logo

<<2019>>

  • 1月2月3月4月5月6月7月8月9月10月11月12月
  •  
  • 予定はありません。

機関誌

2017年3月号バックナンバー

2017年3月1日更新

巻頭言

「鉄筋コンクリート構造物の強度・透気性・
鉄筋腐食に関する非破壊検査手法の研究」   内海 秀幸

 シラバス(syllabus)という言葉を聞いたことがありますでしょうか?伝え聞くところによると,ギリシャ語で書物のラベルや標題の皮紙を意味するようです。今日では大学における講義・授業の学習計画が記載されたレジュメのことを意味しています。各大学で行われている授業のシラバスは現在ネット上で公開されていますので,どなたでも,大学における教育内容を見ることが可能となっています。
 建設・建築系の高等教育機関(大学・高等専門学校)では「コンクリート工学」は必修科目です。入学したての新入生諸君は「コンクリート工学」という科目があることに面喰い,また,各週の内容が詳細に記載されたシラバスの内容を見て驚きます。多くの新入生諸君(一般の方々も)が持つ認識は「コンクリートなんて,水と砂と,石を混ぜればできちゃうじゃないの!!」といったもので,コンクリートについて,こんなにも沢山のことを学ばなければならないことに驚愕します。
 確かに,コンクリートは水と砂と石を混ぜればできあがりますが,設計上要求される強度,耐久性の他,さまざまな施工上の問題を克服し,適切に作り上げるには,非常に繊細な計算や取り組みが必要で,学生諸君に“学んでいただく内容”は豊富にあります。
 今日,高度成長期に建設されたコンクリート構造物のうち,その多くで耐力が低下しており,社会基盤を維持していくうえでその健全性を評価するため合理的な非破壊検査手法,そしてその信頼性の向上があつく求められています。そのため,これからの「コンクリート工学」では,コンクリートを建設するための知識にとどまらず,その耐久性に直結する力学的特性を踏まえ,物理的・化学的な物性など教授すべき内容が今後より一層多くなっていくでしょう。
 このような中,当協会の「鉄筋コンクリート構造物の非破壊試験部門」は1988 年にその前身である組織が設置されて以降,微破壊も含め多面的な視点で鉄筋コンクリート構造物の非破壊試験に関する調査・研究ならびに規格化に取り組んできました。先般,2016 年9 月号(Vol.65)では「衝撃弾性波法による非破壊試験の高度化と信頼性向上に関する取組み」と題した特集を編纂させていただきましたが,今回は,それに引き続き,当該部門に設置された以下の三つの委員会の取り組みを編纂しています。
  『コンクリート強度に関する試験方法研究委員会』
  『表層透気性試験方法研究委員会』
  『鉄筋腐食診断手法研究委員会』
 今回の特集号では,各テーマに該当する試験法の計測原理を踏まえ,改めて,取得されるデータの定量的な判定方法ついて詳細に記載されており,また,NDIS 規格化に向けての現時点での課題についても言及されております。本特集号が,コンクリート構造物の非破壊検査に関わる幅広い関係各位の一助となれば幸いです。

 

解説

鉄筋コンクリート構造物の強度・透気性・鉄筋腐食に関する非破壊検査手法の研究

委員会の設立主旨と各種の透気試験共通試験の概要
  東京理科大学工学部 今本 啓一

Establishment of Technical Committee on Air Permeability of Concrete Cover
and Outline of Round Robin Test

The Faculty of Engineering, Tokyo University of Science Kei-ichi IMAMOTO

キーワード:透気性,かぶりコンクリート,耐久性,中性化,非破壊試験

はじめに
原位置表層透気試験方法はこれまでに数多く提案されているものの,それらの性能を共通の俎上で比較した事例が少ないため,状況に応じた試験方法選択のための情報は必ずしも十分ではない。また,透気性の良否に関する閾値についても,いくつかの試験方法において提案はなされているが,前述同様に共通のデータに立脚したものはなく,また我が国の構造物の耐久性評価の現状に即した判定基準を示すためには,さらなる検討の余地が残されていると考える。表層透気性試験方法研究委員会は,鉄筋コンクリート構造物の主として中性化に焦点を当て,その非・微破壊的評価のための透気試験方法のNDIS 規格化を目指すものである。主に国内で検討が進められている試験方法について比較試験を行い,その成果を踏まえ,実用に資する規格の制定を行うことを目的に設立された。以下は委員構成である。
  委員長 今本啓一 東京理科大学
  幹 事 湯浅 昇 日本大学
   〃  下澤和幸 (一財)日本建築総合試験所
  委 員 澤本武博 ものつくり大学
   〃  山﨑順二 (株)淺沼組
   〃  佐藤大輔 (株)コンステック
   〃  豊福俊泰 九州産業大学
   〃  峰村富夫 エフティーエス(株)
   〃  田中章夫 (株)八洋コンサルタント
   〃  川俣孝治 (株)中研コンサルタント
   〃  野中 英 (株)熊谷組
   〃  舌間孝一郎 前橋工科大学

