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機関誌

2004年度バックナンバー解説7月

2004年7月1日更新

機関誌「非破壊検査」 バックナンバー 2004年7月度

解説 固体ロケットモータ用炭素系耐熱材料の非破壊検査

固体ロケットモータの黒鉛製ノズルスロートに対する品質保証方法
   山添  智 (株)アイ・エイチ・アイ・エアロスペース

Quality Assurance Procedure of Nozzle Throats Made of Graphite for Solid Rocket Motors
Satoshi YAMAZOE IHI AeroSpace Co., LTD.
キーワード 等方性黒鉛,グラファイト,宇宙機器,非破壊検査,超音波探傷,渦流探傷



1. はじめに
 固体ロケットモータのノズルスロート用材料は,ロケットモータの中核部品であり,過酷な環境下で使用される。燃焼中に冷却ができないことから高い耐熱性 が要求され,さらに固体推進薬の高速燃焼ガスによる高圧および侵食に耐えなければならない。黒鉛(グラファイト)はこの要求に対し,3000度を超える範 囲でも固体状態を保ち,強度低下が少なく,加工性,耐熱衝撃性に優れることから,ノズルスロート用材料として最適材料として広く用いられてきた。我が国に おいても,固体ロケットの開発初期からノズルスロート用材料として用いられてきており,小型ロケットモータも含めると1000機以上の実績があり,製造現 場において十分な信頼性が確保されていると判断されていた。
 しかしM – Vロケット4号機の打ち上げ失敗の事故調査を通じ,その原因とされた第1段モータの等方性黒鉛製スロートインサートの脱落破損について,今日的な信頼性保証の観点から次の2点の基本的な問題があることが指摘された1)。
(1)黒鉛は脆性材料であり,破壊統計論に基づく製品設計
が必要であったこと。
(2)黒鉛は非破壊検査が難しい材料であることから,詳細
な非破壊検査が実施されていないこと。
 そのため,M – Vロケット第1段モータのスロートインサートは,黒鉛から強度,破壊靱性の高い3D – C/C複合材料(3次元カーボン・カーボン複合材料)に変更されることとなった。
 しかし,前述の問題を解決できれば,黒鉛はもともとノズルスロート用材料に適した材料であり,3D – C/C複合材料と比べ製造コストが大幅に安価であることから,各種小型モータには継続して黒鉛を使用していくことが望まれる。具体的には観測ロケットS – 310の主モータ,M – Vロケット各段の点火モータ,姿勢制御やロール制御用の補助モータ等である。そこで,M – Vロケット4号機の事故調査結果を受け,等方性黒鉛製スロートインサートに対し,設計見直しと非破壊検査手法の確立という両面から保証方法を開発してき た。本稿では,開発した保証方法について解説する2)。
 なお,S – 310ロケットは,高度約200kmの到達能力のある直径310mmの単段式観測ロケットである。図1にS – 310ロケットを,表1に同ロケットの仕様を,図2に同ロケットのノズルスロート形状を示す。

図1 S-310観測ロケットの概要
図1 S-310観測ロケットの概要 

 

表1 S-310観測ロケットの諸元
表1 S-310観測ロケットの諸元 

 

 

 

黒鉛素材の超音波自動探傷検査方法について
  井田 隆志 (株)ジーネス

Method of Automatic Ultrasonic Inspection of Graphite Ingots
Takashi IDA GNES Co., Ltd.
キーワード 等方性黒鉛,グラファイト,パルス反射法,一探触子法,パルス反射法,水浸法,全方位探傷



1. はじめに
 固体ロケットモータの黒鉛素材(グラファイト)製ノズルスロートインサートは,脆性材料を高負荷で使用している。その非破壊検査手法として,等方性黒鉛素材内のあらゆる方位(全方位)についてf 3mm以上の面状きずを対象とした一探触子・パルス反射・水浸法による超音波探傷法の検討及び開発を行った。この手法は宇宙研規格としてまとめた後1),それを基にNDIS規格としてまとめるに至った2)。
 等方性黒鉛材の超音波探傷は,日本原子力研究所において高温ガス炉用の炉内減速材IG – 110の炉心構成要素及び炉心構造物用として実績がある3)−5)。ここでは,直径200〜450mm,長さ670〜980mmの被検体中の軸方向及び周 方向におけるf 5mmの割れを対象に検査が行われた。近年では,航空機用のTiビレットの探傷を目的に,微小欠陥を対象とした同種の探傷の研究も行われている 6),7)。しかしながら,このような微小欠陥を対象にした全方位探傷は,国内外においてこれまでに報告されていない。
 本稿では,開発した探傷法の概要を述べる。なお,本探傷法の技術的背景については,別稿の論文を参照されたい8)。

