logo

<<2016>>

  • 1月2月3月4月5月6月7月8月9月10月11月12月
  •  
  • 予定はありません。

機関誌

2009年度バックナンバー4月

2009年4月1日更新

目次

巻頭言

「非破壊・微破壊試験によるコンクリート構造物の品質検査」特集号刊行にあたって  辻  正哲

 社会資本の量が増せば増すほど,維持管理投資額が大きくなるのは当然です。我国も成熟期を迎え,これまでに整備された膨大な社会資本を維持管理するために 必要となる費用は急増し,近いうちに5兆円に達するとの予測もあります。コンクリート構造物は,メンテナンスフリーの長寿命と考えられてきた時代もありま したが,ある一定の供用期間を過ぎると維持管理補修補強に必要な費用も急激に大きくなることが現実のものとなりました。これに対応するために,診断・補 修・補強技術の重要性が増しています。こうした技術の中で,最も大きな役割を果たすのが,構造物に損傷をほとんど与えない非破壊あるいは微破壊試験を用い た検査です。
 一方,最近では地球環境問題から,社会資本整備に当たっても省資源・省エネルギーが重要視されるようになり,コンクリート構造物に対しても長寿命化が重 要視されるようになってきました。長寿命化には,材料・設計・施工などの面での技術開発も重要ですが,建設された構造物が要求性能を満足していることを確 認することも重要です。また,劣化が顕在化してからでは,補修・補強に要する費用あるいはその後の維持管理費が膨大なものとなるため,できるだけ早い段階 で劣化原因を捉える必要があります。こうした観点からも,コンクリート構造物に対する非破壊検査の必要性は増し,さらに非破壊試験に対する新しい技術開発 も望まれるようになっています。
 以上の状況に鑑み,コンクリート構造物の品質検査の現状を紹介致したく,今回の特集を企画いたしました。
 なお,会員各位の中には,コンクリート関係者から,コンクリート構造物に興味はあってもコンクリートに全く馴染みのない方もおられますので,参考のた め,ここに若干の解説を付け加えさせていただきます。コンクリート構造物に対する非(微)破壊試験においての評価対象は,構造物の安全性やその後の耐久性 に関わる強度や緻密性などのコンクリートの品質や鉄筋径・位置(設計図からずれることが多い,コンクリート表面と鋼材表面との最短距離すなわちかぶりは鋼 材腐食・耐火性・力学的挙動に大きく影響,後からアンカーなどのための削孔を行う場合にも重要)・鉄筋など鋼材の腐食状況,部材寸法(背面が地盤の場合な どで直接測かれないこともある)から,コンクリート中の鉄筋など鋼材の耐久性を害するおそれのある中性化(コンクリート中は強アルカリ領域にあり鋼材は保 護されているが,大気中の二酸化炭素などにより中性になると鋼材が腐食するおそれが生じる)領域や塩化物イオン量(コンクリート中あるいは外部から浸透す る塩素イオンにより鋼材表面の不導体皮膜が破壊される),さらにはひび割れ,浮き・剥離,空洞,ジャンカなどの欠陥と,幅広くたくさんあります。その他に も,活荷重による疲労や破壊の進展状況などもあります。そのため,多岐にわたる種類の試験方法が提案実用化され,使用されています。しかし,これら全てを 網羅できませんので,今回は,かぶりや鉄筋径を含む配筋状態,内部欠陥,部材厚さ,強度や緻密性などのコンクリートの品質,経年劣化を中心に特集いたしま した。この他の試験検査や検査結果を用いた診断につきましては,本年8月5〜6日に予定されているシンポジウム「コンクリート構造物の非破壊検査」他,機 会を見つけてはご紹介させていただきたいと存じます。
 今回は1999年から2007年までの9年間における共同研究の成果を取りまとめたもので,参考資料として会員各位のお役に立つことを期待しております。

 

 

解説 非破壊・微破壊試験によるコンクリート構造物の品質検査

(1)共同研究の内容および成果の概要
    森濱 和正  (独)土木研究所

Part 1 Outline of Contents and Results of Joint Research
Kazumasa MORIHAMA Public Works Research Institute

