新年明けましておめでとうございます。多くの会員の皆様にはよい新年をお迎えのこととお慶び申し上げます。
昨年も尼崎の列車脱線事故はじめ,海外のハリケーン・カトリーナによる大洪水やパキスタン大地震など多くの犠牲者を出す大惨事が次々と起こりました。これらの被害に遭われた方々にお見舞い申し上げますと共に一時も速い復興をお祈り申し上げます。
昨年度の巻頭言もほぼ同様の書き出しだった記憶がありますが,温暖化のせいか地球が狂ったかのごとく次々と大災害が起こりました。天災は致し方ないにし ても,少なくとも人災で生命が脅かされるような脆弱で危険な構造物は今後造らず,既に造られた老朽化して行く構造物を非破壊検査の力で保守管理し,補強し て行くのが我々の務めでしょう。今後益々非破壊検査技術者の役割が大きくなっていくと思われます。
今年度は原子炉の検査に関して,当協会が中心になって関係諸団体と連携してPD(パフォーマンスデモンストレーション)認証制度を立ち上げることが出来 ました。後は運用の整備を進め,今年度中に第一号のPD認証者が誕生するのを待つばかりです。このPD認証制度では,構造物の欠陥検出はもとより検出が難 しい上に進展性の危険が大きいSCC(応力腐食割れ)の高さ寸法をも正しく測定・評価することを求めており,今後の非破壊検査のあり方を変えていく重要な 制度です。これに関係するより高度な検査技術を発展させると共に,それらの高度技術を習得した検査技術者が増えていくことが望まれます。
JIS Z 2305「非破壊試験−技術者の資格及び認証」に基づく認証制度への移行も皆様のご理解とご協力の賜で,順調に推移し,今年度春までに22,000余人が 移行されました。特に新規受験者が14,000余人と前年度比較で20%余り増えたことは非常に喜ばしい限りです。
今年度の新しい成果として,皆様にお約束しました全国支部化への動きが順調で,従来からあった中部支部・関西支部の正式な支部化をはじめ東北支部と九州 支部が新たに誕生致しました。これから全国支部化を進め,支部を起点に協会の活性化を進め,全会員へ一層のサービスを提供できるよう務めて参ります。
国際化では,当協会はJIS Z 2305をベースとして,イギリスのBINDT(英国非破壊試験協会)とPED(欧州圧力機器指令97/23/EC)承認を取得する制度を,一方米国の ASNT(米国非破壊試験協会)とはACCP(ASNT中央認証プログラム)を取得できる制度を交渉しておりました。今回ASNTの秋季大会中に両協会と それぞれ打ち合わせを行う機会をもち,どちらも交渉にかなりの進展がみられ,国際化の大きな一歩となりました。また,6月にハワイ・マウイ島で開催された 第3回日米シンポジウム,10月にはオハイオ州コロンバス市で開催されたASNT秋季大会のアワード・バンケットに招待されて出席し日米の協力関係をさら に強めることができました。
当協会をより開かれた協会にすべく,会員制度と分科会制度を見直し,個人会員の活動の場を広げ,個人の資格でも参加できる分科会など,学術・技術の情報 交換をより自由に行える場を提供できるよう改革して行きますので,会員の皆様のご協力を切にお願い申し上げます。
終わりに,会員の皆様の益々のご発展を祈念致しまして新年の挨拶とさせて頂きます。
* (社)日本非破壊検査協会 会長 和歌山大学 システム工学部 教授 (640-8510 和歌山市栄谷930)
1999年に発生したトンネル覆工コンクリートの剥落事故以後も,アルカリ骨材反応による鉄筋破断,生コンの加水問題,除雪が不十分なままコンクリートを打ち込むなど,コンクリート構造物の信頼性を揺るがす問題が相次いでいます。
このような状況に対して,国土交通省(国交省),旧日本道路公団(JH),日本旅客鉄道(JR)などでは管理・検査態勢を強化し,一部には非破壊試験に よる検査が取り入れられるようになってきています。JR西日本ではコンクリート構造物の非破壊検査の実施が義務づけられており,「品質管理マニュア ル」(2001年6月)により,加熱乾燥方式または静電容量方式による単位水量,シュミットハンマー法による圧縮強度,測定精度等が検証された信頼できる 方法によりかぶりを検測することになっています。
旧JHでも「コンクリート施工管理要領」(2004年4月)によりテストハンマーを用いたコンクリート強度の確認,電磁誘導法,電磁波レーダ法により鉄筋かぶりを確認することになっています。
国交省の動きを詳しく見てみますと,トンネル覆工コンクリートの剥落事故を受け,99年8月30日に建設省,運輸省(両省とも当時の名称,2001年統 合され国土交通省),農林水産省は,新設構造物の耐久性向上,既存のコンクリート構造物の性能維持を目的に「土木コンクリート構造物耐久性検討委員 会」(以下,委員会)を設置しました。委員会では,コンクリートの製造・施工プロセス,既存コンクリート構造物の状態および維持管理について現状分析,今 後の建設および維持管理のあり方について検討が行われ,2000年3月28日に「土木コンクリート構造物耐久性検討委員会の提言について」(以下,提言) が出されました1)。提言の中から非破壊試験による管理・検査に関する部分を拾い出し,それに伴う国交省の対応,関連する(社)日本非破壊検査協会の動き として,規格の制定・改訂状況,「非破壊検査」誌に最近取り上げられた項目,そして本特集で取り上げた項目をまとめますと表1のようになります。
