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機関誌

2002年度バックナンバー巻頭言10月

2003年10月1日更新

巻頭言

「新素材の非破壊評価法」特集号の刊行にあたって   松嶋 正道

 1 新素材は,複合材料・セラミック・FGM・ナノ材料などと広範囲にわたって開発研究が進められている。目的も軽量化,熱制御,耐熱,機能,高強度,高弾性と重複した多様な性能を追及している,適用対象に関しても,航空宇宙機体,エンジン,ノズル,リーディングエッジ,ディスクブレーキ,ノズル,メディカルと様々である。当然の事ながら,多量に生産できれば安価となりうるが,残念ながら高価格である。また,設計の際に安全側に計算するために,実用上耐疲労性の高い製品となっている。設計範囲以上の外力,衝撃力,高温環境に遭遇しなければ安全上の問題は無いと考えている。しかし,非破壊検査評価の関心は高く,超音波,X線,サーモグラフィー,AE,光ファイバーの各種検査法の研究も進められている。  今特集は,スマートストラクチャーのFBGセンサーによるAE計測技術,CFRP板の板厚方向に発生した微少クラックの検出法,CFRP構造に適用する超音波探傷評価法,三次元織物C/C材料内部の損傷をマイクロフォーカスCTで検査・評価法の解説を新進気鋭の研究者に執筆をお願いして,特集を構成した。センサーを用いてひずみや損傷状況を評価し,センサーからの情報に基づいてアクチュエータにより損傷進展を制御するような機能を有する構造体をスマート構造体と呼んでいる。このセンサーとして光ファイバーの1種であるFBGセンサーを用いて実験を行なった結果が報告されている。超音波探傷では,検出が難しいとされていた微少クラックの検出を2重透過法により定量評価を行なった結果が報告されている。また,複雑な形状を持つCFRP構造に超音波探傷を適用した例,さらに,複雑な三次元織物カーボン/カーボンセラミック材料に内在する損傷の断面をマイクロフォーカスCTにより画像化できた評価も高いと考える。未来型材料は,リサイクルが可能で,小型軽量で安価な製品が考えられており,非破壊評価技術の向上も必要と考えられている。

*宇宙開発事業団(三鷹市大沢6-13-1 飛行場支所)航技研招聘研究員,先進複合材評価技術開発センター,副主任開発部員
 1970年航空宇宙技術研究所に勤務。複合材料の試験法開発・評価の研究を行なう。
 1982年から,複合材料の超音波探傷・軟X線透過試験に関わる。2002年から宇宙開発事業団に出向。

 

解説 新素材の非破壊評価法

三次元炭素繊維強化炭素複合材料(3D – C/C)のマイクロフォーカスX線CT検査
  青木 卓哉 航空宇宙技術研究所,先進複合材評価技術開発センター

Micro-focus X-ray CT Analysis of an Orthogonal 3D-C/C Composite
Takuya AOKI Advanced Composite Evaluation Technology Center, National Aerospace Laboratory of Japan
キーワード 非破壊検査,品質保証,欠陥,マイクロフォーカスX線CT,C/C複合材料



1. はじめに  近年,高集積半導体や繊維強化複合材料に代表されるように,極めて微細かつ複雑な内部構造/組織を持つ部品が使用されるようになり,微小欠陥に対する非破壊検査のニーズは大きく高まってきている。このようなニーズに対応するため,超音波やX線の発生源や検出器といったハードウェアと,データ処理ソフトウェアの改良がなされ,非破壊検査技術は飛躍的な進歩を遂げている。X線CT検査においても,従来は供試体の断面像を様々な位置で撮影し,得られた断面像から欠陥の有無を評価することが行われてきた1)。しかし,現在では画像処理ソフトウェアが進歩し,多断面のCT像から供試体の三次元構造を短時間で再構成することが可能となった。これにより,複雑な内部構造を有する供試体においても,欠陥の三次元的形状や位置関係を簡便に把握することが可能となっている。同時に,X線発生源および検出器の高性能化により,空間分解能が数ミクロン程度の極めて高精度なマイクロフォーカスX線CTスキャナが開発され,非破壊検査への適用が開始されている。航空宇宙技術研究所,先進複合材評価技術開発センターでは,航空機やロケット用材料/構造体の非破壊検査技術を検討するため,これまで超音波探傷装置,軟X線透過装置,アコースティックエミッション装置,X線CT検査装置を導入し,繊維強化複合材料をはじめとする各種供試体の非破壊検査を行ってきた2)−4)。平成13年度からは,航空宇宙技術研究所,宇宙開発事業団及び宇宙科学研究所で宇宙3機関連携プロジェクト研究がスタートし,この枠組みの中で固体ロケットモーター材料,各種先進複合材の非破壊検査技術向上を目的とした研究を行っている。平成14年には,より小さな損傷や欠陥検出を可能にするため,マイクロフォーカスX線CT装置を導入し,運用を開始した。本稿では,当センターのマイクロフォーカスX線CT装置を紹介するとともに,三次元炭素繊維強化炭素複合材料(3D – C/C複合材)における適用例を示す5)。新素材の非破壊検査の参考となれば幸いである。