 

実大コンクリート壁におけるダブルチャンバー法および
各種表層透気試験方法の評価に関する共通試験
 東京理科大学工学部 今本 啓一、日本大学生産工学部 湯浅 昇
 (一財)日本建築総合試験所 下澤 和幸、(株)淺沼組技術研究所 山﨑 順二
 (株)八洋コンサルタント 田中 章夫

Round Robin Test for Air Permeability of Cover Concrete
The Faculty of Engineering, Tokyo University of Science Kei-ichi IMAMOTO
The Faculty of Engineering, Nihon University Noboru YUASA
General Building Research Corporation of Japan Kazuyuki SHIMOZAWA
Asanuma Corporation Junji YAMASAKI
Hachiyo Consultant, Co., Ltd. Akio TANAKA

キーワード: 透気性,かぶりコンクリート,共通試験,非破壊試験

1.各種透気試験の相互比較
本稿では,各種透気試験の対応関係とその有効性を検討するため,海外で透気性のベンチマーク試験として位置づけられるRILEM-CEMBUREAU 法(RILEM TC116-PCD Permeability of Concrete a Criterion of its Durability,以下RILEM 法)を実施し,同法と各種透気試験(TPT 法,FIM 法,SCM 法)との関係について検討する。

 

コンクリートの強度に関する非破壊・微破壊試験方法の現状
 日本大学 湯浅 昇

State of the Art of Non-Destructive and Mini-Destructive Testing Methods for Concrete Strength
Nihon University Noboru YUASA

キーワード: コンクリート,強度,非破壊試験,微破壊試験

はじめに
 近年,「スクラップ&ビルド」から「長寿命化・資源循環型社会の構築」への移行にあたり,鉄筋コンクリート構造物の「診断」に関する関心から,実に多くの非破壊試験・微破壊試験が考案・整備されてきた。コンクリートコアによって得られた試験結果は,信頼性が高いものの,小規模ではあるが破壊試験であり,大がかりな作業や補修を伴い,それがまた高価な費用負担につながり,多数のデータを得ることはできず,点としての情報となることが多い。しかし,非破壊試験,わずかな破壊を許容する微破壊試験によればそれらの解決が可能である。
 しかしながら,非破壊試験,微破壊試験は万能ではなく,精度の良さを第一に考えて,最後は破壊試験に頼らざるを得ないことも多いのも実態である。非破壊や微破壊試験といった試験方法は,その名だけをみれば破壊を極力小さくした試験方法となるが,その重要な勘所は,普遍的な物性値をストレートに近い状態で試験できる場合はいいとして,その物性値に関連深いコンクリートの他の物性を測定することにより類推できるかである。だから必然的に万能ではない。更なる試験方法の開発・発展の重要性もさることながら,使用者の既存の試験方法に対する理解が極めて重要である。
 ここでは,非破壊試験・微破壊試験のよりよい理解のために,試験の対象となるコンクリート構造物の実態を紹介した上で,強度に関する既存の非破壊試験・微破壊試験を紹介し,その現状を解説するものである。

 

反発速度比式新型リバウンドハンマーの普及および規格化の動向
 エフティーエス(株)藤原 貴央、芝浦工業大学 濱崎 仁、ものつくり大学 澤本 武博

Popularization of New Rebound Hammer with Proportional Expression for
the Rebound Velocity and the Trend of the Standardization

FTS., Ltd. Takahisa FUJIWARA
Shibaura Institute of Technology Hitoshi HAMASAKI
Institute of Technologists Takehiro SAWAMOTO

キーワード: 非破壊試験,コンクリート強度,反発速度比,Q 値,角度補正,耐久性

はじめに
 現在,海外および日本では様々な非破壊試験方法がコンクリート構造物の性能確認,診断方法として利用されていることは周知のとおりである。反発度法,超音波法,共振法,衝撃弾性波法,電磁誘導法,電磁波反射法,放射線法,赤外線法,AE 法など枚挙に暇がない。その中でも最も古くから使用されており,コンクリート構造物の非破壊試験法として代表的なものがリバウンドハンマーを用いた反発度法と呼ばれる方法である。
 リバウンドハンマーは,日本国内だけでも10 万台を超える数が輸入され,土木,建築,新設,既設のあらゆるコンクリート構造物のコンクリート強度の非破壊試験方法として使用されてきた。また,開発されて既に60 年以上が経過しているにもかかわらず,いまだに形を大きく変えることなく開発当初の構造,形状,精度を維持し製造され続けている。
 そのような状況であるが,近年製造メーカより新たなタイプのリバウンドハンマーとして,従来の反発度(R 値)ではなく,新しく反発速度比(Q 値)を測定する反発速度比式のリバウンドハンマー(以下,反発速度比式リバウンドハンマーという・図1)が新たに提案された。
 本解説は,反発速度比式ハンマーの特徴や性能,現状の問題点などについて報告するものである。