First Step in the Diagnosis of Concrete Structures : Visual Test
Yoshio KASAI Nihon University and Koichi KOBAYASHI Japan Cement Association
キーワード 目視試験,コンクリート構造物,初期不良,ひび割れ,表面劣化,漏水,変形,仕上材劣化
1. はじめに
コンクリート構造物は,住宅・社会資本の形成を担う主要な構成要素である。しかしながら,近年,塩害やアルカリ骨材反応,コンクリートの剥落事故など信 頼性を損なう事例が発生しており,これまでにもまして適切な建設・維持・管理が求められている。特に,高度成長期に多量に建設されたコンクリート構造物が 補修・補強,解体の時期を迎えるにあたり,コンクリート構造物の迅速な調査・診断技術が求められている。新設構造物については,設計どおりの性能が確保さ れているかどうかを早期(出来れば竣工時に)確認する技術が求められている。
コンクリート構造物の診断において,劣化・損傷の評価を行う場合,まずやらなければならないことは書類や資料による事前調査と目視試験である。目視試験 はコンクリート表面に顕在化した損傷の状況やコンクリート構造物全体の変形状況,構造物周辺の環境状況などを目視観察や簡単な器具類を用いて把握するもの である。
既に日本非破壊検査協会は,1993年にNDIS 3418「コンクリート構造物の目視試験方法」を制定し,目視試験の重要性を示してきた。その後,10年余りが経過した。2001年度より,日本コンクリート工学協会は “コンクリート診断士”制度を発足させた。コンクリート構造物の診断において,劣化・損傷の評価試験方法として目視試験は特に重要な役割を担うものとなってきた。
この度,本協会 標準化委員会 目視専門別委員会の要請により,“NDIS 3418コンクリート構造物の目視試験方法”原案作成委員会(委員長:笠井芳夫 日本大学名誉教授)を設け改正することとなり,およそ2年間をかけてこの度作業が終了した。ここで,この概要を紹介したい。
Quality Control of Concrete in Structures by Using BOSS Specimen
−Application on Compressive Strength , Carbonation Depth and
Chloride Ion Content Test−
Hideyuki HAKAMAYA, Tohru SHINOZAKI and Katsumi TSUCHIDA Toda Corporation
Kazumasa MORIHAMA Public Works Research Institute
キーワード ボス供試体,ボス型枠,コア供試体,構造体コンクリート,
品質管理,圧縮強度,中性化,塩化物イオン量
1. はじめに
構造体コンクリートの強度を判定する方法として,コア供試体による方法が一般的に用いられている。しかし,コア供試体の採取は構造体の損傷や配筋の切断 などによって構造体性能に支障をきたす恐れがあるため,その採取位置や採取本数が限定される。また,コア供試体採取後の補修状態によっては,その後の構造 体の耐久性を低下させる恐れがあるなど,いくつかの問題を抱えている。そこで,これらの問題を解消する目的で研究開発したボス供試体による強度推定方法と 耐久性のモニタリング方法について紹介する。
ボス供試体とは,構造体コンクリートと同時に成形してできた直方形の供試体を割り取ったものを称し,ボス(BOSS)はBroken Off Specimens by Splittingを意味する。ボス供試体は,コンクリート打設前に構造体コンクリートの型枠にボス型枠(図1参照)を取り付けておき,構造体のコンク リートが打設されると同時にボス型枠にもコンクリートが充てんされ,直方形の供試体が成形される(図2参照)。このためボス供試体は,構造体コンクリート の性能に損傷を与えることなく供試体の成形と採取ができ,さらに試験方法の迅速性や簡便性,採取後の補修などの問題を解消したものである。
Measurement of Cover of Rebar in Concrete by Electromagnetic Wave
Satoshi MAEKAWA OYO corporation, Kazumasa MORIHAMA
Public Works Research Institute and Tsugio SATO HILTI(JAPAN), LTD.
