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機関誌

2009年度バックナンバー10月

2009年10月1日更新

目次

巻頭言

「高輝度放射光によるマイクロCT解析技術」特集号刊行にあたって  

 1947年に電子シンクロトロン(電子加速器)で初めて観測された放射光は,その波長の短さやエネルギの高さから多方面の科学分析に応用が期待され,これ までに数多くの研究に利用されてきている。ここでいう放射光とは,ほぼ光速で直進する電子がその進行方向を磁石などによって変えられた際に発生する電磁波 であり,電子のエネルギが高いほど指向性が良く,明るい光となり,また電子のエネルギが高く,進む方向を変化させた度合いが大きいほど,X線などの短い波 長の光を含むようになるなど,自由にその種類を変えられる特性を有する。
 放射光を生成する方式は,素粒子物理学研究用として建設された加速器により生じた放射光を利用していた第1世代から,放射光専用施設において偏向磁石を 使って放射光を生成させる第2世代を経て,専用の加速器に磁石列により小さく蛇行させて光強度を増すアンジュレータ主体の挿入光源を多数設置できるように 設計された第3世代へと発展してきた。この第3世代の大型施設としては世界に SPring-8,APS,ESRF の3基がある。SPring-8は電子ビームの加速エネルギが80億電子ボルト(8GeV)の加速器を備えていることから,Super Photon ring 8GeVに由来して命名された施設であり,3基の中でも最高エネルギを持つものとして注目されている。このSPring-8は1997年より一般利用も開 始され,現在まで国内外の研究者に広く開かれた研究施設として,数多くの科学分野への応用が進められている。
 その応用分野はきわめて多岐にわたるが,代表例を挙げると,タンパク質巨大分子の3次元構造解析,非結晶生体材料の巨大分子立体構造解析,薬剤設計,新 薬開発などの生命科学への応用,先端材料の原子・電子の構造,極端条件下の材料物性,産業材料の評価,新物質創製と材料改質などの物質科学への応用,触媒 反応の動的挙動,表面のX線光化学過程,原子・分子分光,超微量元素分析及び化学状態,考古学における科学分析への利用,地球深部物質の構造と状態,極限 環境下の物性,隕石・宇宙塵の構造など地球科学への応用,生体試料中の環境汚染微量元素の分析,環境浄化用触媒の分析など環境科学への応用を始め,医学や 物理学,産業への利用など幅広い利用がある。
 その中でも材料内部を3次元的に可視化する画像解析技術であるマイクロCT技術を応用した金属材料内部のイメージングは非破壊検査の新しい手法として有望視されている。
 本特集では一般には理解しにくいところもある放射光を利用したマイクロCT技術について,その基礎から処理の仕方についてわかりやすく解説し,次いで実 際に金属材料の組織観察への応用や,疲労き裂進展,腐食疲労き裂の発生や成長観察への応用など,最新の成果についてもわかりやすく解説して頂くこととし た。
 最後になりましたが,執筆にご協力して頂いた方々にはこの場をお借りして深く感謝の意を表させて頂きたい。

*特集号編集委員  西川 出

 

解説 高輝度放射光によるマイクロCT解析技術

放射光X線CTの基本  上杉健太朗/竹内 晃久/鈴木 芳生  (財)高輝度光科学研究センター

Synchrotron Radiation X-ray Computed Tomography
Kentaro UESUGI, Akihisa TAKEUCHI and Yoshio SUZUKI
Japan Synchrotron Radiation Research Institute

キーワード 放射光,X線CT,3次元構造,高空間分解能



1. はじめに
 X線トモグラフィ(Computed tomography, CT)は,X線の物質に対する高い透過力を利用し,試料の切断などを必要としないで物体内部の3次元構造の観察を可能とする測定手法である。装置として は,Hounsfieldらにより開発された,医療診断用X線CTスキャナが始まりであろう。これはコリメータで細く成形したビーム(通称ペンシルビー ム)とX線強度モニタ(0次元検出器)の両方をスキャンする第一世代型CTと呼ばれている。1973年当時はCT像の画素サイズが3mm×3mm×8mm と粗く,1断層像のデータ取得には6分程度かかり,180投影・80×80画素の画像再構成には5分程度かかっていたようである1)(投影数に関しては3 章を参照のこと)。医療用装置としては,その後長足の進化を遂げ,今日では第三世代型CTとなった(図1(c)参照)。現在一般的に普及している機種でも 1秒以内に1mm以下の空間分解能での撮影が可能となっている。最新機種では,光源と検出器が回転している間に,患者の乗ったテーブルが移動するヘリカル スキャン技術が導入され,10秒程度で体幹部の撮影および断層像表示が出来る2)。

