current Testing)は,励磁コイルで生成した交流磁束を検査対象導体に暴露することで渦電流を誘起させ,材料因子に依存した渦電流分布の情報を磁束分布ある いは励磁コイルの入力インピーダンスとして評価する手法である。非接触で高速な試験が可能であるうえ,欠陥情報が電気信号で取得できるなどの特長をもち, 金属材料を扱う分野の非破壊検査手法として広く活用されている1)−3)。一方,Lenzの法則にあるように渦電流が作る磁束は,励磁コイルで生成した磁 束を打ち消すように作用するため,検出のカギである渦電流を検査対象深部に分布させることは難しい。したがって,従来のECTは,金属表面あるいは薄板・ 薄膜金属の検査技術という位置付けに収まっていた。
 筆者らの研究グループが潜心する原子力発電関連プラントでのECTは,主に加圧水型軽水炉(PWR : Pressurized-Water Reactor)の蒸気発生器伝熱管(SG管)が対象であり4),5),やはり比較的薄い管厚(1.27mm)の細管である。近年,維持規格6)の法制化 などを引き金に非破壊検査技術に高い精度の検出・評価能力が求められている。ECTにおいては,適用可能範囲,すなわち検出可能深さの拡大が検査信頼性向 上につながると考えられる7),8)。さらに,ECTを用いた構造物等の材料履歴管理9),10)や健全性維持管理を目的としたモニタリング手法 11)−13)など,新たな応用が展開されているなか,検査対象深部の情報を取得できるECT技術の確立は,大きな意義があるであろう14),15)。
 本稿では,厚肉構造物のための渦電流探傷技術として計算機支援技術を積極的に用いたアプローチの1つを紹介し,プローブ設計次第で,従来5mm程度であったECTの検出深さ限界を10mm以上に拡大可能であることを示す。

 

渦電流探傷試験の新たな適用
   小井戸純司 日本大学生産工学部


New Application of Eddy Current Testing
Junji KOIDO Nihon University
  キーワード 渦電流探傷,鉄鋼材料,表面きず,腐食,厚さ測定,溶接部



はじめに
 欧米に比べ,我が国の構造物は若いものが多いとはいえ,嘗てのスクラップアンドビルドの時代は遠い夢として去り,近年は既存の構造物に延命処理を施して 永く使用することを目指すことが多くなっていると言われている。そのため,きずはあっても耐力に問題がなければ放置?してよいという維持基準を定め,これ に基づいて危険なきずのみを補修,あるいは使用停止の判断の対象とすることが構造物の保守・管理の考え方の流れである。右肩上がりの成長が止まり,人類が 資源保護,環境フレンドリーに目覚めた現代としては自然の成り行きであろう。
 さて,そうなると,非破壊試験に課せられた使命は重い。すなわち,破壊力学的に「ここまでは大丈夫」というきずの大きさの限界を合理的に定めることがで きたとして,現実の構造物に存在するきずの大きさが果たしてどのくらいなのか,非破壊試験によって推定し,その結論に責任を持たなくてはならないのであ る。すなわち,きずの深さなり幅なり長さなりを,定量的に推定する能力の信頼性が問題となる。一方,構造物の部材におけるきずの位置については,表面に存 在するきずほど構造物の破壊を引き起こす危険度が高い。また,同じく,構造物の耐力に与える影響においては,きずの体積より深さがより重要である。このよ うなことから,構造物表面の非破壊的きず探査法,すなわち表面探傷法が従来にも増して重要となってきていると言える。
 本特集における主題の渦電流探傷試験法は表面探傷法の一つであり,歴史的には鋼管の製造時における探傷に用いられたのが,その歴史の端緒であるといわれ ている。保守検査については,各種プラントの熱交換器の保守検査における,伝熱管の腐食や割れの検出に用いられたのが華々しい例であろう。これらの技術は 今でも広く用いられている。一方,当協会春秋の大会やその他の研究会等においても全く報告されないが,自動車工業界でも渦電流探傷試験は良く用いられてい るようである。航空機の保守検査には手でセンサを持ってするタイプの試験が良く行われおり,本特集のその1(vol. 53, No.3)で紹介されている。一方,鋼構造物の保守検査では溶接部の探傷や腐食の検出が良く行われるが,これにも渦電流試験を適用しようとする動きもあ る。元来,鋼に対する渦電流探傷は無力であるとして適用を試みなかったが,やはり鋼構造物への適用を断念し,座して眺めているのでは広い適用分野に背を向 けることになるので,当協会の渦電流探傷研究委員会でも鋼に対する渦電流試験の適用の拡大を研究テーマの一つに上げている。必ずしもうまくいっている例ば かりではないが,本稿では,以下に,このような新しい試みについて紹介する。