 

 

等方性黒鉛の多軸破壊挙動と混合モード破壊靱性
   佐藤 英一 宇宙航空研究開発機構・宇宙科学研究本部

Multiaxial Fracture Statistics and Mixed Mode Fracture Toughness
of Isotropic Graphite
Eiichi SATO  Institute of Space and Astronautical Science, Japan Aerospace Exploration Agency
キーワード 破壊統計論,破壊力学,宇宙機器,黒鉛,脆性材料



1. 緒言
 多くの固体ロケットモータのノズルには,超高温の燃焼ガスに対する耐熱部材として,黒鉛(グラファイト)製のスロートインサートと呼ばれる部材が使われ ている。巻頭言にも述べたように,我が国のロケット開発の比較的初期からの実績により黒鉛製スロートインサートの信頼性は極めて高いものと考えられてきた が,M – Vロケット4号機の打ち上げ失敗によりその設計が再検討され1),破壊統計論(ワイブル統計)に基づく再設計が行われた。
 黒鉛やセラミックスのような脆性材料には製造段階ですでに多くの微小な欠陥が内在しており,この微小欠陥の最大のものからき裂が伝播して破壊が起こる (最弱リンクモデル)。したがってある部材の強度は,その部材に含まれる欠陥の最大値の分布を反映した極値分布に従い,この極値分布関数として一般にワイ ブル統計が用いられている(破壊統計論)2)。また,実際に使われる上で部材にかかる応力が純粋な単軸引張であることは殆んどない。特に耐熱部材として使 用される場合には,負荷は熱応力が主となり,圧縮成分を含む多軸応力状態が重要となる。
 破壊統計論によると,脆性材料は,通常の金属材料におけるせん断ひずみエネルギー説あるいは最大せん断応力説による降伏条件とは異なり,
(1)圧縮強度に対し引張強度が極端に小さい
(2)引張強度は部材の体積が大きいほど小さくなる(部
材内に存在する最大欠陥が大きくなるから)
(3)単軸引張強度に対し,圧縮成分の存在する多軸応力
場での引張強度は小さい(モードII破壊が起こるようになるから)
という性質をもっている。設計上,特に(2),(3)は重要である。
 本稿では等方性黒鉛を対象として,まず,多軸破壊統計論3),4)に基づく部材の破壊確率評価法を解説し,次に,二軸材料試験による多軸破壊統計論の実 験的検証を述べる。破壊統計論の中では混合モード破壊クライテリアを使用しているので,次に,混合モード破壊靱性試験による混合モード破壊クライテリアの 評価について述べる。かつて黒鉛に関して経験的な多軸破壊則が提案されたこともあった5),6)が,本研究により破壊統計論と破壊力学に基づいた明快な多 軸破壊則が得られ,さらにそれが実部品設計に適用されている。

 

 

黒鉛素材の全方位探傷用電子走査式アレイ型超音波探傷システムの開発
    拵 美津男/北見  薫 日立エンジニアリング(株)


Development of Phased Array Inspection System for Graphite Ingots in All Directions
Mitsuo KOSHIRAE and Kaoru KITAMI Hitachi Engineering Co., Ltd.
キーワード 超音波,フェーズドアレイ,黒鉛,グラファイト,電子スキャン



1. はじめに
 M – Vロケット4号機の打上げ失敗は,原因究明の結果,モータノズルに使用されている等方性黒鉛(グラファイト)製スロートインサートの表面もしくは,内部に 存在したき裂が原因とされた。この対策として,大型のモータノズルについては,3D – C/C複合材への材料変更を実施することとし,観測ロケット等の小型モータノズルについては,黒鉛材を継続使用とし,非破壊検査による保証を実施すること となった。黒鉛材の表面きずに対しては渦流探傷検査,内部きずに対しては,超音波探傷検査を適用することとなった1)。
 超音波探傷検査については,現在まで,一探触子法による水浸超音波探傷検査がS – 310ロケット等の実機の品質保証に適用され,成功裏にフライトを行った2)。しかしながら,この検査には多大な時間と検査員に長期の検査作業,解析作業 を強いることとなり,改善が望まれていた。
 上記を受け,検査の自動化,探傷時間の大幅な短縮化,探傷結果の解析機能の向上を目指し,新システムを開発することとなった。このシステムはフェーズド アレイ法と呼ばれる技術3),4)を適用したもので,当初の目的とするシステムを完成することが出来たので5)その概要を述べる。