 

 

解説 高輝度放射光によるマイクロCT解析技術

放射光X線CTの基本  上杉健太朗/竹内 晃久/鈴木 芳生  (財)高輝度光科学研究センター

Synchrotron Radiation X-ray Computed Tomography
Kentaro UESUGI, Akihisa TAKEUCHI and Yoshio SUZUKI
Japan Synchrotron Radiation Research Institute

キーワード 放射光,X線CT,3次元構造,高空間分解能



1. はじめに
 X線トモグラフィ(Computed tomography, CT)は,X線の物質に対する高い透過力を利用し,試料の切断などを必要としないで物体内部の3次元構造の観察を可能とする測定手法である。装置として は,Hounsfieldらにより開発された,医療診断用X線CTスキャナが始まりであろう。これはコリメータで細く成形したビーム(通称ペンシルビー ム)とX線強度モニタ(0次元検出器)の両方をスキャンする第一世代型CTと呼ばれている。1973年当時はCT像の画素サイズが3mm×3mm×8mm と粗く,1断層像のデータ取得には6分程度かかり,180投影・80×80画素の画像再構成には5分程度かかっていたようである1)(投影数に関しては3 章を参照のこと)。医療用装置としては,その後長足の進化を遂げ,今日では第三世代型CTとなった(図1(c)参照)。現在一般的に普及している機種でも 1秒以内に1mm以下の空間分解能での撮影が可能となっている。最新機種では,光源と検出器が回転している間に,患者の乗ったテーブルが移動するヘリカル スキャン技術が導入され,10秒程度で体幹部の撮影および断層像表示が出来る2)。

 

 

CTによって得られた3次元画像解析の実例
   土山  明/上椙 真之  大阪大学理学研究科   中野  司  産業技術総合研究所
   上杉健太朗/竹内 晃久/鈴木 芳生  (財)高輝度光科学研究センター

Analysis of Three-Dimensional Images Obtained by Tomography: Examples
Akira TSUCHIYAMA, Masayuki UESUGI Graduate School of Science, Osaka University
and Tsukasa NAKANO GSJ/AIST

キーワード 非破壊分析,コンピュータ断層撮影(CT),画像処理,3次元画像解析ソフトウェア,放射光, SPring-8,スターダスト計画



1. はじめに
 通常のX線CT画像は,撮影した物体のX線線吸収係数(以降,LAC:linear absorption coefficientと呼ぶ)あるいはこれに関連した値(例えばハンスフィールド数)の空間分布を示すデジタル画像である(図1)1),2)。CTに よって得られたスライス(2次元)画像を積層することにより,3次元画像が得られる(図2)。CT画像を構成する画素のサイズはその撮影条件により決ま る。また,LACはX線のエネルギー,物質の化学組成と密度によって決まるので3),単色 X 線を使用可能な放射光CTならその値を定量的に取扱うことができ,物質の推定が可能となる1),2)(白色X線を用いた医療用や工業用のCT装置でもしか るべき手法を用いることにより,ある程度の定量的な取扱いが可能である4))。3次元画像データを用いて物体像の表面や断面が可視化(レンダリング)され ることも多いが(図3),上に述べたような定量的な画像解析にまで至らないこともしばしば見受けられる。これは,3次元構造の理解が容易ではないこともあ るが,CTの原理の理解が不足していたり,具体的な解析のテーマが様々でそれに対応する3次元画像解析ソフトの整備が遅れていることにもよる。

 

3D・4Dマテリアルサイエンス:その現状と展望
    戸田 裕之/小林 正和   豊橋技術科学大学   鈴木 芳生/竹内 晃久/上杉健太朗   (財)高輝度光科学研究センター

3D・4D Materials Science:Its Current State and Prospects
Hiroyuki TODA, Masakazu KOBAYASHI Toyohashi University of Technology
Yoshio SUZUKI, Akihisa TAKEUCHI and Kentaro UESUGI Japan Synchrotron Radiation Research Institute