キーワード 電磁波レーダ,電磁誘導,かぶり厚さ,比誘電率,含水率,鉄筋間隔,鉄筋径
1. はじめに
鉄筋コンクリート構造物にとって鉄筋のかぶり厚さ確保は,コンクリートの品質と合わせて耐久性確保のために最も重要である。
かぶり厚さは,コンクリート表面から鉄筋までの最短距離であり,鉄筋腐食を抑制するために設計かぶり厚さを確保しなければならない。これまでは,コンク リート打込み前にかぶり厚さを確認するのみであったが,コンクリートを打ち込むと鉄筋が移動すること,かぶり厚さ測定装置および測定方法が改善されてきた ことから,各機関では巻頭言のとおりコンクリート打込み後にかぶり厚さも検査されるようになってきた。
かぶり厚さの測定方法には,?レーダ法,?電磁誘導法,?放射線(X線)法,?超音波法の4方法があるが,?は適用範囲や危険性の問題があり,?は鉄筋 位置を?,?などで探査する必要があること,かぶり厚さの測定も難しく,長時間を要するなどの問題があり,一般的に使用できるのは?,?である。
しかし,?,?の方法ともに測定精度などの問題があったことから,精度向上のための取り組みについて検討した結果を報告する。その内容は次のとおりである。
レーダ法によってかぶり厚さを求めるには,電磁波の鉄筋までの往復伝搬時間と,コンクリート内を伝搬する電磁波速度を測定する必要がある。往復伝搬時間 はレーダ装置によって求められる。しかし,コンクリート内の電磁波速度は含水率などの影響を受けるため,かぶり厚さ測定時に随時求める必要があり,非破壊 によって比誘電率を求める方法について検討した2つの方法を報告する。
電磁誘導法については,鉄筋径,鉄筋間隔の影響を受けることから,鉄筋径を考慮してかぶり厚さと鉄筋径を同時に求めるとともに,近接している鉄筋を分離する方法について検討した結果を報告する。
原稿受付:平成17年1月24日
関西大学 工学部(大阪府吹田市山手町3-3-35)Engineering Department of KANSAI University
関西大学 大学院(大阪府吹田市山手町3-3-35)Graduate School of KANSAI University
三協精器工業(株)(大阪府大阪市東淀川区上新庄3-19-75)Sankyo Seiki Industry Co., Ltd.
Evaluation of Durability of Concrete by Elastic Wave Method
Satoshi IWANO RIK. Co. Ltd. and Kazumasa MORIHAMA Public Works Research Institute
キーワード 衝撃弾性波,接触時間,超音波,音速分布,中性化,塩化物イオン,拡散,内部欠陥,ひび割れ
1. はじめに
弾性波は,コンクリートの非破壊試験にとっても非常に有用な方法であり,筆者らは既に超音波法,衝撃弾性波法によるコンクリート強度,部材厚さの推定, 内部欠陥の検出などについて報告している1),2)。衝撃弾性波法,超音波法によるその後の研究成果を報告するが,今回,特に強調したいのは,非破壊試験 によってコンクリート表層の耐久性に関わる評価について検討したことである。
鉄筋コンクリート構造物の耐久性については,鉄筋の腐食に対する評価が最も重要であり,現状では,炭酸ガスの拡散による中性化,塩化物イオンの拡散の評 価が重点的に行われているが,その方法はコアを採取して塩化物イオンの拡散係数を求めたり3),ドリル法によって透気係数,透水係数を求める4),5)な ど局部破壊を伴うものばかりである。コンクリートの品質は表面から内部に向かって連続的に変化していると考えられるが,破壊を伴う評価方法は,ある程度の 深さの平均的な評価しかできない,損傷の程度をできるだけ小さくする努力が行われているが,そうするとばらつきが大きくなる,部分的とはいえ破壊を伴うこ とから同じ位置では二度と試験を行うことができない,などの問題がある。
このように,局部破壊試験を行なったからといって必ずしも十分な耐久性評価が行われるとは限らない。非破壊試験であれば,破壊を伴わない,連続的な評価 を行うことができる可能性がある,同じ位置で繰返し試験することができるため経時変化を確認することができるなど,局部破壊試験の問題点を解消することが でき,維持管理にも有効な手段になりうるものと考えられる。
本文では,衝撃弾性波法の鋼球接触時間の測定によるコンクリート表層の品質とそのバラツキを把握することにより,新設構造物では中性化しやすい箇所,既 設構造物では中性化が進行していると予測される箇所の推定,ひび割れ進行箇所での内部欠陥結果について検討した結果を,超音波法による中性化速度,塩化物 イオン浸透速度の予測について報告する。
Strength around Center Hole of Turning Workpiece Containing Inclusion
Tetsuo NOGUCHI* and Tsutomu EZUMI**
Abstract
