logo

<<2015>>

  • 1月2月3月4月5月6月7月8月9月10月11月12月
  •  
  • 予定はありません。

機関誌

2005年度バックナンバー巻頭言12月

2005年12月1日更新

巻頭言

「安全を支える技術 ―欠陥評価,非破壊検査,維持基準―」特集号刊行にあたって  寺田 博之

 運用中の構造物の損傷や破壊による事故は設計・製造・検査に携わる技術屋としてなんとしても避けなければならない。その立場から,設計上最も過酷な状況 に立たされている分野の一つに航空宇宙構造があり,過去の様々な事故の経験と教訓に学び耐損傷設計法が最も進歩した分野となっている。
 耐損傷設計の概念は歴史的に,寿命安全率を考慮した安全寿命設計,構造の一部が破損しても直ちに全体の機能を損なうことのないように構造の冗長系を備え たフェールセーフ設計,さらにフェールセーフ性を機軸に据えたうえで非破壊検査法の検出限界などから製造時の初期欠陥を規定し,かつある程度の偶発的な荷 重負荷を想定した損傷許容設計へと発展してきた。
 損傷許容設計の概念は運用中のき裂状損傷が発生・進展することはやむを得ないこととし,それが最終的に不安定破壊を起こすような寸法(限界き裂寸法)に 達する以前に何回かの点検整備を行うことによって確実に捕捉し必要な補修・交換等を行うことが基本となっている。すなわち構造の安全性は,定期整備の過程 でき裂状欠陥を非破壊検査技術によって確実に検出することで保たれることとなっている。このため,例えば胴体構造などでは欠陥の見落としによる事故を防ぐ ために,限界き裂寸法は2ベイき裂(2つのフレーム間隔;約1m)となるように配慮されたり,構造内部に発生したき裂であっても限界寸法に至る前に外部に 表面化するように工夫がなされている。
 最近では我が国の原子力プラントの分野でも欠陥の成長過程のモニタリングや限界欠陥寸法を考慮した損傷許容の概念に基づいた技術基準の改正が2年前に行 われたことは記憶に新しいところである。これまでの我が国の原子力プラントの設計は,損傷の存在・発生などの現実は認識されていても安全寿命の概念から脱 却できず欧米諸国とのギャップが大きかったところであるが漸く同じ土俵に乗った感がある。
 このように損傷を含む構造物の余寿命評価を含め非破壊検査の持つ役割と責任が今後ますます増大していくことは事実である。
 一方,損傷許容設計概念の直接的な適用に障害となる以下のようないくつかの問題がある。
 破壊じん性値が低く限界欠陥寸法が小さい場合は,き裂成長特性を確実に把握したslow crack growthの概念(いわばき裂成長込みの安全寿命設計)によって安全性を確保する必要がある。また,損傷許容設計では一般に疲労き裂の進展を連続的増加 関数として捉えているが,最近事故が多発しているプラントの配管系や圧力容器の応力腐食割れ(stress corrosion cracking : scc)のように材料と荷重および雰囲気環境のミスマッチに起因した突然の急速破壊は想定外の問題である。
 さらに,航空機翼下面に発生する疲労き裂は上空では引張荷重の下で開口しているが地上検査時には圧縮荷重の下でき裂面同士が密着状態にある。そのような 閉じたき裂は検査時の正確なき裂寸法の測定が要求される損傷許容設計概念に基づいた余寿命評価には障害の一つとなっている。
 本特集号は,以上のような情況を背景として昨年7月9日に開催された標記タイトルの非破壊検査協会第2回学術セミナーの内容をまとめたものである。
 読者諸氏の参考になれば幸いである。

*航空宇宙技術振興財団(182-0026 東京都調布市小島町1-11-30-109)理事1965〜2003 航空宇宙技術研究所において破壊力学,航空安全の研究に従事。
  リーハイ大学留学,西北工業大学(中国・西安)顧問教授など。現在は航空疲労の研究などに従事。(趣味)卓球,囲碁,随筆

 