キーワード トモグラフィ,X線,シンクロトロン放射光,ひずみ計測,元素分析,破壊,き裂,疲労



1. はじめに
 近年,X線トモグラフィ(Computed tomography:CT),TEM-CT,連続断層撮影,中性子CTなど,3D可視化手法の利用が進んでいる。この中で,X線CTは4D観察(時間発 展挙動の3D連続観察)にも容易に展開でき,得られた連続撮像画像を利用した4D定量化も可能という点が他にはない優れた点である。後者の例として,結晶 粒界,き裂進展駆動力,力学的ひずみや元素濃度などの4Dマッピングが挙げられる。このような手法により物質の3D・4D構造を理解し,学術的ブレークス ルを実現する新しい研究分野を,著者らは3D・4Dマテリアルサイエンスと呼んでいる。本報では,複雑で局所的な現象の理解に成果を収めつつある3D・ 4Dマテリアルサイエンスの実例を紹介する。紹介するのは,9割がSPring-8で,そして残りがESRFで,それぞれ著者らが実施した研究の成果であ る。なお,本文中に出てくる基本的な撮像技術については,この特集の上杉らの解説などで詳述

 

μCTによるアルミニウム合金の疲労き裂観察と進展挙動調査
    政木 清孝 沖縄工業高等専門学校   佐野 雄二 (株)東芝

Investigation of Fatigue Crack Propagation Behavior with Micro Computed Tomography on Aluminum Alloy
Kiyotaka MASAKI Okinawa National College of Technology and Yuji SANO Toshiba Corporation

キーワード 疲労破壊,き裂伝播,コンピュータ断層撮影,アルミニウム合金,欠陥



1.  はじめに
 金属材料の疲労破壊は,部材への負荷繰り返しに伴って発生した疲労き裂の成長によって生じる。そのため,疲労き裂進展挙動を調査することは,疲労破壊防 止や疲労破壊メカニズムの解明,さらには疲労特性の改善を試みる上で重要な情報を得ることができる。疲労破壊のなかでも,部材の表面から疲労き裂が発生す る「表面起点型破壊」に関しては,従来のレプリカ法によって表面き裂の観察が行われてきた。しかし後述する代表的破壊力学パラメータ「応力拡大係数」の算 定にあたり,材料内部の疲労き裂形状の情報を必要とするが,レプリカ法では材料内部のき裂形状を得ることができない現状にあった。また,近年問題となって いる材料内部からき裂が発生して部材が疲労破断する「内部起点型疲労破壊」においては1),従来のレプリカ法では根本的に疲労き裂成長挙動を観察すること ができない。そのため,非破壊で部材内部のき裂形状を観察する手法が強く望まれていた。
 近年になって,X線源として1997年に一般利用が開始された大型放射光施設SPring-8の高輝度放射光を用いることで,材料内部のき裂形状を高解 像度で観察できることがわかってきた。特に軽金属合金においては,通常の疲労試験で用いられる寸法の試験片に発生した疲労き裂の観察も可能となっている 2)−6)。本稿ではアルミニウム合金を供試材として,疲労き裂成長挙動を放射光マイクロCT(μCT)によって観察し,従来のレプリカ法による表面き裂 観察結果と比較しながら,放射光μCTを援用した疲労き裂進展挙動調査について紹介する。

 

高輝度放射光CT法による腐食疲労損傷の観察
    中井 善一/塩澤 大輝  神戸大学大学院

Observations of Corrosion Fatigue Damage
by Computed Tomography Using Ultra-bright Synchrotron Radiation
Yoshikazu NAKAI and Daiki SHIOZAWA Graduate School of Engineering, Kobe University