 

 

複合材構造の超音波探傷法
   松嶋 正道 宇宙開発事業団

Ultrasonic Inspection of Composite Materials
Masamichi MATSUSHIMA NASDA
キーワード 超音波探傷,複合材料,サンドイッチ構造,衝撃,接着,セラミック



1. まえがき  複合材料は,型に合わせて繊維束を揃えてもしくは重ねて合わせて元形を作り,そこに樹脂と硬化剤を混ぜ合わせたゲルを含浸させて気泡などを慎重に押し出して,成形を行なう方法で作られている。繊維形態も一方向,布,織物,三次元織物,ステッチングなど多種類である。樹脂も常温硬化,熱硬化,熱可塑と数種類の組み合わせでFRPに用いられている。しかし,ポリマー系樹脂は熱に弱い性質を持っており,宇宙機の耐熱構造部品としてセラミックをマトリクスとしたC/C材や三次元織物セラミック複合材料が用いられている。構造形式も補強平板,ハニカムサンドイッチ,コア材,フィラメントワインディング円筒などがある。このような複雑な複合材構造の超音波探傷を行なう場合には,経験とノウハウが必要となる。そこで,現在までに探傷・評価を行なった結果を示す。超音波が物体(液体)中を伝播する様相を肉眼で直接に観ることはできず,探触子周波数の帯域が,可聴音から離れているため,聞くこともできない。しかし,超音波エコー伝播の可視化は,光をストロボで同期発光させる方法や計算を行なって1)−5),エコーの反射や回り込みの様相をリアルタイムで観ることができる。ある程度,超音波探傷の経験を重ねれば,オシロスコープに表れるA – スコープの周波数,エコーの振幅と時間軸上の反射波の位置や減衰を確認することができる。また,超音波探傷の初心者向けに協会から入門CDも発売されている。

 

 

FBGによるAE計測
    津田  浩 産業技術総合研究所 スマート・ストラクチャー研究センター


AE Measurement Using Fiber Bragg Gratings
Hiroshi TSUDA Smart Structure Research Center, National Institute of Advanced Industrial Science & Technology



1. はじめに  センサを用いてひずみや損傷状況を評価し,センサからの情報に基づいてアクチュエータにより損傷進展を制御するような機能を有する構造体をスマート構造体と呼ぶ。スマート構造体のセンサとして光ファイバセンサの一種であるFBG(Fiber Bragg Grating)センサが小型・軽量,電磁波非干渉性などの利点から期待され,これまでにFBGセンサを用いたひずみ計測,損傷状況評価に関する研究が多く報告されている1)−3)。スマート構造体の損傷状態評価法としてアクティブ・センシングと呼ばれる方法が提案されている。これは圧電パルサを用いて材料内に弾性波を伝播させ,損傷の有無による弾性波伝播挙動の相違から損傷状態を評価する手法である4)。その際,広帯域,かつ高感度な弾性波検出素子が必要とされる。これまで弾性波(AE)検出には圧電センサが用いられているがFBGセンサで計測することができれば,電磁波障害を受けないことや多重化(一本の光ファイバ上に複数のFBGセンサを設けること)可能なことなど,実用化において大きな利点がある。しかしながらFBGセンサを用いたAE計測に関する報告は著者の知る限り少なく5),6),FBGセンサによるAE計測能が十分に理解されているとはいえないのが現状である。本稿ではFBGセンサ,及びそのAE計測システムの概略を記し,圧電パルサから発生させた擬似AEをFBGセンサで検出した実験例を紹介する7)。

 

 

超音波を用いた反射板法による炭素繊維強化プラスチック板に内在するクラックの探傷方法
   井田 隆志 (株)ジーネス

Inspection Method with Reflection Plate Using Ultrasonic of the Internal Crack in the Carbon Fiber Reinforced Plastic Plate
Takashi IDA GNES Co.,Ltd.