 

大型3次元カーボン・カーボン複合材のインモーションラジオグラフィ
   佐藤 明良 (株)アイ・エイチ・アイ・エアロスペース

In-motion Radiography of Large 3D-C/C Composite
Akiyoshi SATO IHI AeroSpace Co., LTD.
キーワード 非破壊検査,X線透過検査,インモーションラジオグラフィ,密度計測,C/C複合材



1. はじめに
 M – Vロケット4号機失敗の改善策として,1段モータのスロートは,グラファイトから3D – C/C複合材(3次元カーボン・カーボン複合材)に変更された。M – Vロケットでは,対策前から衛星軌道投入用モータや2段モータのスロートには3D – C/C複合材が使われていたが1),対策の水平展開として他のモータについても同様に3D – C/C複合材に変更された。
 C/C複合材は炭素繊維と炭素マトリクスから構成される耐熱複合材であり,炭素繊維の織り方の種類により,1次元,2次元及び3次元などの繊維配向に分 類され,その用途により使い分けられる。1D – C/C複合材(1次元カーボン・カーボン複合材)は,高温用ホットプレスなどに,また2D – C/C複合材(2次元カーボン・カーボン複合材)は高速車両のブレーキディスクや大気圏に再突入するスペースシャトルの熱防御構造に用いられている。C /C複合材は破壊靭性値が高く,グラファイトのように破壊確率を考慮する必要がないため大型のスロートに適用するのが有利である。しかし,1段モータのス ロートの3D – C/C複合材は世界最大級となるため,従来の製造技術及び検査技術を大幅に見直す必要があった。特に,3D – C/C複合材内部の密度計測を行う手法として,新たにX線によるインモーションラジオグラフィを適用するようになった。
 この手法により3D – C/C複合材の密度を計測できるようになり,これをはじめて適用した3D – C/C複合材スロートを組み込んだM – Vロケット5号機は,2003年5月9日に打ち上げに成功し,科学衛星MUSES – C(はやぶさ)を軌道に投入することができた。以下では,このインモーションラジオグラフィの適用の現状と課題を紹介する。

 

 

論文

FBGセンサのLamb波伝搬に対する応答とアクティブセンシングへの応用
   津田  浩/高坪 純治/遠山 暢之/卜部  啓


Response of FBG Sensors to Lamb Wave Propagation and
its Application to Active Sensing
Hiroshi TSUDA*, Junji TAKATSUBO*, Nobuyuki TOYAMA* and Kei URABE*
Abstract

An ultrasonic sensing system using fiber Bragg gratings (FBGs) was constructed. The system utilizes wavelength-optical intensity modulation technique and includes a broadband light source, FBGs for sensing and filtering, as well as a photodetector. Feasibility of active sensing by the system was examined. Ultrasonic Lamb wave generated by an ultrasonic transducer was propagated in a cross-ply CFRP with impact damage. Response of FBG sensor to Lamb wave propagated through a damaged area was compared with the reference response in an intact area. In this experiment, the ultrasonic transducer was driven by four kinds of signals to determine the optimal transducer drive signal for impact damage detection. Response to Lamb wave propagated through the damaged area had narrower frequency bandwidth and lower frequency characteristics than response in the intact area. A spike pulse proved to be optimal for the transducer drive signal in active sensing. The experiments demonstrated that the FBG ultrasonic sensing system was effective to detect impact damage of CFRP.
Key Words Fiber-optic sensors, Ultrasonic wave, Health monitoring, Non-destructive test, Composites



