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機関誌

2006年度バックナンバー巻頭言6月

2006年6月1日更新

巻頭言

「ライフラインをささえる技術(その1:エネルギーライン編)」特集号の刊行にあたって 

1970年代に生じた2度にわたるオイルショックにより日本経済は大きな打撃を受け,高度経済成長の終焉とともに,省エネ対策が推進されてきた。その結 果,経済産業省資源エネルギー庁の報告によると,日本は主要先進国間で最も効率的にエネルギーを使用している国になっている。具体的にはGDP当たりの1 次エネルギー消費量は,2001年度実績で日本を1とすればアメリカが2.74であり,ドイツでも1.41である。省エネが進んでいるとはいえ,快適さ, 利便性を求めるライフスタイルなどを背景として,エネルギー消費自体は1980年代後半のバブル経済とともに徐々に伸びてきている。ここ数年間続いた不況 下においてはエネルギー消費も横這い傾向であったが,近年の好況を背景に産業界の活況および個人消費が増加していけば,今後のエネルギー消費量もさらに増 加していくことが予想されるだろう。
 エネルギーのうち各家庭や工場などへ供給路を もって配送される主体は電力とガスである。さらに,上水も電力・ガスと同様に供給路を持ち,産業活動や一般生活に必要不可欠なエネルギーラインの1つであ る。現在,これらのエネルギーについて,日本で1年間に消費される量は電力が約9500億kWh,都市ガスで約300億m3,そして上水は約160億m3 である。おそらくこの数字ではピンとこないと思われるが,よく使われる東京ドームによる換算をすると,都市ガスが約24,000杯,上水が13,000杯 である。電力は東京ドーム一杯の0℃の水を沸騰させるエネルギーとして換算すると約6,500杯と膨大な量となる。
これらの膨大なエネルギーの安定的な供給を維持することは我々の生活をささえる上での必須項目である。ひとたびエネルギーラインの設備や供給路に支障が生 じ,供給が止まると一般家庭を含め産業活動に多大な支障をきたすことはいうまでもない。さらに漏電やガス漏れは火災の原因にもなり,漏水は地中の土砂を流 し出し道路の陥没といった事態を引き起こすだけでなく,土砂混じりの高圧水は他の埋設管を浸食し破損に至らせる問題もある。とくに日本ではエネルギーライ ンを形成する設備や供給路が人工密集地域を縦断しやすい環境であり,その安全性の確保についても特に高度なものが要求される特徴がある。
  ライフラインを形成するのは電気・ガス・水道だけでなく,輸送手段としての鉄道,航空機,船舶,自動車に加え通信網など多岐に渡る。この特集ではPAR T 1として,その中の1つである電力・ガス・上水道を対象としてそれらの設備や供給路に関するメンテナンス技術に関する6件の解説記事を掲載した。いずれも わかりやすくやすく解説して頂いており,本特集号が,関心をお持ちの方々の参考となり,お役に立つことができれば幸いである。
 最後にご多忙中にもかかわらず快くご執筆くださった方々に厚く御礼申し上げます。

*特集号編集担当 藤原弘次

 

解説 ライフラインをささえる技術(その1:エネルギーライン編)

天然ガス幹線パイプライン健全性管理技術 −パイプラインのカソード防食関連健全性管理技術をベースとして−
    梶山 文夫 東京ガス(株)導管部

Management Technology of Natural Gas Transmission Pipeline Integrity – Based on Cathodic Protection – Related Integrity Management
Technologies for Pipelines – Fumio KAJIYAMA Pipeline Department, Tokyo Gas Co., Ltd.
キーワード 天然ガス,幹線,パイプライン,健全性管理,カソード防食,迷走電流,腐食,管対地電位,プローブ電流密度,交流電位勾配,漏洩磁束ピグ,オフライン検査