1. はじめに  炭素繊維強化プラスチック(以下CFRP)は高比強度,高比剛性,低熱膨張率などの優れた特性を有しており1),近年新素材として航空機や宇宙構造物の部材や圧力容器等に使われている。そこで,これらの品質を評価するための非破壊検査技術も重要となってきている。ここでは,CFRP板に内在するクラックの探傷方法として,高周波集束探触子を用いた反射板法よる探傷例を紹介する。

 

 

 

論文

移動平板導体にコイル面が垂直な方形コイルの速度効果
   田中 章雄/石田 浩一/武平 信夫/三木 俊克


Speed Effect of a Rectangular Coil Located Vertically Above a Sheet Conductor
Akio TANAKA*, Koichi ISHIDA**, Nobuo TAKEHIRA** and Toshikatsu MIKI***
Abstract

When an ac-excited coil faces a moving sheet conductor, an eddy current is induced in the conductor and the coil impedance is influenced by speed effect. In most studies dealing with this phenomenon, circular coils have been analyzed. However, it has been pointed out quantitatively that a rectangular coil reduces the speed effect. A rectangular coil located vertically above a sheet conductor is useful for non-destructive testing. It is also useful for surveying the buried metal pipe. Despite these possible uses, there has been little study on the above coil. In this paper, we derive rigid theoretical formulas for magnetic field and coil impedance of a rectangular coil facing a moving or standstill sheet conductor. And we present several speed characteristics with regard to coil inductance and resistence by calculations. Validity of the theoretical analysis is confirmed experimentally.
Key Words Speed effect, Rectangular coil, Variation of impedance, Eddy current, Moving conductor



1. まえがき  導体に近接して交流励磁されたコイルが存在するとき,導体に誘導される渦電流により,コイルのインピーダンスは導体がないときと比べ変化してくる。さらに,この導体が連続的に移動しているときは,コイルのインピーダンスが速度の影響を受け,特有の変化を示す。これを速度効果と呼び,今までいくつかの研究がなされてきた1)−4)。ところで,導体が平板状の場合については,近くに配置するコイルの形状として,円形や方形が考えられる。特に,方形コイルには円形コイルにない形状による速度効果の軽減が認められ5),大変興味深い。また,配置法もコイル面が導体面に対して平行,あるいは垂直とすることができ,用途に応じてそれぞれの特長を活かせる。  さて,本論文においては,方形コイル面が移動平板導体に対して垂直な場合に注目した。この配置については,非破壊検査の渦流探傷の分野で定性的な面からその有用性が示されている6),7)。また,理論解析も試みられており,定量的な面からもその基礎特性についていくつかの報告がなされている8),9)。そして,このコイル配置の特長を活用したものとして,一様渦電流プローブが提案されており,理論と実験の両面より精力的に検討が続けられている10)。さらには,渦流探傷だけでなく,埋設金属管の探査への応用11)などもあり,磁界の方向牲を有効に取り入れる用途は広い。しかしながら,この配置法に関して,実用的なコイル形状に適用できる厳密な理論解析は未だ見当たらない。ましてや速度効果まで言及した解析は皆無と言ってよい。そこで,本論文では,移動平板導体に垂直に配置された方形コイルのコイル面が,移動方向に対してある角度だけ偏位した場合まで考慮して,コイルのインピーダンス変化に関する理論解析を行った。これにより,移動速度や移動方向がどのようにインピーダンス変化に影響するかが明確となる。さらに,コイルを作製して実験を行い,理論解析の妥当性を確認するとともに,計算により2,3の特性を示した。なお,本論文は傷がない移動平板導体を対象としているが,得られた厳密な解析解は,移動平板導体の導電率や厚さなどを測定する渦電流センサの速度効果にそのまま適用でき極めて有用である。また,傷を検出する渦流探傷の速度効果にはそのまま適用できるわけではないが,検討する際の一助となることは十分に考えられる。