1. 緒言
 繊維強化複合材料は比強度,比剛性が高いことから航空・宇宙構造物への適用が拡大している。しかし衝撃荷重を受けると層間はく離が発生し,圧縮強度が極 めて低下する欠点がある。このため繊維強化複合材料の実用化においては衝撃損傷の検知が非常に重要になる。近年,スマート構造体と呼ばれる健全性評価機能 を有する構造体が注目されており,繊維強化複合材料へのスマート技術の適用が盛んに研究されている1),2)。
 超音波を利用した構造体の健全性評価法はパッシブセンシングとアクティブセンシングの二種に大別できる。パッシブセンシングは材料の破壊に伴い発生する 弾性波放出をセンサで検出する従来の健全性評価法である。一方,アクティブセンシングは超音波探触子と検出用センサから構成され,超音波検出信号の特徴か ら健全性を評価する手法である。具体的には被検体に探触子を用いて超音波を伝搬させ,それをセンサで検出する。材料に存在する損傷は超音波伝搬特性に影響 を与えることから検出波形を損傷のない場合の検出波形と比較することにより,損傷の有無を評価することができる。これまでにChangらは複合材料に超音 波探触子とセンサを埋め込み,アクティブセンシングによる材料の健全性評価を行い,スマート構造体の健全性評価技術の有効性を実証した3)−5)。
 光ファイバセンサは軽量,小型で電磁波障害を受けないことからスマート構造体のセンサとして期待されている。同センサを用いた構造体健全性評価の研究は 1980年代後半から始まり,構造体内部に埋め込んだ光ファイバの破断,また曲げによる光透過量の減少から健全性を評価するシステムを発端とした。これら のシステムは非常に簡便であったが,損傷検出感度が低い問題があった6),7)。FBG(ファイバ・ブラッグ・グレーティング)はひずみや温度に比例して 反射光波長が変化することが知られており,スマート構造体の有望なセンサとして期待されている。当初は反射光波長測定のための計測器やセンサ自体が高価で あるため,実用的ではなかった。しかし近年,光通信産業の発展に伴い光計測器やセンサの低価格化が進み,実用化へ近づいてきた感がある。FBGは多重化が 可能なことなどから,アクティブセンシングの超音波検出センサとして用いることが出来れば実用上の観点から非常に有効である。FBGによる超音波検出に関 してはこれまで検出例が報告されたのみで8)−10),著者の知る限り損傷検知に応用された報告はない。本研究ではFBGをアクティブセンシングの超音波 検出用センサとして用い,CFRPの衝撃損傷検知を試みた。超音波探触子から発生させた超音波が損傷部を通過したときと健全部のみを通過したときのFBG センサ応答を比較し,損傷の存在が応答波形に及ぼす影響を評価した。また超音波探触子を4種類の信号で駆動させ,損傷検知に最適な探触子駆動信号を求め た。

原稿受付:平成15年8月19日
 産業技術総合研究所 計測フロンティア研究部門(つくば市梅園1-1-1)Research Institute of Instrumentation Frontier National Institute of Advanced Industrial Science & Technology

 

鋼板の反発を利用した厚さ測定法の検討(第2報) −インパルスハンマによる方法−
   島田 道男/吉井 徳治/成瀬  健

Thickness Measuring Technique Based on Repulsion Behavior
of Steel Plates (second report) – Impulse Hammer Method – Michio SHIMADA*, Tokuharu YOSHII* and Takeshi NARUSE*
Abstract
Impulse hammer measurements on steel plates were carried out to clarify the potential of a new technique of thickness estimation using a hammering test during a hull inspection. Load signals of an impulse hammer with a impact speed control jig were recorded with a digital oscilloscope and a personal computer. We investigated relationships between characteristic values (impact, peak load, half value width, min-max ratio – the absolute ratio of minimum value to maximum value of differential load signal) of the load signals and thickness. We obtained 4th order polynomial expressions which transform characteristic values to thickness, and examined their effectiveness using 35 load signals picked up on 1m x 1m steel plates of different thickness. The thickness estimation with the impact value was proved to have the smallest estimation error among 4 characteristic values. We also examined the effect of slit, fillet weld, impact speed, hammer weight, paint layer and surface roughness caused by corrosion to our thickness estimation technique and found the extent of the effective estimation.
Key Words Integrity Evaluation, Impact, Thickness Measurement, Steel Plate, Hull Inspection, Impulse Hammer