1. はじめに
天然ガスは,日本のエネルギー政策に欠かすことのできない21世紀の基幹エネルギーである。その天然ガスを輸送する天然ガス幹線パイプラインは,ライフラ インを支える最も重要なエネルギー供給ラインとして位置付けられる。天然ガス幹線パイプラインは,安定供給が必須であると同時に,輸送物が高圧ガスである ため,特に日本のように都市部に埋設されたパイプラインに対して高いレベルのパイプライン健全性管理が常時求められる。パイプライン健全性管理のために は,パイプラインに沿ってある間隔で地上に設置されたすべてのターミナルボックスと称するモニタリングステーションにおいて,建設段階から設計寿命までカ ソード防食基準に合格することが大前提となる。その理由は,パイプライン健全性を最も脅かす事象として,走行する直流電気鉄道車両のレール漏えい電流に起 因する直流迷走電流腐食1),高圧交流送電線や走行する交流電気鉄道車両によってパイプラインに発生する交流誘導電圧に起因する交流迷走電流腐食2)(直 流迷走電流腐食と交流迷走電流腐食の総称ないしは,いずれかを指すとき,迷走電流腐食と称する),応力腐食割れ3)等があげられるが,これらはすべて腐食 防止策であるカソード防食管理が万全であれば発生しないからである。パイプラインのカソード防食基準は,パイプ材料である鋼がメンテナンス上許容可能な腐 食速度0.01mm/y未満に抑制することを目的としたものである。ここで,mm/y(mm/年)はSI単位ではないが,実感が把握しやすいためか国際規 格でもこの単位が用いられている。なお,カソード防食については,4.2に詳述する。
 近年 のパイプラインは,塗覆装の電気抵抗が非常に高い上に,建設用地の問題から直流/交流電気鉄道輸送路,及び高圧交流送電線に並行して埋設されるケースが増 大しているので,並行区間はもとより,これら迷走電流腐食発生源からかなり遠方においても特に直流迷走電流腐食リスクがある1)。また,電気鉄道の開通, 変電所の新設・容量アップ,他のパイプライン用の外部電源方式のカソード防食施設の新設等のようにパイプラインの埋設環境は変化要素が多く,さらに塗覆装 の損傷/自然劣化による剥離,パイプラインと他の埋設金属体とのメタルタッチ等と経時的にパイプライン自体の様態が変化しうる。そこで,目的に応じた精度 を有する適切な検査の計測評価結果に基づいたメンテナンスによって,パイプライン事故が起きる前にパイプライン健全性を脅かす兆候を把握し(リスク把 握),その兆候を評価し(リスク評価),兆候の対策優先順位付けをし,レベルに応じて対策を実施すること(リスク低減)が必要である。
 本解説では,埋設されたパイプラインの腐食・防食の概説の後,著者らが行っている天然ガス幹線パイプライン健全性管理技術について,パイプラインのカソード防食関連健全性管理技術をベースとして述べる。

 

 

ガスタンク・ガス管の保守検査技術について
   早川 秀樹 大阪ガス(株)

Maintenance and Inspection Technology for Gas Storage Tanks and Gas Pipes
Hideki HAYAKAWA Osaka Gas Co., Ltd.
キーワード ガスタンク,ガス管,ロボット,超音波,カメラ,レーダ


1. はじめに
ガス管は都市ガス事業の動脈であり,供給エリア全域に網の目のように張り巡らされている。大阪ガスでは,創業以来100年間ガスを送り続け,ガス管の総延 長も現在では5万6千kmにまで及び,地球一周を超える長さとなっている。1日24時間,1年365日,休みなくガスを送り届けるという使命を果たすため に,ガスタンク・ガス管の維持管理は,都市ガス事業において重大な責務である。本稿では,このような責務を果たすために,当社で開発した代表的なガスタン ク・ガス管の保守検査技術を紹介する1)。

 

原子力発電所土木設備の維持管理システム
    柴崎 尚史 東京電力(株)   鈴木 正志 東電工業(株)

Maintenance System for Civil Facilities of a Nuclear Power Plant
Naofumi SHIBASAKI Tokyo Electric Power Company and Masasi SUZUKI Todenkogyo.Co.Lt
キーワード 土木設備,維持管理,補修計画,劣化予測,可視化


1. はじめに
原子力発電所の土木設備は復水器冷却水用の取放水路,電気ケーブルや配管を格納するダクトやトレンチ,機器基礎などに代表されるコンクリート構造物をはじ め,港湾設備,法面,道路など広範囲に及ぶ。東京電力原子力土木部門では設備点検に関するマニュアルを定め,構造物毎の点検は,年1回の普通点検,数年に 1回の精密点検を実施している。コンクリート構造物に関する点検内容は,普通点検では「ひびわれ」や「漏水」など10項目,精密点検ではコンクリートの性 状調査として「圧縮強度」や「塩化物イオン量」などの5項目により健全性の確認を実施しており,点検記録も多種多様である。構造物の状況を把握するために は,同一構造物であっても多岐にわたる点検記録を総合的に判断する必要があり,「維持管理システム」の構築を行うことで保守管理業務を効率的かつ的確に実 施することを可能とした。