 

 

原稿受付:平成14年7月12日
 宇部工業高等専門学校(宇部市常盤台)Ube National College of Technology
 徳山工業高等専門学校(周南市久米高城3538)Tokuyama College of Technology
 山口大学工学部(宇部市常盤台)Faculty of Engineering, Yamaguchi University

 

大規模並列化メタ戦略によるECT信号からの自然欠陥形状逆解析
   遊佐 訓孝/陳  振茂/宮  健三/内一 哲哉/高木 敏行

Large-scale Parallel Computation for the Reconstruction of Natural Cracks from ECT Signals
Noritaka YUSA*, Zhenmao CHEN*, Kenzo MIYA*, Tetsuya UCHIMOTO** and Toshiyuki TAKAGI**
Abstract
This paper proposes an inverse method for the reconstruction of cracks from eddy current testing signals and reports the reconstruction of natural cracks with use of the method. The natural cracks were modeled as an assembly of small regions with non-zero electric conductivity. Simulations were carried out on a supercomputer with use of up to 128 CPUs in parallel, whose results revealed that parallel computing is very effective in ECT inversion problems. The method could reconstruct profiles that agreed well with true ones within 600 seconds.
Key Words Eddy current testing, Reconstruction, Parallel computation, Metaheuristics, Supercomputer,Inverse problem



1. はじめに  渦電流探傷法(Eddy Current Testing, ECT)は表面傷に対して高感度であり,なおかつ高速な探傷を行うことの出来る非破壊検査手法であるが,それらに加え,数値解析の援用が発達しているという特徴を有している。コストや多大な労力を要する実験を行わずとも数値解析によって精度良く欠陥からの渦電流探傷信号を求めることが出来,それは例えば高性能である渦電流探傷プローブの設計などに大きな寄与を果たしている1)。また同時に,数値解析によって探傷信号から欠陥の性状を求める,いわゆるECT 逆問題解析も近年数多く行われるようになってきた2),3)。  ECT逆問題においては,これまでは勾配法に基づくものやニューラルネットワークに基づくものなどのいくつかの手法が提唱されてきており,放電加工によって製作された人工ノッチの再構成においては,かなりの成功を収めてきている。しかしながら,今後さらに現実に即したより困難な逆問題解析に対してはこれらの手法は局所解などの問題によってその適用が難しくなることが予想されており,現在ではいわゆるメタ戦略4)に基づく逆解析手法が有望であると考えられている5)。メタ戦略とは遺伝的アルゴリズムや焼きなまし法などの,多少計算時間がかかったとしてもより精度の高い解を求めるという目的を実現するために開発された最適化手法の総称であり,局所解にとらわれづらく,また問題に応じた各種制約条件の組み込みなども容易であるという特徴を有している。しかしながらその反面,いわば試行錯誤的に最適解を求めるものであるために,計算機資源という面からは勾配法に基づくものに比べ劣ったものとなることが多い。ECT逆問題においては探傷信号を求めるための電磁場解析を数多く行う必要があり,メタ戦略の適用において計算時間は大きな問題である。  計算時間の短縮に最も有効である方法の一つが計算の並列化であるが,並列計算の効率はアルゴリズムに大きく依存したものであり,問題に適した手法の採用が極めて重要である。著者らは以前の研究において各種並列化メタ戦略をECT逆問題に適用し,それらの比較検討およびECT逆問題の性質の分析を行った6)。本研究においては,そこで得られた知見に基づいてECT逆問題のための並列化タブー探索を開発し,それによる自然欠陥の再構成を行った。

 

 

原稿受付:平成14年10月15日
 普遍学国際研究所(東京都文京区根津1-4-6-801)International Institute of Universality
 東北大学流体科学研究所(仙台市青葉区片平2-1-1)Institute of Fluid Science, Tohoku University

 