1. 緒言
 船舶は海洋環境で運用するため,船殻部材が経年的に腐食衰耗し,船体の構造健全性が徐々に低下する。定期的な船舶検査による腐食衰耗の把握と適切な修繕 の実施により船体の構造健全性を確保している。しかしながら,経年的な船体劣化を原因とする海難事故が依然として発生している。そのため,船舶検査の適用 方法と船舶検査技術の両面からの対策が重要になっている。
 船体の腐食衰耗は,現在専ら超音波厚さ計によって行われている。超音波厚さ計の適用にあたっては,部材の腐食生成物の除去と腐食凹凸面の平滑化が必要で あり,また,船体が巨大複雑構造で測定点数も多いため,時間と費用がかかる検査となっている。船体の維持管理は船主の責任であるため,船社経営面からは検 査コストの節約が大きな課題である。
 これらの課題に対処するため,腐食凹凸面の平滑化を省略した超音波厚さ測定方法の検討1)を行ったが,腐食凹凸面から測定すると,実際より大きな厚さ測 定値となるため,実際の船舶検査で使用されていない。また,遅延材付き探触子で測定誤差低減を検討2),3)したが,十分な信頼性を確保するに至っていな い。その他,腐食部材の超音波厚さ測定に関して孔食部の超音波厚さ測定4),コーティング上からの腐食部材厚さ測定5)などの研究が行われたが,腐食凹凸 面における厚さ過大評価を解決するものでは無く,船舶検査の厚さ測定の合理化に利用された例はない。
 一方,船舶検査では,骨位置や大まかな厚さの判断に船体を叩いた時の音や反発が利用されている。ハンマリングの主目的は錆落としであるが簡便な手段であ るので,ハンマリングから厚さに関する定量的情報が得られれば利用価値が高い。第1報6)ではこの点に着目し,鋼球落下とシュミットハンマで厚さ推定可能 であることを示した。今回,ハンマリングの反発を定量化できるインパルスハンマを用い,測定した荷重波形から厚さを求める方法とその誤差を解明した。ま た,測定に関係する諸パラメータ(衝突速度や切欠きの存在等)の影響を調べ,厚さ測定方法としての有効性を示した。

 

原稿受付:平成16年1月31日
 海上技術安全研究所(東京都三鷹市新川6-38-1)輸送高度化研究領域

 

衝撃弾性波形の逐次的特徴抽出による鋼管検査
   鳥越 一平/森  和也/岩本 達也

Waveform Based Impact Test of Steel Pipes Using Successive Feature Extraction
Ippei TORIGOE*, Kazuya MORI*and Tatsuya IWAMOTO*
Abstract
A non-destructive method is described which tests steel pipes on the basis of the waveform of vibration induced by an impact. An elastic wave generated within a pipe wall by an impact propagates along the pipe, and is reflected at a point where the acoustic impedance of the pipe wall changes. The waveform of particle velocity of the pipe wall thus gives information about the acoustic impedance distribution along the pipe. Since the acoustic impedance changes at a flaw, we can test a pipe from the waveform of elastic wave which is generated by an impact and propagates through the pipe. A simulation test was performed; the aim was to study the classification ability of multi-variable analysis based on the waveform. An impactor employing a piezoelectric actuator was put on one end of a pipe to generate elastic waves. At the other end, the radial component of particle velocity of the pipe wall was picked up by a LASER velocimeter. The output signal was analyzed by a successive feature extraction technique and was given a flaw class membership. The results of the simulation test show that the method described may be a useful complement in the field of non-destructive testing and evaluation.



1. はじめに
 管に衝撃を加えた際に管壁中に発生する弾性波の波形から,管壁上の欠陥を検出する試みについて報告する。
 棒や管は,多くの設備の構造材として,あるいは流体輸送設備の構成要素などとして膨大な量が利用されている。例えば,我が国の高圧送電鉄塔は,多数の鋼 管を組んで建設されている。鋼管表面には防錆のための塗装が施されるが,年月とともに一部の鋼管が腐食することを免れ得ない。腐食が進行して大きな穴が開 いた鋼管だけでなく,外見は健全に見えるが,内部から腐食が進行して実際には構造材としての強度を失った鋼管が多数見つかっている。このため,ファイバー スコープを用いた鋼管内部の目視検査や超音波を用いた肉厚検査などによる保守点検が行われている。しかし,これらの検査は基本的に「点」の検査であるた め,管全長にわたる走査作業を要し,極めて効率が悪い。その上,点検はしばしば高所での危険な作業となる。
 鋼管にき裂や腐食などがあると,その部分の音響インピーダンスが変化する。管を伝播してきた弾性波動は,インピーダンスの不連続点においてモード変換や 反射を生じる。弾性波はまた管端で反射するから,管壁上のある点における弾性波には,管上のすべての点の情報が含まれている1)。つまり,鋼管に同一の衝 撃を加えて,励起される弾性波を管壁上のどこか一点で観察すれば,健全な管と欠陥のある管で,波形に何らかの違いが現れる筈である。

 

原稿受付:平成15年6月18日
 熊本大学工学部(熊本県熊本市黒髪2-39-1)Faulty of Engineering, Kumamoto University

 

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