キーワード コンクリート構造物,非破壊試験,微破壊試験,竣工検査,試験方法,実構造物への適用



1. 研究目的
 本共同研究は,(独)土木研究所,(社)日本非破壊検査協会,大学,民間の多数の機関の参加により1999年から3年ずつ三次にわたって実施した(表1)。
 共同研究の第一の目的は,非破壊・微破壊試験による新設鉄筋コンクリート構造物の検査方法の確立である。そのために信頼性の高い試験方法を確立すること も重要な目的である。研究の背景は,既に文献1)に記述しているとおり,構造物を直接検査していないため,性能が把握されていない。そのため,建設された 構造物が要求性能を満足しているのか確認されてはいない。ここでは,文献1)以後の状況の変化について付け加えておく。

 

 

(2)非破壊試験によるコンクリート構造物の鉄筋かぶり厚さの測定
    飯田 洋志 日本無線(株)   松本  功 (株)計測技術サービス
    久冨 真悟 日本ヒルティ(株)   森濱 和正 (独)土木研究所

Part 2 Measurement of Cover Depth of Reinforcing Bar in Concrete Structures
Using Non-destructive Testing
Hiroshi IIDA Japan Radio., Ltd.,Isao MATSUMOTO KGS Inc.
Shingo HISATOMI Hilti (Japan) Ltd. and Kazumasa MORIHAMA Public Works Research Institute

キーワード 鉄筋コンクリート構造物,非破壊試験,検査,かぶり厚さ,電磁波レーダ,電磁誘導



1. まえがき
 鉄筋の配筋・かぶり厚さの検査は,鉄筋コンクリート構造物の耐荷力,耐久性の確保に極めて重要である。各種部材に適用できるかぶり厚さ測定方法は,現状 ではレーダと電磁誘導の2種類である。これらの方法を適用するに当っては測定原理から,レーダは比誘電率による補正,電磁誘導は近接鉄筋の影響に対する補 正が測定精度の向上に重要である。レーダの比誘電率による補正については,すでに本誌に双曲線法,鉄筋径法を報告している1),8)。今回は,鉄筋径法を 用いて実構造物を測定し,そのあと小径コアを採取してかぶり厚さを実測し,測定精度を求めた結果について報告する2)。電磁誘導については,近接鉄筋の影 響の補正方法の提案3),9)と,測定精度4)について報告する。

 

 

(3)非破壊試験による構造体コンクリートの強度および緻密性の推定
   岩野 聡史  リック(株) 立見 栄司  三井住友建設(株) 森濱 和正 (独)土木研究所

Part 3 Estimation of Compressive Strength and Density of Concrete
in Structures Using Non-destructive Testing
Satoshi IWANO RIK Co., Ltd.,Eiji TATSUMI Sumitomo Mitsui Construction Co., Ltd.
and Kazumasa MORIHAMA Public Works Research Institute

キーワード 非破壊試験,検査,圧縮強度,緻密性,超音波,衝撃弾性波,iTECS法,表面2点法,機械インピーダンス



1. まえがき
 構造部材を構成するコンクリート(構造体コンクリート)強度の検査は,構造部材の耐荷力が確保されていることを確認するために非常に重要である。本研究 では,従来から研究されているリバウンドハンマの反発度による強度推定に対し,新たな方法として超音波,衝撃弾性波による弾性波速度,機械インピーダンス による強度推定に関する検討結果を報告する。
 また,コンクリートに要求される耐久性には,鉄筋腐食抵抗性,アルカリ骨材反応の抑制,凍害抵抗性など多くの項目がある。その中でも特に重要なのが鉄筋 腐食を保護する性能である。この性能の検査は,かぶりコンクリートの緻密性であり,二酸化炭素の浸透に対する中性化抵抗性,塩素イオンの浸透抵抗性を有し ていることを確認することが重要である。これまでは,コアやドリルによる局部破壊を伴う透気・透水性に関する研究が行われている。
 本研究では,非破壊試験による緻密性評価に関する研究を行った。研究内容は,接触時間および弾性波伝搬速度の変化による緻密性の評価である。前者の接触 時間による緻密性の評価については既に報告しており1),ここでは,超音波および衝撃弾性波による伝搬速度の変化から表層の品質変化を評価する試みについ て紹介する。