 

架空送電設備の点検技術
    吉田 篤哉 中部電力(株)

Inspection Techniques of Overhead Transmission Line Equipment

Atsuya YOSHIDA CHUBU Electric Power Co.,lnc

キーワード 架空送電設備,点検技術,劣化,異常,メンテナンス



1. はじめに
 電力設備の中で送電線とは,電力を送るために,発電所相互間・変電所相互間又は発電所と変電所との間を結ぶ電線路と定義され,その施設形態により架空送電線と地中送電線に分けられる。そのうち,架空送電線とは,空中に張られた電力線により電力を輸送する送電線を言う。
  架空送電線の標準的な設備構成を図1に示す。架空送電線は,電気を送るための「電線」,雷から電線を守るための「架空地線」,電線・架空地線を支持する 「支持物」,支持物と電線とを電気的に絶縁し機械的に連結する「がいし・架線金具」,支持物から伝達される力を地盤に伝達する「基礎」で構成される。

 

電力安定供給のための運用技術
    芹澤 善積 (財)電力中央研究所

Operation Technology for Stable Power Supply
Yoshizumi SERIZAWA Central Research Institute of Electric Power Industry
キーワード 電力系統,監視制御,保護リレー,通信ネットワーク,計算機ネットワーク



1. はじめに
 電力系統は社会の重要なインフラの一つとして,電力の発生(発電所)から流通(送配電線網)および消費(需要家)に至るまで,大規模かつ複雑なネットワークシステムを構成しており,以下の特徴がある。
(1)発送電設備などの建設には長期間を要し,長期的視点 に立って大規模な投資を行う必要があるため,多方面からの情報を活用した需要予測や設備計画などが重要である。
(2)電気の消費量は常に変化し,それに応じて電力系統の 状態も変化しており,また貯蔵機能をほとんど持たないため,発電・流通設備の運用計画とともに,状態情報を時々刻々収集・処理して,電気の発生と消費のバランスを常にとる制御が必要である。
(3)系統内で発生した現象の伝達スピードが速いため,万 一,障害などが発生した場合には,それを高速に検出し,適切な制御を行う必要がある。さらに,障害を未然に防止し,設備状態の健全な維持と長寿命化を図るため,設備状態の的確な把握と解析に基づく保全が重要である。
このため,電力会社では,良質な電気を安定的かつ低コストに提供するため,電力流通設備の計画,建設,運転(運用),保全といった業務を,情報通信技術 (IT)を活用しながら進めている。本稿では,電力の安定供給に直接関わる運用技術1),2)について現状と動向を紹介する。

 

水道管路の維持管理技術の現状
    鈴木 賢一 フジテコム(株)

Current Status of Maintenance Management Technology for Water Pipe Network
Ken-ichi SUZUKI Fujitecom Co.,Ltd.
キーワード 漏水,大口径,管路,維持管理,監視



1. はじめに
 平成16年厚生労働省から水道関係者が共通の目標を持ち,互いに役割を分担しながら連携して取り組むことを目的とした「水道ビジョン」が発表された。水道ビジョンでは水道の現況と将来の見通しについて下記五つの課題とその方向性を挙げている。
1)安全な水,快適な水が供給されているか。
・水道水源をはじめとし,供給される水は安全で快適で あることを管理徹底していく。
2)いつでも使えるように供給されているか。
・非常時,災害時においても影響を最小限に抑え,常時 給水する義務を果たせる施設とする。
3)将来も変わらず安定した供給ができるようになってい  るか。
・昭和50年代をピークとして整備された水道施設は老朽 化が進み高効率かつ低コストで運用可能な施設改良を 進める。
4)水道は環境保全などの社会責任を果たしているか。
・効率性と環境・省エネルギーの視点から健全な水循環 系構築を推進する。
5)世界の中で我が国の水道はどのような役割を果たすべ  きか。
・資金を有効かつ効果的に運用可能な水道分野の国際協 力を支える国内体制の整備。
こうした中,財団法人水道技術研究センターは平成17年度より3ヶ年計画で世界初と言える産官学が一体となった「管路施設の機能診断・評価に関する研究」 プロジェクトを発足し取り組みを開始した。今回は特に「水道管路の維持管理技術の現状」として上水道管路施設の維持管理技術についてまとめる。