解説 「第二回学術セミナー」安全を支える技術 ―欠陥評価,非破壊検査,維持基準―

応力腐食割れのモデル化と進展予測
   庄子 哲雄 東北大学理事(研究担当)

Mechanics and Mechanisms of Stress Corrosion Cracking and
Quantitative Prediction of SCC Growth Rate
Tetsuo SHOJI Tohoku University, Exective Director and Vice-President for Research
キーワード 応力腐食割れ,き裂先端ひずみ速度,酸化動力学,き裂進展速度評価式,き裂進展メカニズム



1. はじめに
 原子力設備の高経年化に伴い,経年劣化への関心が高まってきている。高経年化問題は既に,火力発電設備,石油精製及び化学プラント,橋梁,ケーブルさら には航空機等において取り上げられてきている。このような高経年化に伴う機器・構造物の損傷は取り返しのつかない人的被害や大きな経済的損失をもたらす。 昨今,原子力発電プラントにおいて軽水炉環境下における応力腐食割れ事例が散見され,大きな関心が払われてきている。応力腐食割れの進展は,緩やかに生じ 緊急に安全性に影響を与える事は考えにくいが,適切な定期検査により検出する事が必要であり放置すれば冷却水の浸潤や漏洩につながり状況によっては機器の 機能に影響を及ぼす事も想定される。すなわち,通常は経済性の問題としてとらえられるが放置すれば安全性の問題に拡大しかねない問題を含んでいる。適切な 発生予測,進展性評価と非破壊検査の有機的な組み合わせがプラントの稼働率の向上に不可欠である。本稿では,特にオーステナイト合金の応力腐食割れ進展機 構とそのモデル,さらにそれらに基づくき裂進展速度の予測技術の現状と将来について概説し幾つかの視点から今後の課題について述べる。

 

 

火力発電設備の非破壊検査
   浜田 晴一 東京電力(株)

NDI Application for Thermal Power Plants
Seiichi HAMADA Tokyo Electric Power Company
キーワード ボイラ,タービン,供用期間中検査,電位差法,モニタリング,規格



1. はじめに
 既設火力発電設備は,昨今の競争化への急速な環境変化に対応して,設備の経済的な運用や保全費の抑制などによるコスト低減の強化が求められている。一 方,設備の経年化が進行する中で,負荷調整能力など運用多様化への対応能力,設備信頼度の維持向上が求められている状況に変わりはない1)。
 設備信頼度の維持向上を達成すると同時に保全費抑制を実現するためには,適切な技術根拠に基づいて,設備の点検手入れ内容,インターバル,劣化更新時期 などの最適化をはかる必要がある。そのため,経年劣化損傷の要因・メカニズムを解明し,それに基づいて最適な予防保全技術,寿命評価技術を適用していく必 要がある。非破壊検査技術は,予防保全技術や寿命評価技術の基礎となるものであり,その重要性は言うまでもない。
 本稿では,まず火力発電用ボイラ,タービン設備の定期検査において一般的に実施されている非破壊検査の現状について,電気事業法第55条に基づく定期事 業者検査との関連を含めて解説する。また,高度な非破壊検査法として火力発電設備への幅広い実用化が期待されている技術の一例として,火力発電用ボイラ大 径管溶接部き裂や,配管肉厚の検査およびモニタリング技術としての電位差法の適用研究事例について,非破壊検査協会の研究会での取り組み状況,日本機械学 会発電用火力設備規格における規格化の取り組み状況等を紹介する。

 

閉じたき裂の非破壊評価 −熱による開口策−
   坂  眞澄/燈明 泰成/岡部 英明 東北大学大学院工学研究科


Nondestructive Evaluation of Closed Cracks − Thermal Opening Technique −
Masumi SAKA, Hironori TOHMYOH and Hideaki OKABE
 Graduate Scool of Engineering, Tohoku University
  キーワード 閉口き裂,部分冷却,部分加熱,き裂開口,超音波