 

 

(4)微破壊試験による構造体コンクリートの強度および耐久性の評価
    相原 康平/篠崎  徹/袴谷 秀幸 戸田建設(株)   野永 健二/若林信太郎 (株)錢高組   佐藤 文則 前田建設工業(株)
    佐原 晴也 日本国土開発(株)  池永 博威 千葉工業大学   森濱 和正 (独)土木研究所

Part 4 Estimation of Compressive Strength and Durability of Concrete in Structures Using Semi-destructive Testing
Kohei AIHARA,Toru SHINOZAKI,Hideyuki HAKAMAYA Toda Corporation
Kenji NONAGA,Shintaro WAKABAYASHI The ZENITAKA Corporation
Fuminori SATO Maeda Corporation,Haruya SAWARA JDC Corporation
Hirotake IKENAGA Chiba Institute of Technology
and Kazumasa MORIHAMA Public Works Research Institute

キーワード 微破壊試験,構造体コンクリート,検査,ボス供試体,小径コア, 圧縮強度,中性化抵抗性,塩化物イオン量



1. まえがき
 (3)編では,非破壊試験による構造体コンクリート強度の推定および経年変化について紹介した。本編では,微破壊試験による構造体コンクリート強度試験 方法および耐久性評価に関する検討内容について報告する。微破壊試験として紹介するのは,ボス供試体とφ25mmの小径コア,φ10mmの超小径コア(総 称して小径コアと呼ぶ)を用いる試験である。

 

 

(5)非破壊試験によるコンクリート構造物の部材厚さの測定および変状の検出
    岩野 聡史  リック(株)   歌川 紀之/伴 享/北川 真也  佐藤工業(株)   飯田 洋志 日本無線(株)
    松本  功 (株)計測技術サービス  森濱 和正 (独)土木研究所

Part 5 Measurement of Thickness and Detection of Defect in Concrete Structures Using Non-destructive Testing
Satoshi IWANO RIK Co., Ltd.,Noriyuki UTAGAWA,Susumu BAN
Shinya KITAGAWA Sato Kogyo Co., Ltd.,Hiroshi IIDA Japan Radio., Ltd.
Isao MATSUMOTO KGS Inc. and Kazumasa MORIHAMA Public Works Research Institute

キーワード 非破壊試験,部材厚さ,ジャンカ,空洞,ひび割れ,衝撃弾性波法,打音法,レーダ法,超音波法



1. まえがき
 本編では,コンクリート部材の厚さ測定,変状の検出について取り扱う。
 コンクリート構造物の出来形寸法のうち,スラブ,壁,トンネル覆工コンクリートなどの厚さは,部材の端部では直接測定できるものの,それ以外の部分の測 定は削孔するか,測定位置を決めておき施工段階ごとに高さを測定し,その差から厚さを求める方法を採用する場合が多い。前者は損傷を伴うこと,後者は測定 位置が決まっており,検査などに有効な方法とはいい難く,検査位置はランダムに選定するという原則を逸脱することになる。検査位置を事前に決めておけば, その位置では設計値を満足するように施工し,それ以外の位置では設計値を満足していなくても合格と判定されるように施工することも可能になる1)。そのた め,構造物に損傷を与えることなく,検査位置をランダムに選定して測定するには非破壊試験が必要である。
 コンクリートの変状には,施工不良と,供用中の劣化,損傷がある。施工不良は,打設時に締固め不足などによって生じるジャンカ,コールドジョイント,内 部・背面空洞などと,硬化後しばらくして発生するひび割れなどがある。劣化,損傷は,ひび割れ,はくりなどがある。耐久性確保のためには,これらの変状を 早期に検出し,対策を講じることが必要である。ここでは,これらの測定・検出の検討結果を紹介する。