 

連載講座

腐食環境下でのステンレス鋼の経年変化応力腐食割れ,腐食モニタリング
   福田 敬則 石川島検査計測(株)


Degradation of Stainless Steels in Corrosive Environments
(Stress corrosion cracking, corrosion monitoring)
Takanori FUKUDA Ishikawajima Inspection & Instrumentation Co., Ltd..
キーワード 経年変化,応力腐食割れ,モニタリング



1. はじめに
 ステンレス鋼は10.5%以上Crを含む鉄基の合金であり優れた耐食性能を有する。2002年に日本国内でのステンレス鋼の生産量は概ね300万トン 1)であり,産業分野別の使用量は輸送機械:26万トン,厨房関連:25万トン,建築土木:20万トン,産業機械関連:19万トン(このうち化学機械関連 で5万トン),家電製品:7万トン,精密機械:2.5万トンとなっている。
 ステンレス鋼は優れた耐食性能を有することより,化学機械関連の装置材料として最も重要なものの一つとして使用実績が多いが,供用中に思わぬ腐食損傷を引き起こした事例も報告されている。化学工学会で実施した塩化物応力腐食割れ(Stress Corrosion Cracking)対策鋼使用実績データ2)より作成した応力腐食事例と供用年数の関係を図1に示す。SCC発生事例は供用期間の増加と共に減少する傾向が見られ,5年未満の供用条件で発生する事例が全体の約40%にも達している。
 近年,規制緩和が進み,化学プラントでは長期連続運転が可能となったが,それに伴い開放点検などの検査機会が減少している。また2003年に起きた火 災・爆発を伴う重大事故の多発(7例)の対応として,装置・設備の安全管理状況の客観的・定期的な確認を含む法規制の検討も進められている。
 本項ではステンレス鋼の応力腐食割れについて事例を含めて解説すると共に,実機で適用されている電気化学手法を用いた腐食モニタリングについて紹介する。

 

 

論文

非破壊検査工学における標準化
   磯野 英二

Standardization of Nondestructive Inspection Engineering
higenobu ASANO*, Tsutomu EZUMI** and Masashi HACHIYA***Eiji ISONO
キーワード 非破壊試験,国際規格,規格,技術分類,ISO,CEN,JIS



1. 緒言
 標準化活動を巡る環境は,1995年に締結された WTO/TBT協定に基づく各種規格・標準の国際整合性の面から近年,国内外で大きく変化し,標準化活動の重要性がますます増大してきている。このような 背景のもとに我が国においては,2001年1月の中央省庁再編に伴って,国内及び国際標準化に係わる基本的な指針及び計画が,日本工業標準調査会から「標 準化戦略の策定について」と題して,同年8月に公表1)されている。
 国際標準化の動きは,1906年創設の IEC(国際電気標準会議)を参考として, 1947年に非政府間機構として ISO(国際標準化機構)を発足させたことに始まる(日本は1952年に加入,現在の加盟国は 134)。そしてISO独自に制定した規格は現在,12,000件に達しているが,このほか1976年に締結された IECとの協定に基づく ISO/IECガイドとして制定されてきたものが存在するが,これは ISO/IEC規格とする方向で作業が進められている。
 一般に標準化は各国とも,先ず企業が安定して同じ品質の製品を供給する目的で,企業の基準{社内規格}を作ることから始まり,これを同じ業界の共通規格 {団体規格}とし,更にその一部を国家規格・国内基準とすることで一区切りとなる。国際化が進む環境においては,ある国がその国家規格又は準国家規格を国 際規格に位置付けできることは,あらゆる面において有利になるわけで,日本はこれまでその努力を怠ってきており,上記の標準化戦略においても反省されてい る。
 非破壊試験関連規格について見ると,JISとして最初に制定された規格は 1954年のことであり,米軍規格(MIL)を除いて主要先進国である英国(BS),ドイツ(DIN),フランス(AFNOR)などにおいての NDT関連規格での最初の制定は1970年代であるのに対してスタートが早かった。また,国際規格としての最初の ISO規格は,1969年に設立された技術委員会TC 135(非破壊試験)によるものではなく,1972年制定の溶接(TC 44)に関連したNDT規格であった。なお,これら主要機関の制定規格数は現在,JIS 8,000,ANSI(米国)10,000,BS(英国)13,000,DIN(ドイツ)13,000,NF(フランス) 17,000と言われている。
 工業規格は,国の事情や技術と社会情勢によって制定の方法とタイミングはさまざまで,優劣を付け得るものではないが,NDT関連規格に関していろいろな角度から比較検討し,そのあり方について論じて見ることとする。