キーワード 腐食,疲労破壊,損傷評価,CT,アルミニウム合金



1. はじめに
 金属材料は,腐食環境中で強度が著しく低下する場合が多い。また,無負荷状態よりも,負荷された状態のほうが腐食による損傷が激しいことが多い。その原 因は,負荷によって,表面の不働態皮膜が破壊され,金属の新生面が溶液に直接曝されるためである。大気中における疲労では,表面にすべり帯が形成されて, すべり帯より疲労き裂が発生することが多いが,腐食環境中では,結晶のすべりによって不働態皮膜が破壊され,その部分がアノード,不働態皮膜で覆われた部 分がカソードとなることによって,局部電池が構成される。その結果,腐食ピットと呼ばれる微小な穴ができ,それが徐々に成長して,やがてピットよりき裂が 発生し,破断に至る。したがって,腐食疲労損傷を把握するには,腐食ピットの発生と成長挙動を詳細に調べることが重要である。
 腐食疲労過程中の腐食ピットの成長挙動に関しては,従来,金属顕微鏡を用いた研究が多く行われてきたが,金属顕微鏡ではピット形状を三次元的に観察する ことができない。そのため,駒井らは,走査型電子顕微鏡(SEM)によるステレオフラクトグラフィ手法を開発した1)。しかし,この場合,一旦疲労試験を 中断し,真空環境下に試料を置くことが必要である。駒井らは,走査型原子間力顕微鏡(AFM)を用いて,腐食環境に浸漬したままで,ピットの成長挙動を観 察することも行っている2)。しかしながら,AFMで観察することのできる凹凸は数μm以下であり,腐食疲労においては,数十μm以上の深さのピットが形 成されるため,必ずしも有効な観察法とは言えない。Weiら3)は,エポキシ樹脂によって腐食ピットのレプリカを作成して,それをSEMによって観察した 結果,腐食ピットは複雑な三次元形状をしていることを明らかにしている。
 著者らは,これまでに,高輝度放射光を用いたμCT(Computed Tomography)法によるイメージング技術によって,鉄鋼材料中の介在物の観察や,ねじり疲労き裂,フレッティング疲労き裂の観察を行ってきた 4)−7)が,本解説では,同技術によって,腐食疲労過程におけるピットおよびき裂の発生と成長を観察した結果について述べる。

 

論文

電磁超音波センサによるSH板波のモード変換を利用したパイプの減肉検査
   中村 暢伴/Silvina URIBE/荻  博次/平尾 雅彦

Mode Conversion of SH Guided Waves for Pipe Inspection
by an Electromagnetic Acoustic Transducer

Nobutomo NAKAMURA*, Silvina URIBE**, Hirotsugu OGI*
and Masahiko HIRAO*

Abstract
This paper shows the group-velocity change of shear horizontal (SH) plate modes in aluminum plates and steel pipes on which slot-shape defects were fabricated, with the purpose of developing a new non-destructive inspection method of the remaining thickness. The SH plate modes were generated and detected by a periodic-permanent-magnet electromagnetic acoustic transducer (PPM-EMAT) in a non-contacting manner. It was found that the group velocity changed depending on the depth at the defects, and drastically increased at a specific value of thickness, called the cut-off thickness. The velocity change was only observed in the higher modes, and this was explained by considering the mode conversion of the SH modes from a higher mode to the lower ones at the thinned wall.

Key Words Pipe inspection, SH guided waves, Group velocity, Mode conversion,
Electromagnetic acoustic transducer



1. 緒言
 配管は発電プラントや化学プラント,ガスプラントをはじめとするあらゆるプラントで使用されており,液体やガスの輸送において重要な役割を果たしてい る。配管の破損は重大な事故を引き起こすことになるため,経年劣化による腐食減肉を未然に検出することは,極めて重要な課題である。
 減肉の検査手法には目視による検査,放射線透過試験1),超音波探傷2)−4)などがあるが,配管のように広範囲に渡る検査ではガイド波を利用した超音 波探傷が有効である。この探傷では圧電振動子を用いて配管の軸方向あるいは円周方向に超音波を励起し,欠陥からの反射波または透過波を検出し,受信信号の 強度から減肉または欠陥の大きさを評価する。ガイド波を使うと一度に広範囲の検査を行うことが可能であり,これまでにも配管を軸方向に伝わるモードに関す る理論解析と実験による欠陥の検出5),6)や,周方向に伝搬するガイド波の分散性の解析と実験結果との比較7)−9)などの研究が行われてきた。本研究 は,電磁超音波センサ(Electromagnetic Acoustic Transducer:EMAT)を用いてSH(Shear Horizontal)板波を非接触で送受信し,その伝搬時間の変化から配管の減肉量を検査する手法を提案する。そのための基礎実験の結果と分散関係なら びにモード変換に基づく解釈を示す。

 

 

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