 

 

論文

湾曲した形状を探傷するマルチ一様渦電流プローブの開発とき裂形状の評価
    福岡 克弘/橋本 光男

Development of a Uniform Eddy Current Multi-Probe for Flaw Inspection
on a Curved Surface Shape Portion and Estimation of Crack Shape

Katsuhiro FUKUOKA* and Mitsuo HASHIMOTO**


Abstract


The establishment of non-destructive inspection technology for plant structures is necessary, since the occurrence of cracks has been reported in some nuclear power plants. In this research, a uniform eddy current multi-probe to inspect cracks on a curved structure was developed. We designed exciting coils of this probe, considering the shape of the curved structure, so that the eddy current flows uniformly. Pick-up coils were arranged on a flexible printed circuit board to fit on the curved surface shape portion. The detection characteristics for EDM (electrical discharge machining) slits provided on the curved surface shape portion of the specimen were evaluated. The clear signals for the EDM slits provided on the curved surface which had a curvature radius of 25 mm were obtained by this probe. We confirmed that the crack shape could be estimated by detecting the signals from the developed probe.

Keyword Eddy current testing (ECT), Uniform eddy current probe, Multi-probe, Curved surface shape portion, Estimation of crack shape



1. 緒言
 沸騰水型原子炉におけるシュラウド(炉心を囲む構造物)において,き裂が発生した事例が報告されている1)。そこで,原子力発電プラントの限られた定期 検査期間内で,高速にき裂の有無を診断することが可能な非破壊検査手法の確立が必要不可欠になっている。さらに,き裂が存在する場合はその形状および深さ をサイジング2),3)し,き裂がプラント保守の維持基準で定められた一定の条件を満たしている場合には,次回点検まで監視を行いつつ継続運転が可能かど うかの判別ができる評価手法の開発が望まれている4)。
 よって筆者らは,高速な探傷が可能で,且つき裂形状の定量評価に有利な渦電流探傷試験(ECT:Eddy current testing)に着目してプローブの開発を検討した。また,プラント構造物に発生する自然き裂は,応力腐食割れ(SCC:Stress corrosion cracking),疲労割れなどの複雑なき裂形状をしている。したがって,き裂の複雑な分布形状を把握するのに優れている一様渦電流プローブ5)−7) に着目した。
 ここで,シュラウドは外形寸法の異なる円筒状のステンレス材を溶接して構成される。したがって,その接続部は湾曲のあるL字形状をしている。つまり,実 機シュラウドの探傷では,平面的な部分に加えて,湾曲した形状を探傷できるプローブを開発する必要がある。しかし,一様渦電流プローブは励磁コイルと検出 コイルが別々に構成される相互誘導形のプローブである。そのため,検出コイルの位置する部分において一方向に一様な渦電流を発生させる必要があるため,検 出コイルに対して励磁コイルを十分大きく設計する必要がある。したがって,一様渦電流プローブの構造上,一般的なECTで使用されている小型のパンケーキ コイルにより励磁と検出を行う自己誘導形プローブに比べて,湾曲した箇所にプローブを対応させ探傷することは難しい。そこで,これまでの研究において,一 様渦電流プローブの検出コイルをマルチ化することを検討してきた8)。
 本研究では,マルチ一様渦電流プローブの励磁コイルを湾曲した検査対象に合った形状に作製し,マルチ化した検出コイルアレイをフレキシブルな構造とする ことにより,湾曲部に密着させて探傷することが可能なプローブの開発を検討する9),10)。本論文では,曲率半径25mmの湾曲部分に放電加工 (EDM:Electrical discharge machining)によりき裂を設けた曲面試験体の探傷を行い,開発したマルチ一様渦電流プローブの湾曲形状部におけるき裂検出性能の評価について報告 する。さらに,検出信号からき裂の形状を評価する手法についても検討する。

 

 

 

 

 

to top