原稿受付:平成15年9月6日
 元(社)日本非破壊検査工業会The Japanese Association for Non-destructive Testing Industry, retired

 

回転一様渦電流プローブを用いた渦流探傷におけるニューラルネットワークを利用したスリット状きずの推定に関する基礎的検討
   小山  潔/星川  洋

Fundamental Study of Slit Flaw Shape Estimation Using Neural Network in Eddy Current Testing
by Rotating Uniform Eddy Current Probe
Kiyoshi KOYAMA* and Hiroshi HOSHIKAWA*
Abstract
In recent years, high accuracy nondestructive testing has been demanded. When the eddy current flaw signal is displayed as an image in two-dimensional eddy current testing, the flaw image becomes blurred in principle. In this study, the authors propose a method of applying a neural network to processing the eddy current testing signal. For the two-dimensional signal processing, the authors have restored the flaw image from blurred flaw signals of pancake coil and rotating uniform eddy current probe. The experiments of two-dimensional signal processing have shown that the neural network can restore a clear flaw image. It was also confirmed that the rotating uniform eddy current probe provides a better flaw image than a pancake coil.
Key Words Eddy current flaw testing, Neural network, Slit flaw estimation, Conventional surface coil,Rotating uniform eddy current probe



1. はじめに
 渦流探傷は,非接触で高速度に試験が行えることから,発電所などにおける熱交換器の細管の保守検査,航空機エンジン部の保守検査などに適用されている。 近年,渦流探傷においてもきずの有無を検出するだけでなく,きずの深さや長さ,形状などきず性状を評価できる精度の高い探傷試験が求められている。精度の 高い探傷試験を行うためには,試験コイルによる試験体表面の1次元の走査ではなく,試験コイルの2次元の走査探傷や試験コイルを多数配置したマルチプロー ブによる走査探傷が必要である。試験コイルの2次元の走査やマルチプローブの走査により得られた探傷信号を表示することで,視覚的にきずの評価が行え,評 価精度の向上が期待できる。しかし,渦流探傷では,試験体に誘導される渦電流が試験コイルの径よりも広がりを有するため,得られる探傷信号はぼやけた信号 となり,渦流探傷信号からきず性状の正確な評価ができないのが現状である。
 近年,渦流探傷においてニューラルネットワーク1)(以下,NNとする)を利用した信号処理に関する研究や渦流探傷信号からきずの推定を行う逆問題解析 に関する研究が行われている2)−10)。NNは,予め与えられた入力信号と教師信号によって学習を行う学習能力と,学習を行った範囲の信号に対して教師 信号に近い信号を出力する汎化能力とを有する。したがって,渦流探傷信号を入力信号とし,きず形状を表す信号を教師信号としてNNに学習をさせれば,探傷 信号からきずの推定が行えると考えた。
 NNの学習においては,既知のきずに対してオフラインで十分な時間を掛けて行える。学習を行ったNNを用いればその汎化能力により未知のきずに対してオ ンラインで適切な出力が得られる。一方,電磁界解析を併用した渦流探傷信号からのきず推定では,近年の計算機能力の向上や新しい解析手法の開発により従来 に比べて解析時間が短縮されたものの,試験コイルを走査して解析を行う場合には時間を要する。そこで,筆者らは,きず評価精度の向上を志向して,実時間で のきず推定が期待できるNNを利用した渦流探傷信号からのきず推定の基礎的検討を行った。
 筆者らは,今回,方形状のスリットきずに限定して,従来から平板の渦流探傷試験に多用されている上置コイルによって得られた探傷信号からのきずの推定を はじめに試みたが,推定精度が悪く,また学習に長時間を要した。これらの原因について考察を行った結果,NNを利用する場合には,リフトオフの変化による 雑音が小さく,きず性状に関する情報をより多く含む探傷信号を用いれば,効率よく学習が行われ学習時間を短縮でき,またきずの推定精度の向上が期待できる と考えた。
 筆者らは,上置コイルよりもきず性状に関する情報をより多く得られ,リフトオフ雑音の小さな回転一様渦電流プローブを開発している11),12)。回転一様渦電流プローブは,

原稿受付:平成15年11月19日
 日本大学生産工学部電気電子工学科(千葉県習志野市泉町1-2-1)Nihon University, College of Industrial Technology

 

to top

<<2020>>

  • 1月2月3月4月5月6月7月8月9月10月11月12月
  •  
  • 予定はありません。