 

鉄筋コンクリート構造物の鉄筋腐食に関する各種非破壊・微破壊診断手法
 中央大学 大下 英吉、立命館大学 川﨑 佑磨、(株)アミック 高鍋 雅則

Non-Destructive Testing Method on Rebar Corrosion of RC Structure
Chuo University Hideki OSHITA
Ritsumeikan University Yuma KAWASAKI
AMIC Co., Ltd. Masanori TAKANABE

キーワード: 非破壊,微破壊,鉄筋腐食診断,鉄筋コンクリート

はじめに
 RC 構造物における鉄筋の腐食は,その進行とともに鉄筋の断面減少によって設計時の鉄筋量確保を困難にするばかりか,腐食生成物の体積膨張に起因した腐食ひび割れによって鉄筋とコンクリートの付着劣化が生じ,構造性能や耐久性能を大幅に低下させる重要な問題である。さらに,腐食ひび割れ性状によっては,かぶりコンクリートの浮きやはく落を誘発し,かぶりコンクリートのはく落による第三者被害を招く恐れもある。このような問題の重要性から,各種学協会では鉄筋腐食によるRC 構造物の構造性能や耐久性能に関する体系化に積極的に取り組んでおり,RC 構造物の維持管理体系においては鉄筋の腐食性状を定量的に評価する手法の開発が重要であることが再確認されている。
 昨今,RC 構造物の鉄筋腐食における非(微)破壊診断手法として,電気化学的特性を援用した自然電位法や分極抵抗法が広く適用されている。自然電位法は,1950 年代にStratful 1)によりコンクリート橋床版の鉄筋腐食調査に利用された。その後,1977 年にASTM C 876(Standard Test Method for Half-CellPotentials of Reinforcing Steel in Concrete)2)として標準化された。1999 年にASTM C 876-91(Standard Test Method for Half-Cell Potentials of Uncoated Reinforcing Steel in Concrete)として改訂されたが,規格化されて約40 年が経過している。電気化学的手法による評価は鉄筋腐食の可能性を示しており,また,その評価がかぶりコンクリートの特性や周辺環境の条件に大きく影響されるなど課題もある。精度良く鉄筋腐食を評価できる各種非破壊診断手法について積極的に研究・開発が行われているが,いまだそれらの技術の整備ならびに活用などが実施されないまま現在に至っている。

 

鉄筋腐食が誘発するはく離と鉄筋腐食率の推定手法に関する研究
 中央大学 金本恒之介、大下 英吉

Predictional Method for Rebar Corrosion Degree and
Exfoliation Caused by Rebar Corrosion in RC Structure