 

論文

多チャンネル光ファイバAEシステムの開発と音源位置標定
    長  秀雄/成瀬 孝司/松尾 卓摩/竹本 幹男

Development of Multi-Sensor Optical Fiber Acoustic Emission System and

Its Application to the Source Location

Hideo CHO*, Takashi NARUSE*, Takuma MATSUO* and Mikio TAKEMOTO*

Abstract

We developed a noble multi-sensing optical fiber acoustic emission (AE) monitoring system. The system is essentially the same as that reported previously, i.e, a phase compensation Mach-Zehnder laser homodyne interferometer; but a long sensing fiber was divided into many AE sensors with different frequency characteristics. This unique system can measure the arrival times of AEs and estimate the source location of AE. Multi-sensing was achieved by winding the sensing fiber over small cylindrical rods (sensor holders) with different diameters. Thus each optical fiber sensor can detect the AE with resonance frequency of the rod. Here, the resonance frequency of each sensor can be optionally controlled by the diameter and density of the rod. Utility of this system was demonstrated by the source location of pencil lead breaking on a steel plate and piping connected by socket and elbow. A long sensing fiber of 10 m was divided into three sensors with resonance frequencies of 83 kHz, 103 kHz and 123 kHz by using aluminum rods of 40, 30 and 20 mm diameter. AE signals were monitored by a single sensing fiber and divided into three packets using the wavelet transform. AE sources could be located within distance error of less than 7% for the Lamb wave AE through the steel plate. This system also makes the identification of the connected pipe with the AE source possible.

Key Words Optical fiber AE sensor, Mach-Zehnder interferometer, Multi-sensing function,

       Resonance frequency, Source location.



1. 緒言
  前報では,アコースティック・エミッション(AE)が計測できるフィードバック制御マッハ・ツェンダー型光ファイバ干渉計を開発し,配管のガス漏洩による AEが検出できることを報告した1)。開発システムではバンドパスフィルターを使用しているため,検出できるAEの周波数帯域が限られるという問題があっ たが,管や板を伝播する比較的低周波数の誘導波を検出することができた。
 開発システムにお ける問題であり,また特長のひとつは,センサファイバ全長が一つのAEセンサとして作動することである。特長としては,大型構造物に張り巡らした一本の ファイバは構造物全体におけるき裂の発生・進展や漏洩によるAE活性度を調べるのに用いられる。一方,実装置のAE計測では,音源位置標定を行うことが要 求されるが,現状のシステムでは,圧電型AEセンサと同じように並列に複数本のセンサファイバを設置することが必要になる。並列化では,一本のファイバで 長距離のAEが検出できる本システムのメリットが生かせない。簡単な方法を用いてセンサファイバを多くのセンサに分割することができれば,一本のファイバ を一筆書きの要領で構造物に設置し,マルチセンサに分割することにより音源位置標定が可能となる。
 ブラッグ・グレーティング(BraggGrating)を用いた一本のファイバのマルチセンサ化2)が行われているが,この場合にはあらかじめ決められた場所にグレーティング加工をすることが 必要であり,グレーティング加工は現在のところ,非常に高価である。そこで,試作した干渉計のセンサファイバを現場で容易にマルチセンサに分割する方法を 開発した。
 光ファイバを大型構造物に配置するとき,損傷が予想される場所にその場でセンサを作って設置できれば,き裂の発生・進展や漏洩による有害な損傷を見落とす ことが少なくなる。開発した方法は,あらかじめ用意した直径の異なる中実または中空円筒の円周にファイバを巻きつけてセンサとする。検出される干渉光信号 は,円筒の共振周波数を反映した複数のパケットになるため,ウェーブレット変換などを用いて各周波数に対応する波の到達時間が検出できる。現在のところ, 設置できる円筒の直径はファイバの許容引張りひずみ(0.2%)3)のため20mm以上の大きなものに限定されるが,どの円筒センサがいつAEを検出した かがわかるため,一本のセンサファイバから音源位置が標定できる。本報では開発したマルチセンサシステムおよび開発システムを用いて配管や平板の音源位置 を標定した結果を紹介する。

*原稿受付:平成17年10月3日
  青山学院大学理工学部機械創造工学科(神奈川県相模原市淵野辺5-10-1)Faculty of Science and Engineering, Aoyama Gakuin University

 

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