1. はじめに
 疲労き裂についてき裂閉口はよく知られており,また応力腐食割れにおいても,き裂面間の酸化物はき裂閉口の要因となり得る。閉じたき裂の探傷はむずかし いが,どれが閉じたき裂で,どれが開いたき裂であるかは一般にはわからないため,開いたき裂のみならず閉じたき裂をも対象にできるよう,検査手法を整備す ることが肝要である。このような状況を背景に最近,閉じたき裂の探傷を対象としてサーモソニック法1)や非線形超音波法2)などの新しい手法の研究も盛ん である。ところで筆者の一人は,閉じたき裂の探傷に関し,その問題点,長期的対策,短期的対策等について先に報告した3)。長期的対策の一つは,閉じたき 裂を閉じたままで検査し,定量的に評価するというものである4)。これに対し短期的対策の一つは,閉じたき裂の探傷に伴う問題は,探傷に際してき裂を開か せれば解消することに注目し,簡便な方法によりき裂を開かせるというものである。機器の運転時にき裂が経験した応力拡大係数に比べはるかに小さい応力拡大 係数が生じるように閉じたき裂に引張応力を負荷し,き裂を開かせ,あるいはき裂の閉じ具合を弱め,検査を行うというものである。
 本稿では,簡便に引張熱応力を負荷することによる閉口き裂の開口策(Thermal Opening Technique)5)に焦点を絞り解説する。本方法には基本として二つの形態がある。一つは図1に示すように部分冷却によるものであり,もう一つは図 2に示すような部分加熱を利用するものである。この二つを合体した形態も当然あり得る。以下,この二つについて説明する。

 

 

論文

AE法によるせん断工具の寿命評価−ウェーブレット変換とカオス時系列解析の適用−
   宅間 正則/新家  昇/西浦 隆夫/赤松 賢介

Evaluation of Tool Life in the Shearing Process by AE Method
−Application of Wavelet Transform and Chaos Time Series Analysis−
Masanori TAKUMA*, Noboru SHINKE*, Takao NISHIURA**  and Kensuke AKAMATU***
Abstract
Shearing is one of the most important steps in the manufacturing process because it is repeated many times until completion of the product. Therefore, it is essential for product quality control and the improvement of productivity that the machining conditions be evaluated. In this study, waveform analysis, wavelet transform analysis and chaos time series analysis were carried out of the detected AE signals during the shearing. Determination of the parameters for evaluating the machining conditions and tool life were also examined. As a result, it was shown that the RA value of the time fluctuation waveform of wavelet coefficient and chaos time series analysis results are effective parameters for evaluating these factors.
Key Words Acoustic Emission, Shearing, Tool Wear, Tool Life, Wavelet Transform,Chaos Time Series Analysis, Evaluation



1. 緒言
 せん断加工は製造工程で幾度となく繰り返される作業であり,その利用範囲は単なる切断を目的とする加工から高精度の電子機器部品の加工にまで用いられて いる1)。しかし,刃先周辺での狭い領域で起こるき裂の発生・進展に伴う分離加工であるために,製品の品質は刃先の状態に左右されることになる。よって, 工具の摩耗状態を把握・評価することが,生産現場での自動化・無人化を進めるにあたっての重要なポイントとなる2)−6)。このようなことから,加工中に 検出されるAE信号の評価パラメータ(最大振幅,エネルギー,持続時間,立上り時間など)やFFTによる周波数解析結果から求めた注目すべき周波数成分で のパワースペクトルの大きさに注目した監視システムが提案されてきたが,熟練者のレベルにまで達しておらず,工具の摩耗状態と寿命の評価に関する問題は未 だに解決されていないのが現状である3)−6)。
 そこで本研究では,せん断加工時に検出されるAE信号に「波形解析」「時間-周波数解析」「カオス時系列解析」を適用し,その解析結果とせん断面の観察結果から,工具摩耗の状態を評価するためのパラメータについて検討した結果を報告する。

原稿受付:平成17年1月24日
 関西大学 工学部(大阪府吹田市山手町3-3-35)Engineering Department of KANSAI University
 関西大学 大学院(大阪府吹田市山手町3-3-35)Graduate School of KANSAI University
 三協精器工業(株)(大阪府大阪市東淀川区上新庄3-19-75)Sankyo Seiki Industry Co., Ltd.

 

to top