Chuo University Konosuke KANEMOTO and Hideki OSHITA

キーワード: 鉄筋腐食,非破壊検査,赤外線サーモグラフィ,電磁誘導,はく離空洞,画像処理

はじめに
 鉄筋コンクリート構造物における鉄筋の腐食は,腐食生成物の体積膨張によりコンクリートにひび割れを発生させるばかりでなく,鉄筋の断面減少によって耐荷性能を低下させる。さらに,鉄筋腐食が進行するとかぶりコンクリートの浮きやはく落を引き起こすとともに,鉄筋自体が直接大気に暴露されることで劣化の進行が助長され,耐荷性,耐久性の著しい低下を引き起こすことになる。また,鉄筋の腐食は,かぶりコンクリートはく落による第三者被害の発生の恐れもある。
 このようなことから,鉄筋コンクリート構造物の調査・診断において鉄筋の状態を把握することは極めて重要である。現時点でコンクリート中の鉄筋の状態を正確に診断する方法は,かぶりコンクリートをはつり,目視観察する方法である。しかしながら,実構造物において広範囲にわたる鉄筋状況をはつり調査によって判断することは困難であり,後述する非破壊検査手法との併用によって部分的に鉄筋腐食状況を判断している場合が多い。
 鉄筋腐食診断に関して現時点で主として用いられている非破壊検査手法は,自然電位法および分極抵抗法である。自然電位法は,測定されたコンクリート表面の電位から腐食反応の活性度を判断するものであり,あくまでも腐食の可能性という情報を得るものである。小山ら1)は,コンクリート表面の電位から鉄筋表面の電位を予測する手法を構築し,経時的な電位変化から鉄筋の腐食領域および腐食量を定量的に評価した。しかしながら,腐食量の定量的な評価において最も重要な要因である腐食開始時期が不明確であることや,電流量の同定において重要なパラメータであるコンクリートの比抵抗を含水状態によらず一定値としていること等に問題があり,それらが解決されれば有用な手法であろう。
 一方,分極抵抗法は鉄筋の分極抵抗値を測定し,鉄筋腐食速度を推定する方法であり,測定時からの鉄筋腐食の定量的予測を行うことは可能であるが,鉄筋腐食量の絶対評価は困難である。すなわち,この手法により腐食量を推定するためには,腐食の開始時点を明らかにするとともに,経時的な腐食速度の測定を行い腐食速度を時間軸に積分する必要がある。また,いずれの手法にも共通している点は,電極を設置するために部分的な鉄筋の露出が必要となり,コンクリートをはつらなければならないため構造物に損傷を与えることである。以上のことから,現時点における鉄筋の腐食量(腐食厚)を定性的かつ定量的に評価可能とする非破壊・非接触かつ簡便な非破壊検査手法の開発が急務である。このことはすなわち,上述した分極抵抗法を併用することにより,その将来予測にも通ずることとなる。
 本研究では,鉄筋への電磁誘導加熱により変動するコンクリート表面の温度性状から鉄筋腐食の有無および腐食量を測定可能な非破壊検査手法の構築を目的とする。具体的手法は,大下ら2)−4)により開発されたコンクリート内部の鉄筋を熱源として熱拡散により変動するコンクリート表面温度性状から,各種の劣化現象を評価するものである(以下,本システムと称す)。

 

二周波交流インピーダンス法によるコンクリート中鋼材腐食の非破壊検査手法
 横田DPC 研究所 横田 優

Non-Destructive Testing Method for Corrosion Characteristics of Reinforcing Bars
in Concrete Using AC Impedance Measurements of Two Frequencies

Yokota DPC Laboratory Masaru YOKOTA

キーワード: 鉄筋腐食,自然電位,交流法,電気抵抗率,分極抵抗,腐食速度,腐食量

はじめに
 既存の鉄筋コンクリート構造物を適切に維持管理するうえで様々な経年劣化が大きな問題となっている。中でも塩害や中性化による鉄筋腐食は,使用材料や施工状況ならびに環境作用により比較的発生しやすい劣化事象であり,供用開始後,劣化過程は潜伏期,進展期,加速期,劣化期へと進行する。潜伏期は,塩害や中性化により鉄筋位置での塩化物イオン(Cl −)濃度や中性化残りが腐食発生限界値に達し,内部鉄筋が腐食を開始するまでの期間である。進展期は,鉄筋腐食の進行に伴い累積腐食量がひび割れ発生限界腐食量に達し,コンクリート表面や内部に腐食ひび割れが発生するまでの期間である。この期間の支配要因は鉄筋の腐食速度であり,加速期に入ると,ひび割れの発生に伴い腐食速度が増大する。さらに腐食が進むと,鉄筋とコンクリートの付着性能の低下,ひいては耐力の低下など構造性能に及ぼす影響が大きくなる。したがって,鉄筋腐食劣化を受けるコンクリート構造物を適切に維持管理していくためには,現状での腐食劣化過程を把握するとともに,将来の腐食進行予測を行う必要がある。特に,予防保全の観点から,腐食によるひび割れ等の外観変状が現れる進展期終了時までの鉄筋の腐食進行予測法の開発が強く望まれている。
 この初期の劣化過程における鉄筋の腐食状況を非(微)破壊で試験できるという利点を有するのが自然電位法,電気抵抗法および分極抵抗法などの電気化学的試験法である。表1に,各試験法から得られる鉄筋腐食に関する情報等をまとめて示す。最近では,自然電位はもちろんのこと,かぶりコンクリートの電気抵抗率や鉄筋の分極抵抗の現場測定が可能な装置が市販されている1)。特に,分極抵抗法は,腐食速度と反比例の関係にある分極抵抗を求めることから,進展期における鉄筋の腐食進行を定量的に予測する手法として期待されている。分極抵抗法といえば,一般に直流を用いた方法をさすが,わが国では交流を用いた方法が多く研究されている。
 本稿では,自然電位の他,代表的な二周波の交流インピーダンス測定値等から,かぶりコンクリートの電気抵抗率および鉄筋の分極抵抗を評価する交流インピーダンス法に基づく測定器(以下,本測定器という)について説明するとともに,5 年間屋外曝露された供試体を対象に実際の鉄筋腐食状況と対比した測定事例を報告する。

 

to top