異なる形状のピンホールからのガス漏洩によるAE特性
   明松 圭昭/吉田 憲一/坂巻 清司/堀川敬太郎

Characteristics of Acoustic Emission Due to Gas Leak through Several Pinholes
Yoshiaki AKEMATSU*, Kenichi YOSHIDA*, Kiyoshi SAKAMAKI** and Keitaro HORIKAWA**
Abstract
The effect of pinhole shapes on AE characteristics has been investigated. Screech tone was found at several 100kHz in straightforward pinholes. In stepwise pinholes, the screech tone became difficult to generate because of a stepwise effect. Furthermore, AE mean amplitude increased at the pressure of 0.11MPa where self-induced oscillation is believed to generate because of the stepwise effect.
Key Words Acoustic emission, Signal analysis, FFT, Gas leak, Pinhole of pipe, Screech tone



1. 緒言  現在,ガス漏洩検知技術としてX線,石鹸水および圧力計を用いた方法が使われている。X線や石鹸水を用いた方法では隠蔽部の漏洩検知を行うことは困難であり,圧力計を用いた方法では検知精度が非常に悪く問題となっている。そこで注目されているのが音響法である1)−8)。音響法は,配管を通して音を検知する方法であるので,配管の隠蔽部でも検知可能で,増幅器を用いることにより検知精度を向上させることが可能である。しかし環境ノイズおよび伝播媒体の種類により減衰率が異なるため,特に孔食による漏洩部における音響発生特性を明らかにすることが困難である。音響法を用いた研究によれば,ガス漏洩にともない発生する音は連続型で,周波数領域は数Hzから数十MHzの広い範囲にあると報告されている1)−5)。一般に環境ノイズの影響は数Hzから数十kHzの周波数領域が大きく,数十kHz以上では小さくなる。よって,数十kHzから数十MHzの AEに注目すれば,連続型のAE信号に含まれる微小な変化をとらえることにより,漏洩部の形状や圧力の影響がより詳細に解明できると考えられる。本研究では100kHzから1200kHzの周波数領域のAEにおよぼす漏洩部の形状の影響を解明するための基礎研究として,ガス配管表面にピンホールを作製し,ガス配管内の圧力およびピンホール形状を変化させることにより,擬似漏洩部から発生するAEの特性を調べた。

 

 

原稿受付:平成14年10月24日
 徳島大学大学院(徳島市南常三島町2-1)Graduate school, The University of Tokushima
 徳島大学機械工学科The Faculty of Engineering, The University of Tokushima

 

資料

高張力鋼の溶接−割れとその防止対策−
  原  則行 (株)神戸製鋼所溶接カンパニー


Welding of High Strength Steels−Cracking and Its Prevention−
Noriyuki HARA KOBE STEEL, LTD. Welding Company
キーワード 高張力鋼,高温割れ,低温割れ,割れ防止対策


1. はじめに  鋼構造物に対する高張力鋼の適用には,板厚の減少を可能として鋼材重量を軽減し得ること,あるいはより高い設計応力をとり得ることの利点があり,高張力鋼の用途は著しく拡大されてきた。国内においては,1950年代半ばに490MPa級高張力鋼が水力発電所水圧鉄管及び橋梁に,引き続き570〜780MPa級高張力鋼が多くの分野で相次いで実用化された。1990年代後半には本四連絡橋明石大橋に 780MPa級高張力鋼が大量に採用され,また,21世紀初年度には重構造物である東京電力神流川水力発電所水圧鉄管に950MPa級高張力鋼が初めて採用されたことは記憶に新しい。  上述のように高張力鋼が普及する一方で,1960年代から1970年代にかけて溶接割れ,主に低温割れの問題がクローズアップされた。溶接割れの問題とその防止技術の検討は,高張力鋼普及拡大の歴史そのものと言っても過言ではない。(社)日本溶接協会は溶接割れ感受性の改善を考慮してWES3001−19831)に各種高張力鋼のPCM上限値を設定し,(社)日本鋼構造協会からは実継手における低温割れ防止条件の選択基準2)が推奨された。鋼材については優れた溶接性とHAZ靭性を有する低PCM型高張力鋼が開発され,一方,溶接材料については溶接割れの防止のために超低水素化に関する検討が積極的にすすめられた。  このようにして溶接割れは大きく改善されてきたが,現在でも決して皆無ではなく,鋼材,溶接材料あるいは溶接施工条件の選定を誤ると大きな問題が生じる。  本報では,特に高張力鋼の溶接において,最も重大な欠陥とされる溶接割れについて,その種類,発生原因及び防止対策を概説する。

 

 

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