There are many points that call on a worker’s experience in lathe work. This is true in the contents of the center hole. Accidental destruction of the center hole causes a great problem. This paper describes the safety standard concerning the center hole, involving analysis of stress in the hole by experiment and calculation. A photoelastic method and a finite element method of analysis were used in this study. Although much research has used theoretical analysis, research examples of inclusions through experimental analysis are very few. This study used a two-dimensional test specimen model of the center hole, polycarbonate and three different materials -epoxy resin, PMMA and polyethylene- that were used as elliptic inclusions. A load was given to the model by an indenter,which located any destruction of the center hole that was in process, and an artificial crack was inserted into the model at the position thought to be the dangerous section. As a result of this experiment, experimental equations relating to the equivalent tress were obtained.
Key Words Experimental Stress Analysis, Stress-Strain,Measurement,Optical Method, Photoelasticity
1. 緒言
近年において製造工程におけるCAD,CAM,自動プログラミング装置による自動加工条件決定等により,工程設計における自動化が見られる。しかし作業 者が持つ経験に依存する部分は多く,経験がおよばない領域における事故が予測される。旋盤加工におけるセンタ穴周辺形状は作業者の経験により決定される。 センタ穴が破壊されることにより工作物が飛散する。飛散した工作物は高い運動エネルギを有し,作業者を直撃する可能性が高い。異常に高いセンタ推力はセン タ穴を破壊させるが,異常に低いセンタ推力はセンタとセンタ穴接触面に隙間を生じ,加工精度,安全性に影響を与える。作業者は経験に基づいてセンタ推力を 決定しており,検討の余地が認められる。過去において著者らは介在物を有しないセンタ穴近傍に関する力学的挙動について報告した1)。最大応力はセンタ穴 接触面に発生する円周方向応力であり,最大応力計算式を求め,破壊過程を明らかにした。
今日においてエコ・デザイン2)推進における一環としてリサイクルによる再生材料が多く使用される傾向にある。再生材料は介在物3)を含有する可能性が 高い。再生材料に対する加工において介在物周辺の母材に高い応力が発生する。介在物は工作物を破壊に至らせる原因となる。介在物の形状,性質等は様々であ る。過去における介在物に関する報告として体積力法による研究4),5),有限要素法による研究6)が見られる。しかし光弾性法による研究7)等は少な く,介在物に関する実験的検討が不足していると思われる。介在物の形状に関して円形8),9),傾斜を有しないだ円形10),11),六角形12)等が見 られる。著者らは介在物における様々な形状を近似する仮想介在物モデルとして,傾斜を有するだ円形介在物モデル13)を採用した。
本研究は次の3項目によりセンタ穴周辺におけるだ円形介在物による影響を調べ,問題となる介在物を有する可能性が高い材料におけるセンタ穴周辺の安全性 評価基準を確立することを目的とする。2次元光弾性実験と3次元有限要素解析を行って,介在物がセンタ穴近傍の応力分布に及ぼす影響を調べた。また,セン タドリル刃先の肩部に相当する箇所にき裂が存在する場合について,き裂が応力分布に及ぼす影響も調べた。
原稿受付:平成17年3月29日
芝浦工業大学大学院(東京都港区芝浦3-9-14)Graduate School in Shibaura Institute of Technology
芝浦工業大学工学部(東京都港区芝浦3-9-14)Dept. of Mech. Eng., Shibaura Institute of Technology